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ジゼルがディランの後を追って向かった先は、王都の商業地区にある店だった。
魔法事故が起きたという商店に二人が到着すると、店に入る前から男たちの言い争う声が聞こえてきた。
ジゼルは思わず足を止めたが、ディランは慣れた様子でそのまま店内へと入っていった。慌ててジゼルも後に続いた。
その商店は、日用品を扱っている雑貨店だった。店内は、嵐でも通り過ぎたのかというほど物が散乱し、大きな商品棚まで倒れてしまっている。
「ひでぇ有様だな」
ディランは眉を顰めながらそう呟くと、こちらに気付くことなく言い争いを続けている二人の男に目を向けた。
「すみません。魔法犯罪捜査局の者ですが……」
「お前のせいだろうが!」
「だから悪かったって言ってるだろ!」
お互いに頭に血が上り、周りが見えていないようだ。
「あの、すみま……」
「どう責任取るんだ!」
「責任って、わざとじゃねぇよ!」
二人はディランを完全に無視して、喧嘩を続けている。
「……」
ディランが黙り込む。ジゼルは、この後どうするのだろうと隣のディランを見上げた。
「訴えてやるからな!」
「なんでそういう話になるんだよ⁉︎」
「……ああ、もう! お前ら二人とも落ち着け!」
ディランは苛立たしそうに叫ぶと、二人めがけて水魔法を放った。
「二人がびしょびしょになってしまいましたわ……!」
「とりあえず、水魔法かけといた!」
全身びしょ濡れになった二人は、互いの襟首を掴み合った状態のまま、静かになったのだった。
冷静さを取り戻した店主から、通報するまでの経緯を聞いた。
どうやら、この店では商品の盗難防止のために魔術師に依頼して、定期的に結界魔法をかけてもらっているらしい。
今回もいつものように魔術師に依頼したのだが……結界魔法を張るどころか、魔術師が魔法を暴発させ、店内はめちゃくちゃ。おまけに多くの商品が破損してしまった。
「はあ……それで事故調査局じゃなく、捜査局に通報したと……」
「そうだ! これは事故じゃなく、犯罪だ! こいつはわざと魔法を暴発させたんだ!」
「だからわざとじゃねぇって!」
隙あらば、再び言い争いを始めようとする二人……ディランはうんざりしながら、男たちの間に割って入った。
「はいはい、じゃあ……貴方の魔術師免許証を提出してください」
魔術師の男はディランに言われて、しぶしぶ免許証を取り出した。その免許証を受け取ったディランは、それを機械で読み取り、登録番号を照会した。
照会結果に表示された登録番号は、免許証のものと一致している。どうやら、正式に発行された免許証らしい。
(免許持ちの魔術師が、こんな初歩的な魔法事故を起こすとは……魔術師試験が簡単すぎるんじゃないか?)
そんなことを思いながら、ディランは「ありがとうございます」と魔術師に免許証を返そうとした。
「お前が本当に正規魔術師だと? こんなやつに免許証を発行するなんて、国の管理はどうなってるんだ!」
「言い掛かりつけんなよ! 壊しちまった商品は必ず弁償するって言ってるのに……お前が大騒ぎするから……」
「これだけの損害だぞ⁉ 明日から商売はどうするんだよ⁉」
また始まった……ディランは大きなため息をついた。
「だから弁償するって!」
「じゃあ、今すぐ全額支払え」
「分割じゃないと無理!」
「話にならねぇ!」
ディランは無言で再び男たちに水魔法をかけて黙らせた。
「今のところ故意にやった証拠はない。事故として、この後来る魔法事故調査局に引き継ぐんで、そこで責任の割合を思う存分争ってください」
そう言って、今度こそ魔術師に免許証を返そうとディランは目の前に差し出した。
魔術師が免許証を受け取ろうとする。そこに、突然ジゼルがずいと前に出てきて、免許証を凝視した。
「な、なんですか? 俺の免許証になにか……」
魔術師が戸惑う様子を見せている。
「おい。お前は今日見学だ。勝手な行動をするな」
面倒事を増やすなと言わんばかりの態度でディランがジゼルを睨むと、ジゼルが免許証から顔を上げた。
ジゼルの赤い瞳が、不自然に輝いている。ディランは彼女と目が合った瞬間、わずかに目を見開いた。
「この免許証、この人のものではありませんわよ?」
「は?」
ジゼルは続けた。
「免許証に登録されている魔力波長と本人のものが一致していないわ」




