第四十三話 その証言、無効につき
謁見室は音を失っていた。
さっきまで自信たっぷりだったカルロは目を見開いて固まっている。
独自の推理を披露していたアクロも顔を青くし、証言した作業員は真っ青になってカタカタと震えている。
何も反応していなかったラヴェンも顔をしかめていた。
「……これはいったい、なんだ」
張り詰めた空気に響く、怒気を含んだガルーダ国王の声。
「ひっ」
恐ろしい声色にカルロは震え上がる。
アルバスが見せた映像には、証言と真逆の嘘から始まる。
そしてカルロにより、作業員へ捏造した証拠・証言を指示している。
アルバスは冷静に説明を続けた。
「これは事故後三日後――
カルロ王子が初めて現場を視察したときです。
護衛用に携帯している幻灯機に、偶然撮影されたものです」
「ぐ、偶然……? 魔道具の幻灯機を持ち歩くなんて、不自然だろ!」
「おやおや、わしらも持ち歩いているぞ」
「最近物騒ですからね、商人ギルドを退会されたり、頼んでいたクエストがなくなっていたり」
「私は命を狙われましたから、自衛は大事ですよ」
三人が口々にアルバスをフォローし、思い当たる節のあるラヴェンとアクロは気まずそうに顔をそむける。
(こいつら……どこまで、知っている?)
カルロはここで初めて、アルバスが自分たちを調べていたことに気づく。
(アルバスの洗脳は解けていた、それは……いつからだ?)
カルロは汗を一筋流す、それはラヴェンも同じようで、彼は自らハンカチで汗を拭き取っていた。
「ここに映っていることが真実です、俺が幻灯機の有無は関係ないでしょう」
「アルバスの言うとおりだ、カルロよ……昨日の偵察と説明は何だったのか。
――私の時間を無駄に使ったわけではあるまいな」
「っ、もっ、もちろん、俺が父上にそんな……」
「お前はまだそんな甘えたことを言っているのか!」
ガルーダ国王は玉座に座したまま、抑えきれぬ怒りのまま肘掛けを叩きつけた。
――ダンッ
「っ」
びくりと震えるカルロの肩、次の瞬間喚く声が聞こえた。
「うわあぁぁ、もっ、申し訳ございません、申し訳ございませんっ」
作業員が国王の圧に負けた。
「わ、わたじはっ、カルロ様のぉ、指示でっ、証言しまじたーっ」
カルロに洗脳されているにも関わらず、言葉を噛みながらも事実を吐露してしまう。
「父上、違うんですっ」
「国王、この者の謝罪を受け入れてくださいませんか」
この発言で王子それぞれの格の違いがはっきりした。
「カルロ……ここはどのような場か、わかっているか?」
「も、もちろん、父上に崩落事故とこいつらの不正を暴くために……」
カルロの言葉に深いため息をつくと、空気が凍りつく。
「ここは家族団欒の場ではない、公式な報告の場だ。
いつまで父上、父上と甘えているっ。
私を国王として扱っているアルバスを見習え!」
「っ」
公式の場で父親に叱咤され、顔を真っ赤にするカルロ、一番言われたくなかったアルバスと比べる発言に、肩をふるわせる。
「時にアルバス、今の発言はどういうことだ、この者はお前を陥れようとした人間だぞ」
今度はアルバスに声をかけるガルーダ国王だが、その声はカルロの時とは違い優しい。
「それよりもこうやって罪を認めたことを評価して欲しいのです。
俺はその謝罪により、誤った発言を許そうと思います」
堂々とそう言い放つアルバスに、作業員は洗脳されているとは思えないほど、アルバスを羨望の眼差しで見つめる。
「お前も、考え方が甘いな……」
そう呟きながらも、ガルーダ国王の口元は笑っている。
「処分の有無に関しては、この場が終わってから考えよう。
他に、報告するものはおらぬか」
「……父上、いえ、国王。弁明をお許しください」
カルロは改めて姿勢を正し、恭しく頭を下げた。
「私は確かに、証言を誘導しました。これは事実です。
ですがそれは、罪なき者を陥れるためではありません。
アクロの報告もふまえ、この三人が接触している情報も耳にしていました。
その上で混乱を鎮静化する意図もあり、強引ではありましたが、情報を整理し、証言としてまとめるよう作業員に指示しました。
結果間違った行動を深くお詫びします…………そして、私は証言された内容そのものが虚偽だとは考えておりません。」
「カルロ様のおっしゃるとおりです、この帳簿と日誌がある限り、不正はあきらか……二人がレンカク殿と組んで事故を起こした可能性は高いかと……」
「アクロ殿、嘘をつき続けると罪が重くなるぞ」
「っ……ロウフこそ、不正を認めた方が身のためだぞ」
確かにカルロは証言をでっち上げたものの、レンカクたちの疑いがはれたわけではない。
日誌についてはこの段階で、偽物だと証明するものは何もない。
「ラヴェン殿は、冷静ですね」
「冷静というか、何故ここに呼ばれているか、わかりませんね」
トキアスが慌てる様子もないラヴェンに尋ねるも、そっけない回答しか返ってこない。
「アルバス様、どうかこの後は私に話させてください」
「……わかった」
アルバスは返事をした後、トキアスに預かっていた証拠を一つ渡す。
それは緑色の宝石。
「では、このトキアスが報告します。
まずアクロが見せてきた日誌は偽物で、不正の事実はありません。
そして隠し通路も存在しません」
「これがっ、偽物だと言う、証拠は!?
隠し通路がないと、どう証明できるっ」
当然のように横やりを入れるアクロは、いつもの迫力がない。
「どちらもこの場で、はっきりさせることはできません」
「ほらみろ、時間稼ぎしたところで……」
「ただ、崩落事故がレンカク殿によるものではない証拠……そして事故を起こした理由も半分わかります」
「なっ」
アクロが言葉に詰まった瞬間、トキアスは宝石に記憶されている映像を再生する。
映し出された場所は事故が起きた洞窟、そして映し出された人物は。
「はへ……?」
情けない声を出すアクロだけでなく、ガルーダ国王もカルロも驚いた顔をする。
「何故……」
静かになった部屋にカルロの声が響く。
そこに映っていたのはラヴェンとフォルンの姿。
『フォルン、会いたかったよ』
再生される映像と声、そして何故ラヴェンが呼ばれたのか……答えがこの中に詰まっていた。
『……どうして、王子のことを、トキアスに言わなかったんだい?』
「やめろっ、こんなのでっち上げだ!!」
初めて荒げた声を上げるラヴェン、逆にカルロはおとなしくなり、焦ったような顔になっている。
「黙れ」
「っ」
ガルーダ国王の一言で、カルロは押し黙ってしまう。
それは口を塞がれたような圧を感じた。
『これ以上……トキアス様を危険な目に遭わせるわけには、いかないっ』
『そのトキアスを裏切って、複数の男と関係を持っていた娼婦が何をいう』
『……』
映像が進むにつれてトキアスの心が乱される、もうフォルンは助かっているが、この映像は慣れることはないと悟る。
『また俺に従う、従順な女に戻ればいい』
『嫌よ、私はあんたを好きな理由、忘れちゃったもの』
『そうか……じゃあ、死ね』
――ドンッ
ラヴェンが手をかざした瞬間、フォルンのすぐ上の天井が爆発する。
流石に顔を背けてしまうトキアス、震える手をもう片方の手で支えている。
――ガラガラ
『俺への愛が壊れた女なんて、いらない』
『……あんたが来なければ、ずっとトキアス様の側で、恩返しをっ……』
フォルンの叫び声は瓦礫とともに消えていく……トキアスは荒い息を必死に整える。
(最後まで、この証拠を流さなければっ)
『あの魔法剣士の男が洗脳されていたら、俺がわざわざここまで来なくてもよかったのに』
けだるそうに呟くと。
――バーン
――ドカーン
ラヴェンはフードを被り、洞窟を複数爆破させながら、洞窟を出て行った。
――ブツッ
「これがっ、崩落事故の全て、目的の一つはフォルン、私の元妻を殺すこと、でした。
しかし、フォルンは、助かっております……アルバス様と、治療師である聖骨院のおかげで……」
トキアスは震える声を抑えながらガルーダ国王に報告した。
ラヴェンの周りにはアルバスの騎士四人が、崩落事故の犯人として囲んでいる。
「くそっ」
悔しそうなラヴェンの声が響く中、神妙な声で国王として、また旧友としてトキアスに尋ねる。
「トキアス……私がいない間に、何があったか話せるか?」
「はい、大丈夫、です」
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
第一王子:ヴァルディア・カルロ
国王:ヴァルディ・ガルーダ
大富豪:ハルビア・トキアス
商人ギルドマスター:ロウフ
神選会の元教祖:チャルボ・レンカク
神選会幹部:ラヴェン(セグロ)
冒険者ギルドマスター:アクロ




