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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で整骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第一章 聖骨院開業編 〜偽りの王子〜

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第十五話 国一番の富豪たるや

 それは五年前の話、当時トキアスが三十五歳だった。

 トキアスは商人として名をあげはじめた大事な時。

 その日も取引の仕事が終わった帰り道、人だかりの中に呼び込みをしている男がいた。


「格安で回復魔法掛けるよー」


 後ろには痩せ細って髪もボサボサ、とてもいい生活は送っていないことがわかる女性が立っている。

 首輪をしており、鎖が繋がっている…それはまるで奴隷のようだった。


(……金も無いくせに、主人気取りか)


 呼びかけに寄って来た怪我人を、女性が魔法をかけて治していく。

 そして代金は男が受け取る。

 彼女の細さからして、稼いでいるのは女性なのにろくにご飯も食べさせてもらっていないのだろう。


(宝の持ち腐れだな、私なら有効に利用できる)


「お、お客さんいらっしゃい、どこか悪いとこあるかい?」


 そんなことを考えているとも知らず、目の前に立つトキアスに、ニヤニヤと気持ち悪い笑顔で近づいて来る。


「いや、どこも悪くない」

「いやいや気付いていないだけでしょ、なんなら悪いところがないか調べてあげますよ」


 なかば無理やり治療を受けさせようとしているのは、トキアスの身なりがいいからだろう。


「どこも悪くない、が、これから悪くなるかもしれない」

「ええ、俺もそう思いますぜ」

「だからその女を買おう」


 回復魔法を使う女性を指差し言い放つ、男は驚いてトキアスの顔をまじまじとみた。


「こいつを? 何も出来ない、まだ十五歳の使えない女ですよ」


 さっきまで回復魔法をかけさせていたくせに、容赦なく女を貶す。


(クズが)


 反吐が出そうな男に、商人らしく営業スマイルを向けた。


「いやぁ、そんなこと言わずに……私は商人をしていまして、丁度回復魔法を使える女性を伴侶に、と考えていたんです。

 みたところ回復はとても手際がいいようですし――もちろんただとは言いません」


 トキアスが言った最後の言葉に、男の目はまんざらではない笑顔になる。


「そうだな、こいつは使えないが回復系の魔法だけは一通り使える、だけどこっちの生活もかかっているからなあ、どうしようかなあ」

「そこをなんとか、お願いしますよ」

「そこまでいうなら、まぁ、金貨一枚、いや二枚か……」

「金貨五枚でどうでしょう」

「ご、ご、五枚!?」

「人一人の値段と考えると安いですかねぇ、とはいえ今出せるのはこれくらいですから、この話はなかったことに……」

「まっ、待ってくれ、五枚で、手を打とう!!」



「……」


 首輪の鍵と鎖を受け取り、買い取った女性を引き連れて、自分の乗ってきた馬車に到着する。


(この女を利用するのは、簡単だ……だが)


――カシャン


 トキアスは女性の首輪を鍵で外した。


「これで、君は自由だ」

「え?」

「どこでもいくがいい」

「……私を、伴侶に、するのでは?」

「しないよ、伴侶は首輪に鍵もつけないし、お金で買うものでもない」

「どうして、お金を出したの?」

「……選択肢をあげよう」


 女性の質問に答えず、トキアスは続ける。


「魔法があればお金を稼ぐことはできる、このまま自由な生活を送るか。

 この馬車に乗り、私と一緒に来るか」


 その選択肢に、女性……フォルンは馬車に乗ることを選択した。



 それからフォルンはハルビア家の使用人として働き、美しく成長した三年後にトキアスと結婚した。


『何故あの時馬車に乗った?』


 というトキアスの質問に。


『トキアス様が着けていた宝石が綺麗だったので』


 笑いながらそう答えたフォルン。



(照れ隠しだと、思っていたんだがな……)


「トキアス様、到着いたしました」


 フォルンと出会った時と変わらない運転手に声をかけられて、トキアスは一言「うむ」と答えた。



 聖骨院前、一斉診察に行くために迎えの馬車の前に三人が揃う。


「おはよう、今日はよろしく頼む」


 馬車からまさかトキアスが出て来るとは思わず、三人とも慌てる。


「トキアス様!?」

「わざわざ来てくださったんですか?」

「いやいや、とあるものを注文していてな、朝一で取りに行ったのだよ」

「この時間から……お疲れ様です、トキアス様」


 優しい羽澄の声にトキアスは、フォルンの『お疲れ様です』と迎え入れてくれる姿を思い出し、胸を痛めた。



「ほう、これが貼布の半固形のものか」

「月藻と魔力を掛け合わせて、魔力が逃げないよう星蜘蛛の繭で包んでいますので、星月繭ジェルと名づけました」


 羽澄から受け取ったジェルは、液体のようにたれることはなく、しかし形を自由自在に変えられる。


「なるほどな、月藻が魔力に触れている間、固まる性質を利用したのか」

「はい、それはミロルさんが薬草に詳しくて……ちょっとびっくりしました」

「まあひどい、これでも私、頭はいい方なのよ」


 コルヴァンの物言いに頬を膨らませて怒るミロル、その様子をほほえましく思いながら、トキアスは口を開いた。


「それなら、これはミロルさんに渡すとしよう」


 トキアスから渡された一束の薬草、それをみた瞬間、ミロルは眉を顰める。


「荷物を取りに行った後、情報屋に寄ってな、これを渡されたのだよ」

夢酔草ゆめすいそう、ですね?」

「ああ、フォルンが注文していたそうだ」


 トキアスの言葉にミロルは重い声で『そうですか』と呟くだけだった。



 到着したトキアスの屋敷は、国中で城の次に豪華だ。

 フォルンを中心に、家臣たちが馬車を出迎える。


「お待ちしておりました、本日は一斉診察ありがとうございます」


 柔らかい声色で出迎えるフォルン、羽澄は彼女の笑顔に、こくりと息を飲んだ。



 診察は順調に進み、治療も相当人数分あった、しかし意外に中症になっているものが少なく、とても働きやすい職場なんだと言うのが羽澄の感想だ。


 そして最後のフォルンが部屋に入り、羽澄はミロルと一緒に彼女を迎える。


「診察ありがとうございます、でも私は特に怪我とかしていないので大丈夫ですよ」


 入っていきなりそう言葉を出すフォルンだが、羽澄は首をふる。


「そういうわけにはいきません、トキアス様との契約なので……契約違反の重要性については、大商人の妻ならわかるでしょう?」


 その言葉にフォルンはますます笑顔になる、が、目は笑っていない。


「安心してください、珍しい技術ですが、娘の腕は確かです……トキアス様の足を見ればわかるでしょう?」


 そう言われれば抵抗できるわけもなく、フォルンは大人しく簡易的な施術用のベッドに腰をかける。

 羽澄は気づいていた、先日会った時には無かった、右肩怪我をしている事に。


(この怪我はただの怪我かもしれないけど……)


そう思いながら「それでは、検査始めます」と言って右の二の腕に触れた。


『どうか協力してほしい』


 ふとトキアスの言葉を思い出し、今朝受け取った魔法道具の青い宝石を握りしめる。

 辛そうに絞り出したその声は、悲痛なSOSに聞こえた。


(もし私が魔法を使えるなら……お願い、見せて……本当のフォルンさんを)


 願いを込めて、怪我をしているであろう肩に触れる。


(っ)


 それはいつかと同じように、頭に直接感じる違和感。


――ぐにゃあ


 そして、またいつかのように視界が歪む。


(本当に、きたっ)


 そう思うと同時に。


『お願いラヴェン、もう少し待って!』


 と声が聞こえた。

いつもは映像だけなのに、今日は声も音も聞こえる。

 喋っているのはフォルンと、もう一人、容姿が整った男性。

 場所はどこかの家の中、この豪邸ではないので、おそらくこの男の家なのだろう。


(この人、家臣にはいなかった……)


 映像の中の窓から立派な教会が見える。


『本当に出来るか? 怪我を治され夢酔草の蓄積毒も殆ど浄化されたのに……』

『出来るっ、今度こそ……即効性の毒で、一斉診察の後に……聖骨院が、薬と偽って毒を盛った事にするから』


(っ、やっぱり、フォルンさん……なんてことっ)


 確信したと同時に、信じたく無かった。

 しかも聖骨院まで嵌めようとしている。


(酷い……)


 そう思う中でも映像は進む。


『大丈夫、トキアスは私を愛しているから、疑われることはないわ……だから、財産を全て手に入れたら、私と結婚してぇ』


 うっとりと縋るフォルンに、羽澄は吐き気を覚えながら、その映像を目に焼き付ける。


――どんっ


『あうっ、うぅ』


 映像の中では男がフォルンの右肩を掴み、壁に押し付ける。

 この時フォルンの肩が外れたようだった。


『もし俺の願いを叶えてくれるなら、こんな酷いことはもうしない。

 愛しているからこそ、君に躾をしたんだ』

『ラヴェン……わかっているわ、愛している』



「羽澄君、検査は順調かね?」


 呼ばれてはっ、と意識を戻す。


「トキアス様を、呼んできたわ」


 どうやら羽澄が怪我時の映像を見ていた時、ミロルがトキアスを呼んでいたようだ。

 目的は当然フォルンのこと。

 羽澄が握っていた宝石を見てみると、緑色に変わっていた。


「トキアス様、これを」


 羽澄が渡した宝石の色を見て、トキアスは眉をひそめる。

 続けて羽澄は、フォルンの診察結果を伝えた。


「右肩をぶつけたはずみで、肩が外れています。

 自分で回復魔法をかけられたようですが、外れた骨までは戻っていません」

「なるほど……羽澄君、治療は待ってくれ」


 そう言いながらトキアスはフォルンの前に立ち、後ろからついて来たコルヴァンが用意した椅子に座る。


「さて、この魔法道具、フォルンには見せたことがあるな?」

「……」


 それは四角く、少し厚みのあるカードに見える。

 ランプのような丸い赤と青のガラスがついていた。


「これは声を保存できる、便利な道具だ……しかも発言の信憑性も計ってくれる優れものだ」

「ええ、仕事に同行させていただいた時に……」

「そうだ、妻として仕事を覚えてもらうために……それならこれの正確性はわかるな」

「……はい、どんなに嘘をついても、真実を、暴く道具です」


 フォルンが言い終わると、コルヴァンが拘束魔法をかけた。


「え! あっ、ぐっ……何を、するんですか、トキアス様……」

「羽澄君、君が質問してくれないか」

「……トキアス、様」

「今の君なら、YES NOで答えられる質問ができるはずだ」


 感情のないトキアスの声に頷き、フォルンの後ろに立ったまま、羽澄は質問を始めた。


「トキアス様が足の怪我をした時、治療をしたのはフォルンさんですか?」

「……はい」


 フォルンが答えるとトキアスが持っているカードの青いガラスが点灯し、トキアスが「まあこれは本当だろうな」と呟く。


「その時、回復魔法をかけてますか?」

「……はい」


 今度は赤いガラスが光る。


「嘘、か」


 呟くトキアスに、フォルンの体が震え始めた。


「回復魔法の代わりに、夢酔草を使っていますね?」

「は、はい」


 カードの点灯は青。


「痛みを和らげるためにと、お湯で濡らしたタオルに夢酔草を使いましたね?」

「はい」


――青


「夢酔草を毎日使いましたか?」

「はい」


――青


「夢酔草は痛みを和らげる強力な薬草ですが、毎日患部に当てると、毒として蓄積されるのは知っていますか?」

「っ、いいえ」


――赤


「いえ! 私は、知りませんでしたっ」


――赤


「この道具の性能を、知っているな?」


 低い声でトキアスがもう一度言う、フォルンは力なく「……はい」と答えれば、また青いガラスが点灯した。


「続けてくれ」

「はい……私が怪我を治した後、今度は食べ物に混入させましたね?」

「い、いいえ!」


――赤


「フォルン」

「ひっ、は、はいっ」


 トキアスの呼びかけに、フォルンは怯えた声で返事をした。


「私を、殺そうとしたか?」

「……」

「答えなくても、それは返事になるが……殺そうと、したか?」

「い、い、いいえっ!」


――赤


「……私なりに、大事にした、つもりだったのだがな」


 悲しそうな、寂しそうな、負の感情しか入っていない声色でトキアスは呟く。

 その声色に、怒気は含まれていない。


「羽澄君、続けてくれ」


 トキアスの指示に、羽澄は重くなる口を開いた。


「その計画は、恋人と考えましたか?」

「いいえっ」


――赤


「そんなの言いがかりよっ、証拠は……この道具以外にあるんですか!?」

「あるぞ」


 答えたのはトキアス、その手には緑色の宝石。

 羽澄が渡したものだが、フォルンには見えていなかったので、いったいなんなのか訝しげに見ている。


「これは持っていた人間が、思った映像を保存する宝石だ」


 そう言ってほわっと静止画が浮かび上がる、そこには羽澄が見た映像……フォルンと男が向かい合って親しげな様子がわかる。


「なっ!?」

「見覚えがあるだろう……まずはお前の口から聞かせてもらおう」

「っ!」

「昔お前を売った男と似ている、美男子だな」


 トキアスの言葉にフォルンは息を呑む、今まで一度も『お前』なんて呼ばれたことが無かった。

 羽澄は質問を再開する。


「その男から、計画が成功したら、結婚しようと言われていましたか?」

「なぜ二人でいるからと疑われるのですが、ただお話を……」

「質問に答えてください、結婚しようと言われていましたか?」

「……い、いえ」


――赤


「その男性はラヴェンといいますか?」

「名前まで……」

「これは映像を静止させている、このまま流してもいいのだがな」

「……」

「その男性は、ラヴェンと言いますか?」

「いい、え」


――赤


「その肩の怪我は、ラヴェンにやられましたか?」

「………いいえ」


――赤


「そのラヴェンという男は、神選会か?」


 今度はトキアスが質問した、なぜラヴェンのことを羽澄が知っているのか、戸惑っていたフォルンだったが、トキアスの言葉に項垂れて。


「はい」


 と答えると……カードの青いガラスが光っていた。



「ラヴェンとは半年前に出会い、私たちは真実の愛を育んでいました。

 彼が神選会の幹部で結婚できないと言われ絶望しました」

「その以前に、フォルンさんはトキアス様の妻でしょう」


 羽澄が攻めるように言うと、フォルンはニヤリと笑った。


「そんなの、どうとでもなりますよ。

 トキアス様は私の言うことはなんでも聞いてくれる……優しい人。

何をしても、私の立場が壊れることはないと、確信していました」


 何かに取り憑かれたように喋り続ける、いや、ただヤケになっただけかもしれない。


「ラヴェンは一度私を拒絶した、神に選ばれなかった私を……だけど見離さなかった、努力して神に選ばれるべき人だと言ってくれました。

 そんな君だから好きになったって。

 あとはトキアス様の財産全てがあれば、神も認めてくれると、言われて……」

「結婚のために、殺害計画を練ったと」


 羽澄の指摘に、フォルンは力なくこくりと頷いた。

「私は選ばれたかった、神選会に……愛する人に」

「半年前というと、私が膝を怪我した時と一致するな……つまり、全て殺害計画の一部だったと」

「……その、通りです」

「フォルン、もう一つ質問だ」

「はい、もう、なんでも……」

「ラヴェンは私以外で三人目の男だな」

「っ!!」

「答えろ」

「……はい」


――青


「ご存知だったんですね」

「ああ、こんな歳の差だからな……いつかは愛想つかされると思っていたし、その時は笑って解放しようと思っていたのだがな」

「……」

「初めて会った時、どうしてお金を出したのか、聞いてきたな」

「……そういえば、聞きましたね」

「私にとって、価値がある女だと思ったからだ」

「……」

「お前の思った通り、私はフォルンを愛する、つまらない男だ。

 ……それでも、命を狙われる道理はないがな」


 トキアスは大きくため息をついた。


「俺にも最後の質問をさせてください」


 今度はコルヴァンが手をあげる。


「トキアス様ほど、フォルンさんを愛した人が、この三人の中にいましたか?」

「……」

「俺はお金がないと結婚できない神選会なんて、愛する人のためなら捨てられると思ってしまうのですが」


 コルヴァンの言葉に、フォルンはつきものが取れたように、優しく微笑んで。


「いいえ、出会った時から、トキアス様ほど、私を思う人は、おりませんでした」


 そう答え、綺麗な涙を一筋流した。


「ミロルさん」

「……はい」

「依頼していた、指輪の作成は、キャンセルしてくれ」

「……かしこまりました」


初登場

フォルンの恋人:ラヴェン

登場人物

大富豪:ハルビア・トキアス

大富豪妻:ハルビア・フォルン


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