# 67 交渉
ギルドマスターの話で場が和んだ気がした。いつかお会い出来るかな?
良い雰囲気で本題に突入だ
まずは公衆浴場に設置する石鹸を改めて見てもらう
石鹸の存在は皆さんご存知の様だが商人ギルドのお二方は食い入る様に見ている……
「本当にこちらを無償で提供されるおつもりなのですか?」
ジェイコブ殿が優しげな口調ではあるが真剣な眼差しで聞いてくる
「はい。入浴と言う習慣があまりない方々に『温泉』の良さを知って頂く為のきっかけになればと思っています。石鹸が高価な物だという事は認識しているつもりです。だから……『温泉』……『大衆浴場』を利用すると『石鹸』を使う事が出来るって事で『大衆浴場』にも興味を持って貰えるんじゃないかなと思ったんです」
「確かに……金を払って湯に漬かったり身体を洗いたいと思う者がどれだけ居るか分からないですからな〜」ジェームス殿の言葉にテオドール殿が頷く
いきなり入浴に関してマイナスな意見が出てきて私は動揺した。やっぱり温泉は受け入れられないの〜
「テオドール様もジェームス様も湯浴みがお好きではないですよね……でもサクラ様の『温泉』に入ればこれまでのお考えが覆ります!」ダイアナが身を乗り出し気味に語りだす。いや……私の温泉じゃないんだけど……
「サクラ様の『温泉』は身体をキレイにするだけではないのですよ。身体が温まり心が癒される事はもちろんなのですが、なんと! 疲れや怪我も癒してくれるのです!」
「疲れや怪我を癒すだと?!そんな訳が……」テオドール殿の言葉に被せるように「そんな訳があるのです! あの湯には回復薬の様な効果がございます。疲れや小さな切り傷擦り傷・軽い打撲程度でしたら少しの時間湯に浸かる事で回復するのです!」
ダイアナの言葉に顔を見合わせる皆様……
う〜ん……温泉の効能から説明しないとならないのかな……
「ダイアナな言葉通りです」ペターソン殿が静かに話し出す
「あの湯には不思議な力があります。実際に入浴してその効果を確認して貰うのが1番なのですが、仰る通り入浴に代金を支払って貰えるのかとなると正直な所懸念はありました。しかし、温泉の効果は本物です。長い目で見て時間を掛ければ温泉の良さは浸透して行くと私は確信しております」
「ペターソンさん……」神官殿は私に微笑みかけながら
「サクラ様……私たちは時間を掛けて少しづつ温泉の良さを皆に知って貰おうと考えておりました。なのでサクラ様が石鹸を提供して下さると仰られた時は本当に驚きました」
「ご、ごめんなさい!」私は頭を下げた
「私……宣伝になれば良いって勝手に思って……石鹸を提供する事をなんの相談もなく発表しちゃって……」
「サクラ様……お顔を上げて下さい。サクラ様にはなんの非もございません。大丈夫ですよ。謝ったりしないで下さい」優しい神官殿声に私は顔を上げる
「ありがとうございます……でもやっぱり私が軽率でした。すみません」もう一度頭を下げて顔を上げる
「石鹸の取り扱いや使用方法に関しても私たちで話し合ってみたんです。聞いて頂いて宜しいですか?」
「はい。どの様な事でしょう?」
「シェリー、ダイアナお願いしても良い?」私は2人に説明をお願いした
「よく分かりました。概ねサクラ様方のお考え通りで進めて大丈夫でしょう。営業開始までに従業員教育を徹底致します」
「ペターソン、当初の予定より従業員を増やした方が良さそうだな。人員の確保には私が当たろう」アルデルト殿の言葉に「助かります。よろしくお願いします」と返事をした後、神官殿は私たちに「サクラ様シェリー様、ダイアナ、皆さんには従業員への指導の為の協力をお願いしても宜しいでしょうか?」と言った
「はい。もちろんです」
「お任せ下さい」
「畏まりました」
元気に返事をする私とダイアナに神官殿はにこやかに頷いた
「それから販売して貰いた商品があるので見て頂けますか?」
次々とアイテムボックスから出して行く
ドリンク各種に石鹸各種、食器用洗剤に衣類用洗剤、ポーションに万能薬を並べた
シャンプー・コンディショナーとハイポーションと魔力が回復するエーテルは今回は出さない事にした……
既に目新しい商品が沢山あるから、更に高級品となりそうな物はしばらく置いておこうとシェリー・ダイアナと話し合った結果だった
トーマス殿とジェイコブ殿はさすが『商人ギルド』の長を務める腕利きの商人さんで食いつきは凄まじかった
一通り使った事のあるダイアナが嬉々と説明してくれる。シェリーが補足しながら、何だか商談の様な感じになっているので私は傍観する事にした
テオドール殿とジェームス殿は冒険者の経験も騎士団的な部隊に所属した事もあるそうでポーションに興味を示してくれた
私はポーションを試飲用に作った小さなグラスに注ぎおふたりに試して貰った
「なんだこれはっ!」いきなり大きな声を出したテオドール殿に視線が集まる
「あっ、あの……なにか問題が……」私は焦る
「こんな少量でこれほど回復するのか……」ジェームス殿が呟く様に言いながらグラスを見つめる
状況を察したダイアナが「サクラ様の回復薬ポーションは凄いのです! ペターソン様もトーマス様もジェイコブ様もどうぞお試し下さい」
ダイアナはいそいそとシェリーが出してくれたグラスにポーションを注ぎ分け3人の前に置く
「早く飲め!」テオドール殿に急かされ3人はグラスのポーションを飲み干す
「これはっ……」驚きの表情の3人に私は何だかおしりの辺りがモゾモゾする居心地の悪さを感じた……
ポーションでこの反応だとハイポーションを出したら一体どうなるのだろう……一抹の不安が過ぎる
魔力を回復出来る『エーテル』なんて出せるのかな……
そして更に進化系……上位互換が出来ないか考えてる……なんて言えないなぁ
でもポーションの効果は実感して貰えた様だし、食器用洗剤や衣類用洗剤にも興味を持って貰えた
全ての品物を試供品としてお渡しして実際に使用して効果等確認してもらう事にした
その後、商品として販売出来るか……取引価格等を決めたいと申し出を受けた
「これらは画期的な商品に間違いはありません。どう販売していくのが最適か少し時間を下さい」トーマス殿は興奮気味だった。最初の印象では感情を表に出さないタイプなのかな? って感じた事もあってちょっと意外な感じがした
「もちろんです。今日はこれらが商品として売る事が出来るのかをお聞きしたかったのです。販売価格も適正価格は私には良く分からないので、そちらも相談させて頂きたいと思っています」
私の言葉にギルドの皆さんの瞳がギラリと光った様な気がしたのは……気のせいだと思いたい……何だか標的にされた小動物になった様な……
「これらの商品を作れるのはサクラ様だけです。サクラ様の製作の邪魔は極力避けたいと考えております。商品に関しての窓口は私ダイアナとシェリーに任せて頂きたいと思っておりますのでよろしくお願いします」
「分かりました。まずはダイアナ、そしてシェリー様に話を通す。それで宜しいですね」神官殿が他の5人に視線を移しながら同意を求めた
「良かろう」
「了承しました」
テオドール殿、トーマス殿が返答を返した
ややこしそうな交渉面をシェリーとダイアナが前面に出て対応してくれるのは本当に有難い
「ダイアナ、シェリーありがとう。色々任せちゃうけどよろしくね」ダイアナとシェリーには後で改めてお礼とお願いをしなくちゃね。と思いながら言葉を掛ける
「皆様も……これからどうぞよろしくお願い致します」と笑顔を向けた
「私は先に失礼させてもらいます」とアルデルト殿が立ち上がる
「今日はお忙しい中ありがとうございました」私も立ち上がる
「いえ、とても意義のある会合に立ち会わせて頂けて感謝しております」とにこやかな笑顔を向けて貰えた
「では私はこれで……サクラ様またお目にかかれる日を楽しみにしております」そう言って歩き出す
神官殿がお見送りかな? 一緒に部屋を出て行った
残ったギルドの皆さんはダイアナやシェリーを質問を始めた。丁寧に対応しているダイアナはとても頼もしく見えた。シェリーとダイアナに任せておけば問題なさそうで私は心底ホッとしたのだった
私は秘書の方が持って来てくれたお茶を飲みながら皆の話を聞いていた
「サクラ様、少しお時間を頂いても宜しいですか?」といつも間にか戻って来ていた神官殿に声を掛けられ「はい」と返事をした
――つづく――




