第二十五話 奇跡の治療とちょっと危険な密着指導
高かった太陽は傾き、オレンジ色になりかけている。
この国で一番高い位置にある立派な教会から、一人の男が外に出ていた。
「なんだ、この魔力は……?」
どこからか感じる、無防備な魔力。
平民は気にもとめないその魔力に、男は眉をしかめた。
「この方向は……最近出来た、聖骨院か?」
(アルバスが通っているという聖骨院……か。
この魔力を保持しているなら価値が高い、やはりこちら側に勧誘……断るなら――)
こうして男……羽澄たちにラヴェンと呼ばれている男は、教会ではなく、街の中に消えていった。
治療が終わり羽澄が顔を上げると、傾いたオレンジ色の日が、聖骨院の窓から差し込む。
夕日の眩しさにストリが目を開けると、羽澄の笑顔が飛び込んできた。
「がんばりましたね、ストリ様」
そう声をかけられ周りを見ると、疲労の色が見えるものの、みんな嬉しそうに微笑んでいる。
「……先生」
「はい」
震えるストリの声に、羽澄はしっかりと返事をする。
「僕の、足は……」
「……立って見ましょうか」
「っ、は、はいっ」
ずっと後ろから支えていたアルバスが横に立ち、ストリは兄に縋りながら、固定された足でしっかりと立った。
「ストリ様、痛みはありますか?」
「……ない、ですっ」
「では、足は治りましたよ」
「ほ、ほんとう、ですかっ」
「ストリ、良かった、ストリっ」
優しい笑顔とその言葉に、ストリは顔を真っ赤にして、涙をこらえるのに精一杯だった。
少し時間は遡り、ストリが目を覚ます前のこと。
治療が終わり、聖癒布と補助具をつけ終わる。
「はー、つかれたわー」
ミロルの抜けた声を皮切りに、みんな地面へとへたり込む。治療にあたった者たちは、みんなへとへとだった、アルバスも例外ではない。
「なんだったんだ……あれは」
ストリを支えつつ、自分の必死な行動に理解が追いつかない。
「約束、覚えていますか?」
ふと羽澄が呟く。
「約束?」
「城の書物庫に、入れてくれるという約束です」
「ああ……もちろん、覚えているさ」
「忘れていましたね、アルバス様」
「言うな、コルヴァン」
さすがに知った仲のコルヴァンをごまかすことは出来ず、鋭い突っ込みに笑いつつ、羽澄は言葉を続けた。
「私はとある理由で魔法について調べたいと思っています、アルバス様も一緒に調べてみませんか?」
「ふむ……」
「それまでは、今日あったことは誰にも言わない方がいいでしょう、ストリ様の足のことも」
羽澄の提案にアルバスは頷く。
確かに何かの魔法と考えられるし、そうでなくても魔力に関することなら、書物に記載がある可能性も高い。
「分かった、明後日の午後は空いているがどうだろう」
「はい、大丈夫です」
「それでは明後日、迎えにこよう……書物庫デートだな」
「あ、コルヴァンさんも一緒に行きましょう」
「もちろん、行きますよ、アルバス様」
「……ちぇー」
こうして明後日の午後、アルバスとコルヴァンとともに、城の書物庫へ調べ物をする事にした。
次の日、通常通り聖骨院をあける。
昨日大変だったが法力は一日ねれば全快するので問題なかった。
「ここが、なんでも治すと、話題になっているところかい?」
杖をついた白髪のおじいさんが、聖骨院にふらりと入ってきた。
「なんでもは治せないですね、怪我で骨に異常がある人の治療をするお店ですよ」
羽澄は屈んで、おじいさんと目線を同じにする。
おじいさんは羽澄を見ると、少し顔をしかめた。
「お主は患者か、その動きにくそうな胸もなくせるのか? ここは」
(かなりキツめな巨乳アンチのおじいさんだな)
「違いますよ、私はここのスタッフです」
「……なんでも治す、という噂はデマか」
あからさまな態度に羽澄は苦笑するしかない。
(まあ巨乳アンチは、この世界の特徴みたいなもんか)
「まあいい、昨日ここで魔力の爆発がなかったか?」
「え、あっ、あー」
おじいさんの質問に、心当たりがありすぎる。
(アルバスが解放した魔力、のことだよね……)
咄嗟のことに羽澄が口籠もっていると。
「ちょっと思い当たる節がありませんね、レンカク様」
困っていた羽澄の後ろからコルヴァンが助け舟を出してくれた。
「おおコルヴァン神父、お主に会いたいと思ってあったのだ。
足が治ったそうだな」
「はいおかげさまで……魔力に関しては、ちょっとわからないですね」
「そうかそうか、いやな、あれだけの魔力があれば、是非わしと一緒に人々を救って欲しいと思ったのだが……」
「お役に立てず申し訳ございません」
「いやいや大丈夫だ、時間取らせてすまない……また今度、神父に会いにくるぞ」
「はい、お待ちしております」
そう言いながら店を後にする。
「彼の方は? ボランティアで人助けてもしているんですか?」
羽澄がコルヴァンにたずねると苦笑して。
「ああ、昔は神選会の教祖だった人でな……」
「えっ!?」
「もう年だからって代替わりしたんだ、あの人が教祖していた頃は平和だったんだけど……。
今は回復仲間を募って人助けをしているとかなんとか……」
「へー、教祖が変わってこんなことになっているんだ」
「まあ、言い方悪いけど、そうだな」
(新しくなった教祖、か……誰か知らないけど、いつか文句言いに行ってやるっ)
会ったこともない教祖に怒りは募る。
(よしっ、今は患者のことを考えないと)
そしてすぐ気持ちを切り替え、また治療に戻るのだった。
今日の仕事が終わり、コルヴァンは顔が赤くなるのを必死に堪えていた。
――むにゅ
「えー、足の治療の時はこうやって背中側から……」
以前話していた胸をくっつけないようにする対策について、羽澄から教わっていたからだ。
――ぷにぷに
「こういう風に抑えると、私が抱え込まなくても……話し聞いてる?」
「はい、聞いておりますです」
「……変な敬語」
(すっごい、柔らかいの当たるんだけど)
嬉しいような恥ずかしいような、もっと別の感情が生まれそうな気がして、正直限界だった。
「ちょっ……」
「ん? 何?」
「俺がやってみようか」
「ああ、そうね、試しにやってみて」
誤魔化すためにそう言うと、羽澄は納得したように自分が患者役になる。
コルヴァンは教えてもらった通り羽澄を背中から支える、胸を押し付けると両手が空き、支えながら回復魔法をかけることが可能そうだった。
「なるほど、足の付け根や腕なら、回復魔法を使いながら支えられるな……足元や膝は魔法かけながらは難しそうだが」
「……」
「羽澄?」
「え? あっ、いや……膝や足元は、ストリ様みたいな治療がない限り、支えなくて大丈夫」
「あ、そうか」
「じ、じゃあ、これから支え、お願いしても、大丈夫かな?」
そう言いながら振り向く羽澄の顔が、少し赤くなっているような気がした。
「あ、ああ、大丈夫だ」
釣られてコルヴァンの顔も赤くなる。
「確かに」
「ん?」
おもむろに口を開いた羽澄は、らしくない照れた顔でしゃべる。
「異性の胸が押し付けられると、照れる、かも」
「あ……」
どうやら羽澄もコルヴァンの逞しい胸を、少し意識してしまったらしい。
「これは、コルヴァンに支えお願いしたほうがよさそうね」
「……だな」
二人は顔を真っ赤にして、俯き。
(……でも、こういうの、悪くないかも)
と、お互い思う。
そしてミロルは部屋の隅でにまにましながらその様子を見ていた。
初登場
神選会の元教祖:チャルボ・レンカク
登場人物
フォルンの恋人?神選会?:ラヴェン
第二王子:アルバス・ヴァルディア
第三王子:ストリ・ヴァルディア
魔法剣士:カグー・シュバ




