第十六話 裏切りの果てに
――あの尋問の数時間前、豪邸に向かう馬車の中。
「ほう、それが羽澄君の……確かに魔法の可能性が高いな」
「はい、このような魔法について、何かご存知でしょうか」
他言していなかった羽澄の体験だったが、トキアスなら話しても大丈夫だろうと話し合った。
そしてミロルがこのタイミングでトキアスに説明したのは、上手く扱えれば一斉診察の役に立てると思ったからだ。
「うっすらではあるが……過去を見る系統の魔法は、発動に感情の大きさが左右されると聞いたことがある」
「感情ですか」
「……確かに」
トキアスとミロルのやり取りに、コルヴァンはぼそりと呟いた。
「確かに怪我した時の事を思い出していましたね……あの時、羽澄が……まあ、今は思ってませんけど……攻撃してきた女性に似ていたので……」
「ああ、もしかして相手が巨乳だったのか」
コルヴァンが弁解していたのに、羽澄がズバッと指摘する。
「なるほど」
へんな納得をしている羽澄と、渋い顔のコルヴァン。
二人のことは置いておいて、ミロルはトキアスに質問する。
「想いの強さは、魔法をかけられる側という事でしょうか?」
「いや、どちらか一方でいい。
コントロールできれば、魔法をかける側の意志で映像だけではなく音声も、そして見たい場面も調整できるはずだ」
そう説明した後、トキアスはカバンから青色の宝石を羽澄に手渡した。
「? これは?」
「これは強く握れば、握った人の思考を録画出来る魔法道具だ。
本当はフォルンに握らせるつもりだったが……録画できれば緑色の宝石に変わる。
これを持って、フォルンの過去を覗いてみてほしい……羽澄君の魔法が使えたらでいい」
魔法の正体がはっきりしていない状態ではあるものの、何か力になれればと、トキアスの提案を了承した。
「なるほど……ちゃんと映っているな……」
「はい、今回は過去を見られるよう念じたら、音声も聞こえてきたので」
「……なるほど、それが魔法の本来の姿かもしれん」
フォルンの怪我を羽澄が治し、屋敷の牢獄に手錠をかけて入れてある。
その後執務室に戻り、緑色の宝石から映像を見たトキアスは、その内容に項垂れた。
「トキアス様、あの……」
「大丈夫だ、もう分かっていた事だ……それに商人として、裏切られた回数は少なくない。
このくらい、どうって事ないさ」
(そう思わんと、やってられん)
そう言いなが、本音を隠すように視線を逸らした。
「この宝石は証拠として持っていてもいいか」
「もちろんです、この後すぐに神選会に?」
「いや、あまり多くは言えないが、神選会はもう少し調べる必要があってな……ラヴェンという男に関しては、一旦保留にしようと思う」
「わかりました、俺たちも今日のことは他言しません」
「そうしてくれ……私も羽澄君の……この魔法のことはどこにも漏らさないと誓う」
「やはり、これは魔法ですか?」
「ああ、この魔法道具が正常に映像を保存できたと言うことは、そういうことだろう」
トキアスの分析は説得力があった。
「魔法鑑定についてはなんともいえんが、魔法の特徴から図書館で調べるのが一番良いだろう。
出来れば城の書物庫が使えれば一番良いのだがな」
「それなら騎士仲間に俺から聞いておきましょう」
こうして羽澄の魔法については、なんとかなりそうだった。
「あと、当然家臣の治療代は出すし、謝礼もしよう」
「謝礼はいいのですが、あの……フォルンさんは、どうなるのでしょうか?」
羽澄の問いに、トキアスは一枚の紙を出した。
それはトキアスとフォルンの婚姻を証明する紙だと一瞬で理解する、しかし指でひかれたような赤い線が、斜めに一本入っている。
「すでにフォルンには、薬指で契約解除の印をひかせた。
そして私も印をひいて、領主館に持っていけば離婚が成立する」
そう言いながら引き出しから出した朱肉を薬指につけ、印がバツになる様に線をひく。
「領主館は、市役所みたいなところね」
こっそりミロルが羽澄に耳打ちをする。
「フォルンはこの後、地下の労働施設に送る。
当然資産は没収、あいつの大好きな宝石もな。
期間は未定で、無料で労働と回復係として働いてもらう」
そこは一度入れば簡単には出られない場所だ。
「…そう、ですか」
羽澄はポツリと呟く。
(あの涙は、本物だって、信じたい)
地下労働とはとてもキツそうだが。
(フォルンさんの最後の言葉が本当なら、きっと改心してくれるはず)
そう信じると同時に、彼女を誘惑したラヴェンという男。
本名かどうかも不明だが。
(……許せないっ)
胸の奥で、静かに怒りが燃え上がる。
(トキアス様もフォルンさんも、失ったものは大きいのに……)
そして同時に――この件が、これで終わるはずがないと、羽澄は確信していた。
登場人物
大富豪:ハルビア・トキアス
名前のみ
大富豪妻:ハルビア・フォルン
フォルンの恋人:ラヴェン




