本気で恋する男はカッコ悪くていいんだ
昨日の夜、巧馬はお客を送り出していた十矢を呼び止めた。
「巧馬さんじゃない…誰なんだ」
「誰でもいいだろ本当は二度と会いたくなかったのに」
と言う巧馬を見て十矢は
「まさか…シズナさん」
と言うと巧馬はギロッと十矢をにらんだ。十矢がここは人目につくからと言い二人は路地裏に入った。巧馬はため息をつき
「あんたまだこの仕事してたんだな」
と言い十矢を見た。十矢が混乱して
「いやそんなことあり得ない…」
と言うと巧馬は十矢に振り向き
「あんたが書店のバイトをやめたのは、やめないとリーコさんに危害を加えるって指名客に言われたからだよな。また同じこと繰り返す気?」
と言う巧馬に十矢は戸惑いながらも
「あの店はやめたしあの客にもあってない」
と言うと巧馬は
「今は違う店にいるから大丈夫だって今度こそリーコさんを好きなことは隠しとおすってか」
十矢は巧馬に睨み付けられ立ち尽くしていた。巧馬は
「どうやったってあんたはこの仕事を辞められない。いくら家族のためだって誤魔化しても結局は好きでホストをやっているんだから」
十矢はカッとして
「この仕事をバカにするな」
「バカにするわけがないだろ本気でやってんならな。でもあんたは違う本気でやってる人の足元にも及ばない」
「何が悪いんだ、親父は服役中で母さんの入院費もバカにならない。学費だって何とかしなきゃいけないんだ。うまいこと言って優しくして喜ばせばいくらでも金をくれるんだぞ」
と言う十矢を巧馬は睨み付けていた。そんな巧馬に
「なあわかるか?どんなに謝っても加害者の息子って言われて、事故の原因になった車の家族でさえ避けていてくれたら死ななかったのにって言うんだぞ。全部親父のせいだって言うのか」
十矢は拳を握りしめ壁を殴り
「ふざけんな!あんなやつら死んで当たり前だ。コンパだかなんだか知らないけど泥酔して突っ込んで親父達を巻き込んだ。俺達は被害者なんだあの事故がなかったらこんなことにはならなかった。あいつらがいなけりゃ良かったんだ」
ガッ、巧馬が十矢を殴った。
「自分が辛いからって人を騙して金儲けしていいのか、そいつらと変わらないだろ」
「うるさい」
十矢は巧馬を殴りかえした。
「うるさいうるさいうるさい、どんな手を使ってでも金さえ手にはいるならリーコさんだってきっと分かってくれるはずなんだ」
ガッ 巧馬はたまらずもう一度十矢を殴った。
「嘘つくな、あんたはあの事故の前からホストやってただろうが、好きでもない女友達と関係をもってただろうが」
どうしてそれを…呆然とする十矢に
「あんたがズルズルしていたからその中の粘着質な客に書店のバイトがばれて、リーコさんが標的になったんだろが」
壁にぶつかったままうつ向く十矢に
「バカなのか、そんなあんたを好きになるわけないだろ。リーコさんはお金や誰かの身代わりじゃないんだぞ」
十矢は目を見開き巧馬を見た。そんな十矢の首もとを巧馬はつかみ
「分かってるはずだ、あんたはいつだって代えのきく裸の王さまだって。小さい頃から両親の愛情に飢えたあんたは金と女でむなしさを誤魔化してた。でもな、そのむなしさをリーコさんに埋めてもらおうなんて思うなよ分かったな」
と言いつかんでいた手をはなして去っていこうとすると
「じゃあその人はいいのか?巧馬さんならいいのかよ」
と十矢が聞くと巧馬は足を止めゆっくりと振り返り
「こいつはあたしが選んだから」
「そんなことあり得ない」
そんな十矢にフッと笑い
「いつか分かるといいな本気で人を好きになるってのがどういうことか。こいつは悩みながらも前を向いてる」
と言い去っていった。
残された十矢は去っていく後ろ姿を茫然と見ていた。
「今日も永塚休み?困るのよね~松岡だけだと目の保養が足りなくて」
奥から伊織が李々子に問い掛けた。
「目の保養ってなんで私にきくの?」
「やだあ最近すごく二人仲良かったじゃない二人だけの空間ってのが出来てて、だから何か聞いてるかなって」
と聞かれて李々子は困った顔をして
「いやそれが…」
「まさか何も聞いてないの?」
「てっきり大学が忙しいのかなって」
奥からやって来たひかる店長が戸惑う李々子達に
「永塚なら今週と来週休みますって今朝連絡あったわよ」
「えっ」
驚く李々子をからかい半分で伊織が
「まさか喧嘩でもした」
「そんなことない」
「へーそうなんだ」
「そんなことより仕事して下さい」
といい去っていく李々子は少しイラついていた。
なによ永塚のやつ黙って何処に行ったのよ。
こっちから連絡なんて絶対してやらないんだから
プリプリ怒る李々子に松岡は声をかけられずにいた。そんな松岡に気付いた美緒が
「怒ってるリーコさんもかわいいなーとか思ってるんでしょ」
「うわっ美緒ちゃん、いやそうじゃなくて勝ち目ないなって」
「え?」
美緒が不思議そうに聞くと
「リーコさんは気付いてるのかな自分の気持ちはもちろんだけど永塚君の気持ち」
と松岡が言った。美緒はちらりと松岡を見て
「巧馬さんがリーコさんを好きなのは一目瞭然ってこと?」
と聞くと松岡はうなずいたあと
「そうそれ、それに何だかんだリーコさんも好きなんだと思う」
と言いフッと笑った。
雄大さんのフッて言うの素敵…いやいや今はそうじゃなくて
美緒は松岡に優しく微笑み
「雄大さんもリーコさんが巧馬さんを好きって事ちゃんと分かってたんですね」
と言うと松岡は寂しそうに笑い
「俺だってそれくらいわかるよ」
と言った。その笑い顔を見た美緒は
その切なそうなのも良いたまらないわぁ…そうじゃなくて
「リーコさんの事だから相手の好意には鈍感なんだよね」
と言うと松岡は
「そうなんだよ自分の事は後回しって言うか」
と言い遠くを見た。そんな松岡に美緒は
「本当に人の事には気を使うのに自分のことは後回しって…雄大さんも同じですね」
「え?」
キョトンとする松岡にいたずらっぽく
「雄大さんも結構鈍感ですよ、早く気付いてくださいね」
といい美緒は去っていった。
「俺が鈍感?」
「そうよ」
気が付くとひかる店長がいた。
「うわっ店長いつからそこに?」
「松岡あんたさあ気が付いてる?」
「え?」
こいつ最近美緒ちゃんとお互いに名前で呼びあってるの気付がいてないのか
ひかる店長はため息をつきながら
「松岡ってさ最近美緒ちゃんを名前で呼んでるわよね。いつからなのかしら?」
と聞くと首をかしげる松岡
「えーいつからだろ?」
と言うのでひかる店長はあきれて
「まあいいけど…さっさとはっきりしなさいよ後で後悔しても知らないからね」
と言い去っていった。
なんなんだよ、やっと少しずつリーコさんを諦めてるのに…えっ美緒ちゃん?いやいや美緒ちゃんは妹みたいなもんだし仕事仕事
雄大はぶつぶつ言いながら本を並べた。レジからそんな巧馬を見つめていた美緒が
何で悩んでいるのか分からないけど苦悩する雄大さんも可愛い
と思っていると隣にいた沙代子が
「美緒ちゃん心の声漏れてる」
と言い満面の笑みで見ていた。
あれから2日たったが今だになんの連絡もこない巧馬に李々子はイライラしていた。
「李々子ちゃんお久しぶり」
と言い笑顔の颯也が近寄ってくる。
「あーえっと颯也さん」
何とか名前を思い出した李々子に
「正解、そうだ巧馬どこにいるか知らない?おとついから連絡とれなくて」
と言われ驚く李々子。
「颯也さんも?」
そんな李々子を見て颯也が
「李々子ちゃんも知らないの?」
と言うと李々子は少しムッとして
「三日前に休みとるって連絡があったっきりでなんです、あんのバカ」
と言った。颯也は初めて李々子の感情の入った言葉を聞き
「リーコちゃんもそんな風に怒ってバカって言うんだ」
とにっこり笑った
「え?怒ってって」
と驚き言う李々子に
「怒ってるでしょ」
と颯也が言うと李々子は怪訝な顔で颯也を見て
「怒ってません」
と言った。颯也はクスクス笑い
「巧馬に聞きたいことがあったんだけど大学を休んでるって言うから李々子ちゃんに聞きに来たんだけど、代わりにいいものが見れたな」
と言う颯也に李々子は
「私が知ってるわけがないじゃないですか」
と言うと颯也は
「だってリーコちゃん巧馬の彼女なんでしょ」
「え?」
彼女?わたしが?
目を丸くする李々子を見て颯也はきょとんとして
「だって付き合ってるんだよね二人」
と言った。李々子は焦って驚き
「えー」
と言うと颯也は李々子の顔を覗き込み
「違うの?」
と微笑んだ。李々子は視線をそらし後ろに下がりながらひきつった笑顔で
「やだな年がいくつ違うと思ってるんですか友達くらいに決まってるし」
と言うと颯也は
年上ってこと気にしてんだ、そんなの関係なくアイツは
と思いながら
「まあ良いけど、じゃあなんか連絡あったら教えてね」
と去っていった。呆然としていると十矢がやって来て
「リーコさん」
と声をかけた。李々子は少しほっとしたあと気まずい顔をして
「あの…この間は見てはいけないものをって、どうしたのその顔?腫れてるし」
と言うと
「あーちょっとね、それよりなんか変なこと考えてない?あれは相談事があったんだよ」
と十矢に言われ恥ずかしそうに
「そうか相談事ね…いやいやそれもだけど顔何とかしないとイケメンが台無しだよ」
と言うとため息をついた十矢が
「俺の事も気にしてくれるんだ」
「当たり前でしょ痛そうだし」
「でもそんなことより俺と巧馬さんの仲のほうが気になるんでしょ」
と言った。李々子は慌てて本をなおしながら
「違うってやだなぁ2人の仲に口を出したりしないってば」
と言う李々子に
「リーコさん俺は女性が好きだし巧馬さんは兄貴のようなもんだから」
と十矢が言った。
「えっ兄貴なの?」
と聞く李々子に十矢は
本当に鈍いってか天然て言うか
「なんか巧馬さんが不憫に思えてきたな」
と言うと焦る李々子が
「ちょっとそれどういう意味よ」
と言った。十矢はわざと聞こえないふりをして
「そうだ巧馬さん休みなんだよね連絡あった?」
「今スルーしたわね」
と李々子が言うとペロッと舌をだし
「バレた」
と言った。李々子は、こいつは~と思いながら
「連絡ないけどってなんで皆私に永塚のことを聞くのよ」
と言うと十矢は
「だってリーコさん巧馬さんの彼女になったんでしょ」
と言われて、はぁ?となる李々子に
「彼女に連絡しないなんてダメな彼氏だよね」
と言ってくるので李々子は少し落ち込みながら
「彼氏じゃないから連絡してこないのかな」
と言うとクスッと笑って十矢が
「リーコさん早く巧馬さんを見つけてね」
と言い微笑んだ。李々子は訳がわからず
「それってどう言う意味?」
「そのまんまだよ巧馬さんリーコさんの事を待ってると思うから」
十矢の言葉に不思議そうに李々子が
「私を待ってるの?」
と聞くと十矢は背筋を伸ばして頭を下げ
「リーコさん巧馬さんの事お願いします」
とお辞儀をして去っていった。
「えっちょっと」
いったいなんなのお願いしますって
だって連絡もつかないのに…
李々子はスマホを取り出し巧馬に電話をかけた。
お掛けになった電話番号は電波の届かない…
「永塚のバカー」
と言い電話を切った。




