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俺の中のあの人

あの人は巧馬を支配するつもりなのか

その日の夜、巧馬はいつもと少し違う夢をみていた。


久しぶりにあなたに会えてどれだけ嬉しかったか。

伝えたくても伝えられなかった想いを伝えるためにあなたを探していたんだ。

だからもう少しこのままで、その時が来たら必ずあなたの大好きなあの木の下で。


高校生の李々子がいる。


「ほら見えるでしょあそこの桜の木が一番きれいだって知ってた?」


リーコさんのお気に入りだもんね


「私ねここの桜が咲くのが毎年すごく楽しみだったんだ。でも卒業するから来年は見れないんだよね。そうだ写メしておくってよ私の一番好きな桜の木、頼んだよ」


と言い愛らしい瞳で微笑む。


約束通り桜の木の写真を撮って送った。同じ大学に行くようになってからも、リーコさんが帰れない時にはかわりに。

そうして時が流れ、それぞれ違う会社に入ってもいつもと変わらずに一緒にいた。嬉しいときも悲しいときもずっと一緒だった。

あの日2人で飲んだ帰りにリーコさんの家に行って…


「でもさ高校生の頃、人見知りをごまかすために笑顔でガードしてるのを見破られた時には流石にビビったわ。なんで分かったの?」


同じだったからと言いたがったが声がでない。李々子は続けて


「それに至近距離接近恐怖症ってネーミングはなかなかだと思う」


そういって軽やかに笑う李々子から目がはなせずにいた。


「こんなに仲良くなるなんて、はじめは思いもしなかったよね。私たちって相性がいいのかも」


柔らかな穏やかな秋の光をあびながら李々子が言った。


体験入学のときの部活動見学であなたを見てからずっと気になっていた。同じ時間を過ごすうちにもっともっと知りたくなった。

これからもずっとあなたを見ていたいそれだけで良かったのに、あの桜の木はまだあるんだろうか


ゆらゆらと李々子の姿が薄れていく目をさますと頬に涙が。


こんなにはっきりとリーコさんとの夢を見たのは初めてだ。嬉しいはずなのになんでこんなに悲しいんだ。それにあの桜の木って…


ボーッとしながら顔を洗いまだ靄のかかった鏡のなかの自分にハッと気付いた巧馬が


「お前は誰だ」


と言うとツキンと目の奥が痛くなる。


くそまたこの痛みだ一体何なんだ


巧馬はズルズルと倒れ込み気を失った。どれくらいたったのか、遠くでメールの着信音が聞こえた。

ゆっくりと起き上がった巧馬が携帯を見るとひかる店長からのメールだった。


「店長から何だろう」


メールの文章を見て巧馬は驚き慌てて着替え部屋を飛び出た。


いつもそうだった、リーコさんはギリギリまで我慢して…


巧馬は李々子のもとに急いだ。


あーだるい、何もしたくない


とベッドで寝込んでいる李々子の玄関のチャイムがなった。李々子が気だるそうにベッドから起き玄関に向かいドアを開けると、巧馬が息を切らして立っていた。


「えっなんで永塚君?」


その手には買い物袋が下げてある。巧馬は李々子の横をすり抜けて部屋にはいった。慌てて追いかける李々子に


「店長からメールが来てた、何で早く言わないの熱は?病院に行った?」


捲し立てられて


「さっきいってきた夏風邪だって。もう大丈夫だからそれより」


言い終わらないうちに巧馬は李々子を抱き上げ


「え?ちょっと」

「どこが大丈夫だって?意地をはらないの。それにリーコさんは風邪を引くと喉にくるんだから黙って大人しく寝る」


巧馬は李々子を部屋に連れていきベッドにいれると


「大人しく寝てて、いいね」


そう言い台所に向かった。李々子が焦って起き出そうとすると


「抜け出そうとしてるでしょダメだからね」


えっなんでわかるの?


「分かったわよ寝ればいいんでしょ」


そう言い李々子はベッドに横になった


あの言い方誰かににてる誰…そうだあれは


そう思いながら李々子は眠りについた。

次に李々子が目覚めると昼過ぎになっていた。


うわぁ三時間くらい寝てたのかぁお腹すいたなぁ…

なんだろ美味しそうな食べ物の香りがする。


李々子はベッドから起き台所に向かった。そこには巧馬がいた。


「夢じゃなかったんだ」


その声に気が付いた巧馬が


「リーコさん大丈夫?」


と声をかけた。


「うん大丈夫」


ほっとした巧馬が


「じゃあ、お粥作ったんだけど食べられる?」


と言うと李々子は


「うん」


と頷いた。


「じゃあそっちで座って待ってて」


李々子がテーブルにつくと巧馬が小さな土鍋を持ってきた。ふたを開けると李々子の好きな卵入りのお粥だった。


「このお粥」

「リーコさん卵入りのお粥好きでしょ」

「えっ」


驚いていると巧馬は


「ほら食べて、なんなら食べさせてあげようか?」


と言いお粥をすくい李々子の口もとに持ってくる。焦った李々子は


「いっいや自分で食べられるから」


と言いスプーンを持つと


「こぼれるんだけど」


と言われ一口食べさせられた。


「あとは自分で食べられるよね」


してやられたと思いながら李々子はお粥を口にはこんだ。ふいに涙がほほを伝った。


なんで永塚君がこの味を知ってるの?これって…


「この味…懐かしい美味しい」


そういってほうばる李々子を巧馬は優しく見つめ


「良かった」


と呟いた。後片付けをする巧馬を薬をのみながら見ていた李々子は懐かしさを感じていた。

その視線に気付い巧馬は


「後片付けも終わったし薬も飲んだし、あとは水分をとってゆっくり寝ないとね、ほらベッドに行って」


と李々子に言った。李々子はまだ巧馬を見ていたかったが大人しくベッドにはいった。巧馬はベッドに入った李々子を確認して部屋を出ると


「じゃあ帰るね」


と言った。その後ろ姿に


「まって」


と李々子が声をかけると巧馬は立ち止まって振り返り


「ん?どうしたの」


と聞いた。


「あの、こんなことなんなんだけど出来たら眠るまで…手を握っててもいいかな」


と呟いた。巧馬はフッと優しく微笑えみ


「寝るまで側にいろってこと?玄関の鍵はどうするのリーコさん寝ちゃったら閉められないでしょ」


と言うと


「合鍵が台所の右端の引き出しにあるから」


と言う。巧馬はフッと笑って


「閉めて帰るってことは鍵をもって帰って良いの?」


と言うと李々子は困った顔をしたあと


「いやまあ後で返してくれればいいし」


と言った。巧馬は頷き


「分かった今度ちゃんとかえすね」


と言い李々子のそばに行き手を握った。


「ありがとう」


李々子は安心して眠りについた。

眠っている李々子を見ていると頭のなかで声がする


お前は誰だ、なんで入れ替わってるんだ。


リーコさんを起こしたくないんだお前は黙って寝ていろ!


巧馬の頭の声が消え巧馬は気を失った。ぼんやりとした視界の中で目を覚ました巧馬は驚いた、夢の中で見ていたことが現実になっているからだ。


夢じゃなかった…


巧馬は李々子と繋いでいる手をじっと見つめ


これは俺なのか?実感がない…どうしたって言うんだ


その時、巧馬の頭のなかで声がした。


なぜ起きた、なぜ


その声はすごく悲しそうで巧馬は


「それでもこれは俺なんだ」


と言うと声が消えていった。巧馬は混乱しながらも李々子のおでこに手をあて熱が下がっていることを確認した。


良かった熱が下がってる。確か手を繋いでって言ってたよなもう少し…でもリーコさんが本当に繋いでほしかったのは誰なんだ。


巧馬は混乱し始めていた。自分が李々子を好きなのは憧れであって、本当の気持ちではないかもしれないと…

巧馬は李々子と繋いでいる手をそっとはずし部屋から出た。


夢の中ではここに鍵が


台所の引き出しを開けると鍵が…巧馬は深い吐息をつき玄関の鍵を締めた。その瞬間ツキンと目の奥がいたくなる。


「やめろまた入れ替わるつもりなんだな、やめてくれ頼む」


カチッと耳の奥で音がしてぼやけていた視界がはっきりとした。


すまない巧馬もう少し眠っていてくれ。全てが終わるまで…

それにしても、まさかあそこで目覚めるとは思ってもみなかった、今までは上手く行ってたのに。


巧馬は李々子と繋いでいた手を見つめて


あまり時間がないってことか急がなきゃいけないな…


巧馬は凛とした目をして李々子の家を後にした。

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