第五十話 裁きの先で、進む未来
「スカート……!」
「スカートどころかドレスよ、報告の時は急な呼び出しで白衣だったけど、謁見室で式典なんだから、ちゃんと正装していかないと」
「女の正装は華やかなドレスですよねー」
褒賞授与式に向けて、以前訪れた王室御用達の仕立屋に来ている。
羽澄は言われるがまま採寸も終わったが、ナース服以外スカートすらほとんど着ない羽澄にはハードルが高い。
「そうそう、聖骨院として儲かっているんだし、これから社交界に顔出す可能性もあるんだから、もう一着作ってもいいかも」
「そんな可能性、あるの?」
「ありますよ、王族であるストリ様を治療した功績と、治らないといわれていた怪我を治し国に貢献。
加えて崩落事故での実績、王族や貴族からの推薦で招待されることもあります」
「……さすが大富豪元夫人、詳しいですね」
多少げんなりしながら、羽澄は考えたこともなかった可能性に顔が引きつる。
「まあまあ、ドレスのことはママとフォルンさんにまかせて……あと、多少の谷間は我慢して」
「谷間に多少も何もないでしょ……」
半ば諦めながら店のソファーに座っていると、ぐったりとしたコルヴァンが採寸室から出てきた。
「俺も新しく作らなきゃダメなのか……」
「当たり前、小さな教会とはいえ、法衣くらい持ってないと……一人だけぼろぼろの司祭服じゃ、恥ずかしいでしょ」
「聖拳士の時に貰った勲章も必ず着けてください……まさかなくしてないですよね?」
「も、もちろん! 大事に保管してあります」
「……つまりしまいっぱなしってことですね、ミロルさん、あとでチェックしてあげてください」
「まかせて、アクセサリー作家として、埃も濁りも取ってピッカピカにしてあげるから」
「……はい、よろしくお願いします」
(今は、何を言っても無駄だな)
コルヴァンは悟りながら、同じように諦めている羽澄の隣に座る。
「コルヴァン、お疲れ様」
「羽澄は、もっと決めることが多いんだろ?」
「……そうみたい」
力なく笑う羽澄に、コルヴァンも笑う。
「いやぁ、採寸とは言え、べたべた触られるのは嫌だよなぁ」
「そうよね、私も胸を触られた」
「……採寸した人、女性、だよな?」
「もちろん。
ちゃんと同性が採寸できるように、スタッフが控えているあたり、さすが王家御用達」
自分の採寸が男性だったため、少しやきもきしていたコルヴァンだったが、羽澄の返答にホッとする。
(やはり、仕事とはいえ、下心を持つやつがいないとは限らないからな……)
もやもやしたがすぐに解消され、一瞬すぎてそれが嫉妬だということにコルヴァンは気づかない。
隣を見ると、不安そうな羽澄の姿が目に入る。
「どうした? 何か心配なのか?」
「ドレスとか、似合うかなぁ」
「似合うだろ、羽澄ならどんな服でも」
「お世辞はいいよ」
「お世辞じゃない、顔もスタイルも整っているから……いや、なんか恥ずかしくなってきたな」
「すっごい褒めるから……私も恥ずかしいよ」
お互い頬を染め、俯く。
コルヴァンはいつも冷静な羽澄のそんな珍しい表情を、ちらちらと見てしまう。
「で、でも私のおっきい胸……邪魔じゃない?」
「俺は羽澄だったら気にならん……いや、露出が多いのはダメだ」
「あー、私も露出度高めは嫌だ」
「……正直言うと、俺は見たい」
「見たいんだ……」
「ねえミロルさん……これって」
「しっ、本人たちは二人の世界って気づいてないからっ」
ミロルとフォルンがこっそり見ながら、色気のない二人の会話に聞き耳を立てる。
「私もコルヴァンのいろんな服見てみたいな」
「ずっと司祭服だからな……どこか出かける時に、違う服でも着てみるか」
「持っているんだ」
「当たり前だ、さすがに司祭服だけじゃない」
「コルヴァンこそ、スタイルいいから、似合う服多いんじゃない?」
「そんなことないと思う、が……確かに、褒められると照れるな」
「ふふっ、でしょ?」
今度はコルヴァンが褒められて、また二人で顔を赤くする。
「そうだ、今度司祭服以外で城下町を案内してよ……よく考えれば城とかギルドとかしか行ってないから」
「あー、確かに……わかった、案内しよう」
「えへへ、やった」
「嬉しいか?」
「うん、楽しみ……あ、迷惑だった?」
「いや……俺も嬉しい」
「羽澄ちゃんのデート服作らなきゃ」
「お手伝いします、ミロルさん」
こうして無意識のうちのデートが決まったのだった。
別の日のギルド連合会館にて、複数貼られているお知らせの紙を、ロウフが満足げに見つめている。
「ロウフさん、こんにちは」
「ああ、みなさん、呼び立ててすまないね」
聖骨院の三人と車椅子のフォルンが会館に入ると、ロウフはにこやかに迎えるが、羽澄たちは少し表情が暗い。
「処分、決まったんですね……」
「ああ、アクロね……いくら洗脳されていたとはいえ、やったことがやったことだから」
お知らせとして入り口に貼られたのは、冒険ギルドマスターの交代。
そして監視下の元、半年間無償で特定のクエストを行うこと。
「薬草のクエストをアクロにやってもらうことになった、冒険者として腕は確かだから」
「可哀想だが、やったことが事だけに仕方ないだろう」
コルヴァンは冷静にそういうが、表情は硬い。
「ただ、冒険ギルドの追放じゃないから……無償なのはクエスト報酬だけだし……半年間、しっかり勤めを果たしてくれるさ」
ロウフは被害者だが、その声は仲間としてアクロを信じている声色だった。
そしてロウフはそのまま、表情が固いフォルンに向き直る。
「まず一つ目の用事は、フォルンさん、あなたの処分が決まりました」
アクロの処分が決まったということは、フォルンの処分も決まったということ。
言われてフォルンは姿勢を正し、真剣な表情でロウフを見る。
「あなたも洗脳されたとはいえ、殺人計画の実行犯です……決して軽くない処分なので、心して聞いてください」
「お願いします、どんな処分でも受けます」
覚悟を決めた返事に、羽澄たちも真剣な眼差しでフォルンを見守る。
「では、処分ですが……一ヶ月間、聖癒布の売り子をしてください、減給五割……一ヶ月経過したら通常の給料に戻します」
「……え、それでいいんですか?
仕事までいただけることになりますが……」
拍子抜けしたような、驚いた表情でロウフに尋ねるが。
「大丈夫……証拠の協力もあったし、何より被害者のトキアスが許しているからね」
「よかったですね、フォルンさん」
処分の内容に羽澄たちもホッとし、笑みが溢れる。
「……また、トキアス様に、救われました」
フォルンは顔を俯きながら、困ったような嬉しいような顔で呟いた。
「あと、嘘の証言をした作業員だが、すぐに罪を告白したことでトキアス、俺、レンカク様に謝罪をして許したよ」
「それはよかったです」
「完全に巻き込まれただけだが、アルバス様のナイス判断でもある」
コルヴァンの言葉に、全員深く頷く。
「アクロは残念だったけど、新しい冒険ギルドマスターは今選定中だ。
決まったらまた、ここでお披露目があるから、またお知らせするよ」
崩落事故の件に関しては、次の褒賞授与式が済んだら落ち着くだろう。
「さて、今日呼び出した本命はこれ」
ロウフが指を指したのは、聖癒布販売のポスター。
「聖癒布の発売日が迫ってきたからね、フォルンさんの売り子の件も併せて、最終打ち合わせに入ろう」
聖癒布の販売は、今まで治療が届かなかった人たちも救うことができる……。
カルロが起こした事件を霞ませるよつに、明るい未来にむけて、羽澄たちの打ち合わせは熱を帯びていった。
登場人物
聖骨院居候:フォルン
商人ギルドマスター:ロウフ




