第十四話 売れる匂いと、忍び寄る悪い噂
「はい、確かに銀貨十枚……いやぁ、儲かっているねー。
こりゃ今月の売り上げが楽しみだ」
数え終わった銀貨を嬉しそうに袋にしまうこの男が、商人ギルドリーダーのロウフ。
ふくよかな体型を見れば、若くして普段から良いものを食べているのだと想像できる。
「最初のうちは、治せない怪我を抱えている患者が多いので、今のうちに出来るだけ多く入会金を返しておこうかと」
「いやでも、まだ三日目だよ? そちらの店主はかなりのやり手とみたね」
褒め上手で調子がいいロウフは、銀貨をしまうと、今度は真剣な顔でコルヴァンに向き合った。
「それで仲介の話と、ギルドについて? あと新しい回復道具の提案、だっけ?
だいぶ盛りだくさんな相談だね」
「すみません、お時間大丈夫でしょうか?」
「夜になったら飲み歩くぐらいで、今は大丈夫さ。
それにトキアス様からも、聖骨院の話は面白いから是非聞くようにと、期待させて貰っているからね」
相談だけじゃなく、ギルドにまで手を回してくれるあたり、トキアスはかなりやり手な商人だと分かる。
「仲介に関しては他の店でもやっていてね、労働もしくは見合った物と交換する際、ギルドからこの申請書を出すんだ」
渡されたのは古紙で作られ、さまざまな記入項目が書かれた紙。
僅かに魔力を感じられた。
「これはギルド入会時に渡した帳簿と連動している、この契約書に対価の物を書けば、勝手に金額に換算し帳簿に反映される。
お金と違いあいまいな物だから、過度な請求をする店もあるからね。
あとコルヴァンみたいに、わざと安くする人間もいるし」
「……俺、最近そればっかり言われています」
「そりゃあ、みんなコルヴァンを心配しているから、言うんだよ」
苦笑しながらつっこむロウフは、話を進める。
「労働・物々交換の場合でも売り上げ換算だから、毎月のギルド税に含まれるぞ」
「ギルド税は売り上げの3%ですよね?」
「そうだ、代わりに仲介の手数料はなし。
試しに申請書を五枚渡しておくから、なくなったら感想と共にもらいに来てくれ」
「はい、わかりました……これがあれば仲介の度に、ギルドに行かなくていいってことですね」
「その通りだ、便利だろ?」
「そうですね。
今抱えている問題の解決に、大きく前進しました」
大工のトリガ夫婦は、これで治療を受けさせることができるだろう。
この流れで貼布の話をする。
「その労働の中に、新しい回復道具の作成を考えているのですが」
「おうおう、これも興味あるんだよー。
癒しの貼布だっけ?」
「はい、治療にかかれない時に、すりつぶした薬草を布に塗って貼るあれです」
「あー、平民がよく使っているやつか……あれは汚れるから人気ないんだよ」
「それについては薬草を半固形にし、剥がしても汚れないものにするそうです」
「半固形? なんじゃそりゃ」
「スライムみたいな、プルプルしたもの、と聞いてます」
「ほう、なるほど」
「液体みたいに垂れませんし、患部に合わせて形も変えられます」
「おいおい、そりゃ便利すぎる」
「後名前はまだ決定ではないんですけど、決まったら報告します」
子供のように笑うロウフはこの話に前のめりだ。
「これは平民の怪我人や女性たちが治療代として稼ぎ、貴族や商人……そして体を痛めがちな職人と騎士たちに売り出そうと考えています」
「なるほど、いい仕組みだ。
……いや待てよ、貴婦人たちにも売れるかも。
社交界ってコルセットとかで腰痛めるって、妻も言ってたな」
「それなら尚更、材料の継続的な入手方法を助言していただきたいと……出来れば今すぐこのくらいほしいのですが」
羽澄が書いたメモをロウフに渡す、一番上に『お買い物メモ』と書いてあるのに、ぷっと吹き出す。
「あの【聖拳士】と呼ばれたコルヴァンがお使いか、うけるっ」
「そこは、言わないでください」
拗ねるコルヴァンを一通り笑ってからメモを一通り見る。
【お買い物メモ】
・薬草…… 紅熱草
氷青葉
静癒草
眠り花
巡命草
各五束
・月藻
・布
・星蜘蛛の繭 各二十五個
「なるほど、まあそこまで難しくないものばかりだな」
「はい、本日この個数をもらえれば助かります」
「おっけー、これならすぐ揃えられるし、材料も比較的簡単に揃えられるな……安定した入手経路に関しては、ちょっと調べてみるよ」
「よろしくお願いします」
ロウフは部下にメモを渡してから、楽しそうにコルヴァンに口を開いた。
「出来たらぜひ、俺にもサンプルをくれ」
「はい、ぜひ」
「いやー、こんなワクワクすることはないな、あんたんとこの店主、ぜひ会ってみたいな」
「まあ、いつか一緒に伺いますよ」
二個目の話が終わり、最後にギルドの話に入る。
「ギルドについてなんですが……」
「ああ、治療師ギルドを作るんだっけ?」
「……それも、トキアス様から聞いています?」
「聞いてる聞いてる、というか、前からトキアス様と話していたんだ。
回復魔法については、人の生死に関わることもあるからな」
「俺たちは昨日聞いたばかりなので、話についていくので精一杯です」
困った顔を見せると、「すまんすまん」と謝るが、あまり悪いとは思ってなさそうだ。
「聖骨院のみんなで相談したのですが、一旦お断りさせていただこうかと」
「えー、残念……でも、一旦ってことは、前向きってことか?」
「それはなんとも、なんせロウフさんの言ううちの店主は、この国に来たばかりなんですよ。
もう少し、国を知る時間が必要だと話がまとまりました」
流石に別世界の人間とは言えず、軽く誤魔化しながら話す。
「それもそうか……わかった、気が変わったら明日にでも連絡くれ」
「いや、だから……」
「冗談だって、コルヴァンは相変わらずまじめだなー」
ケラケラ笑うロウフは、なかなかつかめない人物だ。
だけど頼りになる男でもある。
一通り笑うと、ロウフは遠くを見る。
その目はさっきまでの幼さは消え、少し憂いが見える。
「まあでも、実際難しいかもなー、治療師ギルドをつくるの」
「作るのが、ですか」
「ああ、まず国の許可がいるだろ? んで、厄介なのは教会の奴らだ、コルヴァンみたいに個人で、神というより回復メインなところはいいんだけど」
「神選会、ですか。
人間はみんな神に選ばれたもの、って教えの」
「そそっ、表向きは【無償】で【来るもの拒まず】だけど、実際は【寄付】したものだけ神に選ばれたものとして恩恵を受けられる」
「俺の所にも、寄付が払えなくて、追い返された患者が来ました」
「あー、そうだろうなぁ……最近はあくどい勧誘まで始めたらしいし」
「あくどい?」
「あー、昨日会合で、トキアス様にも話したんだけどな? 美男美女を使って恋人になった後お金を出させるっていう、詐欺みたいなことしてんだよ」
「……元は教会、ですよね?」
「あくまでも噂だよ、噂」
ロウフはそう言うものの、事実なら大問題だろう。
ニヤリと笑うロウフは、全て知っているようにも見える。
「まあ、ギルドを作りたくなったらいつでも言ってくれ、その時に神選会の事も考えよう……その時にまた、悪い噂を教えるよ」
初登場
商人ギルドマスター:ロウフ
登場人物(名前のみ)
大富豪:ハルビア・トキアス




