第三十七話 新しい仲間と、兄の裏の顔
「フォルンさんが、怪我を治して欲しいって」
「そう、よかった……」
聖骨院が終わり、事務所での雑談中、ミロルが少し切なそうな顔で羽澄に伝える。
『地下労働場に送られる前に、宝石は全部没収されましたが、お金は少し残してくれて……それで支払います』
そう依頼を受けて、ミロルは安堵したのだが。
「トキアス様の前から、消えるために足を治して欲しいって」
「それは……っ、いや、でも、俺が何か、言える立場じゃないな……」
「そうね、何も言えないけど……言いたくなるわよねー」
彼女なりに考えた結果なのだろうが、フォルンの怪我を治したときの、トキアスを思い出すと、あまり納得はできなかった。
「……二人とも、幸せになって欲しいな」
ぽそりと呟いた羽澄の言葉に、二人は深く頷いた。
そして何も言えず一瞬の沈黙があったが。
「どうした? なんか暗いけど」
入り口から声がかかり、驚いて注目する。
「え、え? 俺、タイミング悪いときに来た?」
「あれ、ロウフさん……あっ、聖癒布!!」
「ああ! 昨日言っていた従業員の方ですね」
羽澄とコルヴァンが思い出し、ミロルも察してロウフに、にこりと微笑んだ。
「ロウフさん、こんにちは、ばたばたしていてごめんなさいねー」
「いえいえー、聖骨院の皆さんは頼りにされているから、忙しいよね。
まあ、俺もかなり頼りにしているけどね」
そんなやりとりを交わしてから本題に入る。
「さて、この三人が従業員候補だ……入っていいよ」
呼ばれた三人が聖骨院に入ってくる。
「紹介するよ、まずこの子はピコ、右手首を痛めている」
最初に紹介されたのは、おとなしそうな女の子、身長はミロルと同じくらいだ。
「は、初めまして、リーノと申します、十八歳です。
利き手が不自由になり、調理の仕事ができなくて困っていました。
どうか雇っていただけると、嬉しい、です」
「仕事ぶりはまじめなんだけど、ちょっと、体型でも損していてね……」
ミロルはロウフの言葉に納得する、リーノは羽澄ほどではないが胸が大きい。
「苦労したのねー」
「それでこの二人は兄弟で、二人とも魔法が使えるんだ」
言われて自己紹介を始めたのは、松葉杖を突いていた女の子。
「初めまして、姉のレイル、十八歳です。
膝をぶつけて、松葉杖無しでは過ごせなくなってしまいました。
怪我する前は回復魔法系が得意でした」
はきはきと声を出し、足を怪我していなければ、すぐに就職先が見つかりそうな見た目をしている。
「元気でいいわねー」
「ママ、さっきから目線が近所のおばさんみたいだよ」
「おばっ……ちょっと、気をつけるわ」
姉に続いて、弟も自己紹介を始める。
「僕は、アイルっていいます、十六歳です。
落石が左肩に当たって、それ以降腕が上がらなくなってしまいました。
怪我する前は、攻撃魔法……特に火と氷と雷が得意でした」
姉に比べておとなしそうだが、自己紹介はしっかりしている。
身長はリーノと同じくらい、おそらくこれから伸びるのだろう。
「あらかわいー」
「……」
「かわいいって言っただけでしょ」
「あ、この親子はいつもこうなんで、気にしないでください」
コルヴァンがフォロー入れたところで、ロウフが口を開く。
「この三人は同じ孤児院で育っていて、普段はその施設で過ごしている。
頼れる人もいないから、怪我を治して職を見つけてあげたくてね。
もちろん製造過程は他言しないように教えてあるし、どうか雇って貰えない?」
ロウフのお願いに聖骨院三人の答えは決まっていた。
「もちろん、よろしくお願いします」
羽澄がにこやかに言うと、三人とも、ほっとしたように表情が綻ぶ。
「それじゃあ作業する場所を案内しようか」
コルヴァンがそう言いながら先導して歩くと、リーノが小走りにコルヴァンの元へ近づいて行く。
「きゃっ」
リーノが足をつまずき、小さく叫ぶ。
――ドサッ、むにゅっ
「大丈夫?」
転びそうになったリーノをコルヴァンが受け止め、一瞬顔をしかめた、そして心配そうに尋ねる。
「あ、大丈夫です……あっ、ご、ごめんなさい、変なの押し当てちゃって」
と、顔を真っ赤にさせて、急いで離れた。
「いや、それは別にいいんだけど、そんなに急がなくていいから、気をつけてついてきて」
コルヴァンは特に気にする様子もなく、逆に。
(やっぱり、胸は苦手だな……羽澄以外の)
と、さっき感じた感触に、羽澄の時とは違う嫌悪感を感じる。
「はーい、気をつけまーす」
コルヴァンをじっと見つめて言うリーノの後ろで、レイルとアイルが。
「リーノのあれ、始まったわね」
「あの、主人に媚びる悪い癖が出たね」
「不安なのよ、きっと」
過去を知っているこの兄弟にとっては、彼女のことを見守るしかなかった。
一方、アルバスはカルロと、その護衛ともに、崩落した地下労働場にいた。
今日アルバスの護衛はロガモだ。
「偵察、ありがとうございます、カルロ様」
崩落事故から三日経っており、事故後翌日に来ているアルバスとは違い、カルロは今日が初めてだ。
現場の作業員が二人に道を作るように二列並び、一斉に頭を下げる。
その間を満足そうに、眼鏡をかけたカルロが進んでいく。
(わざわざ作業を止めて、やらせることか?)
洗脳されている振りをしているため何も言えないが、たかだか歩くだけでこんなことをさせるカルロが滑稽でならない。
先頭のカルロと護衛が地下労働場復旧本部へ入っていったのを見て、ロガモと一緒に作業員に礼をしてから本部へ入る。
(色々気づかなかったけど……兄上って横暴なんだな……洗脳って、恐ろしい)
今は不信感だらけで、アルバス自身驚いている。
どかりと本部の椅子に一人だけ座り、自分の護衛に耳打ちで指示だけする。
一人の作業員が来ると、カルロは自分の護衛と責任者以外を全員外に出すように指示する。
(怪しすぎるだろ)
そう思いつつも、アルバスは素直に従う……魔道具のブローチを、こっそり置いて。
兄の視察は十分ほどで終わった、詳しい被害状況を見ることも、今後の地下労働場復旧に関することも。
(何故兄上が視察に来たのか、王族としての建前と……たぶんこれだ)
自室でブローチの映像を確認する。
――ブゥン
映像にはカルロが眼鏡を外し、呼ばれた作業員と話をする。
『事故当日はどこにいた』
『はい、現場にいましたが、私は外で作業していたので、崩落自体には巻き込まれませんでした』
――ガッ
『!! 何をっ』
作業員は正直に答えると、カルロはいきなり作業員の頭を掴み。
――ポワッ
その手がうっすらと光った。
『やっ、やめっ……』
最初は抵抗していた作業員だったが、急におとなしくなり、カルロが手を離すと、自ら跪く。
『これから俺の指示に従え』
『はい、カルロ様の仰せのままに』
明らかに作業員の声に感情がなく立っている。
『お前は今度、事故の証言者として城に呼ばれる。
その時にこれから言う証言をしろ』
『はい、かしこまりました』
『事故当日、お前は崩落に巻き込まれた』
『はい』
『突然洞窟の奥から爆破音が聞こえ、そちらの方向を見るとレンカクが逃げていった』
『はい』
『そしてこのスカーフを拾った』
そう言って手渡してきたのは、レンカクのみ使用できる首に巻いているスカーフ。
ドロで汚れている。
『その報告をトキアスとロウフにしたが、相手にされず、証言をもみ消された』
『はい、私はトキアス様とロウフ様に、証言を取り消されました』
『よし、その時が来たら呼ぶ……その証言をよろしく頼むぞ』
――ブゥン
「ほんと、兄上って……」
映像が終わり、思わず震えた手で頭を抱えて唸る。
(これが洗脳する瞬間、か。
俺もよく頭なでられていたな。
兄上に褒められたと思って、嬉しかったのに……)
アルバスはショックだったが、顔を上げ自分を奮い立たせる。
(しかしこれは大きな収穫だ……兄上、いや、あんたの好き勝手にはさせないから)
初登場
巨乳で料理好き:リーノ(18)
アイル姉で回復魔法:レイル(18)
レイル弟で攻撃魔法:アイル(16)
登場人物
商人ギルドマスター:ロウフ
第三王子:ストリ・ヴァルディア
第一王子:カルロ・ヴァルディア




