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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第一章 聖骨院開業編 〜偽りの王子〜

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第二十七話 愛か、それとも洗脳か

 重苦しい空気が部屋を満たす中、アルバスは一度大きく息を吐いた。


「……とりあえず、情報は出揃ったな」


 その言葉に、誰もすぐには返事をしなかった。

 それぞれが今聞いた内容を整理しているのだ。

 やがて、口を開いたのは羽澄だった。


「まず……私とアルバス様の魔法についてですが」

「ああ、それは――」

「他言無用、ですよね」


 アルバスの言葉を先回りするように、羽澄がはっきりと言い切る。

 その目は、いつになく真剣だった。


「その通りだ……特に兄上には漏らしてはならない」


 冷静な声だが、アルバスの表情は硬い。


「俺は正直まだ信じられない……だけど、兄上への尊敬は前ほどないのも気づいている。

 だから、俺は兄上を疑う」


 迷いのない答えだった。


「承知しました」


 羽澄はアルバスの言葉に、力強く応える。


「……ありがとう」


 アルバスは短く答えたあと、ふっと小さく笑う。


「なんかさ、急に王族っぽくない? 俺」

「王族なんですよ、あなたは」


 即座に返すコルヴァンに、わずかに空気が和らぐ。


「では王子様、もう少しお話ししていいですか?」

「もちろんだよ、羽澄シスター」


 少しおどけたように呼び合い、そしてすぐ真剣な話に戻る。


「ストリ様の怪我について……ラヴェンが怪我をさせた張本人ですから、治っていると知ればまた狙われるかもしれません」

「それは大いにありえる、また危険な目にあわせるわけにはいかない」


 心配するアルバスに、羽澄はとある提案をする。


「それなら、ストリ様を避難させてはどうでしょう」

「……避難か」

「はい、城の敷地内では隠し通しながらリハビリは難しいでしょう」

「確かにな」


 羽澄の提案に、今度はコルヴァンが声を上げる。


「それなら俺の教会はどうでしょう、修繕して、宿泊用の部屋も使えるようになっています」

「聖骨院もあるし、コルヴァンがいれば、護衛という意味でも最適だしな」

「聖骨院は……責任重大ですね」


 苦笑しながらも、その目はしっかりと前を向いていた。


「任せてもいいか? コルヴァン、羽澄先生」

「もちろんです」

「私も、もちろん大丈夫です」


 即答だった。

 その様子に、アルバスは満足そうに頷く。


「よし、決まりだ」


 そして――。


「俺は王位継承者を目指そうと思う」


 その宣言に部屋にいた全員が息を飲んだ。


「俺、天才だし」

「一気に不安になりました」

「俺も……頼もしいと思えたのは一瞬だけでした」

「コルヴァンもロガモも涙拭けよ」

「勝手に泣かすな、シュバ」


 どうもまじめな宣言は苦手らしいアルバスだが、その決心は瞳の力づよさを見ればわかる。


「兄上が何を企んでいるのかわからないし、ラヴェンがストリにしたことを、知っているのかもわからないが。

 ……俺は本当にっ、尊敬して、たんだ……俺は、兄上みたいになりたかったんだ!」


 最後の方は、怒りが露わになる。

 その声は信じていたものが崩れて、どうしたらいいのかわからないようにも見える。


「だから、今までしなかった努力をしてみようと思う。このままじゃ、兄上が王位継承しても、絶対納得できない!」

「ご立派です、アルバス様」

「俺たちも、できる限りご協力します!」


 ロガモとシュバもアルバスの決意に、寄り添うことを強く誓う。


「それなら、協力者を増やしては……」


 おもむろに羽澄が呟き、コルヴァンを見る。


「ラヴェンの件もあるし、あの方に話しておいた方がいいな」

「行きの馬車で言ってた宝石を託した者か」

「そうです、交えて話した方がいいかと」


 アルバスは羽澄の言葉に頷く。


「今から行くか……幸い俺は暇だから、これから時間空いてるしね」


 自虐しながらも前向きな言葉に、羽澄はコルヴァンと頷き言った。


「それでは会いに行きましょう、トキアス様のところへ」

「トキアス殿か、その宝石の持ち主は」

「はい……あ、その前に、仕立屋に寄ってくださいね」

「えー、残念」

「……」


 ぬかりない羽澄の言葉に、トキアスとコルヴァンががっかりしたのは言うまでもない。



 午後四時、トキアスはきっと仕事中だろう。居場所がわからないため一旦ギルド連合会館へ行くこととなった。

 ロウフがいれば何か知っているかもしれないと思ったからだ。


「会合という名の飲みがあるかもしれないしな」


 アルバス、羽澄、コルヴァン、シュバの四人で向かうと、違和感があった。


「やけに騒がしいな」


 アルバスの言う通り、人が集まり何か準備しているようだった。

 羽澄たちの耳に、怒鳴り声が聞こえてくる。


「馬車を用意しろ!」

「急げっ、回復魔法使えるやつ集めろ!!

 神選会にも連絡をっ」

「ロウフさん、私、使えます」

「ああ、ミロルさん、頼むっ」

「ママ!」

「羽澄ちゃんっ、丁度いいところに」


 聖癒布の材料調達していたはずのミロルが、慌てて駆け寄ってくる、彼女の顔が真っ青になっていた。


「羽澄君、コルヴァン、どうか助けてくれっ!」

「トキアス様!!」


 自分の殺害計画を知った時も冷静な大富豪のトキアスが、信じられないくらい取り乱している。


「この馬車も使え! 俺も回復魔法が使える……あと城にも報告を!」


 何が起きたのかまだ把握できていないが、アルバスは気づけば声を出していた。


「落ち着け! 何があったんだ!!」

「アルバス様! どうして……」


 商人ギルドマスターのロウフが慌てて駆け寄る。


「いいから、何があった?」

「ち、地下労働場で、崩落事故がっ。

 労働者が数人、閉じ込められているんですっ」



 城の馬車にトキアスを乗せる。

 そして羽澄が隣に座り、励ますように声をかけた。


「トキアス様、気を確かに……」

「――ああ、大丈夫だ」


 向かいにコルヴァンとアルバスが座る。


(やっぱり命を狙われても、フォルンさんのこと、心配なんだ……)


 夫殺害未遂の罪を償うために地下労働場に送られた、トキアスの元妻フォルン。

 閉じ込められている女性は、彼女の可能性が高い。


(どうか助かってほしい……)


 ふと、思い詰めたようなトキアスの声が聞こえた。


「地下労働場に、ラヴェンらしき男の目撃情報があったそうだ……」

「!?」

「口封じ、かもしれん」


 馬車内がシンッと、静まり返る。


(ラヴェンは殺害計画の共犯者……いや、首謀者かも、しれないっ。

 そして、フォルンさんは利用された、だけなのかも……)


 いち早く顔を上げたのは羽澄だった。


「アルバス様、トキアス様に先程の件、お伝えしてもよろしいですか?」

「ああ……頼む」

「? 何のことだ?」

「トキアス様……ストリ様が二年前歩けなくなりました。

 ……その原因にラヴェンが関わっている可能性があります」

「え?」

「しかも城に出入りしているらしく、俺の護衛騎士が対面しているらしい」

「それは、本当、なのか?」

「はい」

「……」


 驚き信じられないと言ったように「まさか…そんな」と首を振りながらトキアスは呟く。

 そんな彼に、羽澄はもう一つ言わないといけないことがある。


「アルバス様、トキアス様に【強制崇拝魔法】のことをお伝えしても?

 おそらく、トキアス様はその被害に遭われています」

「……なるほど、いいだろう」

「強制、崇拝魔法?」

「トキアス様、落ち着いて聞いてください。

 断言はできませんが…フォルンさんは魔法をかけられていた可能性があります。

 ……ラヴェンを強制的に愛するように」


 その言葉が、馬車内の空気を冷たくした。


登場人物

第二王子:アルバス・ヴァルディア

槍騎士:ホージ・ロガモ

魔法剣士:カグー・シュバ

商人ギルドマスター:ロウフ

大富豪:ハルビア・トキアス

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