# 75 旅に出ようと思うの
怒涛の日々を過ごして、温泉(大衆浴場)【エルドラド】が落ち着いて来たある日……
「そろそろ旅に出ようと思うの」
リビングで寛ぐ仲間にそう切り出した
「旅……ですか?」シェリーは少し戸惑った様な、だけどのんびりとした口調で聞き返してきた
ダイアナは……何も発せずに……驚いた様な顔をして固まってる? そんなに意外だったかな?
天ちゃんは《旅?》と小首を傾げている
レイはチラッと片目を開けて私を見たがまた目を閉じて眠ってしまった
「うん。『温泉』を皆んな使って欲しい……って目的がとりあえず果たせたでしょう? だから他の町にも行ってみたいな。って思ったの。どうかな?」
んっ? なんか今一瞬部屋の明かりが点滅……って言うか揺らめいた様な感じがあったんだけど……電球切れそうなのかな?
なんて事を考えて天井を見る。……気のせい?
「サクラ様?」シェリーから声が掛かる
「あっ、ごめん。今電気がなんか変だった気がしたから天井見てた。気のせいだったみたい」なんだったんだろう……
「あっ、旅って言ってもそんな大仰なものじゃないのよ。旅行的な…… そんな気軽な感じで他の町に行ってみたいな〜なんて思ったの。休息も兼ねて……旅先でみんなでのんびりするのもリフレッシュになるかな? って。どうかな?」
「リフレッシュ休暇の様な旅という事でしょうか?」シェリーが反応してくれた。ありがとう!
「うん。そんな感じ。特に何か目的があるとかじゃなくて行ったことのない場所ってワクワクしない?」
「サクラ様……」ダイアナが悲しそうな声を発する
「ダイアナ? ダイアナは旅はイヤ? 」
「旅はしてみたいです。いえ、したいです。でも……今はまだ私はこの国から出られません……」
「出られない? どうして? 理由を聞いても良い?」
「あっ、はい……私はまだ修行中の身です。ここで鍛錬を積む事が急務だと思っています。指南書に沿って徐々に出来る事も増えて来ました。でも……まだまだ学ぶ事が沢山あります。今はまだこの地で修行を積みたいのです」
「そっか……そうだね。分かった。ダイアナはホントに頑張り屋さんだね……」
私は……ショックを受けていた……ダイアナから一緒には行けない。なんて返答が返って来るとは思っていなかったからだ……
私は……いつの間にか驕り高ぶった人間になっていたのかもしれない……『サクラ様』なんて、様付けで呼ばれてみんなが慕ってくれてるって思って調子に乗っていたのだ。チートな能力だって本来私の実力なんかじゃないのに……
回りのみんなが私の為に動いてくれる事を当たり前の様に思ってた……情けない……私は愚かだ……悔しい……
「さ、サクラ様っ!?」ダイアナとシェリーの狼狽えた声に我に返る
自分の不甲斐なさに気付いて打ちのめされていたら、勝手に涙が溢れていた様だった
「あれっ? 私泣いてた?」間の抜けた声が出た
「サクラ様、申し訳ございませんっ。私がこの国から出られないなどと言ったから」ダイアナが苦悶の表情を浮かべている。今にも泣き出しそうだ
「違う違うっ! 逆だよ逆! ダイアナは何にも悪くないから! ごめんっ、そんな顔させて……」申し訳なくて涙が溢れた……泣きながらダイアナを抱きしめる
「ごめんね……私……傲慢になってた……何でも自分の思い通りになるって思ってたのかも……ダイアナが……ううん、他のみんなもだけど……私のやりたい事を応援してくれて……それが当たり前になってた……私……旅に出たいって言ったらみんな賛成してくれるって思い込んでで……みんなの気持ちは二の次になってた……ごめんね……ダイアナ……私、自分が傲慢になってるって思ったら何だか情けなくなって……勝手に涙が出てきちゃってたみたいなの」涙をぬぐいながら笑って見せた
「サクラ様は傲慢な方ではございませんよ? 本当に傲慢な人間と言うのは有無を言わさず自分の思い通りに事を運びますし、自分が傲慢な人間である事すら気にしないし気付きません」
「そうですよっ! サクラ様はいつも私たちを気遣って下さいます。傲慢なんて有り得ませんっ」ガシッとダイアナに腕を掴まれその勢いに気圧されていると
「ふんっ、甘いわね。あんた達がそうやって甘やかすから自分でも気付かないうちに我儘な人間になって行くんじゃないの?」レイが淡々とした口調で言った
私たち3人の視線がレイに集まる
「そっ、それにサクラも大袈裟なのよ」注目を集めて動揺したのか……レイはそっぽを向いてしまった
「はぁ〜」深いため息の後
「別に「さぁ旅に出るわよっ!」とか言って強引にみんなを引き連れて出掛け様とした訳でもないんだから傲慢って程じゃないって事よ。それに……自分で気づいたんでしょ? 我儘になってるのかもしれないって……」
「あっ……うん……我儘…………か……ありがとうレイ……なんかちょっと気持ちが楽になった……えへっ。まぁ我儘も傲慢も同じなんだろうけど……我儘はちょっと許して貰えそうな気がしちゃうね」
「……ったく……サクラは我儘と言うよりノーテンキって感じがするけどね」そう言うとレイはまた丸まって目をつぶった
「レイ、貴女には言葉遣いの指導が必要な様ですね」シェリーがハッとした様にレイに近寄った
……うーん……なんか今のシェリーの反応は一瞬レイの言葉に納得した様な感じがしたんだけど……まぁ……私も否定出来ない感はあるけど。
「まぁまぁシェリー、言い得て妙なり……って言うか……反論出来ない……よね? 確かに我儘だし大袈裟だった気もするし……あ〜でも能天気……はちょっと言い過ぎじゃないかなって気もするけど」んっ? ふたりが私を見た……
「あ〜なに? もしかしてふたり共私の事能天気な奴だと思ってるの? 酷くない? それ!」
「いえっ! 決してその様な事は……」ダイアナがオロオロしだした。う〜ん、何か逆に肯定されてる気がするんだけど
「その位にしといたら? 天が困ってるわよ」レイの言葉にハッとする。そう言えば天ちゃん静かだった……
「天ちゃん?」
《サクラさま? どうしたの? ダイアナも……ケンカ……しちゃダメだよ……シェリー……ボクどうしたら……》
「天ちゃん! ごめんね、驚かせて。私たちはケンカとかしてないから。大丈夫だよ。ごめんね。びっくりさせちゃったね……」天ちゃんを抱きしめた
――つづく――




