第十八話 距離感ゼロの上司
「あらー、なんて面白い展開」
「いや、全然面白くないって」
コルヴァンは一度教会に戻り、ミロルに状況を説明した。
「なので、トリガ夫婦は聖骨院に入らないよう気をつけて、驚くだろうから」
「確かに、しかも……ルバ様、だっけ? 絶対お忍びでしょ」
「絶対、俺もそうだと思う」
コルヴァンは頭を抱えて「ほんと昔から……」と、幼い頃の苦悩を思い出す。
「まあ二人は大丈夫よ」
慰めるように、ミロルがそう言いながら、教会のベンチを見ると。
「はあ、また大工ができて、リウスの弁当が食べられるなんて幸せだ」
「私も、今までアウレに頼りっぱなしだったから、自分で稼げるなんて……夢みたい」
「だけどリウスの体が一番大事だから、無理だけはしないでくれ」
「ふふっ、分かった……はい、あーん」
「あーん」
仲むつまじいトリガ夫婦のやりとりを、ミロルはほっこり、コルヴァンは少しテレながら見つめる。
怪我のせいで苦しくなっていく生活から、解放されて幸せそうだ。
「こんなことで赤くなるなんて、コルヴァンは初心ね……それとも誰かと想像した?」
そんなミロルの突っ込みに、コルヴァンの頭には羽澄の姿が……。
(羽澄は、あーんとか、するか?)
本来ならそこで羽澄が出てくることを不思議に思うのだが。
(いや、やらないだろうな)
と言う結論に落ち着いた。
ミロルとの話を終え、教会から戻ると、そこには壁際に追い込まれた羽澄に、覆い被さるように手をついているルバの姿。
「えいや」
そして羽澄の一言で、ルバの腕が取られ、横に回転しながら関節技を決められている。
「いだだだっ」
「……まだ懲りないんですか、ルバ様」
「いや、そこは俺を心配するところじゃないのか!?」
「明らかにルバ様の過失です、擁護はしません」
そんな二人のやりとりに、シコウは楽しそうに笑った。
「コルヴァン先輩とルバ様のやりとり、昔に戻ったみたいですね」
「確かにー、ルバ様に指摘できるのは、コルヴァンさんしかいないからな」
シュバも懐かしむように呟くと、今度はロガモが冷静に呟く。
「というか、今回の目的はナンパではないでしょう」
「はいはい、分かっていますよー」
投げやりにルバが呟いたあと、鋭い視線で羽澄を睨む。
「シュバとロガモの治療を依頼する、が、悪くなったら、それなりの処罰があると思え」
「……誰に言っているのか、思い知るといいでしょう」
羽澄は挑発を受け止め、挑戦し返すようににやりと笑った。
「ではまず、シュバさんから、どうぞ座ってください」
指示通りベッドに座り、手順良く治療の準備をしていく。
「まずコルヴァンさんに電気魔法にて、筋肉をほぐし、魔力の流れを良くして貰います。
次にコルヴァンさんに透視魔法を使って貰い、骨の位置や状態を見ます」
「へえ、説明してくれるんだ……真似されちゃったらどうするの?」
意地悪く質問してくるルバの声に、冷静に答える。
「電気魔法を真似するなら、出来るだけ弱く、痛みを伴ったらすぐやめてください。
透視魔法については、正直体の中を見るので、やめておいた方が良いですね」
「真似して良いんだ」
「この注意を守ってくれれば、全然。
ただ、骨を動かす技術は、見よう見まねで真似しようと思わないでください」
説明しながらも透視を終え、これから施術に入る。
「まだ始めて数日ですが、試行錯誤しているところです」
今度はコルヴァンが口を開く。
「最初は説明が足りず、患者を不安にさせていたので、出来るだけ羽澄が説明してくれています」
まだ開業したばかりだが、出来るだけわかりやすくしようと話し合って決めていた。
「それでは、まず肩の骨を元の位置に戻します。腕を抱きしめる形になるので、少し我慢してください」
――むにゅん
言葉通り腕を抱きしめられて、宣言されていたとは言えシュバはつい。
「やわらかっ」
と声を出してしまった。
「治療だぞ、変なことを考えるな」
即座にコルヴァンから鋭い声が飛び、怒られた気分になるシュバ、よわよわしく「すみません……」と謝ってしまう。
「いえいえ、不快かもしれませんが、我慢してください。
それでは、少し痛いですよー。さん、にぃ、いち、はいっ」
――ガコッ
「痛っ」
――パァ
治療からの魔法は連携が取れており、以前より治療時間は確実に短い。
「…はい、腕動かしてみてください」
「は、はいっ」
「え、そんな治療で治るの?」
一瞬の出来事に、ルバは疑うような声を出したが。
――ぶんぶん
「!! 動きました、腕が回せますっ」
シュバが嬉しそうに報告する姿に、ルバも指摘のしようがない。
「あとは体のゆがみを治して、ロガモさんも治療しましょう」
「あ、あ、あ、ありがとうございます」
ロガモも治療が終わり、なぜか真っ赤な顔で羽澄に礼を言う。
「いえいえ、怪我が治って良かったですね」
顔が真っ赤になっている理由を知らず、羽澄はただただ治ったことを喜んだ。
「へー、本当に治すんだ」
(なるほど、これはすごいな)
目の前で繰り広げられた治療に、ルバはわずかに目を見開いた。
そしてにやにや笑いながら、羽澄にお願いをした。
「俺にも治療して、丁寧に診てくれ、さっきみたいに」
「あなたはどこも悪くないので、そんな必要ないです」
冷たい目できっぱりと断る羽澄は、図星を突く。
「それに、視線に下心が見えるので絶対治療しません」
登場人物
平民夫婦(大工):トリガ・アウレ(夫)
リウス(妻)
上司:ルバ
元槍騎士:ホージ・ロガモ(クール、ツッコミ役)
元魔法剣士:カグー・シュバ(明るい性格で、ボケがち)




