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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第一章 聖骨院開業編 〜偽りの王子〜

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第三十八話 煩悩の神選会に捕らえられた技と魂

 次の日、羽澄はお知らせを料金表の横に貼り付ける。


【定休日のお知らせ】

 毎週、水の日と土の日にお休みをいただきます。

 また、臨時休業することもありますので、ご了承ください。



 前から考えていた定休日も、このバタバタしている中やっと決めることができた。

 そして今日は金の日、通常の運営日だ。


「さあ、今日も一日頑張りましょう」


 羽澄のその一言で聖骨院の一日が始まる。


「今日の予定は、閉店後昨日の三人の治療をする」

「明日の休みに、聖癒布の作り方を教えるのよね」

「そうだな、発売日もそろそろ決めるか」


 順調に話が進み、羽澄たちは期待が高まる。

 最初の頃に比べて平民も元騎士たちも、聖骨院の治療を受けられるようになっていた。

 それでもまだ、労働で対価を払えない平民や、怪我がひどく支援があっても、すぐ治療できない元騎士たちも多い。


「これが売れれば、商人ギルド経由で三割、補償に当てられるから、頑張ろう」

「ええ」

「そうだな」


 羽澄の鼓舞にミロルもコルヴァンも頷き、今日も聖骨院の一日が始まる。



 聖骨院の昼休憩時間、事務所で昼食をとっていると、入り口が開く音がした。


「急に邪魔してすまない、今いいか」

「どちら様で……アルバス様! レンカク殿もどうされましたか?」


 アルバスとレンカクが、二人ともフードを被って訪ねてきた。

 迎えたコルヴァンが二人に気づくと、慌てて聖骨院に結界を張る。


「もう何も言わなくても結界を張るとわかっているな、助かる」

「いえ、今は特に気をつけないといけないので……だからお二人ともお忍びの格好ですよね?」

「うむ、その通り……特に神選会に勘づかれたら厄介だからな」

「何かありましたか?」


 羽澄とミロルも少し険しい顔をして、事務所から出てくる。


「ああ……すこし、知恵を貸してほしくてな」


 アルバスは昨日手に入れた証拠を三人に見せた。

 洗脳の瞬間、そしてあまりにもカルロに都合のいい証言に、三人は表情が険しくなる。


「……なんて姑息なっ」


 コルヴァンが怒気を含んで叫ぶ。

 崩落事故をなすりつける計画を見れば、怒らない方がおかしいだろう。


「カルロ様、自ら動いたってことかしら」


 ミロルは冷静な声だが、その手は震え、やるせない思いが隠せない。


「しかしこれは、ラヴェンを庇うための工作として、二人のつながりが明らかなのではっ」


 羽澄は前向きに言うが、レンカクは静かに首を振る。


「……いや、これでは繋がりは証明できん。罪をなすりつけているだけじゃ」

「王位継承者として、推薦されず魔がさした……罰は受けるにしても、本来の罪を償うほどではないだろう」

「そうですか……」

「こんなに国民を傷つけて……自分は、こんな姑息な真似を……」


 ミロルも三十年前は王族だった身として、カルロの行為がどうしても許せなかった。


「ミロルさんの怒りもごもっともじゃが、二人が一緒にいたという証言と、カルロ様が強制崇拝魔法を持っていると言う情報だけじゃ」

「それに、急がないといけない理由ができた……父上が明日帰還される」

「明日っ!」

「ただ帰ってきてからすぐというわけじゃない。

 崩落事故現場や関係者の聞き取りなど行われ、その後謁見の間で労いの場が設けられる予定だ」

「カルロ様が先の作業員を連れてくるならここじゃろうな……もしかしたらアルバス様も共犯者に仕立て上げる可能性もある」


 アルバスとレンカクの言葉に焦りを感じる、ラヴェンの罪は問えるだろうがカルロの証拠が足りない。


「そこで羽澄先生の力を借りたい」

「私の……過去を見る魔法、ですね?」

「そうだ。

レンカク殿、この前話した羽澄の魔法が有効だろう」

「確かにな……ただ問題なのは誰の過去をどうやって見るか……カルロ側の人間と接触する必要があるのお」

「シュバは二人並んでいる姿は見たが、あくまでも神選会として、カルロとの一線を引いていたそうだ」

「アルバス様のおかげでシュバさんへの洗脳がうまくいかなかったんですよね?」

「ああ、カルロの魔法がはじかれたらしい。

 その後の報告で、洗脳のことがわかったんだ」

「その時の映像を撮っても、弱そうですな」


 レンカクの一言にアルバスも頷く。

 ミロルがふと口を開く。


「フォルンさんにも聞いてみましょうか。

洗脳する時に術者である、カルロ様がいたはずですよね」

「そうだな、うまいこと隠してそうだが……ダメ元でお願いしたい、いいかな、ミロルさん」

「もちろんです」


 時間がないが、今できるのはそれしかないだろう。

 話が一段落ついたところで、羽澄は手を上げた。


「もう一つ、気になることがあります」


 羽澄は真剣な声でゆっくりと発言する。


「ジュンタさんと、お話しできないでしょうか?」

「現教祖のジュンタと、か……」


 現代の魂を呼び出す禁忌で呼び出された、現代の住人であるジュンタ。

 召喚されてから三年経てば体も魂も消える……人々の記憶からも消える。


「私はどうしても、洗脳されているならその洗脳を、そして生きていた記憶を思い出して欲しい。

 罪の意識ではなく、自分の意思で成仏して欲しいと……思うのです」

「羽澄……」


 どうしてもジュンタの魂が召喚されたことに納得がいかない羽澄、コルヴァンも共感しつつも羽澄の名前を呼ぶことしかできない。


「私のわがままだとわかっていますが……」

「しかしそもそも記憶も消えておるのに、思い出すなど……」


 羽澄の気持ちもくみ取り、あえて冷静な声で現実を告げるレンカクだったが。


「いやっ、ああ、確かに……なるほど――疑問が解けたような気がする」


 突然独り言のように呟くアルバスは、パッと顔を上げた。


「儀式について書かれた書物には記憶は徐々に【忘れる】、体と魂は【消える】と書いてあったんだ……俺はその違いにずっとひっかかっていた」

「同じ意味のようにも思えますけど」

「俺も最初はミロルさんのように同じ意味だと思っていた、だけどレンカク殿の言い回しで、記憶は消えるんじゃなく忘れる……つまり思い出すこともできるってことだ」

「!! 本当ですか?」

「多分……それなら言い方を変えて、書物に記載されている理由が当てはまる」


 アルバスのその言葉を聞いて、羽澄の表情がパッと明るくなる。

 そしてレンカクの方に振り向いた。


「レンカク様っ、どうかジュンタさんに会える方法はありませんか?」

「……本当に、会いに行くつもりか……」

「はい!」

「うーむ」

「お願いします、レンカク様」

「俺からもお願いします、なんとかなりませんか」


 コルヴァンも羽澄に並び頭を下げる、眉間に深い皺を寄せて、絞り出した答えに口を開く。


「……いや、やっぱりだめじゃ、危険を伴う」

「方法があるんですね! どうかお願いします」

「いや、しかしなあ……」

「私は悔しいんです」


 反対するレンカクに、羽澄の素直な気持ちを伝える。


「私の治療もそうですが、あれだけの化粧をするにも相当な努力をしたはずです。

 なのに、亡くなった後に努力の結晶を悪用されるなんて……私は悔しいっ」


 化粧も整体も、そんなに簡単に手に入れられるものではない、資格を取るだけで数年かかる。


「技術は努力の結晶です……それを利用されるのは、我慢できません」


 羽澄が思いを伝えると、レンカクは大きなため息をついた。


「はあー……あまりお勧めはしないが……一つだけ、ある」

「なんでしょう!」


 期待の視線を一身に受けてレンカクの顔が、いっそう皺まみれになる。


「本当は今の神選会の恥ずかしい部分なのだが」


 そう言うと、一呼吸おいて羽澄に言った。


「…………スレンダーで小柄な女性と、胸が大きい女性がいれば、教祖に会えるだろう」

「……はい?」


 レンカクの口から出たのは、まさかの女性のタイプ。


「今の神選会は煩悩に溢れている」

「煩悩…ですか」

「ああ、門番の男はスレンダーで小柄な女性を見ると問答無用で教会の中に入れてしまうのだ」

「えー……」

「黒髪だったら完璧じゃな」


 ちょっと引き気味になる羽澄に苦笑しつつ、レンカクは話を続ける。


「そしてジュンタは胸が大きな女性が好きでな、おそらく羽澄君が会いにいけば問答無用で面会できるぞ」

「どうなっているんですか、今の神選会」

「完全に欲にまみれておる」


 コルヴァンも頭を抱える、ここにいる全員が引き気味ではあった。


「わしも嘆かわしい……ラヴェンが連れてきたノクスと言う胸が大きい女性のせいで、誰もわしの声を聞かなくなった」


 思い出して腹立たしく地団駄を踏むレンカク。


(ああ、だからレンカク様と初めて会った時、邪険な態度だったのね)


 羽澄は納得しつつ策を練る。


「それならジュンタさんを聖骨院に連れてくるのはどうでしょう」

「いや、教会の門番は外からの侵入だけでなく、外出に対しても目が厳しい……おそらくジュンタを閉じ込めているのだろう」

「……魂を召喚するだけでなく、自由も奪うなんて……、やはりこちらから会いに行くしかありませんね」

「彼らにとってジュンタは、利用できる駒に過ぎないのだろう」


 ジュンタの境遇に羽澄の意思はより一層固くなる、そこにミロルが口を挟んだ。


「背が小さくてスレンダーな黒髪女性だけど、私に心当たりあるわ」

「それはすごく助かるけど、関係ないお嬢さんを巻き込むわけにはいかないよ」


 羽澄は遠慮してそう言うが。


「大丈夫、格闘経験あるし、羽澄ちゃんのこととなったら手伝ってくれると思うわ」


 ミロルの含みある言葉に、羽澄はきょとんとした顔で首を傾げた。



「まさかこんなことになるとはな……」


 アルバスは見送ってくれているコルヴァンに、困ったように話しかけた。

 羽澄とミロルは神選会に乗り込む作戦に、事務所できゃっきゃっと盛り上がっている。


「俺も神父としてついていきますから……命に代えても羽澄を守ります」


 羽澄を高く評価するコルヴァンに、アルバスは目を細めて言葉を続けた。


「ああいう女は、王城にいても通用するな」

「ああ、確かに、羽澄ならなんでもこなせそうです」

「だが……あいつも女だからな」

「それはもちろん、だから俺が守……」


 即答で答えるコルヴァンにかぶせるように、アルバスは続けた。


「でも俺だったら、妃にして城で守ってやれる……羽澄が別世界の人間だから、難しいが」

「はぁ!?」


 アルバスの発言に、コルヴァンは思わず声を上げる。


「あんなできた女は、そうそういない……コルヴァンもそう思わないか?」

「そ、そんな目で、見たことは、ありませんっ」


 コルヴァンは否定するものの、顔を赤くして、声が上擦っている。


「せめて俺が王族でなければ、別世界の女でも嫁にしたのに」

「だ、だめですっ」

「何故だ」


 コルヴァンの口から即出た否定の言葉に、アルバスはいたずらっ子っぽく笑った。


「何故って……それは、やっぱり、その、羽澄の意志というものが」

「それはもちろん、愛してもらえるように努力する」

「……」

「それに、お前も戻ってきてくれそうだし」

「……羽澄をそう言う理由で妃にしないでください」


 驚いていたものの、理由を聞いて眉間に皺を寄せるコルヴァン。

 今まで見たことのない冷たい視線に、アルバスは思わず笑った。


「冗談だよ、そんな怖い顔するなって」


 あっけらかんに言いながら馬車に乗るアルバスの姿は、どこか哀愁が漂っていた。

 そして残されたコルヴァンは。


(アルバス様、イタズラが過ぎます……すっごい心臓がうるさい)


 感情を乱されていた。



 聖骨院の営業時間が終わり、従業員三名の治療も羽澄の一言で終わりを告げる。


「はい、これで治りました」

「あっ、ありがとうございます!」


 羽澄の治療にリーノは嬉しそうに、先に治療した二人に駆け寄り喜び合った。

 その様子を聖骨院の三人は微笑ましくみていたのだが。


「コルヴァンさん」


 リーノがキラキラした目で振り向き、名前を呼んだかと思えば。


「治していただきありがとうございます!」


――むぎゅっ


 次の瞬間、リーノがコルヴァンに抱きついた。

 抱きつかれた本人もミロルも……そして。


「はいっ!?」


 羽澄も変な声を出して驚く。


「……何故俺だ、治したのは羽澄だし、回復魔法をかけたのはミロルさんだ」


 コルヴァンはリーノを振りほどきながら、冷たい声で正論を言う。


「迷惑だ」


 その声ははっきりと拒絶していた。


(コルヴァンは巨乳とか、そういうの嫌いだったよね……)


 ふと自分の胸を見て、何故かズキリと心が痛む。


(あれ、なんだこれ……)


 しかし羽澄自身、その痛みがなんなのかはよくわかっていない。

 そんな羽澄に誰も気づかず、リーノは懲りずに、体をくねらせながらコルヴァンを見つめている。


「でもぉ、見守ってくださいましたし」

「それならレイルとアイルの方が、君を心配していたぞ……わざわざ俺に礼を言うことじゃない」


 そういいながら不機嫌そうに聖骨院を出て行った。


「リーノちゃん、そういうの止めた方が……」


 弟の方のアイルの言葉にリーノはキッと睨み付け否定する。


「また、邪魔するの」

「あ、いや、そ、そういう、わけじゃ……」


 リーノの迫力に押されたのか、アイルはそれ以上言葉を発さない。

 そしてリーノはくるっと羽澄とミロルに、にっこりと笑いかけ。


「羽澄先生、ミロルさん、治療していただきありがとうございます。

 これから恩を返せるように、しっかり働きます!」


 と、礼儀正しく頭を下げて礼を言う。


「あ、はは、あり、がとう」


 そんなリーノに、羽澄は引きつった笑顔しか返せなかった。


(リーノさん別人みたい……だけど、さっきより自然っぽいかも)



 治療が終わった三人が帰り、羽澄とミロルも現代へ帰ろうとしたが。


「ママ、ちょっと待って」


 そう言って教会へ戻る。

中にはコルヴァンが祈りを捧げていた。


「あっ」


 羽澄が声を発し、その声に気がついたコルヴァンが振り向く。


「お祈りの邪魔して、ごめんなさい」

「いや、大丈夫」


 コルヴァンの返事はとても優しく、リーノへの冷たい表情とは正反対な表情。


(よかった、いつものコルヴァンだ)


 ほっとしつつ、ずっと気になってたことを口にする。


「あのっ、胸、大きくてごめんなさい……」

「ほえっ!?」


 突然の謝罪にコルヴァンは変な声を上げて驚く、ただ思い当たる節はあった。


「そのっ、最初から嫌いだってわかっていたのに、私、ベタベタしてたかなって……」

「ああ、リーノさんに、怒っているように見えたからか」

「うん……巨乳が嫌で怒っていたんじゃないの?」


 なんとも無粋な質問だが、羽澄は真剣だ。


「まあ巨乳なのもあるが、それよりあって間もないやつに抱きつかれていいかはしないだろう」

「……それはそう、だけど」


 コルヴァンの意見はごもっともだ、だけど羽澄の経験上、セクハラも含め会って間もなくても、ベタベタしてくる男性は多い。

 リーノのようなスタイルならなおさらだ。


「羽澄は……」


 ふとコルヴァンが口を開き、逆に質問する。


「アルバス様が抱きついてきたら、どうする」

「投げ飛ばす」


 なんで答えるかドキドキしながら質問したコルヴァンだったが、羽澄はあっさりと答えほっとする。


「羽澄っぽいな」


 フッと笑ってからコルヴァンは前置きをした。


「嫌だったら、俺も投げ飛ばして」


 そう言いながらゆっくりと、抵抗しない羽澄を抱きしめる。

 羽澄はというと、前置きもあったため、抱きしめられるのは予想できたが抵抗はしない。

 そしてすっぽりとコルヴァンに包み込まれる。


「どうだ、いやか?」

「ううん……ドキドキするけど、嫌じゃない」

「俺も、嫌じゃないし、ドキドキする」

「そっか……これとおんなじか」

「そう、だから羽澄はさっきの気にしなくていいよ」


 確かめるように抱きしめた羽澄の体は、相変わらず柔らかく――抱きしめられたコルヴァンの体はたくましい。


 お互いの体温がじんわり伝わり、鼓動は早くなる一方だ。


「もう……そろそろ、帰ろうかな」

「……そうか」


 羽澄の言葉にコルヴァンが頷き、二人ともゆっくりと離れる、少し名残惜しい気もするが気にしないことにして。


「ありがとう、スッキリした」


 と、羽澄が笑い、コルヴァンも優しく微笑む。


「えっ!!」

「な、何?」

「わっ、ミロルさん、びっくりした」

「この流れで付き合わないの!?」


 ふと、倉庫の入り口にいたミロルの声に二人とも反応して。


「「付き合うってどこに?」」


 と声を揃えて言うのだった。


登場人物

第二王子:ヴァルディア・アルバス

神選会の元教祖:チャルボ・レンカク

巨乳で料理好き:リーノ

アイル姉で回復魔法:レイル

レイル弟で攻撃魔法:アイル

以下名前だけ

現教祖:ジュンタ

巨乳の武闘家:ノクス

第一王子:ヴァルディア・カルロ

元大富豪妻:フォルン


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