2-3
取調室では、ディランと魔術師の男が机を挟んで向かい合っていた。
「これはお前が偽造した魔法術式か?」
「……」
その時――バァン!
扉が勢いよく開く。ディランと魔術師が驚いて扉の方へ顔を向けると、そこには顔面に大きなガーゼを貼ったジゼルが仁王立ちしていた。
「見つけましたわよ!」
ジゼルは真っ直ぐ魔術師のもとへ向かい、胸ぐらに掴み掛かった。
「あなたの魔法のせいでっ、見なさい! 私のこの無様な姿を!」
「ひっ⁉︎」
「こいつ、なんで来たんだ……」
ディランは興奮するジゼルの後ろの襟首を掴み、すっかり怯えた魔術師からジゼルを引き離す。
「何するんですのー!」
じたばたと暴れて抵抗するジゼルだが、ディランはびくともしない。
「取り調べの邪魔だ、馬鹿」
「馬鹿ですって⁉」
ディランは呆れた様子で息を吐くと、「おい」と魔術師を呼ぶ。
「黙ってるのは勝手だが、偽造した奴と、それを買って使った奴じゃ罪の重さが違う。分かってるよな?」
鋭く細められたディランの視線が、魔術師を突き刺すようにじっと見つめた。
「それに、そうやって黙って偽造者を庇えば、さらに罪が重なるぞ。こっちはもう証拠も押さえているし、お前が黙っていてもこいつの解析魔法と俺の捜査で必ず暴く。そうすれば、お前の罪は重くなるだけ」
ディランの言葉にまず反応したのはジゼルだった。振り回していた手を止めて、思わずディランを見上げる。
(この男……今、私の解析魔法と自分の捜査って……)
まるで、自分も一人の捜査官として認められたような気がして、何だか嬉しくなった。
「だから、俺が優しく聞いてるうちに白状した方が、身のためだと思うけど……?」
もう逃げられないと悟ったのか、それ以降、観念した魔術師は質問に素直に応じたのだった。
男は、魔術師免許証を自分で偽造したのではなく、何者かから購入したものだと白状した。
「俺は魔法が使える! なのに免許試験官は何度も俺を試験に落とし、能力育成プログラムを受けろと言うんだ。あいつらは、見る目がねぇ!」
ディランは購入したルートを知りたかったが、魔術師は不満と怒りを思い出したように興奮していった。どうやって彼を落ち着かせようかと考えていたら……
「だから今日、魔法を暴発させたんじゃない。その試験官が正しいわ」
ジゼルの言葉が、彼の怒りに油を注いだ。
「なんだと⁉︎ お前たち魔法省の人間は、ただの国の犬だ! 俺たち市民に寄り添ってなんてくれねぇ!」
ジゼルも何か言い返そうとしたところ、ディランが彼女の肩に手を置いた。
「正論だが……お前、本当に黙ってろ?」
ディランに凄まれてしまい……さすがのジゼルも、ここは大人しく頷いた。
取り調べは再開される。落ち着きを取り戻した魔術師に、ディランは改めて質問していった。
「誰から買った?」
「知らない」
「どこで受け取った?」
「覚えていない」
ディランが大きなため息をついた。その目から、先ほどまでの気だるさが消える。
「どこで売人の話を聞いた?」
「……」
ディランは畳み掛けるようにさらに質問する。
「誰が、お前にこの話を持ち掛けたんだ?」
じっと見つめられ、魔術師は目を逸らすように俯くと、小さな声でやっと答えた。
「……俺が試験に落ちた日……試験会場を出たら、知らない男が話しかけてきたんだ」
「男だったんだな?」
「あっ…………はい、そうです」
ディランはそのまま、その謎の男の特徴について聞き出していく。
二人の様子を見つめながら、ジゼルはついディランに感心してしまった。
(……口が悪いだけではありませんのね)
そんなことを思って、すぐにハッとする。
(でも、無礼で腹立たしい男に変わりないですわ!)
◆
取調室を出たジゼルとディランは、そのまま捜査局へと戻ってきていた。
「ん」
「なんですの?」
ジゼルはディランから、あの魔術師が購入した偽造免許証を渡された。
「もう一度、解析魔法で詳しく調べろ」
相変わらずの命令口調。いつものジゼルなら、反発するところなのだが……
『こいつの解析魔法と俺の捜査で……』
ジゼルは言い返すことなく、素直に応じた。その横顔は少し照れくさそうだ。
ディランが隣で見ている中、ジゼルはもう一度、解析魔法を使って偽造免許証を調べてみた。
「先ほど言った通りですわ。本物の免許証の上から偽の情報を……」
「それは分かってる。ほかに何かねぇのか」
「人使いが荒いですわね!」
偽造免許証から浮かび上がる魔力の情報を読み解きながら、ジゼルは「解析にはそれなりの時間を要しますのよ……」と、ぶつくさ文句を言った。
「なら、黙って集中しろ」
「くっ、この男……」
やはり腹が立つ。ジゼルは言うことを聞かなければ良かったと後悔し始めた時……
「……あら?」
ジゼルの目が、ある一点で止まった。
「どうした?」
ディランが腰を屈めて質問する。ジゼルは偽造免許証から顔を上げ、ディランを見た。




