# 96 鍛錬の森へ その1
温泉で疲れを癒し、お風呂上がりの牛乳もぐびぐびと飲んで解散となった
翌朝は少し寝坊をしてリビングに顔を出すと既にみんな起きていた
「おはよ〜ちょっと寝過ごしちゃった……ごめんね」
「サクラ様、おはようございます。大丈夫でございますよ。いつもとそれほど変わりありませんから」シェリーがにこやかに挨拶を返してくれる
《サクラさま、おはよ〜。ボクね、今日は1番に起きたよ。セバスチャンより早かったの》天ちゃんが得意げに言って私にスリスリしてくれる
「そうなの? 天ちゃんは早起きが出来たんだね」私は天ちゃんの頭を「凄いね。偉いね」と言いながらヨシヨシと撫でた
「セバスチャンが寝坊したんじゃないの? まぁ、天もいつもより早かったみたいだけどね」レイがセバスチャンに視線を送りつつ呟いた
「朝食をお持ち致しますね」セバスチャンはにこやかな笑顔をレイに向けた後キッチンへと姿を消した。……ん?セバスチャンも寝坊するんだ……私はぽやぽやな頭を傾げながら洗面所へ向かった
朝食を終えてコーヒーブレイク。落ち着いた所でいよいよ出発だ
ノーム様に【鍛錬の森】へ向かうご挨拶をして私たちは【迷いの森】目指した
しばらくおしゃべりしながら歩いていたが、ふと迷いの森ってこんなに遠かったっけ? と疑問が湧いてきた
「ねぇ、迷いの森ってまだ見えて来ない……よね?」
「そうでございますね。もう少し歩くと見えて来ると思いますが……?」シェリーが不思議そうなの表情を浮かべる
「迷いの森ってこんななの遠かった? 私、割とすぐに町を出て森だと思ってたんだけど……」なんかおかしい……町を出る門にもまだ辿り着かないなんて……こんなに遠かった? ……
「別に遠まりしてる訳じゃないよね?」私の言葉にみんなの足が止まり目を見開く……
「えっ? 私また何か変な事言った?」以前の『亜空間ではレベルアップしない』件が脳裏を過ぎって慌てる
「そう……でございますね……どうしてこんなに時間が掛かるのでしょう……サクラ様にご指摘頂くまで疑問にも思いませんでした……」シェリーが少し青ざめた顔で私を見つめる。そしてセバスチャンはこめかみを押さえて苦悶の表情……えっ?
「セバスチャン!?どうしたの? 大丈夫? 具合悪いの? 何処かで休む?」私はセバスチャンに駆け寄った
「大丈夫です。問題ございません……」セバスチャンはハッとした様に笑顔を浮かべた
「私からご説明致します。少し休憩も兼ねてお茶でも飲みながら……シェリー、テーブルの用意を手伝って頂けますか?」
「はい。すぐに」シェリーがテーブルや椅子を出してお茶の用意をしてくれる
「セバスチャン? 平気なの? 無理しないで?」私は椅子を勧められながら動揺する
「お心遣いありがとうございます。ですが心配には及びません。」いつもの笑顔に少しホッとする
「お嬢様……私もシェリー同様、お嬢様からの指摘があるまで【迷いの森】はまだ先だと思っておりました。ですがお嬢様の指摘でノーム様からのお言葉を思い出しました。これから説明させて頂きますので。お茶を飲みながら聞いて下さい」
「ノーム様?……分かった……」私はテーブルにつきシェリーが準備してくれる飲み物を待った
「世界中の大地は増減を繰り返しています」セバスチャンは少し逡巡した後にそう言った
「大地が増減? 増えたり減ったりするの? 土地が? 勝手に?」え〜っ何それっ?!
「いえ、勝手に増減する訳ではなく、女神様やノーム様……精霊王様のお力です」
「あ〜、なるほど……そっか……そうだよね……びっくりした。ははっ……」
「町の繁栄に伴って大地が増えたり、新たに様々な大地が出現したりします。分かりやすいのはダンジョンでしょうか? 」
「ダンジョンって女神様が作るの?」
「正しくはダンジョンが出現しそうな場所の大地を広げて下さる……そんな感じでしょうか? 民が増えた町には新たに家やお店などを増やせる大地を……他にも草原や森、山など……女神様、精霊王様のお力でございます」
「凄いね。そうやってこの世界はどんどん広がって行ってるって事なの?」私はワクワクしてセバスチャンを見つめる
「はい。左様でございます。ですが逆に消失する大地もございます」
「消失? ……そうか、『増減』って言ったよね……それって急に土地が無くなっちゃうって事なの?」
「今この世界は比較的平和を保っています。ですが戦が絶えない時代もありました。大地は荒廃し痩せ細り飢饉や疫病の蔓延……魔物の力が強大化した事により村や町を襲い村や町が廃墟と化すことも……負の連鎖を止める為にも大地を消滅させる事が必要となります。他にも人も動物も寄り付かず悪しき場所となりうる大地も消滅対象となります」
「サクラ様? 大丈夫でございますか?」シェリーに声を掛けられハッとする。無意識に握りしめた手のひらに当たった爪痕が痛い……
「うん。ありがとう。大丈夫だよ……ちょっとびっくりしたけど……」
「お茶を入れ直しますね」優しい眼差しでシェリーがカップを交換してくれる
「ありがとう」私は何とか笑顔を向けた
「申し訳ございません……」セバスチャンが困った様な笑顔を向けてくれつつ目を伏せる
「ううん。ごめん。私は大丈夫。ホント、ちょっとびっくりしただけ。ごめんね、心配掛けちゃって。もう平気だから話続けて?」妄想……いや想像力が災いしたな〜
「畏まりました。大地は増減しておりますが、それについて民は認識していません。先程私たちが迷いの森の位置をまだ先だと思っていたのはその為です。サクラ様は女神様や精霊王様と近しい存在ですので違和感を感じたのだと思います」セバスチャンがにっこりと満足気(?)に頷いた。近しいって……いやいや……なんか違うと思うけど……
「ノーム様に、サクラ様から異変を告げられた場合、眷属である我々もその事実に気付くであろうと言われました。そしてその時はサクラ様に説明する様にと。《大地の増減に気づいても他言しない様に》と」
「えっ? 話しちゃダメなの?」
「はい。先程の我々の様に他の人間にとってこの場所は既に存在していた場所なのです。新しく増えた事、大地が増減する事は知られてはなりません。民に混乱を招き悪しき方向へ向かわない為の処置だそうです」
「混乱……悪しき方向?」混乱は何となく分かるけど悪しき方向って……
「これまでの史実より増減等や女神様や精霊王様、更に言うならは我々精霊達の存在を明確に示す事は避けるべきだとの意向です」
「そう……なんだ……歴史が物語ってるなら仕方ないのかもしれないけど……なんか残念だね。自分達の努力が認めて貰えるって事でしょう? そして女神様、精霊王様、精霊のみんなに感謝の気持ちを祈りと共に捧げれば更に躍進出来るんじゃないのかな……」
「私もその通りだと思います。ですが……」セバスチャンが言い淀む
「まぁ人間の欲望は果てしないからね。感謝の気持ちなんて平和が当たり前になれば薄れるだろうし」レイが投げやりな口調で告げる
「れ、レイ!」シェリーが声を上げる
「ふっ……言葉のチョイスはアレですが……その通りと言うべきでしょうか」セバスチャンも困った様な顔はしてるけどレイの言葉を否定しない
「まぁ、そういう事よ。知らない方が丸く収まる事もあるって事」
「そう……なのかな……なんか納得いかないけど、ノーム様が喋っちゃダメって仰るのなら言わないよ。あ〜だけどみんなには話しても良いんでしょ? 私ひとりで抱え込むなんて耐えられないよ。みんなも共犯だよ!」ふふっとみんなの顔を見渡す
「はい。共有させて下さい」シェリーが頷く
「共犯……なかなか良い響きですね」セバスチャンの不敵な笑みがなんだか心強い
「いいんじゃない?」
《キョウハン……ってなぁに?》天ちゃんが不思議そうに聞く
「えっと共犯っていうのはね……」しまった! また天ちゃんに悪い言葉を教えてしまった……シェリーごめん! 思わずシェリーを見る
「天ちゃん? 『共犯』という言葉は本来悪い事の意味で使われる言葉です。ただ今回は悪い事ではなく『秘密をここにいるみんなだけものにして、他に人には言わない様にしましょう』という約束です。『共犯』というのはその秘密を共有する……仲間の事です。共有と言うのは知っている事を仲間に話して教え合うことです。分かりますか? 秘密……他の人には内緒ですよ。と言われた事は仲間以外には話してはいけません。そんな意味です」
シェリーの言葉に天ちゃんが頷く
「仲間だけが知ってる秘密ってカッコ良いじゃない。天、秘密の話は内緒に出来るよね? うっかり話してもダメだし、これは秘密だから言えない。とかも言ってもダメだよ?」
《分かった。ボク約束守れるよ。みんなが内緒って言った事は誰にも話さないよ》天ちゃんが力強く宣言した
「みんなの内緒事……それは……」シェリーは隣に居る私にしか聞こえない様な小さな声で呟いた。ん? シェリー少し考え込んだ様な感じで「今はこれで良しとしましょうか」とチラリとレイに視線を送った
――つづく――
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