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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第一章 聖骨院開業編 〜偽りの王子〜

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第三十二話 偽りの神選会と、存在しない魔法

 淡い光が教会を満たし、誰もが息を呑んだ。

 一時的に入ってきたテリクスも含めて、光は全員を包み込み、その場の空気を塗り替えた。

 徐々に収まるその光の中心にいたレンカクは、ゆっくりと目を開く。


「よし、洗脳されたものは誰もいないようですな」


 レンカクの言葉に全員ホッとしたような息を吐く、そしてテリクスは見張りに戻り、コルヴァンが結界を張る。

 より守られた状態に、沈黙はすぐ解け、ロウフが疑問を口にした。


「失礼を承知で申し上げますが、レンカク殿本人は、洗脳されているって可能性はないんですか?」


 確かにその可能性はぬぐいきれない。

 ロウフの質問に対して答えたのはレンカクではなく、アルバスだった。


「その可能性はない、レンカク殿が使った魔法は大魔法の一つ、魂視魔法。

 一日一回、状態や嘘、洗脳や呪いを見抜くことができる」

「初めて聞く魔法ですね」


 コルヴァンが素直な疑問を口にすると、アルバスは饒舌に説明した。


「大魔法の中でも、ほとんど知られていない魔法だ。

 状態異常や洗脳、呪い……そういったものにかかっていると使えない」

「なるほど……」

「逆に言えば、一度もそういった状態になっていなければ、回数制限はない」

「それって……」

「ああ。レンカク殿が今まで一度も嘘も裏切りもしていない証明になる」


 アルバスの発言に、レンカクは驚きの声と同時に厳しい指摘をする。


「よく、ご存知ですね……それを知られると、悪意ある邪魔をする者がいるので口にしたことないのですが」

「あっ!」

「今のところこの魔法、一日何回でも使えるので」


 レンカクの指摘に思わず口を塞ぐアルバス、質問した手前きまずそうなコルヴァン。

 そして聞いてしまったロウフはというと、ニヤリと笑い答える。


「俺は大丈夫ですよ、そんな利用できそうなもの、制限されるのは勿体無いですから」

「私も、そんなことをするつもりはないです」


 トキアスも賛同すると、アルバスとコルヴァンはホッとする……がっ。


「まあ、今回はいいでしょう……しかしアルバス様のその口の軽さはいただけません」

「はい、すみません」

「昨日はあんなに頼もしかったのに、もっとしっかりしてください」

「気をつけます……」


 アルバスが落ち込んだところで、情報共有を開始する。


「ではわしから話すぞ、皆はジュンタという男は知っておりますか?」


 レンカクから質問され、皆きょとんとした顔をする。


「ああ、当然……神選会の現教祖だな?」

「レンカク様のお孫さんでしたっけ?

 もう歳だからって心配して移住してくれたという」


 アルバスとコルヴァンの言葉にトキアスもロウフも頷くが。


「わし、孫は女の子しかいません、それにまだ八歳です」


 言われてその場がシン、と静かになる。

 確かにジュンタは男性でどう見ても二十歳を過ぎているからだ、


「わしが教祖交代した理由を、なんと聞いておりますか?」

「……世代交代で孫に快く譲ったと……」


 今度はロウフが恐る恐る発言した。


「知らん奴に譲るわけがありません、全くのでたらめです」


 まさかの話に全員何も言えず、レンカクが真実を話し始めた。


「ある日、男が二人神選会に入信してきました。

 片方の男、ジュンタは奇跡と呼ばれる装身魔法を使い、神選会の幹部たちを美しく変身させました」

「装身魔法?」

「はい、まるで別人のように……しかし自然に顔を代える魔法です」

「……」


 アルバスが何か思い出すように黙り込むが、レンカクはそのまま話を続ける。


「そこからジュンタが教祖になるまであっという間でした、加えてジュンタと一緒に来た男は幹部を二人洗脳し……わしは円満交代という形で追い出されたのです」


 洗脳と聞いてコルヴァンが反応し、おそるおそる質問した。


「その、洗脳した男とは……ラヴェン、ですか?」

「そうだ、トキアス様から聞いたが、どうやら色々引っかき回しているようですな」

「……そう、ですね」

「……教祖交代も、ジュンタよりラヴェンが先導しておりましたし……全く、けしからんっ」



 忌々しく呟くコルヴァンとレンカクの怒声の中、アルバスはパッと顔を上げて宣言した。


「装身魔法と言う魔法はないぞ」

「はい?」

「城の書物は全ての魔法を網羅している、が、その魔法はどこにもなかったぞ」


 その言葉にコルヴァン以外が不思議そうな顔をし口を閉ざす。

 静まりかえった教会内で、コルヴァンが説明に入る。


「アルバス様は十四歳の頃に書物庫の書物を全て読み終わり、今も記憶されています」

「!! ……それはまことですか?」

「ああ、本当だ」

「いやいや、本気で言っています?」

「大真面目だ」


 まさかの発言に半信半疑なレンカクとロウフが聞き返しても、真剣な表情は崩さずアルバスが答える。

 そしてトキアスはというと……。


「国王のおっしゃっていたことは……本当のことだったんですね」

「国王が?」


 トキアスの言葉は、アルバスにとって聞いたことない話だった。


「ええ、商売人で有り富豪として、国王と世間話をすることもあります。

 その時に自慢されたんですよ、第二王子が全ての書物を覚える自慢の息子だと」

「父上が……」

「ああ、その後は『書物の内容は忘れてしまったようだ』と寂しそうにいっておられていましたが……」

「っ……」


 その言葉に心が締め付けられ、そして少しの怒りがわいてくる。


「……俺は、兄上を尊敬するよう……そして自分がダメな人間だと思うよう、兄本人に洗脳されていた」

「なっ」

「カルロ様が……」

「兄上は強制崇拝魔法で洗脳する事が出来る、人数制限や魔力の強さなど条件はあるが……俺がずっと洗脳されていたのだから、その恐ろしさはわかるだろう」

「確かに……」

「そのような魔法が……ふむ」


 驚くレンカクと何かを考え始めるロウフに、ラヴェンがからむ被害を説明する。

ストリの足が故意に壊されたこと、護衛騎士であるコルヴァン含めた五人を退職に追いやったこと。

 そしてトキアスも、フォルンが洗脳されたこと、自分が命を狙われたことを報告する。


「今回の崩落事故もおそらく、フォルンを口封じするために、ラヴェンが起こしたのではないかと推測されます」

「事故が起きた理由は、もう一つあります」


 今度はロウフが手を上げて、話し始めた。


「さっきの話を聞いて確信しました、この事故はトキアス様、レンカク殿、そして俺を陥れる為の事故だったと」

「なんだと? 詳しく教えてくれ」


 ただならぬ発言にアルバスは前のめりに質問する。

 その様子を冷静に見つつ、ロウフは話を続けた。


「はい……これはトキアス様、レンカク殿もおそらくそうだと思うのですが……俺はカルロ様の王位継承……反対しています」

「!!」


 ロウフの発言に驚くアルバス……しかしトキアスは頷き。


「ああ、その通りだ」


 そしてレンカクもまっすぐロウフを見て。


「わしも、カルロ様には信用おけなくてなぁ」


 と答えた。


「自分で言うのもなんですが、ギルドの中でも権力は持っている方なんですよ。

 トキアス様は大富豪として、神選会教祖のレンカク様に至っては国王の信頼も厚い」

「まあ、昔なじみですからな」

「この三人から支持を得られないと、他の権力者・貴族からの推薦、そして国王から指名を貰うのは難しい」

「確かに……」


 アルバスは頷くものの、そこから導き出される答えに、嫌な予感しかしない。


「兄上の魔法は、洗脳するには相手が魔力を持っていて、かつ洗脳者より魔力が弱いことが条件となっている」

「でしたらなおさら、俺とトキアス様は魔力を持っていない」

「わしは若造に負けん魔力を持っておりますから」

「つまり操れなかったから、はめようとした……?」


 ロウフはゆっくりと頷いた。


「……実は、カルロ様の推薦を断ってから、一瞬ギルドの参加店数が減ったことがあったのです」

「そんな事が……知りませんでした」


 驚きの声を上げるコルヴァンに、ロウフは続ける。


「初めて聖癒布の相談されたときに、悪い噂の話をしたでしょう……それがカルロ様と神選会が繋がっていると噂を耳にしていたんです」

「そういえば……そのことだったんですね」

「ああ、結局ギルドに参加した方が得だと、戻ってきた店主から『支持された』と聞いたんです」


 ロウフの話に違和感はなく、聞き入ってしまう。


「そして、レンカク殿は教祖を交代させられ、トキアス様は命を狙われる……」

「確かに断った後ですな」

「そして崩落事故現場の責任者は俺とトキアス様共同、そこにレンカク様がいの一番に現れる。

こんな偶然が、幾つも重なりますか?」

「私は財産まで狙われていました、もしかしたら王位継承者として貴族や権力者への根回しする資金が得られると考えたのかもしれません」


 ロウフの推理にトキアスも自分の推測を付け加える。

 レンカクも腕を組んで呆れた。


「自分の王位継承のために、守るべき国民を犠牲にするなど、あってはならない……。

 アルバス様はどうお思いですか?」

「俺は……兄上にも何か事情があったのでしょう」


 そう呟いた後、大きく息を吸って叫んだ。


「んなわけあるかーっ! 事情なんてあるかーっ。

崩落事故起こされた、労働者の気持ちも考えろっ!

 大量のけが人がいるんだぞっ……ていうのが、俺の意見だ」

「俺も同じ考えですが、いきなり叫ばれると耳が痛いです」

「怒りはごもっとですが、もう少し控えて貰えると助かります」


 コルヴァンとロウフが耳を押さえて訴える。


「……すまん、叫ばないと、正直やってられない」

「まあ、ほどほどに」

「わかるよ、私も叫び出したい気分だ」


 そんな中、トキアスがしゃべり出した。


「私はラヴェンがフォルンやストリ様、そして崩落事故に関わっている映像を持っている。

 しかし、ここにカルロ様が関わっている証明にはならない、だからもう少し調査をするつもりだ」


 トキアスの言葉に反応したのはレンカクだった。


「トキアス様、その映像でラヴェンを追い込むには足りないかもしれません」

「なんですと?」

「ラヴェンは本名ではなく、その本名も謎のまま、今の顔は装身魔法で作られた顔です。

 元の顔と今のラヴェンが同一人物だと証明できない限り、本当の姿になって罪を逃れることができるでしょう」

「……くそっ、しっぽをつかめたと思ったのにっ」


 今まで冷静だったトキアスが声を荒らげる、フォルンを洗脳されてから、トキアスの心は乱れっぱなしだった。


「装身魔法……そんな魔法、本来ないんですよね?」

「ああ、ない」


 コルヴァンがそう聞くと、アルバスは深く頷く。


「と言うことは、魔力は使わないと言うことでしょうか」

「ジュンタは魔力を持っていますが、確かに装身魔法で魔力使っていなかった、のか?」


 レンカクはそう呟き、どういう風に魔法をかけられているか思い出した。


「ジュンタは人の顔に水麦の粉を塗っていましたな、彼が使うと塗られた側の肌が白く澄んでいました」

「ほう、その粉で顔を代えると?」

「いや、粉だけでなく、赤やオレンジ、ピンク色の粘土質のものや、黒い棒状の墨のようなものも使っておりました」


 その言葉にコルヴァンは少し悩み、全員に告げた。


「羽澄なら知っているかもしれません」

「羽澄君か?」

「ええ、彼女の治療も、魔法は使われてないんです」

「! ……なんと」

「あの素晴らしい治療が、魔法無しか!」


 トキアスとレンカクが驚きをあげるほど、羽澄の技術は素晴らしかった。


「もしかしたら……」


(羽澄もそうだけど、ジュンタという名前も、聞いたことのない響きというか……)


 一つの可能性を胸に、コルヴァンは全員に提案した。


「……その魔法について、少し聖骨院に預けてくれませんか。

 もし俺の思った通りなら……羽澄なら、その魔法の謎が解けるはずです」


初登場

現教祖:ジュンタ(名前のみ)

登場人物

第二王子:ヴァルディア・アルバス

大富豪:ハルビア・トキアス

神選会の元教祖:チャルボ・レンカク

商人ギルドマスター:ロウフ

剣士:サーン・テリクス

第一王子:ヴァルディア・カルロ(名前のみ)

神選会(詳細不明):ラヴェン(名前のみ)

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