第二十三話 壊された理由と、守れなかった過去
診察が終わり、三人で教会に入ったあとのこと。
――バタン
「……なんで」
――ガッ
「なんで!!」
「っ、羽澄……」
扉が閉まったとたん、目の前にいたコルヴァンの胸ぐらを掴んだ。
「城の神官なら、回復魔法をかけられるよね?」
「ああ、その通りだ」
「じゃあ、なんで……あの子は、回復魔法がかけられていないままなの!?」
震えた涙声、コルヴァンはその質問に答えなかった。
「なんで……まだ、若いのにっ」
その言葉で、コルヴァンの表情も絶望に染まる。
「治療、できないのか……?」
「今の状態じゃ、患部を切って骨を直接戻さないと、いけないかも」
「っ、そんな、治療方法があるのか……」
「ある、けど私じゃできないし、治しても、また怪我させられるかも……」
「羽澄ちゃん、また何か見えたのね?」
ミロルの言葉に羽澄は「ごめん」と呟き、コルヴァンの胸から手を外す。
「いや、元騎士として、怒りをぶつけられてもしょうがない」
「……でもやっぱり、ごめん」
謝りながら、羽澄はポケットから宝石を取り出した。
トキアスから受け取った、人の思考を録画出来る青い宝石……今は緑色になっている。
「とても、酷い……から、気をつけて」
そう言いながら、宝石をかざす。
「っ……」
「羽澄?」
「ごめん、再生する」
躊躇しながらも録画された映像を流し始めた。
――ポワッ
胸の大きな女性がストリの頭に魔法をかけている。
「……」
「これは睡眠魔法ね」
ミロルが呟く。そして二人の男が鈍器のような物を出し、ストリの足に……。
――バキィ
骨が砕ける鈍い音が、嫌に生々しく響く。
「ひっ」
「くっ」
――バキッ
「いやっ」
ミロルは思わず顔を背けた、それは酷い、暴力だった。
眠らされているストリは全く反応していない。
――パアァ
回復魔法をかけられ、殴られた痕が消える。
ストリをベッドに寝かしたところで宝石から映像が消えた。
「……」
しばらく声が出せなかったが、羽澄は絞り出すように声を出す。
「――今の回復魔法は骨まで届かないように魔法をかけているんだと思う。
……なんで、あの子は、こんなことに……」
とても辛い映像で、本当は忘れたい内容だったが、そういうわけにもいかない。
それに、この映像から分かったことがある。
「足を砕いた男の一人、ラヴェンだった」
「……そうね」
そこにはまさかのつながりがあった、マスクはしていたものの、髪色と瞳は間違いなく、フォルンを唆したラヴェン。
そしてもう一人。
「――ストリ様を眠らせていた女は、俺の怪我の原因だ」
「え!?」
「名前は知らないが……しかも、この映像、城の敷地内だぞ」
「えっ、嘘……」
確かにストリが眠っていたが、国の王子が寝るには、少し貧しい部屋の造りだった。
「これ、城の中?」
「いや、ストリ様は城の中に住んでいない。
離れの使用人が住む地域に家がある」
「使用人? どうしてそんなところに」
「……実は、国民全員知っているのだけど、ストリ様は……国王と使用人の間に出来た、子供なの」
ミロルの発言に、羽澄は言葉を失うしかなかった。
「この男っ、俺とシコウに怪我させた魔法使いだ!」
事情を説明し、羽澄の魔法については伏せて宝石の映像を見せると、テリクスが驚きの声を上げた。
「確かにストリ様が立てなくなった後、立て続けに怪我をしていったが……」
「……」
テリクス以上にアルバスの顔色が悪い、それもそうだろう。
「ストリの足は、難病で、足が変形……して、城の神官、が、そう言って……」
「アルバス様……気を、確かに」
今にも崩れ落ちそうなアルバスを、テリクスが支える。
「なんで、ずっと……気づかなかった」
「……」
アルバスがショックを受けている姿に、支えることしかできないテリクスは歯痒さを感じる。
コルヴァンは素直な疑問を口にした。
「今考えれば確かにおかしい……俺たちが怪我した状況も」
「コルヴァン、どういうことだ?」
「襲われるタイミングがおかしいんだ。
普段団体行動を欠かさなかったのに、なぜかばらばらに行動したとき限って襲われた」
「確かに……俺とシコウの時は、隠密行動だったのに、居場所が敵にバレていたし」
「その、ころだ」
「? アルバス様?」
ショックを受けているアルバスが震える声で絞り出す。
「そのころだ……ストリが後継者になる噂が、立ったのは」
「!!」
「魔力量の測定で、ストリが一番強かった。
足が壊れてから……魔力が落ちたんだ」
「誰かがストリ様を蹴落とそうと……?」
「確かに俺たちは、アルバス様とストリ様の護衛を任されていたから……」
だんだんと話がつながっていく……だが――決定的な証拠は、まだ何一つなかった。
「俺もカルロ兄上もそんな噂は気にしていなかったが……やはりストリを良く思っていない人間は多いから……」
「しかも、この三人のうち一人は、神選会の者で……」
「神選会……ダメだ、今は考えがまとまらん。
それよりストリの治療は、できないのか?」
「それについてなのですが……今、羽澄とミロルさんが、治療に必要な道具を探しに行っています」
現代に戻ってきた羽澄とミロル、とあるところを目指していた。
「楓先生! いらっしゃいますか!?」
「突然すみません、少しよろしいでしょうか」
到着したのは小さな整骨院、ここには幼い頃の羽澄を治療した、師匠と呼べる先生がいた。
「はーい、ここにいるよ。 いくら歳食ったからって、そんな大きな声ださんでも聞こえとるわ」
受付に座っていた年輩の女性、息子に店を譲って今は受付嬢として店に関わっていた。
「すみません先生、少しお時間頂いても?」
「親子で仲良くお茶でも飲みに来たのかい? はー、全く、受付嬢目当てで来る殿方もいるんだから、そう長く席外せないんだがねぇ」
「いねえってそんな趣味のやつ」
「早く受付も引退して若くてかわいい子にかえてくれー」
「うるさいよ! 患者は患者らしくしおらしくしとれっ」
冗談を言い合える常連たちに茶化されながら、ゆっくりと受付から奥の部屋へと通される。
「さてと、そんな切羽詰まった顔してどうした?」
「あ、いや、まぁ、実は道具を貸して欲しくて」
「道具? 誰か治すのかい?」
「はい、あ、いえ、その、緊急の、患者が……」
羽澄が説明するが、全てを見抜くような楓の視線に言葉が詰まる。
「緊急ぅ?」
「は、はい……ダメでしょうか」
「……いいよ、持ってけドロボー」
「あ、ありがとうございます!」
「泥棒扱いはしないでくださいね」
ミロルがうっすらつっこみつつ、必要な道具を借りることができた。
嬉しそうな二人を、何も言わずに見つめる楓の目は、一瞬だけ優しく細められていた。
初登場
羽澄の師匠、憧れ:楓先生(整骨院を引退して、現在受付嬢)
登場人物
第二王子:アルバス・ヴァルディア
第三王子:ストリ・ヴァルディア
剣士:サーン・テリクス(班長)
魔法剣士:カグー・シュバ
弓兵:チョウ・シコウ




