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アーネストの背中を見つめながら、ジゼルは不安を感じていた。
(今、解析魔法って言った……? そんなもので、本当に就職が決まったの?)
特定の血筋にのみ発現するとされる希少魔法『解析』……それは、魔法術式や魔力痕、魔力波長などから、魔法に残された情報を読み解く力だ。
残留した魔力は時間の経過とともに薄れていくので、万能な魔法とは言えない。とはいえ、その希少性は高い。エヴァレット公爵家でも十数年ぶりにアーネストが、そしてその後ジゼルが発現させたほどだ。
しかし希少とはいえ、王太子妃候補だった頃には、なんの役にも立たなかった魔法だけれど……
「ジゼル、何をしている。中に入れ」
叔父から呼ばれてしまい、ジゼルは眉を顰めながらも仕方なくアーネストの後を追った。
中に入ると、ジゼルと同じ上着を羽織った数名の捜査官たちが待っていた。
「――ということで、今日から捜査官として働くことになった新人のジゼル・エヴァレットだ」
アーネストの紹介に捜査官たちはしんと静まり返る。
(き、気まずいですわ……)
捜査官たちの視線がジゼルに突き刺さる。きっとこの人たちは自分のことを、コネ採用だと思っているだろうとジゼルは確信していた。
そもそも、ジゼルを歓迎している者なんていないじゃないか……ジゼルはちらりと彼らの顔ぶれに目をやり、一人の女性捜査官のところで視線を止めた。
彼女と目が合った。
(最悪ですわ……まさか、《《彼女》》がいるなんて……!)
ジゼルが慌てて顔を逸らすと、彼女の艶やかな黒髪の奥で、緑色の瞳が鋭く光った。
「久しぶりに見たと思ったら……親戚のコネで就職?」
それは、ジゼルの学院時代の同級生ヴェロニカ・グレイソンだった。
「ふふ、王太子妃様もずいぶん落ちたものね」
ヴェロニカは楽しそうに笑って、目を細める。
そう、ジゼルとヴェロニカは犬猿の仲だった。それも当然だ。ヴェロニカは、ジゼルがいじめていたリリアナの親友なのだから。
学生時代から、ジゼルがリリアナに嫌がらせをすると、まるで彼女の騎士のようにヴェロニカが庇っていた。
ヴェロニカは軽蔑を滲ませた瞳で、ジゼルを見つめている。
「あ、もう婚約破棄されて王太子妃じゃないんだっけ? あんなに好き勝手してたのに無様ね」
止まらないヴェロニカの攻撃に、ジゼルもカッとなる。
「あなたね……!」
反射的に言い返そうとするが、ジゼルはすぐにハッとして口を閉じて俯いた。
「な、なんで言い返してこないのよ……」
そんなジゼルに気付いたのか、ヴェロニカは戸惑った様子で眉を顰めていた。
「まあ、局長の姪が新人で入ったことは分かったんで。俺、そろそろ現場に向かいます」
ジゼルとヴェロニカの間を流れる気まずい雰囲気を破るように、一人の男が言った。
ジゼルが目を向けると、青灰色の髪に青い瞳をした冷たい印象の男だった。
「ちょうどいい。ディラン、その現場にジゼルも連れていけ」
「は⁉」
ディランと呼ばれた男は、驚いた表情で声を上げる。そして、ジゼルを見た。
「いや、局長。こいつ今日入ったばっかですよね?」
「だから連れていけ。現場を学ばせるんだ」
「足手まとい連れて仕事しろって? ぜってー、嫌だ!」
ディランの嫌がりように、ジゼルもだんだん腹が立ってきた。
「叔父様! 私だって、あんな無礼男の元で学びたくなんてありませんわー!」
ジゼルは騒ぐが、アーネストは無視してディランに言った。
「勘違いするな。これは局長命令だ」
するとディランは悔しそうに顔を歪めて「……くそ」と呟く。
ディランは改めてジゼルを見た。その目には、隠しようのない面倒くささが滲んでいる。
「命令なら……部下として守らないとですね。ただし、今日一日だけです」
「ああ。世間知らずのこの子を教育してやってくれ」
勝手に進んでいく話に、ジゼルは慌てて言った。
「叔父様⁉ 私の意思は⁉」
「『局長』だ」
アーネストの目が厳しく光り、淡々とした声でジゼルに命じる。
「ここは職場だ。正式な役職名で呼びなさい」
ジゼルは何も言えなくなり、口を噤む。
アーネストの横では、ディランがうんざりした様子で大きな息を吐いていた。
「なんで俺がこんなお嬢様の面倒を……」
そして、足早に扉の方へと向かうと、出る前に振り返り、ぶっきらぼうな口調でジゼルに言った。
「おいコネ新人、早く行くぞ!」
厳しい叔父に強制的に就職させられて、その職場には仲の悪い元同級生……おまけに態度がものすごく悪い先輩捜査官……
(すでに帰りたいですわ……)
ついさっきまでの父と母とのお茶会が、もう恋しい……ちょっぴり半泣きになるジゼルだった。




