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巨乳が価値のない世界へ――セクハラに疲れ、看護師を辞めて、異世界で聖骨院を開業する  作者: 橋守 六花
第三章 ギルド開設編 〜治療の光と、つきまとう影〜

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第九十九話 無き罪を背負う者、有る罪を償う国

 その日はモズ国でのことが落ち着き、冒険者ギルドでバッセルとギブスが復帰する日だった。

 ストリはギルド連合会館の治療師ギルドで、受付のフォルンと打ち合わせをしている時だった。


「こんなの認められるわけないだろ!」


 突然バッセルの大きな声が聞こえ、ストリとフォルンがビクッと肩を震わせた。


「認めるも何も、これが俺の意思だ」


 対照的に落ち着いたギブスの声に、フォルンと二人で、声の聞こえる冒険者ギルドの職務室を覗き込む。

 そこには何か書類をバッセルに渡しているギブスの姿があった。


「ギルドの管理職を辞める? ダメッ、絶対ダメ!」

「ダメと言われても困る、俺はこの国を出て、冒険者に転職するのだからな」

「! じゃあますます認められないよ!」


(ギブスに何も罰則はないと伝えたんだけど……ギブスの意思は固い、か)


 ストリはなんとなく想像できていた会話を聞いて、ギブスの頑固さに少しがっかりする。


「血が繋がっていないとはいえ、俺の家族が侵した罪だ……俺にも育ててもらった恩がある、なのにその罪を無かったことにはできない」

「まってまって、ギブスは何も知らなかったんだ。

 それに罪をなすりつけられた被害者でもある、だからギブスが責任を取ることないんだよ」

「しかし……生まれてから家族だった人間の罪を、他人事のように無視はできない」

「っ……」

「これが俺なりのけじめなんだ」


 ギブスの覚悟ある言葉に、バッセルは言葉を詰まらせる。


「……笑えるよな、貴族と冒険者の間に入っていた俺が貴族でもなんでもないなんて。

 こんな詐欺みたいなことをしておいて、ここで働きたい、なんて都合が良すぎるだろ」


 懺悔のような言葉の中に、本当はやめたくない……と言う感情が見え隠れする。


 そんな暗い空気に、一際大きな声が職務室――いや、ギルド会館中に響き渡る。


「おいおい、ギブスが辞めるとなったら俺が帰ってこられないだろ」


 ストリより、フォルンより後ろから聞こえた声……そこには仁王立ちでバッセルとギブスに笑いかける――前ギルドマスターのアクロが立っていた。


「なんで偉そうにしているんだ」

「そうよ、先に謝らなきゃ」

「むぅ? た、確かに」


 アクロを挟むように、商人ギルドマスターのロウフと、職人ギルドマスターのヴェルが隣に立ってツッコミを入れる。


 アクロは強面な顔と大きな体を、嘘みたいに小さくしつつバッセルとギブスに少し頭を下げた。


「迷惑をかけてすまない」

「だからそういうところが偉そうなんだって」

「ご、ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

「まあ、良いんじゃないかしら? 頭が高いような気もするけど」

「大変申し訳ありませんでした-!」


 腰を九十度曲げて謝罪するアクロに、やっと納得がいったようにロウフとヴェルが笑う。

 まるで漫才のようなやりとりに、その場にいた全員があっけにとられていた。

 そして顔を上げたアクロが説明のため口を開く。


「えー……なんだ、今回遊毒茸の栽培場を発見した功績として、冒険者ギルド幹部に戻して貰うことができた」

「え、あっ、それなら僕はマスターをお返し……」

「それはならない、あくまでもカルロ事件の罪人として罪を償っただけだ……マスターの資格が戻った訳ではない――俺はバッセルを支える幹部だ」

「アクロ、殿……わかりました、また一緒に働けることに感謝します」


 バッセルは嬉しそうに笑い、アクロと堅い握手をした。


「――ギブス、お前も一緒にギルドで働こう」

「いや……俺は」

「事情は聞いた……が、罪を犯していないお前がいてくれないと、罪を犯した俺は戻れない」

「……」

「だいたい、もし血が繋がっていたとしても……親兄弟の人生と、お前の人生は全く違う」

「それは……」

「それに、ギブスに罪をなすりつけようとした相手、お前の人生に必要ないだろう」

「……」

「それでも意思がかたいなら、お前が冒険者になるなら、俺もついて行くぞっ。

 良いのか?」

「なんで脅しみたいに言うんですか」

「じゃあ僕もついて行きます」

「はあ? バッセル、それはダメだろ」

「ダメじゃないっ」


 まるで子供のような二人にそう迫られて、ギブスは軽く頭を振り、諦めたように笑った。


「わかった、残る……ギルドの幹部として、働かせてください」


 そう頭を下げるギブスに、バッセルは微笑みながら口を開いた。


「もちろんだ……二人とも、おかえりなさい」


 その言葉に、はらはら見守っていたストリとフォルン、そしてロウフとヴェルも、ほっとしたように微笑んでいた。



 そして数週間後、ガルーダ国王は中立の国、シュバーン国に到着していた。

 シュバーン国は戦争や対立を好まず、中立国としてこの世界の均衡を保つ存在とも言える。


 その均衡を乱したとしてシュバーン国のスワミ国王のもと、モズ国……関係国としてリューゲル国への尋問が、執り行われることとなった。


 大陸盟約堂に集まった各国王たちが、それぞれの思いでモズ国とリューゲル国に注目する。

 ファルケ国のケツァル国王は、心配そうにリューゲル国のガルーダ国王を見守っていた。


「コンカ家は遊毒茸の栽培と違法薬物の使用、そしてモズ国への販売……そして養子に取った息子に、濡れ衣を着せようとした罪で、すでに裁判済みです。

 処分は家名・爵位剥奪・財産没収――首謀者のカルガノは無期懲役、積極的に加担した次男・サイシンは期限を定めない長期服役。

 夫人・長女と、関与した家臣に関しては、地下労働場で労働となっています」

「その、罪を着せられそうになった養子はどうなった」

「コンカ家から没収した財産から、賠償と無理やり投与された薬物の治療費を払った。

 彼は被害者なため、国の庇護対象としている」


 事実に基づく報告に、シュバーン国のスワミ国王は深く頷きながら、今度はモズ国のカモイ国王へ視線を移動させる。


「それではカモイ国王、現在私に届いている報告によれば――戦争を起こすために、違法薬物の使用を、モズ国で正当化させようとした……それで間違いないな?」

「……はい、間違いありません」

「それだけか? 何か言い分や言い訳があるだろう」

「自国の恥をこの場で語るつもりはない」

「ふむ、そうか」

「ただ、リューゲル国には悪いことをした……巻き込んでしまい、申し訳なかった」


 潔く言い訳をせず、ガルーダ国王に謝罪するカモイ国王。

 しかしこれは戦争をすることができなかったからこそ、出た謝罪だ。

 もしも、遊毒茸の栽培や違法薬物を増強剤として使用できていたら、今のように謝ることはないし、戦争を押し進めただろう。


 これ以上罪を大きくしないため、打算の謝罪とも言える。


「まあ、謝ればすむことではないがな」


 ぽつりと呟くのは、工業と交易が盛んなパゴーニ国のピーコック国王だ。

 十二カ国で一番裕福なこの国は、にやりと笑ってガルーダ国王にも追撃する。


「私が思うに、事の発端はリューゲル国にある。

 この二つの国から、迷惑料としてこの十二国に罰金を支払う……というのはどうだ?」

「ピーコック国王、不用意な発言は控えていただきたい」


 スワミ国王が進行役として、ピーコック国王の発言を制止する、そのまじめなトーンに「冗談だよ」とピーコック国王は肩を竦めた。


「スワミ国王、この話し合いについて、一つよろしいだろうか」

「ケツァル国王、それはこの会議に関係する発言か?」

「もちろん……まず処罰の前に、遊毒茸や違法薬物について話を進めるべきかと思う」

「なるほど……そのまま発言を許可する」

「許可、感謝する。

 まず、遊毒茸だが、今回の事件に伴いガルーダ国王から依頼を受け、遊毒茸の研究をさせて貰った」

「そうだな、ファルケ国が研究し、遊毒茸の処分方法を見つけてくれたおかげで、防げた事件でもある」


 ガルーダ国王の言葉に、国王たちが驚きの声を上げた。

 そしてケツァル国王も冷静に口を開いた。


「その反応を見る限り、遊毒茸の処分に苦慮している国は少なくないようだな。

 それならなおさら、情報を共有した方がいいだろう。

 今回研究でわかったのは、遊毒茸の処分方法。

 そして違法薬物の依存性を、早く体から取り除く薬の作成だ」

「薬まで……遊毒茸が、脅威ではなくなる日が来るとはな……」


 スワミ国王が呟き、そして黙ってケツァル国王の話を聞く。


「あくまでもまだ、研究中だが……」


 そう前置きした後、遊毒茸にとある魔法をかければ胞子を出さずに処分できること。

 そして薬に関しては詳細のレシピをあえて公開した。


「なるほど、胃を浄化する薬……」


 誰かともなく、関心の声が上がる。


「治療試験の結果効果があると確認した、しかも荒れた胃にも効果があったと報告された」


――おー。


 感心した声が上がるが、調子に乗ることもなくケツァル国王は淡々と続ける。


「この治療薬は皆さんで早急に作成し、現在遊毒茸の依存性に困っている民に配ることをお勧めします。

 薬の詳細については、皆さんに共有し必要であれば我が国へ依頼していただければ製造します」

「ちなみに」


 ケツァル国王に続けて、ガルーダ国王は言葉を続けた。


「遊毒茸を処分する魔法は珍しく、使える人間が限られている。

 我が国で使用できる使い手は確保済みだが、その者の安全のため詳細は控えさせて貰う。

 各国が互いの立場を尊重し、合意に至るのであれば、リューゲル国へ処分の依頼有り次第、処分用部隊を派遣しよう」


 その発言以降、リューゲル国の責任を責める国は現れず、以下の内容が決まった。



【遊毒茸・違法薬物について】


・使用・栽培禁止

 遊毒茸を見つけ次第、リューゲル国に報告し処分を依頼すること。

 違法薬物使用者は国で保護し、治療薬を投与すること。


【モズ国としての処罰】


・兵士増強剤を使用可能とする法律を撤回すること。

・リューゲル国への賠償、外交時に発生した金額の返還。

 リューゲル国はあくまでも被害国で有り、責任は追及しない。

・ファルケ国へ、研究時に発生した金額の補填。

・一年間、監視対象国とし、その間に問題が起きれば、さらに処罰を重くする。



「以上で相違ないか」


 スワミ国王の言葉に、反論する人間はいなかった。

 最初は、リューゲル国の責任を追及していたピーコック国王も、不満な表情だが反論はしない。


 しかしここで手を上げた国王がいた、ガルーダ国王だ。


「モズ国の措置について、増やして欲しい項目があります」

「勝手にしろ、いくらでも処罰を増やせば良い」

「処罰じゃない、更生だ」

「は?」


 多少投げやりなカモイ国王の言葉にガルーダ国王は、少し微笑みながら提案した。


「我が国の有能な商人・トキアスと、有能な職人・ヴォルクスを、監視指導役として派遣させて欲しい」


初登場

中立国のシュバーン国:フラ・スワミ国王

工業と交易が盛んなパゴーニ国:ヨルミ・ピーコック国王


登場人物

第三王子:ヴァルディア・ストリ

新冒険者ギルドマスター:アルセイ・バッセル

ギルド運営:ギブス

商人ギルドマスター:ロウフ

職人ギルドマスター:ヴェル

前冒険者ギルドマスター:アクロ

リューゲル国:ヴァルディ・ガルーダ国王

モズ国:アウトリ・カモイ国王

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