第二十六話 メイドを愛する弟と、支配を愛する兄 前編
長くなったので分けました、20時10分に後編あげます。
日が変わり今日の午後は、羽澄とコルヴァンが城の書物庫に行くことになっている。
そしてミロルはと言うと。
「いやあ、急にすまないね」
「いえいえ、午後は休みにする予定だったので、ちょうどよかったです」
昼に訪ねてきたのはアルバスではなくロウフの馬車だった。
「夕方に材料が集まるし、相談もあったから是非ともギルド連合会に来てほしくてね」
「治療を受けたいので労働をしたいって言う人を紹介していただけるんですよね?」
「そうそう、まあ、相談はそれじゃないんだけど」
そう言うとロウフはニヤリと笑い、ミロルが何か察する。
「なんか、相談聞くのが怖くなったわ」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと双方にメリットがある話だから。
代わりといっちゃあなんだけど、責任持ってミロルさんも荷物も、聖骨院まで送り届けるよ」
「まあ、そういうことなら、よろしくお願いします……手土産がないので、サンプルで余った再生布で、いります?」
「……そんないい手土産もらうと、相談しづらくなりそうだ」
閉店の看板を出して、お互い牽制しつつも、ミロルはロウフの馬車でギルド連合会館へ向かった。
「そろそろ休診日作ろうか」
コルヴァンと二人になって羽澄がぼそりと呟く、今まで突っ走ってきたが、休みが無いと何かと不便ではある。
「確かに、今は何か用事があるたびに休みを入れている状態だしな」
「ギルドや聖癒布作りもあるから、また三人で考えて……」
――ヒヒーン
二人が話していると、馬の声と馬車の音。
どうやらアルバスの馬車が到着したらしい。
「お待たせしました」
「今日はロガモがお目付役か」
コルヴァンが笑ってそういうが、ロガモはあまり笑えない。
「今日は予定があったからマシな方だ」
そう言った後、羽澄の方を向き。
「先生、先に謝っておきます、申し訳ございません」
「へ?」
と、ロガモが頭を下げてきた。
「……アルバス様、何か企んでいるな」
コルヴァンが呟くと、にこにこ笑顔のアルバスが馬車から出てくる。
「いやあ、お待たせしてすまない。
先日は本当にありがとう、ストリには警備をつけて療養しながら、あるく練習をしているよ。
聖癒布もありがたく使わせてもらっているが……あれはすごいな」
聖癒布を褒められて、羽澄とコルヴァンは口元が緩む。
「時期に売り出し予定です、ご興味があれば私たちが商人ギルドまでお問い合わせください」
と宣伝をする。
「うむ、ではそれも含めて一昨日の治療、言い値を払おう」
その言葉に羽澄はコルヴァンを見て、その視線にコルヴァンも頷く。
「治療費ですが……金貨二枚となります」
と答えた。
「……それは安すぎないか? あんな大きな治療、金貨二十枚でも足りないくらいだと思うのだが」
「いいんです、あの治療は皆さんで力を合わせた結果です。
書物庫も見せていただけますし、私たちは金貨二枚でいいので、手伝ってくださった騎士の皆さんに、褒美を渡してあげてください」
「……そうか、ありがとう」
「あと、聖癒布の宣伝もよろしくお願い致します」
「はは、ちゃっかりしている」
思わぬ気遣いに、アルバスは礼を言って頭を下げ、金貨を二枚渡した。
そしてもう一つ、アルバスには羽澄にお願いがあった。
「治療前に見せてくれた、過去の映像があるだろう、それをロガモに見せることは可能か?」
「はい、大丈夫ですよ」
羽澄は頷くと、宝石を取り出してロガモに見せた。
「……っ、なんて、酷い……」
ロガモが呟くが実際酷い映像だ、見なくていいならそれに越したことはない。
「……わかりました、見せてくださってありがとうございます」
「よし……とりあえず城に向かうか」
映像を見終わったロガモが神妙な顔になっている中、アルバスの言葉でやっと本題に入る。
「ではこの馬車に乗ってくれ」
言われて二人とも馬車に乗るものの。
「楽しみだなー」
先ほどとは違い、アルバスのウキウキ具合に羽澄は引き気味で、コルヴァンはいやな予感がしてしょうがなかった。
「……なんですか? ここは」
羽澄はアルバスに問いかける。
古い木箱に法衣が収められ、銀糸の刺繍が並ぶ店内。
王族の紋章入りマントと、修道女の簡素なヴェールが同じ棚に掛かっている。
「ここは宮廷御用達の仕立て屋だよ」
「……言い方を間違えました、なぜここに来たんですか?」
「それは城に入るにはそれなりの格好が必要だからだ」
まっすぐお城に向かっているかと思えば、まさかの仕立屋だ。
しかもすでに準備できているのか、アルバスが店の人から木の箱を受け取っている。
「ここは城の給仕服も仕立てて貰っている、確認したらちょうどいいサイズのものが、借りられると分かったからな。
城で目立たないようこの服を着るといい」
もうこの段階でいやな予感はしていたが、渡された箱を開け服を広げてみるとそれはメイド服。
……ただ、胸の部分が大きくあいている。
「……ていうか、なんでサイズがわかるんですか?」
「見ればだいたいわかる」
「……この話はなかったことに、治療代も計算し直しますので……」
「いやいや、やましい服では決してないよ? メイドはみんなこの服を着ているのだし」
「普通のメイド服はここまで胸元は開いていませんよ」
冷静にコルヴァンが訂正をする、舌打ちしつつもアルバスはまだ諦めていないようで。
「でも目立たないようにすることは大事だと思うんだ、不穏な動きもあるし」
「それならメイド服じゃなくても……」
「やだ、俺が見たい」
「……結局アルバス様の願望じゃないですか」
呆れた声になるコルヴァンだったが、アルバスはさらに続けた。
「だって見たいでしょ、絶対似合うから! コルヴァンも見たくない? 素直になりなよ」
まるで誘惑するようにそんな事を言う、しかしコルヴァンから出た言葉はアルバスの期待とは違った。
「俺は……」
少し躊躇し、顔を赤らめながら呟いた。
「修道院服が、いいのではないかと」
その言葉に一同、静かになる。
「いえ、確かに白衣だと目立ちます、それなら俺が司祭服ですから、シスターが一緒に歩いていても自然じゃないかと」
「つまり、自分とおそろいがいい、ということか」
「ま、ま、まさか、そんなつもりじゃ……不自然か自然かの話をしているだけで」
「なるほど、さすがコルヴァン、名案ね」
コルヴァンの本心をついたアルバスだが、羽澄は感心したように賛同する。
「この仕立屋は修道服も用意があるはずです」
後ろからロガモがにやにやしながらフォローを入れる。
真っ赤になるコルヴァンと悔しそうなアルバス。
そして羽澄は、迷いなく修道服を手に取った。
修道服を着た羽澄はご機嫌で店から出る。
普通の服よりシルエットが緩やかで、胸が目立たないところが気に入ったらしい。
「いいね、修道服」
「羽澄でもシスターに見えるな」
「でも、とは失礼な」
頬を膨らませる羽澄を優しい微笑みで見つめるコルヴァン。
そして。
「……これはこれで、ありだ」
と、緩やかな服であっても、どうしても膨らんでしまう胸の部分を見て、アルバスは一人頷く。
「……そろそろ行きません? お城に」
そう呟きながら、ロガモは一人、馬車の前に立っていた。
馬車に乗ると、アルバスはおもむろに命じる。
「コルヴァン、結界を」
「はっ」
――シュン
見えない何かが馬車を包む。
「この結界があれば、盗聴や外に声が漏れることはない」
「ああ、少し話がしたくてな……ロガモ」
「はっ」
さっきまでのふざけた雰囲気は消え、徐にロガモが話出す。
「一昨日、俺は盗聴魔法をつけられ、先に城へ帰りました。
そしてアルバス様たちが帰られる前に、神選会の人が城に招かれていたのです」
「……それって、もしかして……」
「先程、見せていただいた映像に映っていた……顔がいい方の男」
「ラヴェン!?」
「……多分そうだな」
ロガモの言葉に反応する羽澄とコルヴァン、そしてアルバスは冷静に二人に問いかけた。
「城に着く前に教えて欲しい、このラヴェンとは何者だ?
二人は何故この男を知っている?」
「それは……」
「あと、何故あの映像を持っているのかも知りたい」
アルバスの質問に羽澄とコルヴァンは困ったように顔を見合わせた。
映像についてはこれから書物庫に向かうため、羽澄のことを相談するのは自然な流れだろう。
(だけど、フォルンさんの話は……トキアス様抜きでは話せないよね)
かなり込み入った、トキアスが絡む事情だ。
本人の許可なしで話すことははばかれる、しかし一昨日の映像は紛れもない新たな情報。
トキアスも欲しい映像だろう。
(アルバス様が信用できないわけではないけど、すぐに答えることは難しいな……)
そう考えた羽澄は素直に伝えることにした。
「ラヴェンを知った経緯については、あの宝石を私に託した方に関係しています。
その方を抜きにして話すことはできません。
ただ、ラヴェンに関していえば、お互い協力できるかと思います」
「なるほど……」
「羽澄の言う通りです。
アルバス様、ここは一旦、我々に預からせてください」
「わかった、お願いしよう」
「ありがとうございます」
礼をいうコルヴァンと深く頷くアルバスに胸を撫で下ろし、羽澄は意を決して口を開く。
「そして映像の入手方法ですが、おそらく私の魔法です……それを調べに書庫を見せていただきたかったのです」
「魔法鑑定が難しいから、か?」
「はい、別の国の許可がいるんですよね?」
「その通りだ……わかった、それなら快く迎えよう」
そして馬車は城に向かって走っていくのだった。
初めて見る城に羽澄は言葉を失う。
国の中心にそびえる城は、街すべてを見下ろすように築かれていた。
たくさんの石を積み上げられた城壁だけで、その威厳が感じられる。
入城を制限するような鉄の扉がゆっくり開く、アルバスが乗っている紋章付きの馬車は、当然拒まれることはなく吸い込まれていく。
「今更、緊張してきた」
「まあ、そうだろうな……でも実際住んでいるのはアルバス様だから、そんなに気を張ることはないって」
「随分な言い草だな、コルヴァン」
「羽澄の緊張をほぐすためのジョークです」
「そんなジョークを言えるのは、コルヴァンさんくらいだって」
ひっそりロガモがツッコミを入れている間にも、敷地内を走る馬車。
立派に聳え立つ城の周りには、小屋や質素な作りの家がいくつか建っている。
「あそこが使用人が住む家だ、ストリは実の母親と一緒に住んでいる」
「なるほど」
「テリクス以外の三人も、あそこで暮らしています」
説明を聞いていると馬車は止まり、城の中へと案内される。
(わあ、すごい……)
初めてお城という建物に入る羽澄は、一人ソワソワと周りを見渡してしまう。
城の中は圧巻で、天井は高く大広間や会議室を横目に見つつ、迷うことなく進むアルバスに着いて行く。
(私、一人にされたら迷う自信あるわ)
一人苦笑していると、アルバスが一つの部屋で立ち止まった。
「ここが書物庫だ」
そう言って部屋に入ると。
「わあ……すごい、本」
「いつ見ても圧巻ですね」
たくさんの棚に、整然と並ぶ本たち。
「この本の中から、探すんですか……」
羽澄がそう呟くと、アルバスはくすりと笑って、書庫を迷うことなく歩いて行く。
「先ほど言っていた先生の魔法については、この本にかいてある」
本を迷うことなく手に取った、羽澄はもちろんコルヴァンもその様子にぽかんとする。
そんな二人に苦笑して。
「詳しく話すから、場所を変えよう」
と、何故か書物庫の外に連れ出すアルバス、首を傾げながらも書物庫を出る、と。
「アルバス、客人か?」
低く重い声がアルバスを呼び捨てにしている、呼ばれた本人は深々と頭を下げ、コルヴァンも彼に続く。
そんな様子を見た羽澄は、大慌てで二人の真似をして頭を下げた。
「ごきげんよう、兄上」
「ご無沙汰しております、カルロ殿下」
二人の発言で相手がこの国の第一王子だと瞬時に理解する羽澄。
まさかの出会いに何を言えばいいのか、頭が真っ白になる。
確かに顔つきは似ているが、カルロは瞳も髪の毛も黒色で短く、さっぱりとした髪型だ。
「おお、誰かと思えばコルヴァンか、久しいな。神父姿も板についてきたな」
「ありがとうございます、こちらは教会のシスターの羽澄です」
「は、初めまして、殿下」
なんとか絞り出した一言が精一杯だ、しかしカルロは優しく微笑み。
「そんなに緊張しないで」
と、優しく声をかけた。
「兄上は仕事熱心で、王位継承者と名高いんだ」
「俺を褒めても何も出ないぞ。
アルバスも、あまり人に迷惑かけないようにな……自分ができることを無理せず、一生懸命やりなさい」
仲のいい兄弟の会話、しかし羽澄はどこか違和感を感じた。
(感情のない瞳……まるでできの悪い子供に言い聞かせるような……)
自信に満ち溢れている兄、カルロの言葉。
弟であるアルバスは、複雑そうな瞳でカルロに告げた
「兄上の、いう通りだ……」
アルバスのその言葉に、満足そうに微笑むカルロ。
「アルバス様、そろそろ……」
ふと、ロガモが助け舟を出すようにアルバスに囁く。
「ああ、引き止めてすまなかった。
羽澄さんもアルバスと仲良くしてやって、あ、でも身の危険を感じたら、すぐ逃げてね……まあ、コルヴァンがいるから大丈夫だと思うけど」
そういいながら手を振り、城の奥に消えていった。
「アルバス様……」
「え、やだなぁ、俺がそんな事すると思う?」
「少なくとも、実の兄にそう思われていることは分かりました」
羽澄の冷たい回答に、アルバスはいつもの笑顔で「ノーコメントで」とだけ答えた。
初登場
第一王子:カルロ・ヴァルディア(アルバス、ストリの兄)
登場人物
商人ギルドマスター:ロウフ
第二王子:アルバス・ヴァルディア(メイド大好き)
槍騎士:ホージ・ロガモ(クール、ツッコミ役)
魔法剣士:カグー・シュバ(明るい性格で、ボケがち)




