1-5
捜査局を出ると、ディランがすぐ脇の壁に寄り掛かり、苛立たしそうにジゼルを待っていた。
二人の目が合った。ディランはゆっくりとジゼルに向き直り、寄り掛かっていた姿勢を正した。
「いいか。局長命令で仕方なく連れて行ってやるが……」
ディランは威圧するようにジゼルへ近付いてきた。彼はジゼルの目の前に立つと、軽く腰を屈めて、ジゼルの顔を覗き込んだ。
「俺の足を引っ張るんじゃねぇぞ」
なぜ、この男はこんなにも偉そうなのか。
これまで王太子の婚約者として、そして公爵令嬢として扱われてきたジゼルに、初対面からこんな態度を取る者などいなかった。
だからジゼルは、反抗的な態度で応戦する。
「この私にその態度、許されるとでも⁉ 私は、ジゼル・エヴァレットなのよ!」
あまりの無礼さにカッとなり、ジゼルは反射的に自分の身分を振りかざした。
「……くくっ……」
するとディランは、馬鹿にしたように笑って、意地悪そうな表情を浮かべて言った。
「そうか。俺はディラン・アシュクロフトだ。どうでもいいから行くぞ、高慢令嬢さん」
ディランはジゼルに背を向けると、振り返ることなく先へ行ってしまう。
「……え? アシュクロフト?」
『アシュクロフト』……それは、王家に次ぐ家格を誇る大公家の名だ。
ジゼルは驚いて目を見開いた。
身分でも勝てないと分かり、遠ざかっていくディランの後ろ姿を睨みつける。
そして悔しそうに地団駄を踏むと、慌ててその後を追いかけるのだった。




