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居眠り伯と万能の天才公爵  作者: 中里勇史
敵は天才公爵

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手紙

 カーリルン公領の首府フロンリオンに居るアルリフィーアも、数字という敵と戦っていた。

 目下の課題は、増大する戦費の工面である。宿老ベルロントからサルダヴィア領を継承したノイルロントに「増税が必要である」と進言されて眉間に皺を寄せていた。


「まずは宮殿の予算を極力削ろうではないか。何か緊縮策はないのか?」


カーリルン公(アルリフィーア)は装束の仕立てもほとんどせず、食事も最低限。実のところ、驚くほど『安上がり』なのです。これ以上減らせるのは、使用人の数だけです」


「使用人を解雇せよと言うのか? それはならぬ」


 アルリフィーアは眉間に皺を寄せてノイルロントを睨んだ。だがノイルロントは涼しい顔を崩さない。アルリフィーアに睨まれることには慣れてしまっている。


「そうおっしゃると思っておりました。そもそも使用人を全員解雇したところで戦費の足しにはなりません」


「では何を削ればよいのか」


「緊縮財政では限界があります。先ほど申し上げた通り、カーリルン公はそもそも大してお金を使っておりません。歳入を増やすしかないのです」


「戦争に民は関係あるまい。その民に負担を強いるのは気が進まぬ」


「以前から申し上げておりますが、カーリルン公領は税が低過ぎるのです。撫民も結構ですが、非常時の貯えもまた必要。貯えがろくにないというのでは、災害時の救民もままなりません」


 ベルロントはこうしたとき、諭すようにやんわりとアルリフィーアを導いていた。だがノイルロントには老練さが欠けており、正論で畳みかけるきらいがある。

 アルリフィーアは反論できず、「む~」と唸って黙ってしまった。


「公爵は、民によく思われたいだけなのです。単に、嫌われたくないだけなのです。民に媚びるだけではいけません。不人気な政策も行い、民が困ったときに手を差し伸べることこそが肝要。父は公爵の意を極力かなえてきましたが、私はそれが正しいとは思いませぬ」


「そなたのはっきりした物言いは腹立たしいが、正しいことは認める。じゃが増税といっても税を上げればいいというものではあるまい。策はあるのか」


 ノイルロントの直言を受けてこめかみに青筋を浮かべつつ、アルリフィーアは全力で笑顔を作った。ここは君主としての度量を示さねばならない。


「まずはオールデン川に通行税をかけます。他領の民にも負担させることで納得感がありましょう。そもそもこの重要な川に通行税をかけていないのが異常なのです」


「最後は余計じゃ。それで?」


「農作物、特に小麦の貢納も増やします。これは荒政の際にも役立ちます」


「民のための貯えという側面もあるということじゃな」


「もちろん既に荒政用の備蓄はありますが、不十分です。広範囲に干ばつなどが発生すると賄えません。この際、民にも理由をしっかり説明しつつ備蓄小麦を増やすべきです」


「うむ」


「増税といっても、近隣の他領よりも低く抑えます。『他よりはマシ』というのは有効です」


「相分かった。では、ゾルトアエル卿やレオテミル卿とも十分に協議して委細を固めよ」


 アルリフィーアはふーっとため息をついた。

 ノイルロントの言葉が思いの外こたえた。


「民によく思われたいだけではないのです。単に、嫌われたくないだけなのです」


 ――そうかもしれない。

 何だか落ち込んできた。


 うつむくと、どんどん気持ちが沈んできた。


 いや、凹んでいる場合ではない。

 政務を終えて談話室に行くと、エメレネアがフェルティスの相手をしていた。


「はーうえ(母上)、お仕事終わった?」


「うむ。フェルティスは良い子にしておったか?」


「エメレーと遊んでた」


「それはよかったのう」


「ちーうえ(父上)、遊びにこないね。死んじゃった?」


 フェルティスが、「不思議だ」という顔をして首をかしげた。


「そうじゃ、サルダヴィア卿(ノイルロント)から手紙を受け取ったのじゃ」


 アルリフィーアは、懐から手紙を取り出した。戦地に居るウィンからの初めての手紙である。


「何じゃ、汚い字じゃな。『公爵に手紙を書けとニレロティス卿に怒られたので書きました』……要らんことを書くやつじゃ。『ニレロティス卿と合流して、ファッテン伯領のカルトメイメンに着いた。吹雪で寒くて死にそうだった。ヌヴァロークノ王と戦う予定だ。手紙って何書いたらいいんだろうね』。えっ? これだけか?」


「戦地から妻に当てた手紙とは思えませんね……」


 エメレネアもあきれた。


「お手紙、面白くないね」


 フェルティスは悲しそうな顔をして母の顔をのぞき込んだ。


「まあ、あの男にちょっと期待したワシが愚かであった。帰ってきたら一発どついてから手紙の書き方を指南してくれる」


 そう言いながらも、アルリフィーアは少し嬉しかった。とにかく、ニレロティスとも合流を果たして無事でいることが分かったのだ。

 生きている、ということだけでも十分ではないか。


 アルリフィーアは、ウィンの手紙をそっと抱き締めた。

 この一通が、ウィンから受け取った最初で最後の手紙であった――。

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