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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第一章 聖骨院開業編 〜偽りの王子〜

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第三十九話 洗脳は、ナース服の女神(妻)によって砕かれる

 今日は聖骨院の定休日、教会にはミロルと従業員、合計四人だけが残っていた。


「他の二人は用事があるから、今日は私が先生役よ。

 普段の作業も必ず私が部屋にいるので、わからないことがあったら聞いてね」

「「「はいっ」」」


 三人とも元気よく返事をしている、昨日様子がおかしかったリーノも、今日は問題なさそうだ。


「今日は、コルヴァンさんはいないんですね」

「そうよ」


 返事をすると、リーノはあからさまにホッとする。


(自分からコルヴァンに迫っていたように見えたけど……)


 ミロルはリーノの表情に見覚えがあった、それは王女だった頃の話。


(そうか、家族の顔色をうかがう、自分の表情に似ているんだ)


 過去に何かあったのかもしれないと思うと同時に、今柔らかな表情を守っていきたいと、親心のような気持ちが芽生えていた。



 一方羽澄はとあるシスター二人を従えて、神選会の教会の前にいた。

 羽澄はフードを深く被り、教会の門番に声をかける。


「すみません、教祖様に平和に暮らせている感謝を捧げさせていただきたく参りました」


 フードは被っているものの、ローブの隙間からは胸の谷間が見えている。

 門番は興味なさそうに、後ろのシスターに目線を向ける。

 一人はマスクをしていて見えている目は美しいが、身長がデカくガタイが良い。


「こ、こちらは、教祖への捧げ物です」


 大きなシスターが手荷物をチラリと見せて、無理に高い声を出しているような声で説明をする。


(でけぇ……本当に女か?)


 不信感を持ちつつ視線を下の方に移動させると、背が小さなシスターが門番に微笑みかけていた。


「……あなたも、お祈りを?」


 もう一人のシスターのおかげで目立たなかったが、黒髪でスレンダーな絶世の美少女だ。


(……タイプだ)


 ドストライクな見た目に、門番は鼻の下を伸ばしうっとりと見惚れ声をかける。

 背が低いシスターはにこりと笑い。


「はい、皆様に、神のご加護があらんことを」


 と祈る、その姿にも声にも何の違和感はない。

 門番はニヤリと笑って羽澄に言った。


「ここは厳格なる神選会の教会である、入るには身体検査をさせてもらいます」


 そう言いながら背が低いシスターに視線を移動する、が。


「わかりました、どうぞ身体検査を」


 と言ったのは背が高いシスター……こと、女装したコルヴァンずいっと目の前に出てきてマスクをとる。


「信じてもらえるなら、今ここで脱いでもかまいません」

「いやいや、あ、貴方じゃなくて」

「どうぞ、検査を、さあ!」


 門番は一瞬迷うようなそぶりを見せたが、女装しても元聖拳士としての圧に気圧された。


「だ、大丈夫、大丈夫ですっ、もう大丈夫ですからっ」

「そうですか……」


 その言葉にコルヴァンもホッとしながら一歩引く。

 そして門番は気を取り直し。


「まぁ……教祖様も貴方なら、会いたいと思うでしょうし」


 羽澄の方をチラリと見てにやりと笑う。


(レンカク様の言う通りだった……神選会のセキュリティはこれで良いのかな)


 羽澄は心配になりながらもとんとん拍子に進む面会に、胸を撫で下ろした。


 今日の目的はジュンタへの説得、このままだと消えてしまうことを教える。

 そのために、現代のことを忘れていたら、それを思い出させること。


(一応現代のものは用意しているけど……っていうか、これ、本当に効果あるのかな)


 ローブに隠されている自分の服装を思い出し、少し半信半疑だ。


(ママが考えた作戦だけど、のらなきゃ良かったかも)


 一抹の不安と後悔を胸に、教会へと足を踏み入れるのだった。



 背の低いシスターはデレデレと話しかけてくる門番に、笑顔を向けて「そうなんですか」「うふふ」と和気あいあいと会話をしている。


「羽澄のお父上、擬態能力が高いな」

「ママにしっかり指導されていたから……まあ、目は死んでいるけど」


 コルヴァンが、羽澄に小さな声で話す。

 何かあったときのために、武術に心得のある黒髪の美少女……ミロルが思い当たったのは自分の夫である翔だった。


『我が娘の身の安全を確保する目的なら、協力しよう』


 普段からミロルが異世界の話をしていたため、全て理解し男らしく協力を快諾。

 しかし性別を全く疑われることのない事実を、翔は少し悲しく思う。


「まさか、こんな形でお父上と対面するとは思わなかったな」

「私も、女装した父親を見るとは思わなかった……」


 そういいながら、お互い顔を見合わせて、昨日のことを思い出してしまった。

 顔を真っ赤にするものの、コルヴァンの女装姿が現実へ引き戻す。


「っていうか、俺まで女装する必要あったか?」

「まあ、ママが言うには男性がいると成功率が低くなるからって」

「……ミロルさんが言うと、妙な説得力あるんだよな」


 半信半疑だったものの、こうやって潜入できている時点で、ミロルの作戦は当たりだ。


「こちら教祖様が祈りを捧げている部屋、聖祈の間です」


 厳かな扉の前に案内され、翔に見惚れていた門番もしっかりと説明してくれる。


「教祖様はこちらの部屋で、平和を願い祈られています。

 少々お待ちください」


(祈り……つまり閉じ込められているってことだよね)


「やはり、結界が張られている」


 普段外に声が聞こえないようにコルヴァンが張っている結界だが、本来は外の声も人も入ることができない魔法だ。

 門番が一部分だけ結界を解き中に入る、しばらくすると門番が中から出てきて。


「どうぞ、教祖様がお待ちです」


 と中に入れてくれた。


 そこには聖職者のロープを身にまとった、人畜無害そうな男性が立っていた。

 コルヴァンほど背は高くなく、パッとした特徴も特にない。

 ただ人当たりは良さそうだった。


「ようこそいらっしゃいました、わざわざ感謝を伝えに来てくださるとは……ささっ、どうぞ、どうぞ」


 にこやかに迎え入れられ、三人は部屋に入っていく。

 翔は門番に微笑みながら頭を下げると、彼はでれっとしながら翔に向けて手を振る。


(パパって罪な女……女ではないけど)


 羽澄は感心するが、本人にとっては不名誉なことだ。

 気を取り直してやっと出会えた教祖……ジュンタと対峙する。

 優しそうににこにこ笑っているが、視線は羽澄の胸元に集中している。


(見られてあんまり嬉しくないけど……今は我慢)


 気にしてない風を装い、羽澄は挨拶をする。


「お会い頂き感謝します」

「いえいえ、ようこそいらっしゃいました、私がこの神選会の教祖……ジュンタと申します」


 真っ白い部屋に祭壇と神像が置かれているシンプルな部屋だ。


――コンコンコン


 羽澄たちが来たドアと別の、奥のドアからノックの音と共に人が入ってくる。


「ジュンタ様ぁ……あら、お客様ですかぁ?」

「ああ、ノクス、申し訳ないがまたあとで来てもらっていいかな」

「はぁい。かしこまりましたぁ」


 ノクスと呼ばれた女性は、まるで踊り子のように華やかで露出度が高い。

 胸の谷間もしっかりと見えている。

 そしてノクスの視線は羽澄を上から下まで見ている。


「ふふん」


――勝った! と言わんばかりの表情をされてから。


「それではぁ、用事が終わりましたらいつでもお呼びくださぁい」


 色っぽく体をくねらせながら部屋を出て行くノクス、翔は興味なさげに無の境地になっていた。

 コルヴァンはノクスが出て行ったドアを、眉間に皺を寄せて見つめる。


(あの胸のほくろ――やっぱりあの女っ)


 コルヴァンは忌々しく思いながらジュンタの方を見直す。


「お待たせしました、それで感謝と言うのは……」


 情けない顔のジュンタに、羽澄は必ず最初に聞こうと思ってた質問をした。


「ジュンタ、と言う名前はどういう漢字を書きますか?」


 名前の漢字、この世界はカタカナの名前ばかりだが、現代の人間なら即座に答えられるはずだ。


「名前の、漢字……ですか? 俺の名前の漢字……あれ、なんだろう」


(やっぱり、記憶がっ)


「名字は?」


 今度は翔が質問をする、そしてコルヴァンはすでに結界を張っていた。


(お願い、思い出してっ)


「名字……なんだろう、もやもやするな」


 忘れている事にも気づかない……羽澄は次の策に出ることにした。


――バサッ


 着ていたフードとローブを脱ぎ、胸元を開けていたボタンを留める。


「これ、何かわかります?」


 羽澄が着ていたのはナース服だ。

 聖骨院では現代から持ってきた白衣を着ているものの、この世界では白衣もナース服も存在しない。


(巨乳と言えばナース服か、バニーガールってママが言ってた……っていうか、本当に効果あるのかわからないけど)


 疑問に思いつつジュンタの顔を伺うと。


「……」


 固まって、羽澄の姿をガン見している。


「……羽澄、一旦俺の後ろに」


 不安になって、女の振りもせずコルヴァンが羽澄をかばう。

 すると。


「――美紀」


 と名前を呼んだ。


「!!」

「日本人の名前だ!」


 翔の言葉通り、ジュンタが呟いた言葉は日本人の名前。


「コルヴァン君、たたみかけよう……手土産を出すんだ!」

「は、はいっ」


 そう言ってコルヴァンが持っていた荷物を手早く出し、火の魔法でそれを温めた。

 そして羽澄が容器ごと差し出す。


「これ、食べてください」


 ジュンタは言われるがまま差し出されたものを口に含む。


「あちっ、はふはふ」


 熱がりながらゆっくり噛み締め、そして飲み込んだ。


「う、うまい」

「これ、何か、わかりますか?」

「たこ焼き、です、俺、大好きなんだ……」


 そう言いながら次々とたこ焼きを口に運び、そして大粒の涙を流していた。



「俺の名前は海に花の藤、純粋な太郎と書いて、海藤カイトウ 純太ジュンタといいます。

 メイクアップアーティストをしていました」


 全て思い出したジュンタ……純太は今までの事を語り出した。


(アルバス様の言った通り、忘れたものを思い出せた……)


「ずっと支えてくれていた妻と三十歳になった息子がいます」

「えっ、今おいくつですか?」

「今……はよくわかりませんが、事故で亡くなる前は五十三歳でした」

「……ごめんなさい、辛いことを思い出させてしまって」

「いえいえ、辛いことも沢山あったけど、妻の美紀と過ごした日々を忘れていたなんて……思い出させてくれてありがとう」


 そう言うとにこりと微笑む、その顔は今までのいやらしい顔ではなく、愛しい妻を愛しむ優しい顔だった。

 純太の様子から、召還されれば現代の年齢とは違う年齢になるらしい。


「妻の美紀はナースをしていて、売れなかった時代を支えてくれたんです……だからその姿見たら、思い出せました」

「はあー、よかったー……巨乳好きだからってわけじゃなかったんですね」

「あ、それなんですが……俺、巨乳にそこまで興味ないんです」

「え!」

「そう、なんですか?」

「はい……というか妻にしか興味ないので」

「わかる、俺もだ」


 同意する翔の素の声に驚く純太。


「あ、男性の方だったんですね」

「……こんな格好していますが、貴方の実年齢と同じくらいのおじさんです」

「全然見えません! どのようなメイクを……」

「えー、とりあえず、話を進めましょう」


 パン、と羽澄が手を打つと、おじさん二人は申し訳なさそうに口を閉じた。

 そして気まずそうに純太が口を開く。


「……えっと、巨乳が興味ないって話ですが」

「いや、多分それはもう良いんじゃ……」


 今度は苦笑したコルヴァンが話を止めようとしたのだが。


「何故かノクスに言われると自分じゃなくなるというか……ノクスが好きで巨乳が好きという感情になってしまうというか」

「えっ」

「っ」


 その言葉を聞いた瞬間、羽澄とコルヴァンは気がついた。


「それって……」

「ああ、てっきり洗脳者はラヴェンだと思ったが……純太さんは、ノクス、あの女に洗脳されていますね」

「俺が、洗脳、ですか?」

「はい、カルロ様に会いませんでしたか?」

「あ、会いました……俺がこの世界に来た時に、カルロ様、ラヴェン、ノクス、オルロックがいました」

「なるほど、その四人が始まりか……そしてカルロ様が二人に与えられる、指定された支配者がラヴェンとノクス、か」


 呟くコルヴァンは、羽澄にとある事実を口にした。


「色々繋がってきた……あの女、ノクスは俺の足を踏みつけ、骨を砕き……騎士引退の原因になった女だ!」

「え!?」

「顔は違ったから多分今は化粧しているんだろう、胸を見てわかった」

「コルヴァン君は胸を見て人を判断できるのかい?」


 突然翔が素朴な疑問を投げかけてきた……確かにそう思われてもしょうがない言い方だ。


「ちっ、違います! 胸に特徴的なホクロがあったので……」

「へー……」

「羽澄っ、なんで遠ざかる? そういう意味じゃないからっ」


 大慌てで弁解するコルヴァンだったが、このままでは話が続かない。

 羽澄はこほんと咳払いをし、純太に真実を告げた。


「純太さん、貴方はノクスに洗脳されています。

 カルロ様が洗脳する魔法を持っているんです……思い当たる節はありませんか?」


 ナース服の羽澄に言われて、やはり一瞬純太は妻のことを思い出す。


『貴方が愛しているのは私』


「うっ」


 呪文のように唱えられたノクスの言葉が邪魔をする。

 そして頭の中を巨乳が支配する、大事なことを隠すように迫ってくる。


(い、嫌だっ、もう、忘れたく、ないっ)


 頭を抱え、ガクリと膝をつく。


(忘れたくないっ、苦しい時、いつも支えてくれた……)


『信じてる』


 頭に響く優しい声。


『私は純太が、日本……ううん、世界一のメイクアップアーティストになれるって、信じてるから』


(美紀……忘れたく、ないっ)


『純太さん、貴方はノクスに洗脳されています』


 こんどは羽澄の言葉が、頭の中でリピートされ、頭の中の霧が晴れていくような感覚になる。


「大丈夫ですか? 純太さん」


 心配そうに見つめてくる妻……いや羽澄の姿。


(そうか、俺、洗脳されていたんだ)


 そう思うと、心のほとんどを占めていたノクスへの感情が、霧と一緒に一瞬にして消えた。


――パンッ


「!」

「何か、弾けた?」


 コルヴァンと羽澄にも何かの衝撃を感じ、そして純太はしっかりと羽澄を見た。


「俺は、本当に洗脳されていたんですね」


 弾けたのは洗脳の呪いが解けたからだった。


「もしかして……」

「洗脳が、とけたのか?」


 純太の様子に、羽澄もコルヴァンも顔がほころぶ。


「しかし何故洗脳がとけたんだ?」

「それはかけられた人間が洗脳されている、と気づけば魔法は解かれます」


 不思議そうな翔に、コルヴァンはアルバスが言っていた魔法が解ける方法を説明する。

 純太もその説明に深く頷いた。


「なるほど……腑に落ちた気がします。

 そして色々思い出しました……俺は……このまま消えて、誰の記憶にも残らないんですね」

「っ……それ、は」

「知っていたんですか?」


 肯定しづらかった羽澄だったが、コルヴァンははっきりと純太に尋ねる、すると彼はゆっくりと頷いた。


「彼らは俺のなんでも話していました、ノクスに『忘れて』と言われれば、本当に忘れてしまうんでね……まあ、洗脳がとければ、彼からの仕打ちは全部思い出しましたけど」

「仕打ちとは、召還のことですか?」

「はい、俺を召還させて、消える三年間の間に、化粧の技術をノクスに託す……。

 用済みになった頃に勝手に消えてラッキーだなあ……って、ラヴェンに笑って言われました」

「酷い……」

「この世界にも、悪人はいるんだな」


 ショックを受ける羽澄を支えながら、翔はぼそりと呟く。


「人を陥れる為に、関係ない人を崩落事故に巻き込む人間だ……自分たち以外はどうでもいいんでしょう。

 それはカルロ様も、同じですが」

「そいつは第一王子なんだろ? ひでえな……なんとしても王位継承は阻止しないと」


 あまり関わらなかった翔でさえ、怒りを覚えてしまうほどの酷い仕打ちだ。


「純太さん、今すぐ成仏しましょう! あなたが願えば成仏できて、記憶から消えることもありません」

「そうですね……だけど俺も、復讐したいです」

「え?」

「貴方たちに協力します、そして俺なりの復讐をします」


 何か思い当たる節があるのか、純太はニヤリと笑った。


「俺の技術を、そんな簡単に奪えると思うなよ」


登場人物

巨乳料理好き:リーノ

姉回復魔法:レイル

弟攻撃魔法:アイル

現教祖:ジュンタ(海藤 純太)

巨乳の武闘家:ノクス

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