俺達は過去を乗り越えていく
台車にのせた新刊を李々子が店内に運び込もうとしていたとき、突然に後ろから巧馬の声がした。
「リーコさん、ちょうど良かったその新刊だけど」
驚いた李々子は台車を引っ掛かけ転びそうになった。その李々子を巧馬が受け止めた。
「リーコさん大丈夫?」
慌てて飛びのく李々子
「リーコさん?」
「ごめん私ったらなにやってんだろね」
台車をおこし本を乗せなおしているとスッと手伝う巧馬
「リーコさん俺がやっとくから店内に戻ってて」
「それじゃあ悪いし」
と本の上で二人の手が重なる
「…」
飛びのく李々子に巧馬が
「リーコさん俺の事が嫌いになった?」
突然の質問に驚き見つめる李々子
「は?なに言って嫌いじゃないけど」
じっと見てくる巧馬に焦って言う李々子。
「嫌いじゃないんだ。じゃあ好きなのはどっちの俺?」
と巧馬が顔を覗き込む。ドギマギしながら李々子が
「どっちのって何?永塚は永塚でしょ?今目の前にいる永塚。時々違う人みたいに感じることもあるけど永塚も永塚だもの」
そう言うんだよなこの人はと見ている巧馬に
「やっぱり後やっといて店内に戻るから」
なんなのよ良い年して年下に振り回されてどうすんのよ
と李々子は去っていった。巧馬は散らばった本を拾い台車に乗せながら
バカなのか実体もないヤツにやきもち妬くなんて…俺ってバカだな
と呟いた。
ぎこちない態度の李々子に店長やまわりの人達も二人の間に何かあったのだと確信していた。
ウズウズが止まらなくなった伊織が
「ねえリーコこの間どうだった?」
「えっこの間って」
2人でお出掛けしたことバレたの?と李々子が動揺していると伊織は
しらばっくれる気なのねとにっこり微笑み
「やだぁ風邪引いて休んだ日よ永塚が見舞いに行ったでしょ」
そっちかぁとホッとした李々子に伊織は、ほうほう他にも何かあったなと気付きニヤリと笑った伊織を見て李々子は
はめられた…
と気付いた。そんな李々子に伊織は突っ込みの手をゆるめることなく
「優しいよね良い男だよね永塚って私ならお礼をするよね、例えば2人っきりでお出掛けとか」
と言いニヤリとする伊織に李々子はひきつりながら
「やだな2人お出掛けって」
と言うとえっと言う顔をした伊織は
「へー出掛けたんだぁなるほど」
と言い去っていった。李々子はドキドキしながら
怖い…本当にあの人怖い
と思い売り場につくとブルーな顔をしてレジにいる巧馬に沙代子が
「永塚君、顔が怖いってほら笑って」
と言うとひきつり笑いをする巧馬を見てため息をつき
伊織さんたらもうちょっと逃げ道を作って聞いてあげないと…でも良いところをつくわあ
とニヤリとしている沙代子を見た美緒は
可哀想に永塚さん死んだ魚のような目になってるし…
と思いながら松岡を見て
私はバレないようにしなくちゃ、皆がリーコさんと永塚さんに夢中になってる今がチャンスよ!
と拳を握りしめた。同じく落ち込んでいる李々子が本出しをしていると、ひかる店長がやって来て
「大丈夫よリーコ、永塚もさっきハメられて落ち込んでたから」
と言いにっこりと笑って去っていった。
うぁー伊織さんのばかっ
李々子はその場にヘタリ込んだ。
夜中、巧馬は家に帰りついたとたん倒れこんだ。
くそ何なんだよ
巧馬はゆらりと立ち上がり鏡にうつる自分を見ると口もとが切れ血が出ている。そんな自分を睨み付け
「あんたいったい何をやってるんだよ」
と言うと鏡の中の自分が
「色々と守るためにちょっと体を借りたよ」
と言う。巧馬か眉間にシワを寄せ
「体を借りたって守るって何からだよ」
と聞くとフッと笑い
「色々と根回ししてんの幸せになってほしいから」
と言った。巧馬は納得できず
「幸せになってほしいってなんだよあんたが一番できてないだろ、リーコさんが会いたい人はあんただあんたも会いたいから出て来たんだろ」
鏡にうつる自分が悲しそうに笑い意識が遠退く。
くそ誰がのっ取らせるかよ俺は俺なんだ
遠のく意識のなか巧馬は声を聞く
「必ずあの場所に行ってくれ約束だ」
巧馬は深い眠りについた。
休憩室で李々子が休んでいるとドアをノックする音がして
「リーコさんいる」
と声がして十矢か入ってきた。
「十矢君か」
と少し残念そうに言う李々子に
「誰と間違えたの?」
と言うと李々子は
「やだなぁ誰とも間違えてないって」
と笑った。そんな李々子に十矢が
「そっか、ねえリーコさん巧馬さんとうまくやってる?」
「えっ?巧馬と」
巧馬と呼んだことに慌てて口をおさえ真っ赤になる李々子。
これってなんの反応?
と十矢は不思議に思い
「リーコさん永塚さん巧馬っていうんだけど」
と言うと李々子は
「うん知ってる」
と言いジュースを飲みだした。
「そう言えば十矢君と永塚って同じ大学だよね」
「うん巧馬さんは怪我で休学してたから同期になる」
「たしか十矢君今年二十歳だよね永塚は2つくらい歳上だよね若いなぁ」
と言う李々子の顔を十矢は覗き込み
「リーコさんは…それなりだな」
「ちょっと何よそれ」
と言いながら冷蔵庫からジュースを出し十矢にわたした。
リーコさん俺はリーコさんが幸せになるのを祈ってるから
と十矢は思いながらジュースをあけ口につけて
いたっと呟いた。李々子は十矢の口元にアザがあることに気付き
「十矢君そこどうしたの?」
と聞くと十矢はアザをさわり
「これね、ちょっと昨日あって大したことないよ」
と言うので李々子が
「誰と喧嘩したのよもうしないって言ってたよね」
と言うと十矢は困ったように
「してないって転んだだけだから」
「本当に?」
「本当」
と言って十矢かゴミ箱に空き缶を捨てていると李々子が
「ねえ十矢君もういいからね」
と言った。十矢が驚いていると
「毎年お墓参り行ってるっておじさん達から聞いたよ」
と言われ十矢は李々子を見た。
「いつもありがとうって言ってた。それと私はもう大丈夫だから十矢君も本当に笑えるようにならなきゃダメだよ」
十矢は驚き戸惑いなんとも言えない表情で李々子を見た。
「3年前のあの事故で何人もが亡くなった。でもあれは避けられなかった事故で十矢君のお父さんは逃げずにちゃんと罪を償っているでしょ」
十矢はうつむき拳を握りしめている。
「すぐあとに入院中のお母さんが亡くなったから、お母さんの代わりに弟たちの面倒をみたりお父さんの代わりに謝りに回ってたよね」
十矢は頷き
「母さんの事は覚悟はしてた。でもさすがにキツかった弟たちみたいに泣けると良かったのに」
李々子は十矢の顔を覗き込み
「ねえ十矢君…私はもう十分助けてもらった。だから顔を上げて幸せになっていいんだよ」
と言う李々子を十矢は見た。李々子は十矢の頭を撫でて
「自分の幸せを考えないとね」
と言う李々子の肩に十矢は頭を置いて
「本当に良いのかな俺が幸せになっても」
と言った。李々子は微笑み頭を撫でながら
「いいんだよ」
と言うと十矢は李々子の肩から頭をはなし
「そろそろ色んなことを卒業しなきゃいけない時期が来たんだね、リーコさん今までありがとう」
と握手をしようと手を出したその時
「十矢」
と巧馬の声がして二人が振り向くと巧馬がいた。
「巧馬さん」
「十矢ちょっと顔かして」
十矢を睨み付ける巧馬の尋常じゃないようすに李々子が
「永塚」
慌てて言うと強い口調て巧馬が
「リーコさん店長にシフト入るの遅れますって伝えて」
と言い十矢の腕をつかんで出ていった。残された李々子は
なに?あのただならぬ雰囲気まさかあの二人喧嘩とか…いやいやまさかね。あっ店長に言わないと」
戸惑いながら店内へ向かった。巧馬と十矢は倉庫の手前で
「あのメールどう言うことだ?事故って親父さんのバスの事故の事なのか。対向車線の車が突っ込んで来て避けきれず事故ったって言う」
巧馬の驚きぶりに十矢は戸惑いながら
「ちょっと待って昨日のこと覚えてないんですか?」
と言うと巧馬はムッとして
「なんのことだよ俺はお前のメールを見てだな」
と言うので十矢はフッと笑い
「そっか夢かもって思ってたけどそっか」
と笑い出した。巧馬は訳がわからず
「何なんだよお前なに笑ってんだよ」
と言うと十矢は
「あのメールの通りだけど」
と言って巧馬を見た。巧馬は十矢につめより
「なんでリーコさんが関係あるってもっと早く言わなかったんだよ」
ため息をついて十矢が
「言いたくなかったからリーコさんの友人があの事故で亡くなったって巧馬さんに教えたくなかったから」
「友人って…まさか」
その瞬間ツキンと巧馬の目の奥が痛くなった。
「巧馬さん」
「やっぱりその人が俺のドナーなんだな。あれは全部あの人が見た景色だったんだ」
十矢は言葉を失い巧馬を見た。
「俺がいつも見ていた夢をお前は黙って聞いてバカにしてたのか」
十矢は焦って
「違う俺は」
「じゃあなんなんだよもしかしてとか思わなかったのか」
と言う巧馬に十矢が
「思ってたに決まってるだろ。でもそれを言ってリーコさんまで俺の前からいなくなるのが嫌だったんだ」
「お前」
「ドナーの記憶を受け継いだ話はある。でもそれは心臓とかの話でこれは違う巧馬さんの妄想だって思おうとしたんだ。巧馬さんのことも好きだったから」
「へ?」
一瞬怯む巧馬に
「お前まさか本気で俺を」
「そう言う意味じゃなくて」
父親の事故のあと十矢は友人にも裏切られ辛い思いをしていた。そのせいで父やまわりを恨み無茶苦茶なことをしていた。
そんな十矢がギリギリで止まれたのは赤池書店のみんなが何があっても信じてくれていたからだ。
立ち直り始めた頃に巧馬とであった。復学してすぐの巧馬は十矢の噂など気にもせず普通にあるがままで接した。
はじめは怪訝な顔をしていた航一郎もそんな巧馬と付き合ううちに十矢のことを受け入れていった。
「俺は真っ白な人間じゃないどす黒くて汚い人間なんだ…そんな俺を巧馬さんに知られたくなかった、だって巧馬さんは損得ぬきで付き合ってくれてたから」
と言う十矢に巧馬が
「バカヤローなんだよそれ…そんなことで俺がお前を嫌うわけがないだろ」
と言うと十矢はフッと笑って
「本当にバカだな一番信じなきゃいけなかったのに」
と微笑む十矢をほっとした表情で巧馬は見ながら
「じゃあこれからは信じろよ」
と言うと十矢は頷いた。そんな十矢に巧馬は
「じゃあ生まれ変わった十矢にお願いがある、その亡くなった人の名前を教えてくれるか」
と言うと十矢はつらそうに巧馬を見た。そんな十矢に
「いい加減に妄想じゃなく現実を受け入れなきゃいけないのは俺もなんだ」
と言うと十矢は懐かしそうに微笑み
「北見沢…北見沢 しずな」
もう一度ツキンと目の奥が痛くなる巧馬
「巧馬さん」
巧馬はうつむいたまま
「だからリーコさんに近寄んなって昨日も言ったよね?」
顔をあげると目付きの鋭い巧馬が
「やっぱり夢じゃなかった」
「今までも何度も言ったよね近寄んなって」
十矢を壁に追い詰め
「あんたにはリーコさんはもったいないんだよ」
「やっぱり、しずなさんだ」
嬉しそうな顔をする十矢に
「また殴られたい?馴れ馴れしく名前で呼ばないでくれるかな二度と現れんな」
本当にしずなさんなんだね昨日のも全部
去っていくその後ろ姿を十矢はじっとみていた。




