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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第一章 聖骨院開業編 〜偽りの王子〜

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第十七話 甘い仮面の権力者

「ああ、ありがとうございますっ、ほんとう、にっ」

「先生っ、本当にありがとうございます!」


 羽澄は朝一でトリガ夫婦に拝み倒されていた。


「いえいえ、私たちも教会の修繕をお願いしたわけですから、お互い様ですよ」

「もちろん、精一杯頑張らせていただきます!」

「それじゃあ、案内しますね」


 労働を対価とした申請書を作り、早速夫のアウレを治療した。


「しかも私にも仕事を与えていただけるとは」

「こちらも助かります、が、リウスさんの体調がすぐれない場合は、ちゃんと教えてくださいね」

「本当にその通り、赤ちゃんが無事に産まれることが一番大事なのよ」


 ミロルはにこりと微笑みながらリウスの体を気遣う。

 今日から本格的に癒しの貼布を、リウスを雇いミロルと一緒に作っていくこととなった。


「調合や量の調節を、一緒にしてくれると助かるわ」

「はい、できる限り頑張ります」

「あ、頑張らないで、体を一番大事にして」


 ミロルとリウスのやりとりをほほえましく思いながら、今日の営業の準備をするのだった。



「先生、コルヴァンさん、たのもーっ」

「シュバ、ここは道場じゃないから」

「二人とも、仕事中申し訳ない」

「何いってんすか班長、俺は患者としてきているんですから、邪魔じゃないでしょ」


 明るい中に隠しきれない喜びでテンションが上がっているシュバと、いさめながらも嬉しそうなロガモ、後ろからテリクスとシコウが一緒に来ていた。


「四人とも、ここに来たってことは……」

「シュバさんとロガモさんの治療、ですね?」

「そうでーす!」

「ありがたいことに、支援を受けられることになりまして」


 ロガモが支援、と言ったあとにちらりと後ろを見ると、テリクスとシコウのさらに後ろに、一人の男性が立っていた。


「初めまして、四人の上司……ルバ、と申します」


 深緑色のフード付きローブを被り、黒いマスクをして青い瞳だけ見えている。


「え゛っ!?」


 コルヴァンが驚きと戸惑いを含んだ声を上げたかと思うと、一緒に来た四人は少し困ったように苦笑していた。


「あなたが聖骨院の先生ですか?」

「はい、そうです」


 羽澄がそう答えると、ルバと名乗る男は羽澄を一瞥したあと。


「ありがとー」


 と両手を広げて、羽澄にハグをしにいった。


「はっ」


 羽澄がそう声を出したあと。


――パンッ


 弾ける音とともに羽澄はルバの手を振り払い、もう片方の手で相手の肩をぐっと押す。


「うわっ」


 勢い余ってよろけたルバは。


――ぽすっ


「……なにやっておられるんですか」


 その場にいたコルヴァンにキャッチされていた。


「あ、久しぶりー」


 目元だけだがへらっと笑っているのがわかり、周りにいた四人はヒヤヒヤしているように見える。

 そんな様子にコルヴァンはふぅ、とため息をついた。



 落ち着いたところで聖骨院を一旦閉め、四人と一緒に来たルバが、フードとマスクを外して、改めて羽澄に向き合う。


「先生は、この国に来たばかりだと聞いたんだけど、俺のことは知らない?」


 そんなルバは金髪の髪に甘いマスク、スラッと背が高く、自分に自信があるのかウィンクしながら羽澄に問いかけた。


「知りません」


 ズバッと答えると、拍子抜けしたのかルバは拗ねたように口を尖らせる。


「そういう時は、知らないですけどかっこいいですね、抱きついてもいいですよっていうものだよ」

「ルバさんは巨乳が嫌いじゃないんですね」


 ルバの言葉はまるっと無視され、流石にムッとしてしまう。しかしすぐにんまり笑って、羽澄の言葉に答えた。


「女性を嫌いになる趣味はないよ、胸が大きくて動きづらくても、俺に抱きついて癒してくれればそれでいいんだ」

「なるほど、女ったらしってことですね、通りで視線がいやらしくて、不愉快だと思いました」

「……流石に、言い過ぎじゃないかな、君」


 女性に好かれることはあっても、こんなに嫌悪感を表に出されたことはないルバ。


「君は俺が何者か知らないんだよね? いいの? 君をどうとでもできる人間かもしれないよ」

「どうぞ」


 睨みつけるルバは変な迫力がある。

 しかし羽澄は一言そういうと、両手を広げて無防備な体制をとる。


「ルバさんが偉くて、私を殺したいくらい怒られたなら殺してくれて構いません。

 だけど私は悪いことをしていないので、死んでも謝ったり、反省することはありませんよ?」


 堂々とした羽澄の物言いに、ルバは驚き、そして脱力した。


「いや、そんなことして優秀な治療師を亡くすわけにはいかないならな……それに、聖拳士が怖い」

「はい?」


 聖拳士という言葉に聞き覚えがあり、コルヴァンの方を振り向くと、拳を握り軽く構えていた。


「はあ、コルヴァンは俺にはむかうようになったのか、兄弟のように育ったのに、かなしい」

「非道なことをしないよう、見ていただけです……それに、俺はもう聖拳士ではありません」


 言いながら構えを解くコルヴァン、この機会だからと、羽澄は前から思っていたことを聞いてみた。


「コルヴァン、聖拳士って、何?」

「え、そんなことも知らずにコルヴァンをこき使っていたのか?」


 答えたのはコルヴァンではなくルバだった。


「こき使うとか人聞き悪い」

「ルバ様、聖拳士なんて、そんな有名じゃないですよ」

「いやいや、国一番の武闘家で数多くの魔法を使いこなし、数人しか選ばれない【聖】の称号を持つ拳士だぞ?」

「元です、今は違います」

「コルヴァンって、そんなにすごいんだ」


 謙遜しているコルヴァンだが、羽澄が尊敬の眼差しで見つめてくるので、口角が上がりそうになるのを堪えて変な顔になる。


「えー、ともかく、ここに来た理由を、ちゃんと説明してください」


 そんな表情で言われて毒気を抜かれたのか、ルバはテリクスに説明するよう促した。


「もともと我々の班は国の、えー、城の幹部である、ルバ様を守るために結成されたもので、復帰後もルバ様の護衛として務めることとなった」

「そこでまだ怪我が治ってない俺とロガモの支援をしてくださると、ルバ様が言ってくださったので、一緒にきたってわけです」


 説明が終わると、ずいっと羽澄に近づくルバ、一瞬身構えるが、今度はいやらしくない、挑戦的な表情。


「あと、コルヴァンを城に連れて帰るのも目的だ……怪我が治ったんだろ?」


 そう言ってコルヴァンを見れば困った顔をしている。


「治りましたが、戻るつもりはありません。回復魔法以外の治療を広めたいので」


 コルヴァンの言葉にホッとする羽澄と、機嫌が悪くなるルバ。


「確かにコルヴァンも、シコウもテリクスも、体の動きが明らかに違う、確かに治っている」


 ふと真剣に、少し強い口調で羽澄に問う。


「だがしかし、本当に君が二人の怪我を治したのか? そんな動きにくそうな体格して。

 コルヴァンの手柄を取ったんじゃないのか?」


(本当に彼女の治療なら……これは良い拾い物かもしれないな)


 内心の思惑を隠しつつ、ルバは羽澄に挑戦的だ。

 羽澄もそんな目を向けられて、黙っていられるタイプではない。


「今この場で治療しますから、その目でよーく見てみてください」


初登場

上司:ルバ

登場人物

平民夫婦(大工):トリガ・アウレ(夫)

         リウス(妻)


剣士:サーン・テリクス(班長)

元槍騎士:ホージ・ロガモ(クール、ツッコミ役)

元魔法剣士:カグー・シュバ(明るい性格で、ボケがち)

弓兵:チョウ・シコウ(一番後輩)

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