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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第一章 聖骨院開業編 〜偽りの王子〜

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第四十四話 表と裏の一手

「ラヴェンを捕えよっ」


 ガルーダ国王の命令が出てからあっという間だった。


――ガキッ


「くそっ」

「悪あがきしても無駄だっ」


 ラヴェンの抵抗も虚しく、剣士のテリクスに剣を突きつけられ、魔法剣士のシュバによる拘束魔法で国王の前に跪かされる。


「ぐあっ」


 トキアスの証言により、ラヴェンの罪は明らかで、国王の判断は当然のものだった。


「まさか、こんな極悪人が神選会にいるとは……」

「今の神選会は腐り切っております……わしにもっと力があれば……」


 レンカクの悲痛の叫びに、ガルーダ国王も顔を曇らせる。


「今は夫婦としてでなく、仕事仲間として和解しておりますので、ご心配なく」

「――許したのか?」

「いろいろありましたが……この場では必要ない情報かと……」

「……それもそうだな」


 まだ聞きたいことはたくさんあるが、この場で話すことではないだろう。


「ラヴェンよ、今の話は事実か?」

「っ……」

「答えよ!」

「……トキアス様の、おっしゃる通りです」


 迷いなく、ラヴェンは答える。


(随分あっさりしているな……)


 この状況をアルバスは怪訝に思う。

 何故ならラヴェンの正体であるセグロは、聖拳士と呼ばれたコルヴァンと競うくらいの力を持っていたはずだ。

 なのに得意の魔法も使わず抵抗する姿だけ見せて捕まる、と、わざとしているように見える。


「まさか、ラヴェン殿が……」


 そして声を上げたのは、まさかのカルロだった。


「なんでこんな酷いことを……!」

「うるさい、王子としてぬくぬく育ったお前に何がわかる……」


 一見すれば、正義の王子が罪人を糾弾しているように見えるが――違和感しかなかった。


(まるで他人事のような……)


 アルバスのその疑問はすぐ判明する。


「国王! 先ほどの映像を最初からもう一度っ」

「……トキアス、流せるか」

「はい」


 短い返事の後に流れた映像。


『……どうして、王子のことを、トキアスに言わなかったんだい?』


「ここですっ、この会話から、アルバスかストリが関係していることがわかります!」

「っ!」


(……なるほど、考えたな)


 一際大きな声で訴えるカルロ、ラヴェンもそれを狙っていたのか、アルバスには口角が上がっているように見えた。


「っ、俺は以前カルロ様とラヴェンが一緒にいたところを見たことがあります!」


 以前洗脳されそうになったシュバは、必死に国王に訴えるが。


「だからなんだ、神選会の幹部なのだから交流もあるだろう」


(やっぱり誤魔化したか)


 想像していた通り、簡単にラヴェンとの関係を認めないカルロ。

 ラヴェンもカルロとの関係を明かすつもりはないだろう。

 そんなアルバスの気持ちを知ってか知らずか、国王がラヴェンに向かって質問をする。


「それなら聞こう……ラヴェン、映像で喋っていた王子とは、誰のことだ」


 聞かれたラヴェンは悔しそうに顔を歪め、言いづらそう……なふりをしながら口を開いた。


「王位継承のための資金と、兄弟を貶めるために……ストリ王子に指示されました」


 よりにもよって名前が上がったのは――ストリの名前。

 部屋に驚きと戸惑いの声が飛び交う。


「にわかには信じられんな」


 国王がボソリと呟くと、ラヴェンは呟きにこたえる。


「そう思われるのも無理はありません。

 しかし日誌も、ストリ様が用意されたものです」

「……つまり俺はストリに騙されたというのか」


 そう呟くとカルロはガルーダ国王に訴えた。


「国王、これはハッキリさせる必要があります。

 どうかストリの召喚を求めます」

「いえ、ストリは関係ありません……病気で歩けず、魔力も落ちているのに、そんなこと……」

「だからこそだろう、あいつが国王になるには俺たちを蹴落とし、推薦者を金で買うしかない」

「……」


 あまりの言い草に、カルロがどれだけストリを見下していたかわかる。


(魔力が下がっているストリを、洗脳するつもりか……)


「犯人が白状している以上、放っておくこともできないからな」


 カルロはそう言いながら国王の顔を見る。


「国王も知っているはずです、ストリがそんなことする人間じゃないと」

「アルバス……ストリを可愛がっているのはわかるが、ここは家族団欒の場ではない……だろう?」


 今度はカルロが国王の言葉を使いアルバスを責める。


(まだ、根に持っていたのか……)

 

「……わかった、ストリをこの場に」

「国王!」

「今はコルヴァンの教会で、匿われているかと」


 ラヴェンの言葉に(バレていたか)とアルバスは思う。


「今すぐストリを捕えよっ」


 カルロの声で騎士が動く、その様子をぼんやり見ていると窓から景色が目に入った。


(雨……降っていたのか)


 いつのまにか外は大雨だった、その瞬間、アルバスの中で張り詰めていたものが溶けた気がした。


 その空気に、国王もわずかに気を緩め――


 アルバスがニンマリと笑っている瞬間を見てしまうのだった。



 時間は遡り、空が曇り始めた頃。

 聖骨院に招かざる客が足を踏み入れようとしていた。


「やはりここにいたのか」


 呟いたのは神官の格好ではなく、魔力が見えるメガネをかけ、黒い隠密装束を身に纏ったオルロック。

 そして同じような格好で胸も隠したノクスの姿があった。


「フォルン、どこに隠れていたのかしら」


 二人の目線の先には、ベッドに座って俯いている標的の姿。

 魔力が見えるメガネ越しには、フォルンの魔力が消えている。


「事故で魔力がなくなったのか……」


 メガネ越しに見る彼女から、魔力は見えない。そして隣に別に魔力を持つ人間が。


「コルヴァンか……厄介な奴がいるな」

「オルロックが拘束魔法でフォルンを人質にとれば、余裕でしょ」


 ノクスはいつもと違うハキハキした声色で、作戦を提案する。


「よし、じゃあ……いくぞっ」


――バシュッ


 オルロックが先導して聖骨院の中に入り、拘束魔法で女性を襲う。

 魔法が彼女を捕らえたとを見て、ノクスは勝利を確信した。


(あんたはフォルンを見捨てられないっ)


 ノクスはニヤリと笑い、叫びながらコルヴァンに襲いかかる。


「フォルンを殺されたくなかったら、じっとしてろ!!」


(こいつはアマちゃんだからな……人質がいれば絶対抵抗しない!)


 そう確信を持ちながら、アルバスに拳を突きつけたが。


――バキィッ


「ぐえっ」


 鈍い音と悲痛な声が聞こえ、オルロックがやられたことに気づく。

 拘束したはずの女性が、オルロックの腹を殴り飛ばした。


「え?」


 ノクスが驚いて後ろを見た瞬間。


――シュバッ


「なっ」


 反応すら許されなかった、ノクスは拘束魔法で縛られる。


「コルヴァン君、こっちも」

「はいっ」


 フォルンの声とは似ても似つかない声が女性から響く――いや、女性ではなかった。

 フォルンは現代で避難していて、ここにはいない。


「残念だけど、俺は魔法効かないんだよね」


 一撃を喰らって倒れているオルロックに、フォルンの身代わりをした羽澄の父、翔がそう笑いかけた。

 現代人には魔法が効かないため、フォルンの身代わりに翔は適任だった。


「な、何者……?」

「なんでみんな俺を女性と間違えるんだろう……今日は化粧もしてないのに」

「……」

「ねえ、コルヴァン君、どう思う?」

「いや、あー、まぁ……捕まえて、外に連れ出しますか」


(どう見ても少女にしか見えません……)


 とは口が裂けても言えないコルヴァンは、至極真っ当な返しで誤魔化した。

 拘束した二人を、あらかじめ準備していた二台の馬車、片方に押し入れる。


「いやぁ、見事……化粧してなくてもお美しいですねぇ」


 もう一つの馬車に乗っていた神選会の教祖、純太が窓から顔を出して、翔を惚れ惚れと見る。


「男性だと聞いてショックだったんですけど……強く美しい姿を見たら、許せます」


 オルロックとノクスが乗せられた馬車には、神選会の門番をしていた男がいて、彼も翔を称賛していた。


「あー、そう……なんか複雑」



 純太が現代の記憶を取り戻した時。


『俺が閉じ込められているのには理由があるんです』

『それは化粧ができるから、逃げないように……ではないんですか?』

『それもそうですが、実は三日に一人、どんな異常状態も治せるんです……もちろん、洗脳も』


 洗脳を解かれることを恐れたカルロは、純太の記憶を消して、神選会に閉じ込めることにしたのだという。


『門番は洗脳されているので、治していつでも外に出られるよう、仲間にしましょう』



 こうして門番は洗脳を解かれ、今に至る。

 本来は元からいた神選会の人間でレンカクを指示していたが、洗脳によってノクスの言うことを聞いていた。



 翔が苦笑していると馬車からミロルが降りてきていた。


「翔さん、ありがとうっ、わざわざ会社まで休んでくれて」

「いやいや、俺もここの王子のやり方は許せなかったから……役に立てて良かった」


 ホッとしたような翔に、ミロルの表情も綻び、そして馬車に乗り込もうとする


「じゃあ私は翔さんを送って行くから……みんな、頑張ってね」


 馬車に乗るコルヴァンと、馬車の中で深く羽澄とストリ。

 ぼーっと空中を見ていたストリが呟く。


「お兄様から、連絡きました……どうやら僕がラヴェンに指示したことになっているみたいです」


登場人物

第二王子:ヴァルディア・アルバス

第一王子:ヴァルディア・カルロ

国王:ヴァルディ・ガルーダ

大富豪:ハルビア・トキアス

商人ギルドマスター:ロウフ

神選会の元教祖:チャルボ・レンカク

神選会幹部:ラヴェン(セグロ)

冒険者ギルドマスター:アクロ

第三王子:ヴァルディア・ストリ

現教祖:海藤 純太

羽澄の父親:鷹野 翔

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