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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第一章 聖骨院開業編 〜偽りの王子〜

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第二十四話 厳戒の手術と、王子の覚醒

「皆さん、お待たせして申し訳ありません」

「おかえり、二人とも」


 教会から聖骨院へ移動したコルヴァンは、道具を持って帰ってきた羽澄たちを迎え入れる。


「まずストリ様の怪我ですが、正直治療が難しい状態です」

「そう、ですか」

「だけど、最善は尽くします。 できる限りのことはやります」

「先生……」

「そこで、魔法が使える全員に協力をお願いしたい」


 羽澄が言うと、二人の男が手を挙げた。


「はい、攻撃魔法が得意です、どの魔法ですか?」

「回復系と状態異常は多少使える」


 いつもは明るいシュバとアルバスだ。

 ミロルとコルヴァンも合わせて四人、治療はもちろん羽澄。


「これから行う治療を説明します。

 まずは足を透視魔法で確認し、私が骨を戻します。

 その後回復魔法で固定。

 そしてずれた部分を電気魔法でほぐし、また骨を移動……と繰り返します」

「っ」


 聞くだけでも痛そうな治療に、ストリの体が震える。


「大丈夫です、ストリ様は睡眠魔法で眠っていただきますので、起きた時には治療は終わっていますよ」


 優しい羽澄の声を聞いて、ストリはホッと体の力を抜く。


(あの映像通り、睡眠魔法使えば麻酔がわりになる……自分で気づけなかったのが悔しいけど)


 少し悔しく思うものの、有効な方法だとも思う。

 そして魔法の担当について話し合った。


「私は他の魔法が使えないので、回復魔法を担当します」

「俺は回復魔法以外だと、睡眠魔法しか使えない」


 ミロルとアルバスが先に申告をする。


「それじゃあ、透視魔法はコルヴァンに任せるよ」

「じゃあシュバ、電気魔法を頼む」


 こうして担当が決まると、話を聞いていた二人が声を上げる。


「力になれず申し訳ない、やることがあればなんでも言ってくれ!」

「ありがとうございますテリクスさん、この手術は一刻を争うので両足治療します。

 長期戦になるので食べ物や飲み物を準備していただけますか?」

「あと護衛も欲しいところだ……少なくともアルバス様の動向を探っている人間がいるわけだからな」

「コルヴァンの言う通りだ、それなら俺が護衛をしよう」

「それでは、僕は食料調達をします」

「シコウ、よろしく頼む」


 こうして力を合わせて、ストリの治療を開始することになった。



 ストリをベッドに座らせ、後ろからアルバスが抱きかかえる形で支え、睡眠魔法をかける。

 眠ったのを確認して、改めて全員に伝える。


「この治療は本来、私では出来ない方法です。

 無理やり骨を動かし、その分ストリ様に負担をかけ、回復魔法も通常より多く使います。

 不安かもしれませんが、どうか私に力を貸してください」


 不安を煽るため、ストリにはいえないが、これから治療をするメンバーは、心に留めておかないといけない現実だ。


「わかった」


 アルバスは迷いなく返事をする。

 その決意に頷き、羽澄は現代から持ってきた道具を出し、準備を始める。


「このストラップで腰から下を固定します」


 言いながらテキパキとストリの腰から足を固定していく。

 そして施術保護のサポーター。


「位置を探りながら骨を移動させるので、ある程度足首を固定させます。

 私が欲しい魔法を声かけするので、よろしくお願いします。

 睡眠魔法は切れそうになったらかけ直して、それ以外はストリ様を支えてあげてください」

「わかった……羽澄先生」

「はい」

「ストリを……よろしく頼む」


 いつもセクハラまがいな発言が多いアルバスの、初めてみる真剣な顔。

 羽澄もアルバスに初めて見せる優しい微笑みで返事をする。


「はい、最善を尽くします」



――カキッ


 音と同時に、羽澄が指示をする。


「回復かけて」

「わかったわ」

「透視を」

「ああ」

「……ここにピンポイントで電気」

「はいっ」


――コキッ


(これが、骨の音……)


 アルバスはストリを抱えながら、時間が来たら睡眠魔法をかける。


「ふぅ、左足はあともうちょっと……先が見えてきたわ」


 回復のミロルはもちろん、電気担当シュバも位置の指定に神経がすり減る。

 コルヴァンに関しては羽澄が骨を確認する度に透視を使っている。


――シンッと、空気が引き締まる。


「待って、このままじゃずれる……もっと弱い電気魔法を」

「はいっ」

「……ストップ!」


――ガキッ


「今すぐ、回復魔法」

「任せて」


――パアァ


「……よかった、固定、された」


(先生――羽澄は、すごいな……)


 大粒の汗をかきながら、羽澄はその手で骨の位置を探り、動かす。

 固める回復魔法と、固定された骨を解す電気魔法……この判断を間違えば余計な法力……魔法を使うための力を使うことになる。

 そのためには常に神経を集中させて、考え、そして丁寧に骨を動かす。


「はぁ、左足が、終わりました……」


 羽澄がそういうと一瞬空気が和らぐ、終わった足に半分に切った鎮炎布を張り、固定する補助具をつける。


「アルバス様、治療が終わったら、この聖癒布を説明書と一緒に処方します。

みんな、今のうちに食べ物と水分を取って、ちゃんと休んで」

「羽澄ちゃんも、手をちょうだい」

「え?」

「少しはほぐさないと……素人揉みで申し訳ないけど」

「……ありがとう、ママ」


 娘を気遣う母親の姿に、見張りをしていたテリクスとシコウも口元が緩む。

 そんな中、アルバスが重い口を開く。


「……右足も治療すれば、ストリは歩けるのか?」


 アルバスの言葉は、彼にとっての葛藤でもある。

 信じたい気持ちと、信じられない気持ち……せめぎ合う中で絞り出した質問だ。


「理屈上、歩けます」

「っ」


 はっきりとしない答えに、不安な気持ちは増していく……が。

「治療が終わって、ストリ様が立ち上がることが出来れば、すぐにとは行きませんが歩けるようになります。

 私個人の意見を言えば……絶対に歩けるようになります」


 力強く言ったあと「本当は絶対とか、いってはいけないんですけどね」といたずらっぽく笑う羽澄を、アルバスは信じようと心に決めた。



 一息ついて次に備える、今の足の状態では治療を先延ばしにすると言う選択肢はない。


 だが、アルバスは気がついていた。


(……多分、法力が足りない)


 全員の疲労感を見ただけで分かる。

 しかし、この世界には法力を回復できる食べ物や薬はない。


(回復を代わることはできるけど……)


 回復だけ変わっても、このチーム全員の法力を戻さないとどうにもならない。


「さて、また続きを始めましょう」


 そして再開される治療、アルバスは睡眠魔法をかけて、ストリを支える。


(俺だけ、睡眠魔法をたまにかけるだけ……)


 全員集中してストリの怪我を治しているのに、魔法をかけた後はその様子を見ていることしかできない。


(ああ……)


 アルバスに後悔の念が押し寄せる。


(ストリとコルヴァンの言う通り、もっと真面目に魔法の勉強をすればよかった……)



『僕は使用人の子供ですから、少しでも拾ってくれた国王と、僕を受け入れてくれたアルバス様の手助けになりたいのです』

『こらストリ、俺たち兄弟なんだから、様呼びはおかしいだろ?』

『ですが……』

『敬語もおかしいから、ほら』

『――アルバス、おにぃ、さま』

『うーん、お兄様かぁ』

『もう、これで勘弁してくだ……勘弁してよ、お兄様』

『よし、可愛いから許そう!』


 幼い頃から可哀想な生い立ちと言われ続けたストリ、彼をまともに扱うのはアルバス――それと。


『すごいコルヴァン、透視魔法も使えるのか!』

『コル兄はもう三十個くらい魔法使えるよね?』

『……ストリ様も、法力が高いですから、すごいです』


 城に使える騎士の家系に育ったコルヴァン、両親が亡くなり他人に心を開かなかった彼だが、この二人とは良くしゃべった。


『アルバスお兄様も勉強すれば、魔力も魔法の種類も使えると思うけどなぁ』

『いやぁ、二人には叶わないよ』

『もう少しまじめに取り組んでくだされば、助かるのですが……』



(今更だけど……)


 この状況に、後悔の念がぬぐえない。


――ガクッ


「っ、コルヴァン!」

「だ、大丈夫、まだ、大丈夫」

「ちょっと、休んだ方が」

「大丈夫!」


 シュバの声に刃向かうように、コルヴァンは声を荒げる。


「辛いのは、俺だけじゃない……」


 その言葉通り、全員精神的にも法力的にもぎりぎりだった。


(俺だけ、何も、力になれていない。

 昔から、そうだった……。

 次期国王はきっと兄上で、魔力があるストリは兄上の側近として立派に国を守ってくれる。

 国王になる器でもない、魔力もない、俺なんて……)



――この国は俺に任せろ、アルバスは自由に生きれば良い。


 兄である第一王子のカルロが、アルバスに言い聞かせていた言葉。

 周りからは比べられ、ずっと兄に劣るとささやかれていた。


 アルバスが努力をしなかったのは、全てに諦めていたからだ。

 だけど今は思う。


(みんなの力になりたい……)


 自由に生きるためにも、力が必要だと気づく。


(何もしてこなかった、俺はバカだ)


 今まで考えたこともなかった、諦めていたけれど。


「電気魔法を」

「はいっ……くっ」

「シュバ?」

「すみません! 今すぐ、出しますっ」


 もう法力がないのはシュバ本人がわかっている、だけど絞り出すように手元に集中させる。


(早く、しないと……仲間を、家族を――助ける力が、欲しいっ)


 ぎゅっ、とアルバスが拳を握り……ひたすら願った。

……その瞬間――アルバスの心で、何か弾けたような気がした。



――ブゥン


「!?」

「なんだっ、これは……」


 突然特定の範囲が魔法で包み込まれる、中心で光っているのはアルバスだ。

 彼からはっきり分かるほどの法力を感じる、そして。


「体が、軽く、なった?」

「……法力が、回復している!」

「あっ、私も……」

「俺もです!」


 それはアルバスから溢れる魔力、光に包み込まれ膨大な法力が満ちている。


(なんて圧倒的な……ストリ様よりも強い力だ――)


 何が起こっているのか分からなかったが、コルヴァンは全員に叫んだ。


「今のうちだ、法力が回復している間に……今なら間に合うっ、手術を終わらせるぞ!」

登場人物

第二王子:アルバス・ヴァルディア

第三王子:ストリ・ヴァルディア

剣士:サーン・テリクス(班長)

魔法剣士:カグー・シュバ

弓兵:チョウ・シコウ

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