第四十七話 雨の終わりに
玉座の間に、重苦しい沈黙が落ちる。
カルロは、不気味な笑みを浮かべながら、自らの罪を語り始めた。
禁忌の儀式である異界の魂召喚を使用し、純太を召喚。
化粧で顔を整え、恋愛感情を匂わせた詐欺行為。
睡眠魔法を使い、ストリの足を破壊。
その後、治療や魔法を使ったと詐称。
トキアスの殺害計画。
崩落事故の偽装、および日誌の捏造、罪のなすりつけ。
レンカクを強制的に教祖の座から引きずり下ろし、神選会に純太を監禁。
商人ギルド退会の強制など、ロウフへの嫌がらせ。
「この三人は、俺を推薦しなかったことが許せなかった……俺なら絶対に金を生み出せるのに!」
狂ったように喋るカルロ。その姿と、真伽珠の色が白から一切変わらないことに、狂気を覚える。
(……この男、本気で自分が正しいと思っているのか……)
アルバスは、壊れた兄の言葉に冷や汗を流した。
(まだ何か,仕込んでいるのか……?)
その異様な余裕を打ち砕くべく、アルバスは祈るように手を組む。
「悪いけど、洗脳がそのまま続くと思わないほうがいい」
その言葉に、カルロの眉がぴくりと動いた。
――パアァァ
アルバスの体が輝き、空気を震わせるほどの魔力が放たれる。
「なっ!」
「この魔力……まさか、アルバス様だったのか!?」
カルロは驚愕し、セグロは絶望に沈む。
――ドンッ
突然重い音とともに、一人が膝から崩れ落ちた。
「こ、国王……俺は、なんてことを……」
日誌を捏造し虚偽の追及をしていたアクロは、焦点の合わない目で呟く。
「申し訳ありません……申し訳ありません……」
偽証した作業員は、赤い絨毯に額をこすりつけていた。
アルバスの生命共振魔法に触れたものは、頭にこびりついていた洗脳が剥がれていった。
光が収まった頃、アルバスはゆっくりと目を開け、驚いたように口を開く
「盗賊姉弟も、洗脳していたのか……」
「裏切らないように、な……洗脳していなくても、やっていたことはかわらないだろうけど、ヒヒッ」
全員の洗脳が解除されたのに、まだカルロに余裕があるように見える……が、次に声を上げたのは。
「それでは俺も、復讐させてください」
現教祖、純太だった。
「まず俺は、教祖の位をレンカクさんに返します……大切な神選会を乱して、申し訳ありません」
「いやいや、純太殿も操られていたと聞いている、お互い被害者であろう」
「そう言っていただけると、ありがたいです」
改めて謝罪をした後、純太はカルロたちに向かって一冊の黒い本を出す。
それを見ると、カルロとノーチの顔色が変わった。
「これ、何かわかりますね?」
「それはっ……化粧品と道具の全てが書かれている……」
純太から化粧の技術を盗んだノーチ、本の大切さは誰よりもわかっている。
彼女の言葉にセグロとロックスもことの重大さを理解する。
「そう、この世界に化粧品はない……だから俺が一から作り、その全てがこの本に記載されている。
つまりこの本と、今お前らが持っている化粧品が無くなれば、二度と化粧をすることができないだろうな」
そう言い放つと、純太はアルバスに助言した。
「彼らの身体検査を提案します、化粧ができれば別人になれるので……逃げる術を全て壊しましょう」
そう言って本をコルヴァンに渡す。
「やだっ、それがないと、顔が、私の美しい顔がぁっ」
「や、やめろーっ」
初めて彼らの悲痛な叫びが部屋に響く。
「コルヴァンさん、これ燃やせますか?」
「ああ、簡単だ」
「やめろっ、やめてくれー」
「おのれコルヴァンっ、お前はいつも俺の邪魔ばかりっ」
憎しみに満ちた視線がセグロから突き刺さる。
しかしコルヴァンは、彼らを無視しアルバスに視線を向ける。
「やれ」
「承知しました」
返事と同時に、本が炎に包まれる。
――ボッ
「いやぁー」
「そん、な、くそっ、せっかく、ここまできたのにっ」
(これが奴らの最後の砦、だったのか)
「化粧で顔を変え、まだ逃げるつもりだったとは……反省の色が見えないな」
アルバスは手を、自分たちの護衛騎士たちに向け――指示をした。
「罪人の身体検査をしろっ」
国王の目の前にこの国では見たことのない道具や粉が複数置かれている。
「わしらには身体検査をしておいて、自分たちはこんなに持ち込んでいたのか」
「なんとも姑息な……」
レンカクとロウフが呆れたように罪人を見つめる。
彼らは本当に何も無くなったのか、瞬きもできないほど憔悴している。
「かえ、せ、俺の顔……」
セグロが譫言のように呟いている、もう彼らには何も残っていないのだろう。
ずっと眉間に皺を寄せている国王は、ふと窓の外を見ると。
(いつの間にか、雨はやんだか……)
雲の切れ間から光が差し込み、雨に濡れた木々の葉が、自ら光り輝いて見えるような気がした。
(闇もあれば、未来につながる光もある……か)
親として、これから自分が下す処分に絶望を感じ、りりしく国王としての言葉を待つ、立派に育った二人の息子に、希望を託す。
「カルロ。お前は死だけでは償えないほどの罪を犯した。
まず王族資格を剥奪し平民として生きよ。
そこの三人と共に自ら壊した地下労働場の再建に尽力させる。
自らが壊したものをその目で見つめ、わずかでも償いを果たせ。
その後、然るべき時に死罪を執行する」
「いやだっ、俺は王族なんだっ……王位継承者なんだ!」
情けない叫び声が響く、だが誰も反応しない。
これが息子だった男に下した、国王の容赦ない裁きだった。
『この度はストリの治療、そして崩落事故現場の救護活動に尽力感謝する。
事件の証拠集めにも多大な協力をされたと聞いている……今は事件整理のため、後日改めて感謝を述べたい』
国王に感謝され、アルバスとストリへの挨拶もそこそこに聖骨院へ、馬車を出して貰った。
まだ聖骨院を開業してから間もないが、怒濤の日々を過ごした羽澄とコルヴァンの間に沈黙が流れる。
王族とはいえ、家族が罪人となった彼らのことを思うと、安易に喜ぶことができない。
馬車が聖骨院に近づくと、そこには二つの人影があった。
「羽澄ちゃん、コルヴァン、お疲れ様っ」
大きく手を振りながら叫ぶミロル、そして優しく微笑み、小さく手を振るフォルンの姿があった。
「そっか……フォルンさん、もう逃げる必要ないんだ」
ぼそりと羽澄が呟くと、二人は自然と笑顔になった。
「そうだな、俺たち……あの人を、救えたんだ」
彼女も罪を犯しているが、洗脳や大怪我を負った被害者でもある。
何よりフォルンの幸せを願うトキアスも、彼女が元気になって救われるだろう。
二人は視線を合わせて頷くと、止まった馬車の中から飛び出し。
「ママ、フォルンさん、ただいま!」
羽澄の声に,全員同時に笑った。
雨上がりの光の中で、その光景は――確かに、守られていた。
第一章、完結。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
毎日更新でここまで来れたことがとても嬉しいです。
これからのことですが、第二章執筆のため、準備期間をいただきます。
第二章 聖癒布躍進編 〜消えた王女の行く末〜
(タイトルが変わる可能性もあります)
まだ回収されてない伏線を続々回収予定です。
毎日更新を目指し、書き溜めつつストーリーを作り込んでいきます。
そう遠くないうちに再会今しますので、少々お待ちください。
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
第一王子:ヴァルディア・カルロ
国王:ヴァルディ・ガルーダ
大富豪:ハルビア・トキアス
商人ギルドマスター:ロウフ
神選会の元教祖:チャルボ・レンカク
神選会幹部:ラヴェン(元騎士:セグロ)
冒険者ギルドマスター:アクロ
第三王子:ヴァルディア・ストリ
現教祖:海藤 純太
巨乳の武闘家:ノクス(盗賊姉:ノーチ)
魔法使い オルロック(盗賊弟:ロックス)
大富豪元妻:フォルン




