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看護師の私、セクハラに疲れて異世界へ ~巨乳アンチの世界で夢の聖骨院開業、骨も人生も整えます~  作者: 橋守 六花


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第三話 巨乳アンチ神父と、最悪な出会い

 羽澄は、屋根裏へ続くはずの階段を上っていた。


(……長くない?)


 一段、また一段。上っても上っても終わらない。

 やがて、木の階段はいつの間にか石造りへと変わり、足音が乾いた音を響かせる。

 気づけばそこは――ろうそくの灯りが揺れる、見知らぬ廊下だった。


(……これ、もう屋根裏じゃないよね)


「もうちょっとで着くわよー」


 前を歩くミロルは、いつも通りののほほんとした声で言う。

 その背中を見ながら、羽澄はようやく実感し始めていた。


(ああ、これ……本当に異世界かも)


 やがて重厚な鉄の扉が見えてくる。見たこともない紋章が刻まれていた。


「先に一つだけ、大事なことを言っておくわね」


 ミロルが振り返る。


「この世界は――巨乳アンチなの」

「……初めて聞く言葉だ」

「私も今作ったわ」


 軽い口調なのに、内容はまったく軽くない。


「この世界、結構男女差別が激しくてね。男は金があれば何歳でも結婚できる。でも女は二十歳を過ぎたら行き遅れ扱い。若い妻は基本は家政婦よ」

「うわ、何それ……」

「で、巨乳はもっとダメ」

「なんで」

「『大きくてみっともない』『動きが鈍い』『不調が多そう』って理由で嫌われるの……巨乳ってだけで婚約破棄されることもあるんだから」

「……最悪じゃん」


 思わず本音が漏れる。

 ミロルは肩をすくめた。


「まあ、貴族とかは別だけどね。若いヒモと結婚するバリキャリもいるし。

 それ以外の普通の人はそんな感じ」


 羽澄は少しだけ考え――


(でも)


 ふっと口元を緩める。


(あのセクハラ地獄よりマシかも)


「まあ、いいでしょう」

「そういうってことは、信じる気になった?」

「屋根裏がこんなに広いわけないからね、信じるしかないでしょ」


 羽澄の言葉に、ミロルは満足そうに笑った。


「この扉の先が、これから羽澄ちゃんがお世話になる場所よ、とその前に」

「ん?」

「国の外に一人で出てはいけません、こっちの世界には魔物がたくさんいるので。

 写真でも見せたと思うけど」

「え、ええ、まもの……そっか、あれ魔物か」


 まさに異世界っぽいワードに、実感が湧かない表情の羽澄。


「あれよ、凶暴なクマやライオンがそこら辺にいると思えば、わかりやすいかな」

「わかりやすいし、絶対外に出ないって誓うわ」


 怯えたような羽澄の顔に、ミロルは満足するように頷く。


「じゃ、開けるわ」


 ミロルの手で、扉が軋む音を立てて開く。

 中は物置のようだったが、その先へ進むと――


「ここが教会」


 小さく古びた教会が姿を現した。

 くすんだ赤い絨毯、修繕された長椅子、塗装の剥げた女神像。

 だが、ステンドグラスから差し込む光だけは、やけに綺麗だった。


「古い教会なんだけど――」

「古くてすみませんね」


 低い声が割り込む。

 振り向くと、入口に一人の男が立っていた。

 黒髪、長身、無骨な体つき。

 そして――露骨に機嫌が悪そうな顔。


「歴史を感じる教会って言おうとしたのよ、コルヴァン神父」

「フォローはいりませんよ、ミロルさん」

「しかしちゃんと掃除が行き届いていますね、ステンドグラスの光も曇り無く綺麗ですし」


 ミロルのフォローよりも本心とわかるような声で羽澄は呟いた。


「よく見てますね、ありがとうございます」


 感情が感じられない声でそう言いながら、彼は足を引きずって歩いてくる。

 その視線が、羽澄を捉え――

 露骨に、眉をひそめた。


(あ、嫌われたなこれ)


 だが、不思議と嫌な感じはしない。


(だいたい男の人はヤラシイ目で見るから、全然、イイネ!)


「……その女性が?」

「そう、私の娘の羽澄よ」

「はぁー」


 明らかに不快そうな声。

 そして、上から下までじろりと見て――ため息。


「……動きづらそうですね」

「は?」

「仕事ができるようには見えません」


 初対面の自己紹介でこれである。


「そんなに大きいのが嫌いですか」

「それはそうです、邪魔だろうしなにより……昔、似たような女に、負けたんですよ」


(女に騙された的な?)


 苦々しい言葉、それ以上は何も言わないし羽澄も聞くことはない。

 そしてミロルは苦笑い。だが――羽澄は、にやりと笑った。


「つまり、仕事さえできれば文句ないってことですね?」

「……できればね」

「いいですね、その評価。嫌いじゃないです」


(見てろ、やってやるよ)


 闘志がふつふつと湧いてくる。


「鷹野 羽澄です、ちゃんと仕事はしますので、これからよろしく」

「……ルーメン・コルヴァンです」


 不機嫌なのはそのままに、どこか戸惑ったように名乗る神父。


「まあいいでしょう、ミロルさんからどこまで話聞いてますか?」

「何も聞いてません」

「は?」

「だって何も言ってないものー」

「はあ!?」


 コルヴァンの眉間に深いしわが刻まれる。


「まあまあ、そんなに大きな声を出さないで……その足、治せばいいんですよね?」

「さすが私の娘、察しがいいわー」


 得意げに笑う羽澄と、娘の成長に喜ぶミロル。

 コルヴァンはこの二人が不安で仕方がなかった。


「この世界の回復魔法は“傷”しか治せないの。骨がズレてても、そのまま固まっちゃうのよねー」

「なるほど」


 頷きながら頭の中に状況をまとめていく羽澄。


「俺も回復は使えるので、毎日使っていたんだが……今回復魔法を使っても、うまく歩けなくなった」

「事情はわかりました、まずは足を見てみましょう」


 羽澄は腕をまくった。


「……」


 コルヴァンは疑うように羽澄を一瞥したが。


「まあ、騙されたと思って、座って、座って」


 ミロルがにこにこしながら補足する。

 コルヴァンがため息をついてから。静かにベンチに座る。


「じゃ、靴脱がせますねー、ママ、濡れタオル持って来れる?」

「任せてー、コルヴァンさん、洗面所とタオルお借りしますよー」

「あ、はい」


 引きずっていた足の靴を脱がせ、その状態を見た瞬間、羽澄の表情が変わった。


(うわ、ひど)


 無理に使い続けたせいで、足のくるぶしの形自体が変形している。

 上半身も足のせいで歪んでいるのがわかる。


「これでよく立ててましたね」

「……回復魔法のおかげです」

「逆に悪化してますけどね」


 そんな指摘にコルヴァンはますます不機嫌になりそっぽを向いている。

 羽澄の指摘はごもっともだが、嫌いな奴に言われて素直になれない態度だ。


(ああ、上から見ているから、嫌いなおっぱいが見えるのね)


 羽澄の服装は家にいたため、Tシャツにジーパンという格好で、わざとじゃないにしろ谷間が少し見える。

 こんな嫌がる態度を取られれば、嫌どころかやりやすいと思う。


「それじゃ、体も見ますねー、診察としていろいろ質問もしますので答えてください」

「あぁ、わかった」


 これなら必然的に体がくっついても、変な気は起こさないだろうと気が楽だ。

 淡々と言いながら、背後に回る。


「まず喫煙……この世界ってタバコあるの?」

「あるわよー」

「じゃあ、タバコ吸ってますか?」

「吸わない」

「お酒は?」

「好きだが最近は飲んでいない」


 いろいろ質問しながら手は動かす。

 腰、背中、肩――バランスを確認。


――むにゅ


(……ん?)


 羽澄が背中から鎖骨あたりに手を回した時、コルヴァンの後頭部に、柔らかいものが当たる。


(クッション? …にしては柔らかすぎるか?)


――もにゅん


(妙に心地いいな……温かみがあり、とても落ち着く)


 その柔らかさは感じたことのないものだが、安心するし全身包み込まれたいとさえ感じる。

 まさか羽澄の胸だと想像もしないだろう。


「はい、終わり」


 離れると同時に、その感触も消える。

 少し名残惜しさを感じつつ、意識を戻した。


「全身酷いですねー、よく生活できましたね」

「まあ回復魔法と俺の忍耐力がすごいからだな」

「褒めてないですよー」


 感心と呆れが混じった羽澄、少し考えてから言葉を発した。


「ねぇ、ママ」

「ん?」


 濡れタオルを持ってきたミロルに、羽澄はそれを受け取りながらたずねる。


「回復魔法は傷が治せるんだよね?」

「そうよー」

「内部の炎症も治せる?」

「ズレたまま骨をくっつけられるから、炎症だってちょちょいのちょいよ」


 思った通りの回答に、羽澄はニヤリと笑う。


「コルヴァンさん、足を拭きながら説明します」


 そう言って足元にしゃがむと、またコルヴァンが不快な顔をする。


(この世界の巨乳アンチは相当だな)


 そう思いながら足を触ると、羽澄の視界がぐにゃりと歪んだ。


(え?)


 そう思うと同時に、脳裏に二人の男女が現れる。

 男の後ろに自分がいるような、そんな不思議な映像。

 場所は外で、周りにある木の数から森だと推測される。

 男は太ももにナイフが刺さり、倒れており、それを女が見下して何か喋っていた。

 音も声も聞こえない、映像だけが流れ込んでいる。

 女の姿は霞んではっきり見えない。


 ただ、気付いたのは、倒れている男が――コルヴァンだと言うこと。


(……違う)


 これはただの幻にしては、生々しすぎる。

 自分の意思ではなく、見せられている……そんな感覚。


(この怪我が、訴えかけているよう……)


 よく見てみれば、今よりも少し若く、体つきもしっかりしている。

 すると見下していた女が、コルヴァンに近づき、そして――。


――ぐしゃり、と、聞こえた気がした。


 女がコルヴァンの足首を踏みつけ、骨が潰れる、嫌な感触。

 音はないはずなのに、確かに“それ”を感じる。


「ひっ」


 思わずコルヴァンの足から手を離し、小さく叫んでいた。


 胸の奥が、わずかにざわついた。

 ――怒りとも、嫌悪ともつかない感情。


 そんな羽澄を、ミロルとコルヴァンが不思議そうに見つめている。


「羽澄ちゃん? どうしたの?」

「あ、いや……」


 ミロルの言葉に戸惑う、なんとなく今見たことを言うのは違う気がした。


(コルヴァンさんは、思い出したくもない過去だろうし)


「コルヴァンさんの足臭い?」

「へ?」

「……すまん」


 どうやら二人とも誤解しているらしく、コルヴァンに関しては申し訳なさそうにしている。

 そんな彼に。


「あー、いやー……大丈夫、です」


 と、ふんわりとした言葉しか、言うことができなかった。



「コホン」


 気を取り直すように咳払いをし、説明を再開する。


「えー、まず、コルヴァンさんは足の骨折を長年放っておいたので、潰れたままの状態で形が変形しています」


(足首が、潰れて、治して、そのまま……)


 羽澄は映像を思い出し、表情を歪ませる。

 しかし、コルヴァンは気づかず、煽るように口を開いた。


「……それは治らないという言い訳か」

「逆ですね、私なら治せます」


 コルヴァンの挑発に一瞬で答える羽澄、今度はミロルに指示をする。


「私が骨のずれを治したら、魔法をかけて炎症を治して、あとアキレス腱のところにもかけてみて」

「おっけーい」


 そう言いながらかざすミロルの手が淡く光る。


「本物の魔法、なんだ……」

「本物よー」


 感心しながらコルヴァンの足を持ち、自分の腹部で支えて準備をする。


「足、戻しますね……痛みます、耐えてください」

「わかった」

「いきます」


 次の瞬間。


――ゴキッ


 骨が正しい位置に収まる音。


「っ……!」


 鋭い痛み。だがすぐに――じんわりと温かい光が包む。

 痛みが消え、代わりに軽さが広がっていく。

 まるで、長年の重りが外れたように。


「……なんだ、これ」


 思わず呟く、足の形も元に戻り、とても怪我したようには見えない。


「立ってみてください」


 言われるまま立ち上がる。

 一歩。


(軽い)


 二歩。


(痛くない)


 三歩。


(嘘みたいに、自然に動く)


「……」


 コルヴァンは無言で足を見つめる。

 そして――


「……痛く、ない」


 ぽつりとこぼした。

 その言葉に、羽澄はにっと笑う。


「でしょ? でも、まだ体はガタガタだし、足ももう一度確認するから――はい、座ってー」


 ミロルも嬉しそうに笑っている。

 こうして――

 巨乳アンチの世界での最初の仕事は、見事成功したのだった。


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