第四十五話 中途半端だった王子が持ってきた、最後の証拠
雨は激しさを増していた。そんな中、謁見室に報せが入る。
「ストリ第三王子が、お帰りになりましたっ。
今、こちらにご案内しています」
報告の後、程なくして車椅子に乗ったストリが、コルヴァンに押されながら部屋に入る。
「国王、長旅お疲れ様でした、お迎えできず申し訳ありません」
ストリは国王に礼儀正しく挨拶をする。
その様子は、全てを知っているような落ち着きを纏っていた。
「ストリッ、お前やってくれたな」
その落ち着きに気が付かず、カルロが勢いよくストリへ迫り、ガッと腕を掴んだ。
洗脳するためには、相手に触れなければならない。
「我々を陥れて、国王の座につこうなど……」
「カルロ兄上、落ち着いて、ちゃんと見た方がいいですよ」
カルロの勢いにも押されることなく、ストリはいきなりカルロにメガネを押し当てた。
「っ、なっ、何を……」
「そのメガネで、よく見てみてください」
カルロは驚き、ストリから離れる……そして、魔力を見るそのメガネに映っていたのは――
「っ――お前!」
「兄上の魔力より、僕の魔力の方が高いでしょ」
にやりと笑ったストリは、今までの気弱で遠慮がちな姿とは全く違っていた。
「国王、僕、病気が治りました」
そう言いながら車椅子から立ち上がるストリ、ガルーダ国王は驚き、アルバスとトキアスたちは優しい笑顔で見守っている。
そしてカルロとラヴェンは……絶望的な顔で俯いていた。
魔法で洗脳できる条件は、魔力が格下であること。
「残念でしたね兄上、いや、カルロ第一王子……と、ラヴェン。
洗脳の魔法が効かない僕に、罪はなすりつけられませんよ」
言い放ったストリの言葉は、項垂れている二人に恐怖心を植え付ける。
一体どこまで知っているのか……恐ろしくてたまらない。
「通信魔法……ではないな。
アルバス、ストリ……お前たち、血統共鳴が使えるのか」
「はい」
「――そうか、お前たちはそこまで……」
ストリの返答に、ガルーダ国王は目を細める。
母は違えど兄弟の絆がそこにはあった。
(それに引き換え……)
視線をカルロに向けると「なんで、なんで……」と、呟き目を泳がせている。
こっそり落胆のため息をつきながら、視線をストリに戻した。
「アルバス第二王子より、状況は理解しております……僕はラヴェンに指示などしていません」
「それでは、ラヴェンが嘘をついている……ということだな?」
「……お答えする前に、ご紹介したい人がおります、お呼びしてもよろしいでしょうか」
「ああ、いいだろう」
ガルーダ国王の返答に、ストリは入り口の騎士に目配せをする。
騎士は軽く頷きドアを開けた。
「入れ」
――ドサッ、ドサッ
入り口から入ってきたのは、拘束魔法で捕えられ、ずぶ濡れのオルロックとノクス。
窓の外を見れば、魔法を使わなければずぶ濡れになるのは不自然ではない。
神選会の門番に押し出されて、その場に倒れ込んでしまっている。
「っ……お前らっ」
ラヴェンが驚きの声を上げる。
そして門番の後ろからは純太と羽澄も謁見室へと入った。
倒れ込んだ二人を見てガルーダ国王は驚きの声を上げた。
「こやつらは、数年前に消えた、指名手配のロックスとノーチではないか!」
雨で落ちてしまった化粧、今が二人の本来の姿。
その正体は……極悪非道といわれた盗賊姉弟だった。
「その通り、この二人は顔を代え、神選会のシスターと城の神官として過ごしていたのです」
「なんと……この城に指名手配者がいたというのかっ」
「はい……これが、顔を代えた二人の姿です」
ストリの幻灯機に写された二人の顔、それは今の二人と同一人物とは信じられないほど別人だった。
「……確かに、この顔はオルロック……なんてことだ」
「そして彼をこの城に招き入れたのが、映像の中でラヴェンが言っていた王子……それがカルロ第一王子なのです」
「ちっ、違います! 俺じゃ、俺じゃありません!!」
「証拠は揃っているので、足掻いても無駄ですよ」
「っ!」
(誰だ、この男は……)
カルロは思わず思ってしまうほど、今までのストリとは別人だった。
そこにいたのは使用人の息子ではなく、この国の王子の姿。
「彼らの顔を代えたのは私の技術です」
「そなたは……神選会の教祖か」
「はい、海藤 純太と申します」
「カ、カイ……?」
「海藤 純太……盗賊姉弟とラヴェン、カルロ様に禁忌の儀式で呼び出された、別世界の魂です」
「っ、異界の魂召喚かっ……通りで、聞きなれない名前かと……では、レンカクの孫というのは……」
「それはカルロ様とラヴェンのでっち上げです」
「俺はそんなことしていないっ!」
カルロが叫ぶが、もうその声に耳を貸すものはいない。
「違う,違うんだ……違う違う違う……!」
「アルバス第二王子、こちらお持ちしました」
ストリは表情も変えず、アルバスに緑色の宝石を手渡す。
それを受け取り、ストリに優しく微笑んだ後、国王に振り向いたアルバスは真剣な表情に戻っていた。
「こちらが証拠です、この証拠も、先ほどトキアス殿の証拠も【過去視魔法】という、過去の真実を見ることができる魔法を使っています」
「ほう、その魔道具は思考の中の映像を保存するものだな?」
「はい、通常は知りたい状況を思い出させて保存します。
――が、思い出すと思い込みや忘れていると真実が映されません」
「つまり【過去視魔法】で、真実が保存されている、と言いたいのだな」
「はい……この内容まで嘘だと喚かれたら困りますからね」
チラリとカルロを見ると、アルバスから視線を外す。
ガタガタと震え、何を見せられるのか不安そうな顔をしている。
「俺も内容を見るのは初めてです……流します」
そう言って、宝石から流れたのは神選会の教会だった。
映像の視点は門番に声をかける女性の後ろになっている。
『すみません、ご注文のお品物、届けに来ました』
『あ、フォルンさん、今日もお美しいですねー。
ラヴェン幹部がお待ちです、応接室へどうぞ』
『はいっ』
フォルンは忙しいトキアスに代わり、商品を届けにきていた。
容姿が整っているラヴェンに会えるのを、密かな楽しみにしていたフォルンは、率先して神選会にお使いをしていた。
それが、ラヴェンの狙いとも知らずに……。
『……で……を』
どうやらラヴェン一人ではなく、誰かと話をしている様子だった。
ドアが開いており、もう少し近づくと話の内容がはっきりと聞こえる。
『じゃあトキアスの殺害、資産強奪、崩落事故によるロウフの地位剥奪、犯人はレンカクになすりつける……』
『アクロの推薦は決まっているから、トキアスの資産で貴族を買収し、カルロ様が王位継承、間違いなしです』
『うむ、後は回復魔法使いを全て神選会の人間にし、お布施をしないと誰一人回復出来ない制度を作る……と』
そこまで聞いてフォルンは踵を返した。
人が来るとわかっているのに、なぜそんな話をしているのか、違和感はあった。
しかし急いでトキアスに報告しないといけないと言う気持ちが、フォルンの心を焦らせた。
しかし。
『はい、帰らせないよ……あんたは共犯になるんだ』
『あんたはぁ、この作戦の実行犯よぉ、喜んでぇ』
盗賊姉弟に捕まり、ずるずると応接室へ入る。
会話はわざと聞かされたことに、フォルンは気づくが……もう遅かった。
『お待ちしておりました、あなたにはトキアスの殺害と、地下労働場の不正を証言をお願いします』
『そんなこと、するわけありません!』
『大丈夫ですよ、もちろんこちらで不正は準備しますから』
ラヴェンの気持ち悪い笑顔を向けられて、フォルンは気分が悪くなる。
『そんな、協力するわけ……』
『いえ、必ず、協力するんですよ』
ラヴェンがそう言うと、カルロがフォルンの腕を掴み、その部分が淡く光った。
『っ』
フォルンが痛そうに顔を歪めた瞬間――。
『愛しているよ、フォルン』
ラヴェンが彼女をギュッと抱きしめる。
『フォルンも、俺のことは好きだろ?』
体を離し、フォルンの顔を見ながらそう聞くと。
『うん、ラヴェンの事、愛している』
明らかにフォルンの目が、蕩けるようにラヴェンを見つめている。
『トキアスよりか?』
その質問にフォルンの瞳は揺れ。
『トキ、アス……い、やっ』
足掻くようにそう呟いたが。
――チュッ
『トキアスより、俺を愛せ』
キスの後、そう命令すれば。
『はい、トキアスより、ラヴェンを、愛しているわ』
――これが、フォルンの洗脳が完了した瞬間だった。
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
第一王子:ヴァルディア・カルロ
国王:ヴァルディ・ガルーダ
大富豪:ハルビア・トキアス
商人ギルドマスター:ロウフ
神選会の元教祖:チャルボ・レンカク
神選会幹部:ラヴェン(セグロ)
冒険者ギルドマスター:アクロ
第三王子:ヴァルディア・ストリ
現教祖:海藤 純太
巨乳の武闘家:ノクス(ノーチ)
魔法使い オルロック(ロックス)




