第四十九話 過去からの解放――自分を後回しにした理由
それはまだコルヴァンが幼く、家族も何も失っていなかった頃の話。
彼は城に仕える騎士、ルーメン一家の一人息子として育った。
母親は魔道師、父は聖剣士。
そんな二人の血を受け継ぎ、コルヴァンも武道と魔法を使いこなしていた。
それは、コルヴァンが初めて回復魔法を使えた日のこと。
「今日は遅くなりそうですね。明日の朝、ご報告しましょうか」
コルヴァンが生まれたときから世話になっている家政婦が、眠そうなコルヴァンにそう促した。
初めての回復魔法で、コルヴァンは疲れ切っていた。
そこへ両親が帰ってきたのだが。
「コルヴァンただいまー、聞いたぞー、回復魔法をパパにかけてくれー」
父親が話しかけるものの、コルヴァンは睡魔に負けて。
「スー、スー」
「……寝ちゃったか」
「もう、大きな声出さないのっ、明日お祝いしましょう」
遠くに聞こえる母親の声に、にへらとコルヴァンは笑いながら眠りにつき……そのまま朝を迎えた。
「……コルヴァン様、昨日、魔物の群れが……国境のすぐ側まで……お父様と、お母様が、命をかけて……守ってっ」
ぼろぼろの騎士が精一杯伝えたその言葉を、幼いコルヴァンが簡単に理解できるものではなかった。
「……あの日、俺は泣き続けた。
俺が回復魔法をかけていたら、両親は助かったんじゃないかって、後悔した」
昔のことを静かに話すコルヴァンに、誰も何も声をかけることができない。
「だから回復魔法を求められたら――
たとえ身を削っても、危険な場所でも、お金がなくても、無償で助けたくなっちゃうんだ。
今魔法をかけなければ、みんないなくなってしまう……そんな恐怖がずっと俺を襲っていた。
だけど羽澄とミロルさん、そして騎士の仲間たちに言われて考えたんだ。
任務に出るときは城の治療師に魔法をかけてもらうのに……。
あの時、両親に俺が回復魔法をかけていたからといって、何か変わったのかって」
「コル……ヴァン……」
思わず名前を呼んだ羽澄だったが、彼女はぼろぼろと涙を流してうまくしゃべれない。
「なんで、羽澄が泣いているの」
「だって……だってぇ」
優しい顔で笑ったコルヴァンだったが、気づけば全員涙目で、リーノも俯き肩をふるわせている。
「だからこそ思うんだ、自分の身を削っても、仲間に心配や迷惑をかける。
それなら震えるくらい怖いのに、無理して演じることはない、ってこと。
あと、聖骨院には、いやがることを強要する人間は、いないよ」
「……はい、ぐすっ」
「リーノちゃん……」
「アイル……ごめん、ごめんなさいっ、怪我、本当は私のせいっ」
「いいんだ、リーノちゃんが無事だったし、怪我は羽澄先生が治してくれたから」
「リーノ、もう無茶しないでっ」
レイルの言葉に「うん、うんっ」と、三人で抱き合って泣いたのだった。
話が終わったあと、聖骨院の入り口に気配がした。
「すみません、聞くつもりでは……」
羽澄がドアを開けると、困ったような顔のフォルンが高級そうな封筒を持って立っている。
心なしか涙目で、足が震えているのに入るに入れなかったのが見て取れる。
「いや、大丈夫です、それよりも座って……無理させてごめんなさい」
羽澄が座るよう促したあと、フォルンが用件を口にした。
「実は城からの使者から、こちらを預かりました」
そう言われて手渡された封筒には、王族の紋章で押された封蝋で留められていた。
不思議に思いながら開けてみると、入っていたのは招待状。
「褒賞授与式の、招待状だ……」
一週間後に執り行われる、崩落事故を中心とした事件解決に関わった者へ褒賞授与式。
その文面を見て羽澄は顔をしかめた。
「……めんどうくさい」
「気持ちはわかるが、参加しないわけにもいかないだろ」
別に褒美が目当てで尽力したわけではない、ただ放っておけなくて手を貸しただけだ。
「まあ、式典自体はいいんだけど……」
そうどもっていると、後ろから招待状をのぞき込んだミロルが、目を輝かせる。
「まあぁ、まあまあっ、これは準備しなきゃっ、ドレスと扇子とアクセサリーと、バッグとぉ」
(やっぱり……ママ、好きそうだと思った)
「まずは仕立屋……せっかくだから扇子とアクセは私が作ろうかしら、バッグは仕立屋で相談してぇ」
「ああ、なるほど、確かにめんどうだ」
羽澄の言葉に納得し、コルヴァンも同調する。
しかし楽しそうにしているのはミロルだけではなかった。
「良ければ私も手伝います、トキアス様と一緒に社交界にはよく出ていましたから」
宝石好きのフォルンも賛同し、羽澄とコルヴァンは二人に従うしかなかった。
登場人物
従業員(幼馴染三人組)
巨乳料理好き:リーノ
姉回復魔法使い:レイル
弟攻撃魔法使い:アイル
聖骨院居候:フォルン




