第十二話 その治療に、違和感あり
「トキアス様、いらっしゃいませ」
今日の営業を終え、約束の診察日。
迎えた羽澄はトキアスの顔色に気づく、体の不調を治したはずなのに、どこか元気がなさそうだった。
「羽澄君のおかげで、快適な日常を過ごさせてもらっているよ」
確かに馬車から降りるトキアスの手には杖はないし、両足でしっかりと踏み締めている。
(だけど……何かおかしい)
「それはよかったです、念の為検査しますのでこちらへ」
気になりつつも、聖骨院に案内する羽澄。
聖骨院に向かうトキアスの後ろに誰もいないことに気がついた。
「フォルンさんは今日いらして無いんですか?」
その言葉にトキアスは苦笑する。
「妻は心配性でな、この新しい技術を疑っておるのだよ」
「心配性、ですか」
話しながら「よろしく頼む」と、施術用ベッドに座る。
羽澄は簡易的な台を出し、怪我していた足を乗せてもらう。
「失礼します、あー、もう大丈夫ですね……お願いしていた回復魔法もちゃんとかけてありますし」
(と言うかフォルンさん、本当に回復魔法使えるのか)
使える魔法を勘違いしている可能性も考えていたが、その説は消えた。
「本当に治ったのだな……ありがとう、羽澄君」
「お役に立てて、私も嬉しいです。
――それで、フォルンさんの心配性とは?」
施術を終え、世間話程度に聞いてみれば、トキアスは苦笑いをして話し始める。
「実は施術を受けた日から腹痛に悩まされてなぁ、私は関係ないと言っておるのだが、フォルンはこの治療が原因だと言っていてなぁ」
「腹痛?」
「ああ、フォルンに回復魔法をかけてもらったのだが、治らなくてな」
(それが顔色が悪い理由か)
新たなトキアスの悩みに、羽澄は眉をひそめた。
「骨のずれを治してから便通が良くなることはありますが、悪くなることはあまり無いですね」
「そうだろ? おそらく私の不摂生だと思うのだが」
「ちなみに浄化魔法はかけられました?」
すると後ろからコルヴァンが指摘する。
「病気は回復魔法でほとんど治りますが、毒素のものは浄化魔法でないと良くならないので」
「ああ、もちろん、フォルンにかけてもらった」
トキアスの言葉に、羽澄とコルヴァンは顔を合わせた。
「そうでしたか、それでは念のため、俺も浄化魔法をかけましょうか」
「ふむ……」
「無理にと、言うわけでは……」
「いや、是非かけて見てくれ、これで良くなればもうけもんだ」
その言葉に従い、コルヴァンはトキアスのお腹に浄化魔法をかける。
――パァッ
トキアスのお腹がすーっと冷めるような感覚になる。
「やはり、妙だな……」
「トキアス様、効きませんでしたか?」
「いや、そんなことはない、痛みが和らいだ気がする」
「もし治らなかった場合はまた相談していただければ……」
「それなんだが、一つ相談したいことがあってな」
「一斉診察とは助かるぞ、家臣たちも喜ぶだろう。
念の為……フォルンに受けさせてやりたいと思っていたんだ」
「はい、明後日、聖骨院をお休みするので。
怪我や骨の担当が私とミロル、病気担当がコルヴァンで診察・治療していきます」
「それで頼む、もちろん治療分の料金は私が払おう。
明後日だな、迎えの馬車をこちらによこそう」
(全員調べれば、トキアス様の周りで何が起きているか、分かるかも……)
トキアスの体調について雑談していたが、流れでトキアスの屋敷にいる、家臣たちの一斉診察をすることとなった羽澄たち。
羽澄は病気が治せない分、回復魔法を使えばほとんどの治療が可能だろう。
(それに、フォルンさんのことも……)
ずっと抱えていたもやもやが晴れそうな気がして、羽澄は気を引き締めるのだった。
「それで、今度は私が力になれそうな話かな?」
「はい、色々ご相談があります」
事務所の椅子に座って貰い、机に資料を広げる。
「平民でも治療を受けられる仕組みを考えておりまして、ご意見を聞かせて頂けますか?」
「分かった、私もこの技術は誰でも受けるべきだと思っている……できる限り力になろう」
心強い言葉を言った後、トキアスは資料を一枚ずつ確認してゆく。
【平等に治療を受けられる仕組みについて】
1.料金を労働
職人なら治療後に、料金の代わりとして仕事を依頼。
職人以外は仕入れた薬草で、治癒の貼布作成を依頼し、治療の一部に当てて貰う。
2.物々交換
交換するものは未定。
3.復帰した騎士による支援
この支援に関しては元騎士を対象とし、元騎士が減った場合平民への支援にまわす。
【治癒の貼布(仮)】
・痛み軽減
・炎症を抑える
・冷却
・温め効果
(ほう、しっかりと考えられてるな)
トキアスは内心で感心しつつ、冷静に質問をする。
「この貼布というのは?」
「それは布に薬草と魔力を混ぜて作る、患部に効果的な薬布です」
「なるほど……粗削りではあるが、この貼布を使って色々手を加えれば……」
一通り読んだトキアスは、少し考えた後、顔を上げて羽澄に提案する。
「1が現実的だな、薬草に関しては冒険者ギルドに依頼すれば、継続的な入手経路となるだろう」
「なるほど、冒険者ギルドですか」
「それに薬草の新たな使い道ができるのがとても良い。
3に関しては騎士がわの善意ではあるが、その流れが出来ればとても良い仕組みになるだろう」
「明日からテリクスとシコウが城の騎士に戻りますので、彼等とも話を進めようかと」
「加えていつか、募金・保険・積み立てなども構築できればと考えております」
羽澄はそう付け加えてトキアスの様子を伺う。
(そんなことまで考えていたのか)
「ふむ、悪くない」
コルヴァンのフォローもあり、顔をほころばせながら分析するトキアスに、羽澄はほっと息を吐く、しかし。
「ただ問題は、これが全て【個人間のやりとり】と言うところだ。
口約束は、いつでも破られる可能性を秘めている」
鋭い指摘に三人ともなんとも言えない表情となる、確かにこの聖骨院には全て個人のやりとりだ。
(確かに、これは信頼関係がないと成り立たない)
「ちなみに聖骨院はちゃんと届けだしているか?」
「はい、商人ギルドに登録しています」
「なるほど、商人ギルドを利用して、手数料はかかるが、仲介に入って貰う手もあるが……」
またも考え込んでから、顔を上げる。
「私はずっと考えていたことがある」
そう言うと、何か決心したように羽澄の目を見た。
「治療師ギルドを立ち上げて見てはどうだ?」
「え、私が、ギルドですか?」
「そうだ、ギルド長を別に立てて、発起人として関われば、このまま聖骨院を続けることができる」
「……私が」
(そんな重大な役目を……)
「今は商人・職人・冒険者のギルドはあるが、治癒師にはギルドがない。
よく言えば自由・悪く言えば無法地帯だ。
高額で治癒するものもいれば、自分の身を削ってタダ同然で治癒するものもいる」
そこで話を区切ると、全員コルヴァンを見つめる。
「しかしほっとけなくて……」
「それは優しさではない、他の治癒師には迷惑な話だ」
トキアスにズバッと言われて、コルヴァンは何も言い返せなかった。
「……俺、秩序を乱していたんですね」
「そうだな」
厳しい事実に、コルヴァンは肩を落とした。
「たとえ詐欺まがいな事があっても、誰も取り締まるものがいない……店を開かなければ商人ギルドに登録する必要もないからな」
これはこの世界にある昔からの悩みでもある。
「ギルドが出来れば、寄付や保険の仕組みも立てることが出来る……どうか考えて見てほしい」
(そんな責任が重い役割を……私が?)
「何故、いきなりこの国に現れた、私なんですか?」
「それは説得力があるからだ」
「説得力?」
「その素晴らしい技術は羽澄君にしか出来ない、技術の高さは信頼の厚さと比例する」
(私の技術……)
「後は患者のことを考え、平等に受けられる仕組みを考えるところも、信頼できる」
言われて思い出されるのは、治した患者の嬉しそうな笑顔、テリクスとシコウは喜びの涙さえ流していた。
「――私に、できるでしょうか……」
「絶対できる……どうか考えてみてくれ」
羽澄の返事に、トキアスは期待のまなざしを向けた。
話が一段落したところで、ミロルが口を開いた。
「トキアス様、時間を頂いて申し訳ないのですが、最後にもう一つ教えて頂きたいことが」
それは羽澄の魔法について。
「もしかしたら羽澄ちゃんが、珍しい魔法を使えるかもしれなくて……魔法鑑定をしたいのですが――」
「魔法鑑定か、彼女とは古い知り合いなのだが……難しいな」
「難しい?」
「約三十年前にとある罪を犯してしまってな……それから隣国のファルケ国の許可なしでは、国を出ることすらできないそうだ」
――三十年前のファルケ国。
ミロルはその言葉に体を震わせる。
(その、時期は……)
ざわりと、ミロルの心がざわついた。
「それは、どんな……罪なんですか?」
そうたずねると、トキアスは答える。
「なんでも当時、ファルケ国の第二王女の魔法鑑定を、偽って報告したそうだ」
登場人物
大富豪:ハルビア・トキアス
名前のみ
大富豪妻:ハルビア・フォルン
剣士:サーン・テリクス(班長、妻子あり)
弓兵:チョウ・シコウ(一番後輩)




