第三十四話 禁忌の儀式と、消える魂
「確かに……この顔は魔法使いのセグロだ」
城に着くなり、アルバスの部屋に通され、早速ラヴェンの正体を確認する。
「俺こいつきらーい」
「僕も、苦手でしたね……魔法力の高さを鼻にかけていましたし」
「そうそう、ストリ様に魔力で負けて悔しそうな顔がウケた」
同席した魔法剣士のシュバと、弓兵のシコウが嫌悪感丸出しで呟く。
「しかしこの間ラヴェンを見たとき、セグロと同一人物だとは気がつかなかったなぁ」
「でも考えてみれば、騎士を辞めたのは二年ほど前……ストリ様が歩けなくなる前でしたね」
そう言いながらシュバとシコウは当時のことを思い出していく。
「確かコルヴァンに【聖】の称号を与えられたのが納得いかないとか、そんな理由じゃなかったっけ?」
「そうですね、元からコルヴァン先輩をライバル視していましたから……まあ、魔力以外は全てにおいて先輩の方が上ですけどねっ」
「こらシコウ、騎士に……王族と国民を守る使命に上下はないだろう」
「あっ、す、すみません」
「だが今は騎士じゃないとはいえ、国民を脅かす行為……崩落事故を起こすなんてあるまじき行為だ」
愚痴るシコウをたしなめるコルヴァンだが、ラヴェンへの怒りは計り知れない。
その怒気を含んだ声に、トキアスは神妙な顔つきで頷く。
「コルヴァンの言う通りだ……アルバス様、時に国王は今どちらに? 証拠が集まり次第ご報告した方が良いかと」
「うむ……父上に事故のことは通信魔法で伝えてあるが、場所が遠いためあと三、四日はかかるそうだ」
「それは、タイミングが悪い……」
「だが地下労働場が再建されるまでは、滞在するそうだ」
「なるほど……また旅立たれる前に、証拠を集めて国王に報告したいところです」
その呟きに、これからの方向性を改めて確認する。
「ラヴェンと兄上のつながりはわかったが、証拠がないな」
「今はラヴェン単独の映像しかないですから……。
あと、神選会の教祖についても、もう少し調べる必要があるでしょう」
「トキアス殿のいう通りですね。
俺としてはもう一度レンカク様が、教祖に復帰される方がいいと思いますね」
ロウフの意見に関しては全員深く頷く。
そしてアルバスがコルヴァンに質問する。
「それで装身魔法のことはわかったのか?」
「はい、さすが羽澄です、すぐ言い当てましたし、証拠もあっという間でした。
知識があり機転もきく、今日の立ち回りなんて凄くて……」
「あのっ、そんなに褒めなくて、大丈夫だから」
「えー、私もわかったんだけどー、水ぶっかけたのは私なんですけどー」
「ああ、し、失礼しました」
「……とりあえず魔法の有無を教えてくれ」
羽澄を褒めすぎるコルヴァンと拗ねるミロルはいいとして。
羽澄が気を取り直して装身魔法の正体を説明する。
「……と言うわけです」
「なるほど、けしょう、と言う技術なのか」
「はい、魔力は使いませんし道具とその技術さえあれば、セグロからラヴェンになるように別人にすることも可能です」
「ふむ……」
「あれだけ顔を変えられるってことは、かなりのプロだと思うわ」
アルバスが少し考えたあと、騎士二人に指示する。
「シュバ、シコウ……これから他言できない話をする、悪いがこの部屋の警備をお願いしたい」
「はい、おまかせください」
「承知しました」
二人がドアから出たあと、アルバスは話を進める前に釘を刺す。
「これから話すことは他言無用、絶対に……騎士仲間にも話すなよ? コルヴァン」
「……わかりました、絶対しゃべりません」
コルヴァンは、他言を心配される心当たりはあるため、口をキュッと結んで気まずいのを誤魔化す。
「今の段階でこの世界に存在しない魔法……ではなく技術が二つある。
一つは羽澄先生の治療、もう一つはジュンタの化粧」
「この世界?」
「ロウフ、ピンと来ないか?」
「はい……ちょっと俺はよくわかんないんですが」
「私は……ファルケ国で、別の世界に行く魔法の話を聞いたことがあります」
トキアスが発した国に、ミロルはぴくりと肩を揺らしてしまう。
(……ダメね、未だに反応しちゃうなんて。
それに私の魔法の話をしているんだから、もう少ししっかりしないと。)
ミロルは少し落ち込むが、その様子に気づいていないアルバスは深く言葉を続ける。
「ミロルさんはその魔法を使っているんですよね?」
「……はい、おっしゃる通りです」
冷静を装って頷くミロルに、アルバスは書物の内容を思い出しながら話す。
「それは別世界転移魔法という珍しい魔法で、百年に一人しか使えないと言われている」
「え、私の魔法……そんなに珍しい魔法だったんですか」
「ああ、謎多い魔法でも有り、今も研究中だ。
つまり今この魔法を使えるのは、ミロルさんだけだ」
(ママの魔法がそんな貴重だったとは……まあ異世界をつなげるからすごい魔法ではあるんだけど)
毎日使っているせいで、羽澄はそのすごさを忘れていた。
「じゃあ、魔法ではないとすると、ジュンさんはどうやってこちらの世界に来ているのでしょう」
ミロルは素朴な疑問を呟く、そしてアルバスは眉間に皺を寄せて答える。
「それは、もう一つ、方法が……あるにはあるんだが」
「それはなんでしょう」
「……」
「急にアルバス様の歯切れが悪くなりましたね、やはり魔法ですか?」
ロウフの質問に対して、アルバスは首を振り口を開いた。
「いや……禁忌の儀式、異界の魂召喚だ」
「えっ」
――シンッ……と、音が聞こえるようだった。
アルバスの言葉に、部屋の空気が凍る。
(魂……?)
羽澄は嫌な予感がし、胸がざわつく。
自分の動揺を落ち着かせるように、アルバスは努めてゆっくり、だけどはっきりと話を続けた。
「おそらく……ジュンタは別の世界で亡くなり、その魂を無理やり召喚されている」
「……」
「っ、酷い」
「ミロルさんの魔法以外だと、これしか方法がないんだ」
静かな部屋で、カルロとラヴェンの残酷な仕打ちがどんどん明らかになっていく。
(これ言うの、きついな……だけどちゃんと知っておかないといけない)
アルバスは自分を奮い立たせて、話を続けた。
「魂は召喚され、体を与えられ、三年生きることができる」
「三年経つと、どうなるんですか?」
「……徐々に記憶を忘れていき、体も魂も全てが消える……だから禁忌の儀式なんだ」
「そんな……酷すぎます!」
「コルヴァンの言う通り哀れだが……今はレンカク殿を追い出した偽教祖でもある」
冷静に、だけど辛そうに言うアルバスの言葉に全員息を呑む。
「証拠がそろい次第、現教祖に罪を突きつけるつもりだ」
「でも! ……これじゃあジュンタさんも被害者じゃないですかっ」
「なんとか……できないんでしょうか」
心強いアルバスの決心だが、羽澄は素直に同意することは出来なかった。
声を荒らげていたコルヴァンも、心配そうに羽澄を見つめる。
「羽澄……」
「ジュンタさんが加害者なのはわかります、だけど……魂が消えるって、たぶん……絶対良くないですよね?」
「……」
「魂が消えた人のことを忘れてしまう……この世に存在しなかったことになる、ですよね」
言いづらそうなアルバスに変わり、冷静な声でトキアスが答える。
「それは……家族の、記憶にも……残らないということですか」
「……そうだ、最初から――いなかったことになる」
「なんて、儀式を……カルロ様はっ」
コルヴァンの声が再度怒りに震える。
「俺は聞いたことがあります、今の神選会は金に厳しいが、教祖は優しいと……。
生まれつき顔にあざがあった子に、無償であざが消える粉を寄付していると聞いてます」
「……アルバス様、何か助ける方法は……」
羽澄が縋るようにアルバスを見つめた。
「方法はある、そのために罪を突きつける」
「え?」
「本人が成仏したい、と願えばいい……。
ただ、教祖としての名声、そもそも洗脳されていたら難しい……二年だと、自分が死んでいることも忘れているかもしれない」
「確かに……」
「ただ、死んでいたことを思い出させて、彼らの罪を暴き……そのあと、選ばせればいい」
「生きて罪を償い消えていくか、自分の記憶が残っている間に成仏するか」
ぱっと瞳を輝かせる羽澄にその場が和む、無理やり召喚されたとはいえ、ジュンタは敵だ。
「お人よしだな」
アルバスは優しく笑いながら呟くと、羽澄は唇を尖らせ「なんとでもいってください」と拗ね……真面目な顔になっていった。
「神選会はどうあれ、ジュンタさんが行った優しさを忘れてしまうなんて――なかったことにするなんてっ、ジュンタさん自身も、優しさを受けた人も、可哀想です」
話し合いが終わり、馬車乗り場に到着した五人。
「なんか、やることが増えたような気がする……」
「しかも帰還した国王が滞在している間に、終わらせないといけない」
「制限時間もあるとか、シビアだわ」
三人で雑談しながら帰る支度をする羽澄たち、またもフードを被り馬車に乗り込もうとした時。
「あ、羽澄君とコルヴァンはこっちね」
と、ロウフが手招きする。
「結局、聖癒布の材料渡せてないから」
「ああ、崩落事故でバタバタしてましたしね」
「そう、荷物大きいから一人分スペースを開けておきたいんだけど……」
「それならミロルさんは私の馬車に乗るといいだろう」
今度はトキアスが声をかけた。
「そうしてくれると助かります、ついでにミロルさんには話したけど、二人にも話さないといけないことがあるんだよね」
「そういえば、二人に共有するの忘れてました」
「だよねー、あの状況じゃしょうがないよ。
じゃあ馬車の中で話すよ」
こうしてロウフの馬車に羽澄とコルヴァン、トキアスの馬車にミロルが乗ることになったのだが。
「おか、えり」
この後先に聖骨院に着いていたミロルは、明らかに顔色が悪く声は掠れ、指先が震えている。
「ママ?」
「……」
愛する娘が呼ぶ声に、必死に笑おうとしているのに――その瞳だけは笑っていなかった。
登場人物
第二王子:ヴァルディア・アルバス
大富豪:ハルビア・トキアス
神選会の元教祖:チャルボ・レンカク
商人ギルドマスター:ロウフ
魔法剣士:カグー・シュバ
弓兵:チョウ・シコウ
神選会(元騎士):ラヴェン(セグロ)(名前のみ)
第一王子:ヴァルディア・カルロ(名前のみ)
現教祖:ジュンタ(名前のみ)




