# 76 旅に出ようと思うの その2
「天、あっちで遊ぶわよ」まだ不安そうにしている天ちゃんにレイが声を掛ける
《レイ!》天ちゃんは嬉しそうに返事をしてレイを見たあと私に視線を戻した
「うん。レイと遊んでおいで。レイ、ありがとう。よろしくね」レイが天ちゃんを連れて私たちの元を離れた
「ワタクシもダイアナがサクラ様に同行しない選択を選ぶ事が頭になかったので正直驚きました」シェリーが淡々と話を元に戻してくれる
……そっか、シェリーも意外だったのね。なんかちょっとホッとする
「サクラ様。私がこの国を離れたくない理由には鍛錬もありますが、他にもあるのです」ダイアナが真剣な表情をした
「他にも……とはどの様な理由でしょうか?」シェリーが先を促す
「はい。今この国は急速に発展しています。そしてこの国の出身者が続々と戻って来ています。私はこの国の人々から情報収集をしたいのです。他の町や国の情報も含め、この国に集う人々の事も詳しく知りたい……そしてこれからの情報収集にも役立てたいのです。今が……一番情報を得られる時なのです」ダイアナの瞳は輝いていた
「なるほど……確かにダイアナの能力を発揮出来る良い機会ですね」シェリーが納得した様に頷く……いやそんな気がした
「はい。それに今は……この国の誕生……悲願でもあった自分たちの国を持つ事が出来た喜びに皆気が大きくなっているのです。それは普段だと話せない・話さない事まで話してくれる可能性が高いと言う事です。私はより多くの情報を得られる『今』を逃したくないのです」
なるほど……ダイアナはそんな事まで考えてたんだ……
「うん。よく分かったよ。私たちにも何か手伝える事があるかな?」意気込んでダイアナを見る……あれ? なんかダイアナが固まった?
「いえっ! サクラ様は普通にしていて下されば……は、初めてお耳にした話などがあれば教えて頂けると嬉しいですが……」
「サクラ様、ダイアナはその道のプロでございます。彼女に任せてしまうのが宜しいのではないでしょうか?」
「……うん……そうだね……」うー私にはお手伝い出来る事はないって事……なのかな〜
「ただ……サクラ様は時折ワタクシ達が気付かない事柄に着目される事がございす。それらがヒントやきっかけになる事もございます。何か気に掛る事がございましたらお話下さると手助けになるのではないでしょうか」
「うん、分かった。何か気づいたら話すね」
シェリーの心遣いなんだろうけど……私でも役に立てるのかな? って思えて嬉しかった
んっ?!気配を感じて振り向く。そこにはノーム様の様な緑色……もっと淡い黄緑色の球体が浮かんでいた
「精霊……さん?」即座に ダイアナが私の前に出て臨戦態勢を取る
《驚かせて申し訳ございません。話し掛けるタイミングを計っておりました。皆様に害を加えるつもりは毛頭ございませんので……警戒を解いて頂けますでしょうか?》
ノーム様と同じ様に頭の中で声が響いた。ノーム様よりずっと若い……イケボだ……
「ダイアナ、ありがとね。でも大丈夫だよ。ノーム様と同じ様な気配だから精霊さんだと思う」
「……はい」私の声にダイアナは肩の力を抜き私のそばに移動して来た
《ありがとうございます。おっしゃる通り私はこの木に宿る精霊です》
「えっ?!この木の精霊さんなの?! 凄いっ!」私はテンションが上がって精霊さんに近づく
「ここに住まわせてくれてありがとう。直接お礼が言えるなんて思ってなかったから嬉しいっ! お世話になってます」私は球体状の精霊さんに頭を下げた
《いえ、お礼だなんてとんでもありません。私も皆さんとこうして関わる事が出来て大変光栄に思っていますので……》
とても柔らかな優しいトーンの精霊さん……心地よい……
「それで? この木の精霊が今更出て来て何なの? まさかここから出て行けとか言わないわよね?」いつの間にか隣に来ていた天ちゃんに乗ったレイが言い放つ……
「れ、レイ? それはいくらなんでも……」
「だって今まで何のリアクションもなかったのに急に出て来て変じゃない!」
「レイ、おやめなさい」シェリーが戸惑いから立ち直ったのか? レイを窘める
「ふんっ!」レイはそう言って少しだけバツの悪そうな顔をしてそっぽを向いた
「精霊様、レイの非礼をお詫び致します。申し訳ございません」シェリーが精霊さんに向き直って謝罪する
《いえいえ。お気になさらないで下さい。思っている事を直接ぶつけて頂ける方が私にとっては有難いですのです。……私はまだまだ未熟者でして……皆様のお気持ち……真意を汲み取る術を身に付けておりませんので》
くぅ~なんて謙虚で紳士なんでしょう。物腰の柔らかさは天下一品だし、きっと身のこなしもスマートであらゆる事をそつなくこなせる人物と見た! そうっ! 彼は超一流の執事の様な精霊さんだ。ノーム様が神木ともなりうる木だって言って事も頷ける。もしかしたら彼は次世代の精霊王なのかもしれないな。うんうん。
そんな妄想を繰り広げていると視線を感じた……
「あっ……ごめん……ついあれこれ考えちゃって……」ポリポリと頭を搔く
「いつもの事だから誰も動じないわよ」レイが何故かドヤ顔だ……
「えっと……それで精霊さんはどうしてこちらへ?」
いきなり核心に触れる質問をぶつけても良かったのかしら? 言った後に思ってももう遅いけど……
《はい。先程皆様が旅に出られるとお話をされていましたので……出来れば私も同行させて頂きたくノーム様の所へ行っておりました。ノーム様からはご了承頂けましたので、こうして皆様の前へ姿を現しました。私を皆様の旅に同行させて頂けないでしょうか?》
「私たちと一緒に……旅をしたいって事?」一瞬大木と並んで歩く私たちの姿が浮かんたけど慌てて振り払った。いやいや違う……木そのものじゃなくて精霊さんが一緒に行くんだから……
《はい。私もご一緒させて下さいませんか?》
「私は全然構わないけどみんなはどうかな?」
……誰も何も言わない……
――つづく――




