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茨薔子は不可能を可能にする   作者: どくだみ
第3株:毒と棘
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行動開始

 なんだって?

 自信満々に言い放った三千院警部に、僕は思わず聞き返した。


「あの男の人がやったって言うんですか!?」

「むしろ他に誰がいるの?? 考えてみなよ、ボーイ。当時レストランにいた客の中で、女を毒殺する動機がありそう(・・・・・・・)なのはただ一人。一緒にいた立川って男だけだろう?」

「かもしれませんけど……僕は納得出来ないです。あんな気の弱そうな人が誰かを殺すなんて、想像がつきません。佐藤さんが倒れたときだって、あの人オドオドするばかりで、僕が言うまで119番もしなかったんですよ?」


 立川さんを貶めるつもりはないけど、当時の彼は本当にパニクっていた様子だった。

 無実だという根拠は無い。けれど彼が黒かと聞かれたら、それはそれでなんか違う気がするのだ。

 三千院警部は僕の顔を見た後、近くにいた店員を呼びつけて紅茶を持ってくるよう要求した。僕たちに対して手を翻し、「落ち着きたまえ」と着席を求めてくる。頼んだ紅茶が到着すると、警部は一口啜ってから、片方の眉を意味深に持ち上げた。


「九十パーセント」

「へ? なにがですか?」

「殺人事件の犯人が、被害者の顔見知りである割合さ。これはボクの主観じゃないよ。法務省が出してるちゃんとしたデータなんだ」


 あの場にいた人たちの中で、佐藤さんの知り合いは立川さんだけ。だから彼が怪しいと、三千院警部は言いたいんだろう。


「ましてや今回の犯行は計画的だ。いいかいボーイ、毒っていうのはね、そこらの道端に落ちてるようなモンじゃないんだよ。入手にはそれなりの手間がかかる。ただ人を殺したいだけの頭オカシイ奴が犯人って可能性もあるけど、だったら料理を取る場所に毒を仕込む筈だ。その方が大勢殺せるからね。だけど現実は、佐藤美香一人にしか症状が出なかった。犯人の狙いは無差別じゃなく、佐藤美香その人に向けられてたってことが推理出来る。……ここまでアンダースタン?」

「は、はい。何を言ってるかは、分かります」


 一つ一つの過程を検証する余裕は無いけど、少なくとも筋は通っているように思う。

 パチンと指を鳴らして三千院警部が続けた。


「だったら後は分かるよね。殺人の犯人は知人が九割。だから、ツレの男にほぼ確の黒判定が出せる……と。レディ・薔子もそう思うでしょ?」

「いいや」

「はえ?」


 と間抜けな声を上げたのは警部だ。それを見て、薔子さんが挑発的な笑みを浮かべた。


「同意の返事が欲しかったのか? 悪いな警部。お前の考えには賛同出来ない」

「いや、いやいやいや! ちょっと待ってくれレディ。今の論理のどこが違うって言うんだい? シンプルに考えて、女と一緒にいた男が明らかに怪しいじゃないか!」

怪しすぎるのだよ(・・・・・・・・)。いかに愚昧(ぐまい)な男であれ、出掛け先でツレの女が死ねば、真っ先に自分が疑われることくらい想像出来るはずだ。私なら、そんな状況で殺人など試みない」


 薔子さんが断言した。交際している間柄なら、毒を盛る機会には事欠かない。わざわざ人目に付く場所で、ことに及ぶ理由は無いわけだ。


「もちろん立川が黒の可能性も捨てきれないよ。けれど犯人の動機を(おもんばか)るあまり、彼以外の客を容疑者から除外するのは、実に非論理的で、性急な判断だと思うのだがね」

「ふぅん、だったらどうする? 学校の先生さながらに、ここにいる全員の持ち物検査でもしちゃうかい?」

「良いじゃないか。私にその権限は無いから、優秀な日本警察の皆さまにお願いしよう」

「嫌味かな??」

「そう聞こえるだけの自覚があるのか。立派だ」


 しれっと薔子さんが皮肉を放つ。本当にこの人は……。警察に喧嘩でも売りたいんだろうか。


「客の荷物を漁り尽くすのも結構だが、私としては、それと並行で防犯カメラの映像を確認したいところだね。店の北側と南側、計二つしか設置していないが、ある程度の情報は得られる筈だ。佐藤美香に毒を盛れた人物を、多少なりとも絞り込めるかもしれない」


 店の構造は、まず南側に入り口があって、東と西に一本ずつ通路が伸びているといった具合だ。通路の両側に席が並び、東西の通路は中央の仕切りで明確に分かたれている。北側にあるのは料理を取る場所。トイレは北東の端っこだ。

 天井を見回した三千院警部が、顎に手を当てて唸った。


「カメラの場所はあそことあそこかぁ。映ってるのは入り口と料理を取る所……あとはトイレの前に、東西の通路の両端って感じだね」

「そうだ。両通路へ入った、あるいは通路から出ていった人物は、カメラの映像から特定することが可能だ」

「僕と薔子さんの席は、たしか店の西側で、目の届く場所に佐藤さんたちはいなかったので、二人が座ってたのは東側のどこかになりますね」


 薔子さんの補足に合わせて、朧気な記憶を引っ張り出す。合っているか不安だったけど、薔子さんは否定しなかったので多分大丈夫だろう。

 紅茶を飲み終えた三千院警部が、「さて!」と叫んで立ち上がった。


「客を全員、元いた席に戻らせようか。その間にボクたちは、カメラの映像のチェックだね」

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