# 73 新しい仲間 その3
「ところで子猫さん? あなたは闇の使い魔で、闇の魔石から生まれた……って事でいいのかな?」
「サクラ様、この者の言う事を真に受けてはいけません」
シェリーがはっとした様に私と子猫さんの間に入る
「使い魔の召喚には複雑な儀式……準備が必要です。それが闇の使い魔ともなれば更に難しいものになるはずです」
「へぇー、闇の使い魔についても詳しいのね」
……何だかふたりの間に火花が散ってるのが見えた気がしたんですけど……
「サクラがあたしを生み出した。そしてあたしは自分が闇の使い魔だって分かってる。儀式とか準備とかどうでもいいんじゃない?」得意げに子猫さんが言う
「ふんっ、サクラは普通じゃないんでしょう? だったら闇の魔石から使い魔が生まれたって別に不思議じゃないでしょう」
その言葉を補足する様に《うん、猫さんはサクラ様が大事にしてたから生まれたんだよ。サクラ様が猫さんに力をあげてるんだよ》と天ちゃんが嬉しそうに言った
「分かりました……あなたが何者なのかはひとまず置いておきます。あなたは先程サクラ様と主従関係にあるとおっしゃいましたね? 主であるサクラ様にその正体……存在を知られない様にしていたのは何故ですか?」
「そ、それは……」子猫さんが言い淀む
「サクラ様はあなたの存在を知らなった。契約が成立しているとは思えませんが? サクラ様から力を得て何をするおつもりですか?」
「…………」俯く子猫さん……な、何か助け舟を……
「サクラ様、まずはこの者と話をさせて下さい」
口を挟もうとしたのを見抜かれてた……
「分かった……子猫さん? 言いたくない事は無理に言わなくても大丈夫だから。……話してくれないかな? あなたの事、ちゃんと知りたいよ?」
子猫さんはチラッと上目遣いで私を見た後、ギュッと目を閉じて顔を上げた。その瞳には覚悟の様なものが宿っていた
「あたしは……力が欲しかった。このまま魔石の中にいれば少しずつだけど魔力が増えて行くから」
「あなたから感じ取れる魔力は僅かなものですが……あなたが求める力が得られるまでずっと隠れているおつもりだったのですか?」
シェリーの問いに唇を噛み締める子猫さん……
《違うよ。猫さんは魔力をサクラ様に使ってるから今は魔力が少しだけになってるだけだよ》
不意に天ちゃんが代弁する様に言った
「ちょっ……余計な事言わな」
「天ちゃん、それはどういう事ですか?」子猫さんの言葉を遮るようにシェリーが尋ねる
《うん。猫さんはね、えっと……『と……ばり?』サクラ様がぐっすり眠れる様に『やす……らぎ?』って言う『トバリ』を下ろす? 下ろしてるの。魔力をいっぱい使っちゃうんだよ。だから魔力が少し戻って魔石に帰れるまでボクと一緒に寝てるの》
「『安らぎの帳』……最近すごく目覚めが良いの……よく眠れて朝から絶好調だった……あなたのおかげだったのね? ありがとう……私、何か調子良いなぁなんて浮かれてるだけで……ごめんね、全然気付かなくて……」
「あ、謝る必要なんかないわよ。あたしが勝手にやってる事なんだから……ちゃんと効果があったんならそれで良いわよ……」
うっ! これは……薄々そうじゃないかとは思ってたんだけど……これが『リアル・ツンデレ』ですかぁ〜
漫画・アニメ・小説、フィクションの世界にしか生息しない存在だと思っていた『ツンデレ』が今目の前にぃ〜〜
《猫さんはね、サクラ様を守れる力が欲しいんだって。だけど今はまだ》
「ちょっと待ちなさいよ。何勝手にバラしてるの」
天ちゃんの言葉に慌てふためく子猫さん……
《どうして? もう内緒にしなくても良いんでしょう?》
天ちゃんが不思議そうに子猫さんに聞いている……ふふっ、なんか微笑ましいしナイス天ちゃん!
「ぐっ……あ〜もうっ! 分かったわよ。話すわよ」不貞腐れた表情ではあるけれど照れてる感じが見え隠れする子猫さん
「あたしは……この子みたいに魔物と戦ったり出来ない……それに……あなたみたいに賢くもないし何の特技も持ってない……でも……あたしは……あたしはサクラを守りたい……って思っちゃったのよ……だけどあたしには何もない……力が……魔力がもっと増えれば……あたしにも……って」
悔しそうにしている子猫さんにシェリーが優しく語り掛ける……
「サクラ様はあなたにずっと話し掛けていましたね。あなたに届いていましたか?」
「えっ? あっ、うん……ずっと温かかった……あたしになってからは声が聞こえた……優しくて……心地良かった……」
「そうですか……サクラ様はあなたをとても大切に想っておられました……ワタクシが危険だと言ってもあなたを手放す事なく常に傍に置いて……そんな大切にしていたあなたが意志を持つ存在へ成った……たとえ何も持っていなくともあなたの存在そのものをサクラ様は受け入れて喜ばれたのではないでしょうか?」
じっとシェリーの言葉を噛み締める様に聞いていた子猫さんの瞳が怪しく光った……気がした
「ふっ……あなたがそれを言うの?」ん?なんかちょっと嬉しそう?
一瞬シェリーが怯んだ様な気配がしたけど……
「ワタクシはまだあなたの事を何も分かっていなかった様です。あなたにはやはり教育が必要な様ですね」さっきの優しい口調からまた厳しい声に逆戻り……えっ? どうして?
「わ、悪かったわよ。アタシもあなたも似た様なものだったって事だから……」何かしでかした事が分かっているのか? 子猫さんから謝罪の言葉が出て来る
「ま、まぁまぁ……何かよく分かんないけど子猫さんも謝って事だし……、ねっシェリー」何だか今日のシェリーは感情の起伏が激しい気がするんだけど……いつもの『冷静沈着』なシェリーはどうした?
「申し訳ございません」シェリーがハッとした様に冷静さを取り戻す
ん〜なんか今、「サクラ様に悟られる程我を忘れるなんて……」って小声が聞こえた気がしたんだけど?
――つづく――




