# 53 調合
私達はこの後も『万能薬』や『魔力回復薬』そして『洗浄薬』を作った
それぞれの薬草をすり潰す作業は地味で大変ではあったが、みんなとおしゃべりしながらの作業はなかなか楽しかった
「あ〜流石に手が痛くなって来ました!」ダイアナが両手を上げて言う
「だね〜。意外と重労働だよね」私も同意する
「ちょっと休憩しようか? おやつの時間にしよう! 何が食べたい?」3人に食べたい物をリクエストしてもらう
「ハンバーガーが食べたいです!」アレクが元気に言う
「ハンバーガー? ……分かった……」お昼は軽くサンドイッチとかがメインだったから足りなかったのかな? まぁ、育ち盛りだしね……そんな事を思いながら某ファストフードのポテトとドリンクがセットになった物を購入する
「アレスとダイアナは? 何が良い?」
「俺も……ハンバーガーで……」アレスはちょっと遠慮がちにリクエストする。ふふっなんか可愛いな……
「私は……サクラ様と同じ物をお願いします」ダイアナは何故か具体的な物ではなくそんな事を言う
「……ん? ダイアナは食べたい物ないの? 好きな物を言ってくれて良いよ?」
「はい……今は特に浮かぶものがなかったので……」ちょっと困った様な顔をしてダイアナが言う
「そう……分かった! ん〜じゃあケーキで良い?」
「はい。お任せします」ダイアナの返事に私は美味しそうなケーキをいくつかチョイスして購入する
《ボクもケーキ食べたい〜》天ちゃんが飛んで来たので「うん! 天ちゃんの分もあるよ〜」とお皿にケーキを並べる
そしてアレクとアレスの視線が突き刺さったので彼らの分も一緒に……
私たちは賑やかにティータイムを取ってその後も作業を続けた
一通りの薬剤を作って私たちは町に戻った
集めた薬草は全て私が持ち帰る事になった
みんなで分けようと提案したのだが3人は「サクラ様が1番役立ててくれますから」と私に託してくれた
私は3人に感謝しつつ、何かお礼をしなきゃ! なんて事を考えて3人と別れた
『調剤スキル』はなかなか凄いスキルだった
薬草の分量や合わせる水の量、込める魔力も何となくだか分かる……
有難くはあるが、なんかちょっと腑に落ちない……なんて思ってしまうのは私がこの世界の人間じゃないからかな?
だって、薬草とかに興味があって『薬剤師』的な職業に就きたいとか思っても『スキル』がなければ難しい……
逆もまたありきで『調剤スキル』を持って生まれたらその道を目指す事になる……んだよね?
自分の適性が初めから分かっているのはその道を極められるって意味では良い事なのかもしれないけど……
なんだか生まれ持った資質で全てが決まってしまいそうで寂しい気がしたのだった
沢山の薬草類を自宅に持って帰った
この薬草……今日は手作業ですり潰したけけど、ジューサー等を使っても同じ物が出来るのか確認したい
薬草をぼんやり眺めながら「育てて増やしたり出来ないかなぁ」と呟く。サラダ菜や小ネギ、ミニトマト等を育てていた実家のプランターを思い出したのだ……
すると……頭の中に『水栽培のヒヤシンス』の様に茎から伸びた根が水に浸っているイメージが浮かんだ
「出来るかもしれない! シェリー、天ちゃんのボトルを出してくれるかな?!」
「サクラ様……」意気込む私にシェリーは静かに話し出す
「あまりコンを詰めてはいけません……今日は1日外での活動でした。そろそろお身体を休めてはいかがでしょうか?」
そう言われてみればそんな気もする……
「……そうだね……ごめん……ありがとうシェリー。私ってば見境なしだねっ。体も汚れてるし……お風呂に入ってゆっくりするね」うーんと伸びをすると心無しか腰の辺りが重い気がした
「中腰で薬草採取してたんだから腰にも来るよね〜」
薬草はアイテムボックスに仕舞って貰ってる
鮮度が落ちない様に採取した端からアイテムボックスに入れたのだ
時間経過がないから新鮮なままの薬草で調合出来るのは本当に便利だ
普通ならその日に作業出来る分だけ採取して来なきゃダメだよね……大量に採取した薬草を思い出しふとそんな事を思った
そして私は天ちゃんと一緒に森の露天風呂へ向かった
温泉で疲れを癒し、部屋でまったりくつろぐ……とても平和で倖せな時間だ
さっき始めようとした『栽培』についてシェリーに話す。
「左様でございますか……確かにその手順で育てる事が出来そうですね」シェリーにそんな風に言って貰えると何だか成功間違いなし! って気持ちになれて俄然やる気が出て来た
「明日から栽培も始めようと思うの。それからジューサーで楽しても同じ品質の物が出来るかどうかの検証もね」
しばらくリビングでシェリーの淹れてくれた紅茶を飲みながらまったりくつろいだ
「さてと……そろそろ夕飯時だね。ご飯食べに行こうか」
《はーい!》ひとり遊びをしていた天ちゃんが飛んで来る
天ちゃんはお庭に作った遊具で遊んだり、お人形さん達と遊んだりとひとり遊びの場も広がり楽しそうにしている
もちろん、私とシェリーも一緒に遊んだりもした
「お食事でしたらワタクシが用意致しますが……」
シェリーが少し不安げに言う
「ありがとうシェリー。朝やお昼はシェリーにお願いしたいけど夕飯は町でみんなと食べたいんだ。食事しながら色んな話が聞けるのも楽しいし」
「……そうでございますか……」なんだか悲しそうに聞こえるのは気のせい?
「うん。それにねっ! シェリーには色んなお料理を見て貰って、レパートリーを広げてくれると嬉しいな〜なんて事も思ったりもしてるの」
「サクラ様……」
「シェリーにはホント申し訳ないんだけど、私の設定……って言うかシェリーのイメージ? お料理に関してはエキスパート設定じゃなかったからさ……シェリーには苦労掛けちゃってるんじゃないかな? って思って……ホントごめんね。でね、シェリーだったら色んなお料理を見る事で知識とか増えるんじゃないかな〜って思ったの。私の居た世界のレシピは手に入れられるけど、この世界のお料理は自分で開拓していかなきゃ分からないでしょう? 食材も調味料も私が知ってるとは違う物が沢山だし。どうかな?」自分の願望を並べてしまった事をちょっとだけ後悔する
「承知致しました。ワタクシも美味しく調理出来る様に精進して参ります」
「精進……って」私はふふっと笑顔になった
私のシェリーに持ってたイメージはかなり忠実に再現されてる気がするのよね……
お料理に関してはそつなくレシピ通りに作れるレベルで『飲み物』に関してはプロフェッショナルなイメージだったのだけど、本当にシェリーの淹れてくれるお茶やコーヒーや紅茶……どれもめっちゃ美味しいんだよね……
『行列が出来る喫茶店』が出来る! って域に達してるシェリーの飲み物なのであった
町に繰り出して「今日は何を食べようかな〜」と歩く
お店関係はまだ完成はしていないので、それぞれのお店は屋台……とか露店? そんな感じで並んでいる
「サクラ様〜」ダイアナが私に気付き走って来る
「夕飯のお誘いに伺おうと思ってました」ダイアナの笑顔になんだか和む
「ありがとう。何処で食べようかな〜って考えながら歩いてた所だったの。今日はちょっとあっさり系? そんな感じのお料理が食べたいんだけど……どんなのが良いと思う?」ダイアナに意見を求める
「あっさり系ですか……麺類とかは如何ですか?」
「麺類! 良いねっそれ! うどんにお蕎麦にラーメン、ちゃんぽんとかパスタとか?」この世界の麺類ってどんなのがあるんだろう? ってワクワクしてきた
ダイアナが案内してくれた屋台で器を受け取り並べてある椅子に腰掛ける
麺は若干平べったくて『ほうとう』の様な感じだった
もちもちとしていてなかなかイケる!
「うん。美味しい! お野菜も色々入ってて良いね」
身体がじんわりと温まる感じがした
「ダイアナがお勧めしてくれるお料理はホントどれも美味しいね〜。これはリピ決定!」
「お気に召して頂けた様で私も嬉しいです。……あの……リピ……とは?」
「ん? あ〜ごめん。リピって言うのはリピート……何度も食べたいって意味だよ」
ダイアナと賑やかに夕食を済ませて家へ戻る
別れ際ダイアナに「明日は今日採取した薬草で色々試してみたい事があるから家に篭ってると思う、もし何かあったら……森まで来てくれるかな?」とお願いした
ダイアナは快く承諾してくれて「頑張って下さい」と激励もしてくれた
――つづく――




