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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第一章 聖骨院開業編 〜偽りの王子〜

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第二十九話 救えないと言われた命

「法力が尽きたものは、大部屋で手当に当たれ。

 大部屋で法力が残っている者がいたら、こっちに回すよう伝えろ」


 宿泊所に響く力強い指示にみんな従い、羽澄も手際よく治療していく。


――ゴキッ


「くっ」

「回復魔法を!」


――パァ


「どう、ですか?」

「……痛く、ない、腕が回せるっ」

「良かった、お大事にしてください……それでは次は」


 素早く丁寧に……そして優しく治療していく羽澄。


――コキッ


「っ」

「回復!」

「はいっ」

「あとは、傷ついているところに回復魔法をかけるだけです、お願いしても大丈夫ですか?」

「はいっ、どうぞ次の治療へ」


 この場に羽澄の指示に従わないものは、もういない。

 誰もが彼女の腕を認め、そして尊敬すらしている。


「ふぅ、だいぶ落ち着きました」


 気がつけば、この宿泊施設に重症の人間はもういない。


「みなさん、お疲れさまでした」

「素晴らしい対応だ」


――パチパチ


 アルバスの言葉に自然と、羽澄を称える拍手がわき起こる。


「あ、ありがとう、ございます。

 皆さんが手伝ってくれたおかげです」


 はにかみながら礼を言う姿は、普通の少女だ。


(……こんな顔もするのか)


「アルバス様、大部屋の様子を見に行きましょう」

「あ、ああ、そうだな」


(全く関係ないこと考えていた……)


 何故か気恥ずかしい気分になったアルバスは、ごまかすように大部屋の方へと様子を見に行った。



――パチパチパチ


「あはー、ありがとう、ありがとう

 みんなもお疲れ様―」


 大広間では羽澄と同じように、ミロルを称える拍手がわき起こっていた。

 ミロルは嬉しそうに両手を組んで顔の横で振っている。


「あ、羽澄ちゃん! 手当おわったわ」

「私も、落ち着いたよ」


 再生布と羽澄の治療のおかげで、何人かは法力を残したまま宿泊所の対応は終わった。


(兄上のいうとおり六人で足りそうだが……全てはこの二人のおかげだ。

 魔法にかかったままの俺だったら、さすが兄上! とか思っていたかもしれない……)


 そう思うと、カルロの魔法が恐ろしく思えた。


「治療師たち、法力が残っている内の二名は残り、他は崩落現場に行くぞ」

「はいっ」


 アルバスの指示に、全員迷いなく返事をし、まだ助けるべき人がいる場所へ向かうのであった。



「レンカク殿、そちらの様子はいかがですか?」

「おお、アルバス様……上半身は確認できたのですが……」


 瓦礫の方を見てみると、確かに人の姿が見えたが……。


「っ」

「ひ、ひどい」


 そこにはうつぶせで、見えているところは血だらけ……そして下半身が埋まっている女性の姿。


「助けてくれ、どうか、彼女をっ」


 トキアスが地面に両膝をついて、泥だらけなのを気にする様子もなく祈る。


「フォルン、さん……」

「ああ、やはり、彼女だった……」


 待機していたコルヴァンが近づき、羽澄の呟きに反応する。


「だが上半身はましな方だ、意識がある内は自分自身に回復魔法をかけていたようだな」

「でも、下半身は……」

「ああ、それに腹部も岩につぶされている」

「……」


 羽澄はそれ以上声に出せなかった。


「トキアス様……」

「ああ、フォルンを……助けてくれっ」


 ミロルは縋るように祈るトキアスに駆け寄るが、名前を呼ぶことしか出来ない。


「宿泊施設の方は治療が終わったので、法力がある者を連れてきた」

「終わった? 応援の治療師が大勢来たのですか?」

「いや、六名のみ……神選会からは、来なかった」

「そうですか……六人!? たった六人で、もう治療が終わったと?」

「ああ、そうだ」

「法力が残っている治療師もいると?」

「ああ……聖骨院をやっている、彼女たちのおかげだ」


 そういうアルバスが見つめる方を見ると。


(あれはこの前にコルヴァンと一緒におった……とても治療出来るようには見えないが……)


 疑うものの、アルバスが嘘をついているようにも、今この場で嘘をつく必要もない。


「彼女に、何が出来るというんですか」

「奇跡だ」

「奇跡?」

「ああ、俺は彼女が起こした奇跡を、この目で見た」


 よどみないアルバスの視線が羽澄から離れない。

 と、会話が途切れた丁度その時。


――ガラガラガラ


「よし、出したぞ!!」

「誰か担架! まだ息があるっ」


 意識はなく、苦しそうな呼吸で生きていることが分かる状態。

 足はつぶれ血だらけ、腹部は外傷なさそうに見えるが。


「かはっ」


 口から血を吐く……その姿に羽澄は。


「呼吸が浅いし、血を吐いている……肺か内臓に損傷があるっ」


 そう呟いた。


 現場で応急処置として、回復魔法を一斉にかける。


「外傷は足が最も酷いですが、腹部を重点的にかけてください……かなり危険な状態ですっ」


 宿泊所からきた治療師は、全員羽澄の指示通り動く。

 その様子はレンカクにとって異様であり、アルバスの言葉に説得力を持たせた。


(この女は、本当に治療出来るのか?)


 そんな疑問がわき上がる、なぜなら助け出された女性の怪我は、とても助けられるような状態じゃない。


「その女は助からん……酷だが、魔法はストップしろ。

 口から血を吐いている時点で、魔法ではなおらない」


 絶望的な宣言だとは分かっていたが、無駄な法力を使わせるわけにはいかない。

 レンカクの言葉に、回復魔法が中断された。


「昔から、この状態になると、魔法も効かないと……」

「いえ、確かにかなり厳しいですが、全て完全に治る可能性は低いですが……生きる可能性は、あります」


 反論したのは、羽澄だった。

 レンカクは驚き彼女を見ると、その目の光は、確かに諦めていない。

 その力強い声に反応したのは一人の男。


「……羽澄君、頼めるか」


 フォルンに駆け寄っていたトキアスが、縋るように羽澄へ助けを求める。


「はい、もちろんです」

「なっ」


 その言葉に、中断していた回復魔法が再開された。


「助けたい気持ちは同じだ。しかし、この状態で魔法を続ければ、他の者が救えなくなる!」

「レンカク殿、ここは一旦引いてくれ」


 真剣な表情でアルバスは言う。


「羽澄、フォルンをっ……くっ、たのむ」

「はいっ」


 加えて必死なトキアスと、真剣な瞳で患者を見つめる羽澄。

 こんな状況でレンカクも何も言えない。


「もう一つ、頼みがある」


 トキアスはそう言って、羽澄に手を差し出した。

 そこには青い宝石……過去を映す魔道具、それをじっと見つめる羽澄。


「……わかりました」


 その宝石を受け取り深呼吸をする。

 事情を知っている人間以外はきょとんとした顔をしているが、羽澄にはわかる。

 一つの宝石に一つの映像しか記録できず、その一つがとても高い。

 それでも惜しみなく宝石を託すトキアスの気持ちを、無下に出来るわけがなかった。


(フォルンさんが事故に巻き込まれた瞬間を……)


 青い宝石を握りしめて、宝石を持っていない右手で回復魔法をかけられているフォルンの足に触れる。


「っ」


(よし)


 魔法をかけた瞬間がわかるようになった羽澄は、思わず心の中で歓喜の声を上げる。


――ぐにゃあ


 目の前が歪み、過去の映像が現れる。

 場所は地下の洞窟。

 そこにはフォルンと対峙しているラヴェンの姿が見える。

 フォルンの眼差しは、愛する人を見つけた視線ではなかった。


「フォルン、会いたかったよ」


 甘い声を出し、にやにやと笑うラヴェンに、返事をせずにらみ続けるフォルン。


「……どうして、王子のことを、トキアスに言わなかったんだい?」


 ラヴェンがわざわざここまで来たのは、その質問をするためだろう。


「これ以上……トキアス様を危険な目に遭わせるわけには、いかないっ」


(フォルンさん……)


 その力強い言葉の裏には、トキアスを大切に思う感情が隠れていた。


「そのトキアスを裏切って、複数の男と関係を持っていた娼婦が何をいう」

「……」

「また俺に従う、従順な女に戻ればいい」

「嫌よ、私はあんたを好きな理由、忘れちゃったもの」

「そうか……じゃあ、死ね」


――ドンッ


 ラヴェンが手をかざした瞬間、フォルンのすぐ上の天井が爆発する。


――ガラガラ


「俺への愛が壊れた女なんて、いらない」

「……あんたが来なければ、ずっとトキアス様の側で、恩返しをっ……」


 フォルンの叫び声は瓦礫とともに消えていく……そしてラヴェンは積み上がった瓦礫の山を見て。


「あの魔法剣士の男が洗脳されていたら、俺がわざわざここまで来なくてもよかったのに」


 けだるそうに呟くと。


――バーン


――ドカーン


 ラヴェンはフードを被り、洞窟を複数爆破させながら、洞窟を出て行った。


――ブツッ



 目の前が途切れたように真っ暗になり、そして倒れているフォルンが目の前に現れる。

 瓦礫が崩れる音が、まだ耳に残っている。


「なんて……酷い」


 羽澄は呟き手を引っ込めた、フォルンの気持ちが分かり、なおさら心が乱される。


「トキアス様……」

「羽澄君、見えたんだね」

「はい……今見るなら、馬車の中で、お一人で見た方がよろしいかと」


 そういって、羽澄は宝石を渡す。

 羽澄の言葉に、トキアスは真剣な表情で伝える。


「わかった……フォルンのことを、頼むっ」

「はい、任せてください」



 応急処置代わりの回復魔法がかけ終わり、表面上の怪我は治っている。

 本番はここからだった。


「アルバス様は睡眠魔法。

 ママは回復、コルヴァンは透視」

「ああ」

「羽澄ちゃん、まかせてっ」

「すみません羽澄先生、救助で法力を使い切ってしまいました」

「俺が生命共振魔法を使ってもいいが、治療が長引いたときの保証が出来ないな……」

「わかりました……どなたか、電気魔法を使える方……」


(まだ信じられない……が、この二人が言うなら……)


「わしは法力を分けることが出来る、その青年に授けよう」


 発言したのはレンカクだった、疑っているものの、トキアスが羽澄に治療を依頼したのなら反対は出来ない。


「それならとても助かります!」

「ただし条件がある」

「条件……患者が不利になることじゃなければ、おっしゃってください」

「その治療を、この場でわしにも見せてくれ」

「わかりました」

「可能であれば、俺にも少し分けてくれませんか?」


 結界を使っていたコルヴァンも申し訳なさそうに、レンカクに声をかける。

 羽澄はあっさり条件をのんだ、当然隠すようなものは一つもないからだ。

 羽澄の返事を受け、レンカクはシュバとコルヴァンに法力を渡した。


「では、治療をする四人とレンカク様以外、この部屋には入らないようお願いします」


 これから、フォルンを救う治療が始まる。


登場人物

第二王子:アルバス・ヴァルディア

魔法剣士:カグー・シュバ

大富豪:ハルビア・トキアス

神選会の元教祖:チャルボ・レンカク

大富豪元妻:フォルン

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