第四十二話 仕組まれた証言、それは逆転前の戯言に過ぎない
「身体検査とは……不快だったな」
トキアスの声にピリッと張り詰めていた謁見室が、少しだけ緩む。
「しかも俺たちだけですよ――不公平きわまりないです」
ロウフは会話をしながら、向かいの四人を睨んだ。
アルバスたちは左側に並び、正面にはカルロたちがいる。
会話が聞こえているはずなのに、無表情なカルロを見てアルバスは苦々しく思う。
(無反応か……どうせカルロが身体検査の手配をしたくせに。
昨日、ストリに指示を出しておいて正解だった)
先手を打たれ、アルバスの手元にある証拠で、ラヴェンを追い詰めることはできるだろう。
(皆かなりそろえてくれた……が、カルロの悪事は追及することができない)
本来なら証拠を持ち込んでもらうことも考えたが。
(慎重に行動させて正解だったな)
身体検査で何もとられなかったのはとても大きい。
それを指示したであろうカルロの隣には、ラヴェン……そして。
「やっぱり、きたか」
ロウフがぼそりと呟いた、その目線の先には……冒険者ギルドマスター・アクロ。
そして崩落現場で洗脳された作業員がいた。
「アクロが、洗脳されているのか?」
アルバスが小声でロウフに尋ねる。
「まあ、おそらくは……崩落事故の時もそうだが、ギルドの情報が筒抜けだったので……内通者がいると思ったのです」
(それに聖癒布の素材……薬草は、手配されてなかったし……)
聖癒布の薬草は本来なら初心者クエストとして、集めてもらう予定だった。
『すまない、最近忙しくて……』
それがアクロの説明になってない言い訳、結局ロウフが準備したのだが。
これもカルロを推薦しなかったロウフへの嫌がらせか。
(それとも聖癒布の妨害か……あるいは両方か)
どちらにしても、アクロがここにいるのは、アルバスの味方……と言うわけではないだろう。
「国王陛下、お成りである」
触れ役の声に、一斉に姿勢をただし頭を下げる。
ガルーダ国王は玉座へと進み、静かに腰を下ろす。
「頭を上げよ」
と、触れ役の声が響き、全員一斉に顔を上げた。
「この度、我が国の大事な資源調達場所である、地下労働場にて崩落事故があったのは、皆周知しておるな」
ガルーダ国王の声だけが響く謁見の間、張り詰めた緊張感が広がる。
「報告では崩落当時、一番に駆けつけたのが神選会、前教祖のレンカクだな」
「その通りでございます」
「その後ギルド連合会館にいたトキアス、ロウフ、アルバス、そして聖骨院という治療師たちと共に現場に向かったと」
「国王のおっしゃるとおりです」
「その後到着した城の治療隊と共に、負傷者を助け死者を出さなかった……と、こういうことで間違いないか」
「はい」
ガルーダ国王の言葉にアルバスが肯定の返事をすると、次に口を開いたのはカルロだった。
「アルバスは俺の指示通り、国民を守ってくれたんだよな?」
洗脳者を従わせるための、支配者の言葉遣い……カルロはいまだにアルバスが洗脳されていると信じている。
だからアルバスの返事は決まっていた。
「いいえ、俺は自分の意思で国民を助けました。
カルロ王子は貴重な治療師を連れて、飲みに出かけたではありませんか……そこの神選会の幹部と、ストリがお世話になっているオルロック神官と共に」
「……何?」
「そうでしたなぁ、城からの治療師が六人しかこず、神選会に至っては誰も来なかった……私が教祖をしていたら、そんな失態は絶対あり得ませんがね」
レンカクも援護し、当日の事実を突きつける。
まさか口答えされると思っていなかったカルロは、この時初めてアルバスにかけた魔法が解除されていることに気づく。
「アルバス、お前……っ」
「ほう……カルロ、聞いていた話と違うようだが?」
「っ……少し誤解があるようですね、我々はもしもの時のために備えていたのです」
思わぬ反撃に慌てるカルロだが、隣のラヴェンは落ち着いており、カルロも同じようにすぐ立て直す。
「失礼。弟を信じたい気持ちが、事実を曇らせていたようだ」
「というと?」
「かわいい弟が、そこの老いぼれたちに唆された姿に目をそらしていたのですが……本当のことをお話しします」
(まあ色々暗躍していたみたいだし、こんなもんじゃカルロの鼻は明かせないか)
「老いぼれとは酷い言いぐさじゃな」
「レンカク様だけでしょう、老いぼれは」
「トキアス……言うようになったのぉ」
「俺、まだ全然若いんだけど……」
カルロの言葉に反応する三人は、危機感がないようにも見える。
そして気を取り直したカルロが、ガルーダ国王に向けてしゃべり出す。
「この崩落事故は――人為的に起こされたものです」
カルロがそう言うと、ちらりとアクロのほうを見て指示する。
アクロは促されて、その口を開いた。
「この事故は商人ギルドのロウフと大富豪であるトキアスが、隠蔽のため起こした可能性が高いと思われます」
「ほう……続けよ」
「はっ、この地下労働場はこの二人が共同経営として、運営していました……そして、私はこの帳簿と日誌を見つけてしまったのです」
アクロの手には数冊の帳簿があった。
特に不正はしていないので帳簿を見られて問題はないが、見たことのない本も含まれている。
「まずこの帳簿には、地下労働場で発掘した素材の量と、それに見合った金額が記載されています」
最初に見せてきたのは商人ギルドの本物の帳簿、なんの問題もない正しい金額と量が書かれてある。
「次に、こちらは地下労働場で働いているものが書いている作業日誌、主に発掘した素材の種類と量が書いてあります」
初めて見るその日誌には、帳簿と見比べて明らかに素材の量が多く書いてある。
「見ての通り、帳簿より素材の採取量が多い……つまりこの二人は、最終的な量を少なくし、差分で自分たちの懐を潤していたんです!」
アクロはまさに悪事を見破ったと言わんばかりに胸を張っている。
(帳簿は不正がないように魔法がかかっている紙を使うが、日誌に魔法は不要……考えたな)
日誌は当然偽物なのだが、本物と並べることで事実のように思えるから不思議だ。
「事故後調査したところ、隠し通路が見つかりました。
そこから着服した素材を運び出したとみられます。
この事故の真相は、隠し通路が労働者に見つかったから……つまり隠蔽のために、大量の被害者を出してまでも、この事故を起こしたんですっ」
(見事な妄想……いや、カルロ様のシナリオ通りってことか)
ロウフは話を聞いて感心する、完全な事実無根だが、信憑性が高く感じてしまう。
(だからって、簡単に認める訳にはいかないよねー)
「そのような事実はありません」
ロウフは当然否定する、この状況が不利だとわかっているが、逆転する方法とタイミングの見極めが大事だ。
「大体、どうやって事故を起こすんですか?
俺はずっとギルド連合会館にいたんですよ?」
そう指摘しても、待っていたと言わんばかりにアクロはまだ口を開いた。
「実行犯はレンカク殿、あなただ」
「今度はわしか」
突然話をふられたレンカク、しかし驚く様子もなく後ろに回していた手を前で組んで、アクロに挑むような視線を向ける。
「悪いが、帳簿と日誌の他にも証人がいる……事故現場の作業員で、事故当日も現場にいたそうだ」
呼ばれて一歩前に出た作業員は、ガルーダ国王を目の前にしてひどく緊張しているようだった。
「わ、わたしわぁ、地下労働場で通路の整備を、担当しておりますっ、ジコウともうしますっ」
上擦った声の自己紹介に、アルバスは目を細める、ここからの発言は魔道具で撮影した証言になるのだろう。
「一つ、よろしいですか」
アルバスは手を上げて作業員の話を止める、その姿に苦言を呈したのはカルロだった。
「アルバス、なんのつもりだ……この三人をかばうつもりか?」
「かばうも何もありません、全て事実無根です」
「そう思いたいだろうな、自分が活躍した事故現場が、こいつらの隠蔽によるものだったんだから……。
最近こいつらと接触が多いが、お前も関与しているんじゃないか?」
(よく口が回る……今自分で、話を大きくしていることに、気が付いていないんだろうな)
カルロの言葉を無視して、作業員に向かって訴える。
「その証言は、あなたのためになりません……やめるべきだ」
「それは脅しか? いいから話せ」
「……はい、カルロ様」
(やっぱり、洗脳されているから……くそっ、カルロのやつ!)
怒りが湧き上がるが、今は冷静にことを進めなければならない。
しかしどうしても声を荒らげてしまう。
「国王、私の話を」
「黙れアルバス、見苦しいぞ」
兄から弟への叱咤、アルバスへの冷たい視線は、この部屋の全員をひりつかせた。
言い合いをしている兄弟に、ガルーダは国王として口を開く。
「ジコウよ、その証言話す覚悟があるということだな」
「はいっ、こ、国王に真実を、お伝えします」
「そうか……それなら証言を先に話せ、そのあとにアルバスの話を聞く」
「っ」
「証言、いたします」
アルバスの抵抗もむなしく、作業員の口から当時の状況が語られる。
「事故当日、わたしは崩落に巻き込まれました。
突然作業場の奥から爆破音が聞こえ、驚いてその方向を見ると……レンカク様がいました」
「ほう、なんでいたんでしょうねぇ、レンカク」
作業員の言葉に援護するように喋るカルロ、さも事実のように作業員の話を盛り上げる。
「そしてレンカク様が知らない通路で逃げていくのが見えました」
「それが、隠し通路か」
「はい、そうだと思います……そしてこのスカーフを拾いました」
そう言って見せられたのは泥だらけのスカーフで、神選会の教祖の証明として使用される特殊なものだ。
教祖ごとに色が違い、特殊な繭で編まれているため、レンカクしか使用できない。
「その報告をトキアス様とロウフ様に相手にされず、証言をもみ消されました……」
「ああ、可哀想に」
「だけどこのスカーフだけは死守して、ここに証言しに来たのです」
「勇気ある証言に拍手を」
カルロはそう言い拍手をする、続けてカルロとアクロが続き、ガルーダ国王とアルバスたち以外が、作業員を称え拍手の音で部屋があふれる。
「残念だったな、いくらもみ消しても真実は……」
「国王、申し上げてもよろしいでしょうか」
「ああ、カルロ、約束通りアルバスの話を聞く、少し黙れ」
思った通りな展開に機嫌をよくするカルロだが、アルバスも他の三人も慌てる様子がない。
(父上も、アルバスの意見を聞く必要ないのに……完璧な証拠だろ、これ)
自信たっぷりに微笑み、仕方なく国王の言う通り、アルバスの言葉を黙って待った。
その場にしばらくの沈黙が流れ、自然と視線がアルバスに集まる。
注目の中、アルバスは魔道具のブローチを取り出した。
「この証言が偽物だという、証拠がここにあります」
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
第一王子:ヴァルディア・カルロ
国王:ヴァルディ・ガルーダ
大富豪:ハルビア・トキアス
商人ギルドマスター:ロウフ
神選会の元教祖:チャルボ・レンカク
神選会幹部:ラヴェン(セグロ)
冒険者ギルドマスター:アクロ




