第五十四話 初めてのデート
今日は定休日、羽澄とコルヴァンが案内という名のデート当日。
「あっ……コ、コルヴァン、ご機嫌麗しゅう」
「やあ、羽澄……その……偶然だな」
「あんたたち、言っていることがめちゃくちゃ」
「緊張しているのがバレバレですね」
ミロルとフォルンのツッコミに、羽澄とコルヴァンは顔を真っ赤にさせる。
「まあとりあえず、さっさとデートに行っちゃいなさい」
「聖癒布の作成はまかせてください」
ジェルの数を多くするために、最近はフォルンにも手伝ってもらっている。
フォルンとミロルは息がぴったりだ。
そんな二人が笑いながら手を振る。
「「いってらっしゃーい」」
お節介二人だが、嬉しそうな笑顔を見せられると、羽澄もコルヴァンも何も言えなかった。
「……じゃあ羽澄、行くか」
「う、うん」
二人並び、微妙な隙間がある距離感で城下町へと歩いて行った。
「さすがに手をつなぐのはハードル高いでしょうか」
「もういい大人なんだけどねー」
見送る二人の後ろで、従業員三人もその様子を見る。
「おでかけ……いいなぁ」
「あっ、あの、リーノちゃん」
「ん? アイルどうしたの?」
「え、いや、う……なんでもない」
「なんでそこでやめんのよ」
――パコン
「痛っ、もう、叩かないでよ姉ちゃん」
「ほら、私の事はいいから、リーノも待ってるよ」
「ねぇ、アイル、どうしたの?」
「あうぅ……今度、ぼ、僕と、遊びにいかない?」
「それって。デート?」
「っ、はい、そうです!」
「じゃあ行くっ」
やっと勇気を出したアイルを見届けて、レイルはコルヴァンの背中を見ながら思う。
(私の恋は叶わないみたいだから……どうか二人は幸せになって欲しいな)
口を開くことなく、城下町への道を歩く二人。
羽澄はチラチラとコルヴァンを見てしまう。
革のブーツに細身の黒いズボン、白いブラウスに黒いベストという色味は少ないもののスタイルがいいコルヴァンと相性がいい。
「あっ」
「んっ」
いつの間にやらお互いを見ていたようで、視線があってすぐ逸らす。
「いやぁ、あのっ、司祭服以外、初めて見た、から」
「確かに……」
「似合って、るね」
なぜか変なところで区切ってしまい、わざとらしかったかと後悔する羽澄だったが。
「羽澄、こそ、ワンピース、似合って、いる」
異様に区切りが多いコルヴァンの返答に、彼の緊張も伝わってきた。
羽澄の服は、真紅でストレートラインのワンピース、袖部分と縦のラインに二本、琥珀色の刺繍が施されている。
派手ではないのに、すれ違う人が男女問わず羽澄に視線を送る。
コルヴァンの声に、羽澄はくすりと笑う。
「ふふっ、ママと喧嘩しながら選んだ甲斐があったわ」
「……服を選ぶのに、親子喧嘩はしないほうがいいと思うぞ」
そんななんでもない会話が出来、お互い肩の力が抜ける。
「あんまり深く考えることないな」
「ん? コルヴァン、なんか言った?」
「いや、羽澄は行きたいところあるか? どこでも案内するぞ」
「そうだなー。いくつか気になるところがあってー」
並んで歩く距離も自然と近くなるが、それはいつもと同じ二人の距離感だった。
城下町に着いた二人は、羽澄の希望で本屋へと向かう。
城の書物を見たことはあるが、普通の本……物語や生活本などは、見たことがなかった。
「物語はこれがおすすめだ、この国や魔法の歴史も学べるからな」
「へー、面白そうだし買おうかな……そういえば、コルヴァンの好みとか、知らないかも」
「確かに……俺も羽澄の好み知らないな」
「じゃあ、現代の本持ってくるよ、読んで欲しいのあるんだー」
お互い顔を見合わせてにこりと笑う。
相手のことを知ることが嬉しくて自然と笑顔になる。
「あ、この料理本、いいなぁ。この国の料理とか作ってみようかな」
様々な本を手に取り、コルヴァンにおすすめを聞きながら、数冊買っていく。
「羽澄の手料理か、食べてみたいな」
「いいよ、今度作るね」
「楽しみだな」
その後、美術館に行ったり、昼食を食べたり、楽しい時間を過ごした。
一方その頃、ミロルがフォルンとジェル作りをしている聖骨院に城の馬車が止まる。
――ヒヒーン
「あら? 誰かいらしたのでしょうか」
「多分アルバス様ね……これは二人のことは内緒にしないと」
「……羽澄さんって、罪作りですね」
「そうなのよー、さすが私の娘っ」
ミロルの言葉で全て察するフォルン、恋愛に関しては二人で乙女のように盛り上がる。
「ずいぶん盛り上がっているな、ちょっといいか」
予想通りアルバスが聖骨院を訪ねてきた。
「はい、いらっしゃいアルバス様、でも今日はコルヴァンと羽澄ちゃんは買い出しに出かけていて……」
「あ、いや、今日はミロルさんに用事があって……ファルケ国について」
二人のことを誤魔化していたが、その国名にミロルはさっと顔色が悪くなる。
「あ、あの、それ、は……」
「私、席を外しましょうか」
事情を知っているフォルンは、気を利かせて杖をもって席を立つ。
「フォルンさんは事情は知っているのか?」
「はい、トキアス様とファルケ国に行くこともありましたので、その時に」
「なるほど……結界は張れますか?」
「出来ます」
「私、フォルンさんにそばにいて欲しいっ」
ミロルの顔はみるみる悪くなっている。
フォルンの服を震える手で掴まれ、普段の彼女からは考えられないほど弱々しい。
そんな彼女をフォルンがほっとけるわけがなかった。
「結界を張り、このことは誰にも言わないので……」
「大丈夫だ、ミロルさんが望んでいるのだから、同席してくれ」
アルバスの許可を得て、フォルンは結界を張り同席する。
「そ、それで、どのような……」
「うむ、実は今度国王と共にファルケ国に行くことになってな……魔法鑑定士にカルロの魔法を、消滅させるために」
「……消滅、させられるんですか?」
「ああ、実は魔法鑑定は一部の能力なんだ……悪用を恐れて他言はされていないが」
「そうだったんですね……じゃあ魔法鑑定士に会いにファルケ国へ行くと……」
「そう、それで……ミロルさん、一緒に行かないか?」
「っ、そ、それは」
「実はトキアスからも相談を受けていてな」
アルバスの言葉に、ミロルはトキアスが以前『魔法鑑定できるよう、何とかする』と言ってくれたことを思い出す。
「ミロルさんをファルケ国王に気づかれずに、鑑定を受けさせることは出来ないか? と」
「……確かに以前、魔法鑑定が出来るようにと、約束してくださいました」
「トキアスは約束を守る男、それが恩人なら尚更だろうな」
「……さすが、トキアス様だわ」
二人の会話を聞いていたフォルンがボソッと呟く、にやけて彼女の顔を見るミロルとアルバスに気づき、顔を真っ赤にして。
「話の邪魔をしてすみません」
と謝罪した。
「いやいや、大丈夫」
「それにトキアス様には確かにお世話になっていますし……フォルンさんのいう通り、さすが、ですね」
三人ともトキアスの手腕に頷き、話を戻した。
「国王には詳しく説明していないが、コルヴァンも魔法鑑定は受けたことがないんだ」
「コルヴァンの鑑定ですか?」
「そう、ただでさえ使える魔法が多いのに、まだ見つかっていない魔法があるかもしれない……なんて、興味ない?」
「それは……少し気になるかも」
「だろ? 国王にも伝えたら興味津々だったよ」
「確かに、コルヴァンさんは魔法の何でも屋、みたいなところありますからね」
ミロルが冗談を言えるくらい、顔色が戻っており、アルバスは安堵し、話を続ける。
「コルヴァンに便乗して、羽澄先生とミロルさんにも魔法鑑定してほしいと頼めば一緒に連れて行ってくれるだろう」
「しかし、値段もかなりするんですよね? 国の許可とか」
「許可なら一人も二人も、いっぺんに出せば変わらない。
国同士の方が安く済む……なんて言ってもファルケ国にしたら恩を売れるわけだからな。
だからついでに一回で終わらせたほうが都合がいいんだよ」
「なるほど」
「後は魔法鑑定士に、国王へ言わないよう口止めする必要があるけど……トキアスが、手を回してくれるらしい」
何から何まで対応してくれるトキアスには頭が上がらない、ミロルはそう思いながらアルバスに答えた。
「羽澄ちゃんとコルヴァンにも相談しますが……もし許されるなら、同行したいです」
そんな話が進んでいることは露知らず、羽澄はコルヴァンと次の目的地に向かっていた。
「きゃっ」
羽澄はスカートを履き慣れていないため、躓いて転びそうになる。
「羽澄っ」
慌てて羽澄の体を支えようと手を伸ばすコルヴァンは、反射的に思う。
(はっ、このままだと、まずいっ)
思い出される背術の時に当たった柔らかい胸、触りたいと思う本能……そして。
――ガシッ
「わっ……コルヴァン、ありがとー」
本能に抗い咄嗟に腕を下げた、すると胸ではなく腰のあたりを掴むことに成功する。
(あっっっぶなっ! やはり聖拳士時代の反射神経は衰えてないな)
こんな所で名誉ある聖拳士を語るのはどうかと思うが、ともかくコルヴァンは羽澄に不快な思いをさせずに支えることができた。
「やっぱりスカートは苦手だ」
羽澄は気にする様子もなくスカートの形を整える。
「何回か引っかかりそうだったしな、それなら俺の腕でも掴んでおくか?」
「うーん、悪いけど……お願いしていい?」
「どうぞ」
掴みやすいように腕を彼女に寄せ、羽澄は片手でその腕に自分の手を絡めた。
(あれ?)
(これって……)
ふと、二人は同時に気がついた。
((デートっぽくない?))
この場にミロルかフォルンがいたら『今更?』と言われるのだろうが、今更ながら初めて気づく。
お互い顔を赤くしながら、だけど腕を離すこともせずに。
「……いこっか」
「そう、だね」
仲睦まじく、次の目的地に向かうのだった。
「それが気になるのか?」
羽澄はアクセサリー屋で一つのネックレスを見ていた。
それは細いが頑丈な針金が模様のように曲げられていて、立体的なスクエア型に空洞になっている中が見える。
「気になると言うか……便利だな、と」
と言ってコルヴァンに渡すと、一目見て「なるほど」と呟いた。
「かわいいとかじゃなくて、便利かどうかで見ちゃうんだよね」
「まあ便利な方がいいんじゃないか……俺もこういうのわからん」
羽澄の考え方に同調するコルヴァンは、続けて羽澄に提案した。
「これ、プレゼントするよ」
「え? いや、いいよ……職人技で高いし」
「いや、プレゼントしたい……デート、だし」
理由になっているような、なっていないようなコルヴァンの説明だが、羽澄は嬉しそうに微笑んで。
「じゃあ……お言葉に甘えて」
そう答えた羽澄の表情は、少し甘えているように見えて……コルヴァンはとてもかわいらしいと思うのだった。
その頃聖骨院から帰ったアルバスは、城の中が慌ただしいことに気づく、そして護衛騎士であるテリクスが駆け寄り。
「アルバス様、大至急国王様がお呼びです」
続いた言葉に、頭の中が真っ白になった。
「罪人カルロがっ、地下労働場の現場から、脱走しました!」
登場人物
聖骨院居候:フォルン
従業員(幼馴染三人組)
巨乳料理好き:リーノ
姉回復魔法:レイル
弟攻撃魔法:アイル
第二王子:ヴァルディア・アルバス




