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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第二章 聖癒布躍進編 〜消えた王女の行く末〜

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第五十一話 祝福された者と、呪いを選ぶ者

 褒賞授与式当日、聖骨院はもちろん休み。

 髪型や化粧は現代で行い、教会の個室で着替えている。

 そんな二人をコルヴァンは教会の長椅子に座って待つ。


(羽澄、どんなドレスなんだろう)


 ドレス自体は二日前に完成しているが、試着の時もミロルに見るのを止められた。


(当日のお楽しみって言われたけど、似合うのはわかっているから、楽しみも何も無いんだけどな)


 コルヴァンは冷静ぶっているが、自然と口が緩み笑ってしまう。


「おまたせー、準備できたわー」


 明るく入ってきたミロルは、若草色のドレスを着用していた。

 髪は白い薔薇の花を模した髪飾りでまとめてある。

 式典用のためフリルは少ないが、ふんわり弧を描くスカートが柔らかさと可愛らしさが出ている。


(さすが元王族、気品が溢れている)


 いつものミロルっぽくもあるが、いつもと違う品を感じる。


「さすが、着こなしていますね」

「まあね、あ、今日はこのまま現代に帰るから、翔さんにも見てもらわなきゃっ」

「ああ、やっぱりミロルさんだ」


 いくら品があっても中身はミロルのままだ、そんなことをコルヴァンが思っていると。


「羽澄ちゃん、何やっているの」


 と、なかなか部屋から出てこようとしない羽澄を、ミロルが引っ張り出そうとしている。


「大丈夫だから、ほら」


(なんか、焦らされている……)


 コルヴァンに見せるか見せないかで、ミロルは羽澄と格闘中だ。


「わかった、わかったから!!」


 ミロルに背中を押されて、やっと羽澄が部屋から出てきた。


「っ」

「……もう、恥ずかしいよ」


 その姿に驚くコルヴァンに気づかず、羽澄は恥ずかしそうにうつむいている。

 彼女の姿は深い紺色のドレスで、ミロルとは違い裾が広がりすぎないスカートは冷静な羽澄にぴったりだ。


(美しい……)


 コルヴァンは素直にそう思った。

 スカートから視線を上げれば、腰はきゅっとしまっている。

 今度は胸元に目が行くが、羽澄が心配したほど目立たず控えめだ。

 胸よりも首筋から鎖骨にかけてのラインが美しく際立っている。

 視線を髪に移すと、華やかに巻かれた髪は片側でまとめられ、ミロルと同じ白いバラの髪留めが付いている。

 本人は恥ずかしそうだが、そのドレスは羽澄にぴったりだ。


「……すごく、似合っている」

「嘘、今間があったし、なんか微妙そうな表情している」


 コルヴァンがなんとか絞り出した声も、恥ずかしく自信がない羽澄はすぐ否定する。

 いつも自信ありげな態度はどこへやら、羽澄は拗ねたように口をとがらせた。


「素直に言って」

「素直ではあるが、まぁ、そうだな……本当は、とても美しい、と思っている」

「は!?」


 羽澄にとっては、思ってもみなかった言葉が返ってきて、耳まで顔を赤くしてしまう。


「たっ、多分、ドレスが、いいから……」

「羽澄が綺麗なんだが……」

「もうっ、わかった、わかったからっ……その、コルヴァンも法衣、似合ってるっ」


 どんどん恥ずかしくなっていき、羽澄は言い逃げして外へ出た。

 コルヴァンも顔を緩ませながら羽澄の後を追い外に出ると、ちょうど教会の前に馬車が止まる。


「おお、羽澄君……良く似合っているではないか」

「あ、トキアス様……あ、ありがとうございます」


 トキアスは三人を拾うために教会に寄っていた。

 一連の流れを見ていたミロルは、にやにやしていたが、トキアスの到着に一度教会へ戻った。


「コルヴァンも新調したのだな、勲章もなくしてなかったか」

「……そんなになくしそうですか、俺」


 ちょっとショックそうなコルヴァンに「冗談だ」と言いながら笑うトキアス。


「トキアス様」


 ミロルの声に顔を向けると、不器用にも歩くフォルンの姿。


「お久しぶりです、トキアス様」

「……フォルン、体は、大丈夫か?」

「はい……長時間となると支えがないと無理ですが、少しならこのように歩けます」

「そうか……」

「今日はお礼を、言いたくて……処分の件、口添えいただきありがとうございます」

「特に、たいしたことはしてないよ」


 トキアスはそう言うが、処分を決める際に彼が関わっていたことは明白だった。


「私にとっては、もったいない、心遣いです」

「フォルン……」

「――ありがとうございます」


 フォルンは深く頭を下げ、トキアスへ感謝の言葉を伝える。


「……フォルンに渡したい物がある」


 そう言って馬車から出してきたのは、杖だった。


「以前使っていた杖だがまだ使える、良ければ受け取ってくれないだろうか」


 それはトキアスが初めて聖骨院に来たときに持っていた杖だ。


「……受け取れません、トキアス様を傷つけたのですから、このような立派な物を受け取ることはできません」

「しかし、私はもう必要ないからな……必要としているフォルンに使って欲しい」

「……」


 フォルンは戸惑ったように黙り、苦しそうに顔を歪め、口を開いた。


「この杖は、私がトキアス様を裏切ったために作られた物……その罪を背負うために、使わせていただきます」


 フォルンにとっては、自分の罪を思い出させる物でもある。

 そう言う意味では受け取るべきだと、納得できる。

 しかしトキアスは違った。


「そんな堅く考えず、この杖を見て、私を思い出してくれればいい……この杖はこの世に一つしかないからな」


 確かに杖はトキアスらしい、宝石がちりばめられた豪華な特注品だ。


「思い出すなんて――」


 彼女の言葉にトキアスは一瞬顔を顰めるが、フォルンは顔を緩めて。


「私の心の中には、ずっとトキアス様がいらっしゃいますから」

「そうか」


 と呟き、トキアスも嬉しそうに笑った。



 トキアスの馬車で城に到着し、外に出てみればニコニコと笑うアルバスが迎えてくれた。


「アルバス様、わざわざ迎えていただきありがとうございます」

「いやいや、羽澄先生のドレス姿を見られるなら、全然苦じゃないさ」

「……左様でございますか」


 呆れた声のコルヴァンには気にせず、アルバスは馬車から降りる羽澄をエスコートする。


「どうぞお手を……もしくは躓いて俺の胸に飛び込んできてもいいですよ」

「少しはその性格がまともになると思ったんですけど、思い違いでしたね」


 アルバスの手は取るものの、足元には十分気をつけつつ馬車から降りる。

 呆れた声の羽澄に、アルバスはめげない。


「俺にとって羽澄先生は特別だからね、あまりの美しさにできればこのまま連れ去りたいくらいだよ」

「っ、アルバス様っ」


 まるで口説くようなアルバスの発言に、とがめようとするコルヴァンだったが。


「投げ飛ばされたいですか? 殴られたいですか?」

「……城でそんなことされたら、羽澄の身が危ないから、もう余計なことはいいません」

「はい、そうしてください」


 自分がドレスを着ても、アルバスが王子であっても、羽澄の態度は変わらない。


「さすが羽澄だな」


 コルヴァンは深く頷きながら、羽澄の回避能力に安堵し、アルバスは苦笑しつつもこの会話が嬉しく思う自分がいた。



 一方その頃、崩落事故現場では、復旧作業が続いていた。


「サボるな、さっさと働け」


――ピシッ


 監視役が付き、魔法が使えないように現場全体を封魔魔法が覆う中、崩落事故の犯人たちは作業をしていた。


(なんで、こんなことに……)


 元第一王子であるカルロは、やりたくもない労働をまじめにこなす。

 復旧が終われば処刑されるが、サボれば容赦なく鞭で叩かれるのでまじめにこなすしかない。

 国に守られていた体は、今や鞭の痕だらけだ。

 監視役はカルロたちにお金をだまし取られ、自ら監視役を買って出た被害者ばかり。

 中には騙されたショックで自殺した娘の父親もいる。


『娘は王子のお墨付きだからと、ラヴェンに尽くしたのに……』


 実行犯はラヴェンことセグロだが、洗脳や金銭の話の時にカルロも同行していた。

 詐欺師の仲間なら、いくら元王子とはいえ容赦はしない。


――ピシッ


 顔の横をムチが掠める、ビクッと体が固まるのを見て監視役はにやりと笑う。


「叩かれると思ったか? 安心しろ、俺たち監視役は無駄な罰は与えない……お前みたいなクズになりたくないからな」


 挑発の中に含まれる憎しみ、カルロは睨むこともせず、ただひたすら作業に取り組む。


(なんで、こんなことにっ。

 クソクソクソォッ、国王めっ)


 ただ感情は憎しみで溢れていた。


(アルバスの洗脳がとけてなければ……いや、そもそも何であんなに証拠を持っていたんだ)


 今はそんな事ばかり考えている、罪に対しての後悔ではなく、野望が達成できなかった原因追及。


(フォルンも魔法じゃ治せないほどの怪我を負わせたはず……あの証拠がなければ、俺だけでも言い逃れができたのに)


 チャンスがあれば仲間を切り捨てでも自分は助かりたい、その思考は常にあった。


(それにストリの怪我だって、何で治ったんだ?)


 そんな事ばかり考えていると。


「……まてよ?」


 一つの仮説にたどり着く。


(魔法以外の、技術? ジュンタのような……他の世界から来た人間が、いるのか?)


 その仮説は、元王族であるカルロの記憶に引っかかりを生じた。


(羽澄、という名前、確かにジュンタと感じが近い……俺たち以外に異界の魂召喚をした物がいるのか?

 いや、魂召喚はそんなに簡単にできる物じゃない……となれば)


 思い出されたのは隣国の尋ね人。


(確か別世界転移魔法が使える王女が行方不明……っ)


 引っかかった記憶に、カルロはにんまりと笑う。


(羽澄……俺にとって女神になるかもしれない)



登場人物

聖骨院居候:フォルン

大富豪:ハルビア・トキアス

第二王子:ヴァルディア・アルバス

元第一王子・罪人:カルロ

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