# 95 出発前日のお話 その2
アレスとアレクが私たちのテーブルへ来てくれた
「サクラ様、やっと自分たちの番が来ました」アレクが元気に言う
「アレク、アレス! 来てくれありがとう。……んッ? 順番? って何?」
「サクラ様の所へ皆が一斉に押し掛けない様にペターソン様がサクラ様のテーブルに行きたい人を順番に案内しているんですよ」
「ダイアナも手伝ってるみたいで「サクラ様とお話されたい方はこちらに並んで下さ〜い」って張り切ってます」アレスとアレクが説明してくれる
なるほど……だからこんなに流れる様にみんなとお話出来てたんだ……神官殿……凄いな
「ペターソンさんにもダイアナにも後でお礼を言いに行かないとね。こんなにスムーズにみんなとお話出来るのはふたりのお陰なんだね。感謝の気持ちで一杯だよ」ちょっと緩くなってる涙腺が崩壊しそうになるのを堪えて笑顔をシェリーとセバスチャンに向ける。ふたりは笑顔で返してくれた
「そうだっ、ダイアナにこっちに来て一緒に食事しよう? って伝えて貰えるかな? ダイアナの姿が見えなくなって気になってたんだよね。神官殿のお手伝いをしてるのならすぐには動けないかもしれないけど……」
「分かりました。伝えます……あの……」アレスがチラッとアレクの方を見てアレクもなんだかそれに応えてる?
そして「俺達も……御一緒させて頂く訳には……」申し訳なさそうに言葉を続けた
「もちろんだよ。みんなでワイワイ食事するのが楽しいし、アレスやアレクともまだ話足りないよ。待ってるからね」
名残惜しそうなアレスとアレクを見送った後も町の人達との会話を楽しんだ。餞別……と言うかプレゼントも沢山頂いて私たちのテーブル後ろにはこんもりと山が出来ていた
もうホント! 『恐縮至極』って言うのはこういう気持ちなのかな……みんなの気持ちは凄く嬉しいんだけど同時に申し訳無い気持ちも湧き上がってくる
特に目的もなく出掛けるだけのつもりなのに……こんな盛大なパーティーになっちゃって……
「お嬢様?」セバスチャンの声にハッとなる
「なんか申し訳無い気持ちになっちゃって……こんなに良くしてもらって良いのかな……」視線が落ちる……
「少し歩きましょうか?」
「えっ?!」突然の言葉にセバスチャンを凝視する。そこにはにこやかな笑顔があった
「さぁ」反射的に差し出されたセバスチャンの手を取って立ち上がる
「見て下さい。皆、とても良い表情をしていると思いませんか?」歩きながらセバスチャンに言われる
「うん。そうだね。みんな楽しそう」つられて私まで笑顔になってしまいそうだ……ってかなっちゃってるけどハハッ……
「きっかけは皆のお嬢様への気持ちですが、こうして町中の皆が楽しめるパーティーになっています。お嬢様も……この中のひとりに変わりありません。このパーティーの主旨などたわいもない事だと思いませんか?」セバスチャンのいたずらっぽい瞳にちょっとドキッとする
「サクラさま〜」町の子供たちが集まって来て囲まれる
「みんな、パーティー楽しい?」腰を落として子供たちと視線を合わせる
「うん。楽しい!」「美味しいものがたくさんあるよ」「いっぱい遊んだよ」とびきりの笑顔と一緒に元気な声が飛んでくる
「サクラさまも楽しい?」
「もちろんっ! すっごく楽しいよ。みんなも楽しそうで嬉しい」
「ねぇサクラさま、あっちに集まってる母さん達もサクラさまとお話したいって言ってたよ」女の子に手を引かれる
「んっ? そうなの? 行っても良いかな?」
「うんっ!」女の子は元気良く駆け出した
「皆サクラ様とお話したいのですね」シェリーが柔らかな眼差しを女の子の駆けて行く先に向ける
「そう……なのかな? なんか嬉しいけど照れるね」
「話したいけど面と向かうのは躊躇われる。という方も多いと思われます。こうしてサクラ様がテーブルを回られると皆様喜ばれるのではないでしょうか」
私達はしばらくあちこちのテーブルを巡って町の人達との交流を楽しんだ。シェリーの言う通り列に並ぶのは恥ずかしかったけどこうして私たちと話が出来て嬉しいと言ってくれた
途中ダイアナも合流して一緒に行動出来た。いつの間にかアレスとアレクも居たのにはちょっと驚いたかな?
ダイアナが加わってテーブル移動がより一層スムーズになった。流石町中……いや国中を知り尽くしているダイアナだ。全てにおいて抜かりがないって感じがした
私のお世話ばかりで楽しめてるのかな? と少し心配していたシェリーとセバスチャンもみんなに囲まれて楽しそうにしていてホッとした
天ちゃんとレイの側には子供たちや若い子たちが集まっていた。天ちゃんは子供たちと遊んで楽しそうだし、女の子はやっぱり可愛い天ちゃんが大好きみたいで見ていてほっこりした
仕切ってる感のあるレイは……なんだかんだ言いながら面倒見が良いお姉さん感はあるものの、相変わらずの壁を作ってる感も出して居て有無を言わせない仕切りをしていた
和やかな食事とか共に特設ステージでは国の皆が代わる代わる特技を披露していた。歓声や拍手が起こりこちらも盛り上がっている。私が特に心惹かれて見入ったのが騎士団による『剣舞』だった
剣を持ち舞う剣舞……「格好良い」なんて簡単な言葉では済ませられない程圧巻だった。しばらく呆けてしまうほど感動した。また観られる機会があると良いな〜
朝まで続くのでは? なんて思うほどの盛り上がりを見せた宴会……パーティーだったが、夜も更けるに連れて少しずつ人も減って行った
私たちは翌日の出発もあるので頃合を見て抜けさせて貰った
そしていつものメンバーで会場を出て《温泉》へ向かった。しばらく温泉に入る事も出来ないから今夜は大きな方にみんなでワイワイと入るのだ!
天ちゃんはいつもの様に私に付いて来ようとしたが、アレクに捕まり《男湯》へ連行されてしまった。男の子たちと温泉に入る機会が無いから良かったかも? なんて思いつつ天ちゃんを見送った
ダイアナが背中を流してくれたので私はシェリーの背中を流した。洗いっこ出来るなんてなんだかちょっと恥ずかしくはあるけど楽しいひと時を過ごした
温泉に顎の辺りまで浸かっていると、ダイアナの背中を流しているシェリーに「サクラ様は本当に温泉がお好きですね」としみじみと言われてしまった
「うーん。温泉って言うか、お風呂は好き……なのかな〜。でもただ湯船に浸かってるのが好きなだけで身体とか髪とか……洗うのは面倒で好きじゃないかも……」
「サクラ様っ! 私がいつでもサクラ様のお身体を清めますのでっ! 修行が一段落した暁には私をサクラ様のお付にして下さい!」と、ダイアナが目を輝かせて私を見た
「き、気持ちは嬉しけど……自分の事は自分でしないと……ね? 出来るだけ……」普段からシェリーに頼ってばかりの私はあまり強くは言えない……
「ふふっ。それはさて置き、こんな風に一緒に温泉に入るのも良いものですね」シェリーがバッサリとダイアナの申し出を断ち切る……
「うんうん。また来ようね」少し不服顔のダイアナに更に続ける
「家にこんな大きな浴室があると良いんだけどね〜。流石にお城クラスじゃないと無理だよね……あ〜でもユーラシアンのお風呂は普通……いや広さは普通じゃなかったけどバスタブは普通だったね。お客様用のお風呂だったのかもだけど……」王宮のお風呂を思い出しながら呟いた
「サクラ様はどの様な浴室をお望みなのですか?」ダイアナにキラキラとした瞳で聞かれ妄想炸裂の王宮のお風呂のイメージを披露してしまった……恥ずっ……
余談だが、セバスチャン、アレス、アレクと共に男湯に行った天ちゃんは上機嫌で《男同士》と言うフレーズがマイブームになったようだった。その後セバスチャンについて回る事が多くなった気がする
――つづく――




