第二十二話 ルバの正体と、異常な状態
ルバが治療を依頼した当日、聖骨院の前には王族の紋章が飾られた馬車が二台。
一台目の馬車からテリクス以外の騎士三人が降り、もう一台のために道を空けるように整列した。
迎えに出ていた聖骨院の三人はその様子をただ見つめている。
そしてより豪華な馬車が開くと、入り口にいたロガモが、誰かを乗せる車椅子を取り出した。
――ギシッ
馬車が一瞬沈み、中からテリクスが出てくる……一人の少年を抱えて。
「お身体は大丈夫ですか?」
テリクスが気遣いながら少年を車椅子に乗せる。
「大丈夫です、いつもお手を煩わせてごめんなさい」
ルバと同じ金髪で青い目をした少年、しかしルバとは正反対な謙虚さを持っている。
テリクスがシコウの隣に並ぶと、馬車の中からもう一人出てきた。
そこには仕立てのいいシャツに紋章が入った真っ白なコート、細身のズボンに革のブーツを履いた、いつもと違う姿のルバがいた。
ルバが車椅子を押して聖骨院の前まで来ると、コルヴァンが一歩前に出てお辞儀をした。
「……お待ちしておりました、アルバス第二王子」
「本日はよろしくお願いします、僕は第三王子、ヴァルディア・ストリと申します」
「私は聖骨院の鷹野羽澄と言います、今日はお越しいただきありがとうございます」
聖骨院の中で、真新しい診察の椅子に座って貰い挨拶をし合う。
ストリの後ろで、ルバ……もとい、アルバスがふてくされている。
「なんで俺が王子だって驚かないんだ」
「不機嫌になっている理由がそれですか」
「いやだってコルヴァン、俺がいきなり王子の姿で現れれば『まさか王子様だったなんて、きゃっ☆』ってなるはずじゃないか?」
「そういわれましても」
「別に王子だからって、何も変わりませんよ……呼び方がアルバス様になるくらいですね」
「面白くない、これじゃあ『診察を丁寧にねっとりさせていただきますっ』って展開にならないじゃん」
「……え、きもちわるっ」
「羽澄ちゃん、一応王子様だから……」
「……ミロルさんって、フォロー下手だよね」
「お前ら、全員失礼だぞ」
聖骨院のコントのようなやりとりに、アルバスがツッコミ終わったところで、ストリがクスクスと笑う。
「お兄様のそんな楽しそうな表情、初めて見ました」
「全然楽しくないけど……」
「ふふっ、素直じゃないですね」
見透かしたようなストリの言葉に、アルバスは少し顔が赤くなったような気がした。
「もう良いから、早く診察してくれ」
ごまかすようなアルバスの声に従い、羽澄はストリと向き合い診察を始めた。
「それでは診察させていただきます、いくつかの質問と、体中触れますが少し我慢してください」
「いいな、ストリ……」
「……アルバス様、つまみ出されたいですか?」
「嘘です、おとなしく見ています」
「えっと、僕は大丈夫ですので、診察お願いします」
こうして始まった診察、羽澄は足ではなく背中から調子を確認していく。
「おいくつですか?」
「十六歳です」
「いつ頃から足が動かなくなりましたか?」
「二年ほど前から……起きたら足が動かなくなっていて」
「……普段どのような治療をされていますか?」
質問も触診も順調だと思われたが、足の診察に入った瞬間。
「毎日、城の神官に回復魔法をかけて貰っています」
(……おかしい、触っただけでわかる、これは――)
「……温かくしたタオルを、患部に当てた上で回復魔法を、かけていますか?」
「はい、そうです、よく分かりましたね」
羽澄の質問に、コルヴァンとミロルが息を飲む。
そして羽澄の声が、震えていく。
「怪我の他に、体調が悪いところは、あ、ありますか?」
「いえ、特にないですが……」
「……」
「羽澄ちゃん……」
心配そうにミロルが羽澄に寄り添う。
明らかな動揺にストリもアルバスも不思議に思う。
ふとコルヴァンがストリに手をかざした。
「念のため浄化の魔法をかけてもよろしいでしょうか」
「え、あ、はい、どうぞ……」
神妙な顔をしながら、コルヴァンが浄化の魔法をかけたが、どこも変化がないようだった。
「三人とも、急にどうしたんだ? ストリに何かあったのか?」
「……少々お待ちください」
そう言いながら、一旦事務所に入り、すぐ戻ってきた羽澄は、決心したようにストリに近づく。
「今から足を確認します、少し集中しますので、お静かにお願いします」
羽澄はしゃがみ、左手をぎゅっと握りながら、震えた右手でストリの足に触れた。
「っ!」
羽澄はびくりと体を震わせ、合わない焦点のまま、空中を見ている。
はたから見れば集中していると言うより、上の空のように見える。
(なんだ? 今何をしている?)
不思議に思ったアルバスが声をかけようと口を開いたが。
(コルヴァン?)
黙って首を振るコルヴァンに制止される。
不審に思いながらも待っていると、羽澄の瞳がカッと開かれた。
「!! っ、はぁ、はぁ」
「羽澄ちゃん、大丈夫?」
「うん……いや、あんまり、大丈夫じゃないかも」
苦笑しながらミロルに答える羽澄の額には、大粒の汗が滲んでいる。
「続けます……コルヴァン、透視魔法」
「分かった」
コルヴァンと手をつなぎ、二人で目を閉じる。
その瞬間、何が見えたのか羽澄が眉をひそめる。
(本当に、治せるのか?)
アルバスの想像より何か問題があるようなストリの足。
ストリ本人も羽澄の様子に顔色が悪い。
(ダメだ、俺が不安そうな顔をしたら……)
「大丈夫だ、ストリ」
「お兄様……」
「大丈夫」
その言葉しか出せなかったが、優しいアルバスの声に、小さく頷いた。
診察が終わり、聖骨院の三人は治療方法の確認と言って、教会へ消えていく。
居心地の悪い時間に、ふと気づく。
「ロガモはどうした」
「用事ができたと言って、城に帰って行きました」
真面目な表情でそう言うシュバに「ああ、そうか」とだけ、つぶやいた。
ロガモが帰ったのは、見張りが着いていたからだろう。
(最近多いな)
アルバスの護衛に盗聴魔法がくっついていることがある、遠くから会話を盗み聞く類の魔法だ。
今のところシュバが微力な魔力を感じとって、盗聴を逃れている。
解除する方法は効果がきれる時間まで待つしかない。
(何が目的だ? 兄上に相談するか……いや、手を煩わせるのも申し訳ない)
理由も分からず、どうすることもできない……全員で警戒するしかなかった。
しばらく経ってから、コルヴァンが戻ってきた。
「アルバス様とテリクス、一旦教会に来てくれ……ストリ様、少しだけお待ちください」
言われた通り、アルバスとテリクスは、コルヴァンと教会に向かった。
そこに羽澄とミロルの姿はない、真剣な顔のコルヴァンは、怒っているような悲しい顔をしている。
「正直に言います、治療はとても難しいです。
――ストリ様の足は、意図的に壊されています」
初登場
第三王子:ストリ・ヴァルディア
登場人物
第二王子:アルバス・ヴァルディア(上司ルバの正体)
剣士:サーン・テリクス(班長)
槍騎士:ホージ・ロガモ(副班長)
魔法剣士:カグー・シュバ
弓兵:チョウ・シコウ




