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西門に到着した。
そこにはちょうど、食材を運び入れている商人の荷馬車が何台か停まっている。商人だけでなく、城の使用人たちも忙しそうに駆け回っていた。
「かなり多くの魔力波長がありますわ。リリアナ王太子妃殿下に限らず、様々な魔力反応を感じます」
「西門は、行商人の通行が多い門ですからね」
補佐官が西門の特徴を補足する。これでは目的の魔力波長を拾い上げるにはかなりの時間を要すると、ジゼルは思った。
「例の護衛だけ拾えそうか?」
ジゼルの隣に立ち、ディランが尋ねてくる。
「できないことはありませんけど……リリアナ妃ならともかく、彼とは一度も会ったことがありませんもの。まず特定するだけで一日が過ぎそうですわね」
困った表情でジゼルが答えると、ディランは少し考えるそぶりを見せた後、ジゼルに言った。
「だったら、本人を探すんじゃなくて『異常』を探せ」
「異常?」
「王太子妃を普通に慰問へ連れていくなら必要ない魔法が使われてないか見ろ。認識阻害、通信妨害、追跡防止……何でもいい」
ジゼルはぱっと表情を明るくさせて、頷いた。
「分かりましたわ!」
ジゼルは改めて解析魔法を使った。彼女の輝く瞳が珍しいのか、ペトラも補佐官もじっとジゼルを観察するように見つめている。
そしてジゼルは、地面に何重も引かれた車輪の跡を一本一本追い、門を抜けたところで特定の線から、薄い認識阻害魔法がかけられていた痕跡を発見する。
「ディラン、ありましたわ!」
ジゼルは笑顔でディランを振り返った。
「この車輪の跡の線に認識阻害がかけられていた形跡があります。それも出発してからですわ」
「王宮を出てから?」
ペトラも会話に加わり、眉をひそめていた。
「だろうな。王宮内でそんな魔法使ったら警備魔法に引っかかるからな」
「つまり、王宮を出た後に認識阻害魔法を使った人物がいる……ということですわね」
「あぁ。護衛本人か、外部の協力者か。どちらにせよ、普通の慰問じゃねぇな」
ディランとジゼルの言葉にペトラは納得したように頷いていた。
「認識阻害を使ったなら、逆に絞れるかもしれないわ。王都の監視結界には、一定以上の魔力が使われると、その場所と魔力波長が記録されるの」
「さすが保安局」
「ただし、記録だけでは誰が何のために魔法を使ったのかまでは分からないわ。王都では毎日、数え切れないほどの魔法が使われているもの」
ペトラの説明を聞いて、ジゼルは何かに気付いたように顔を上げた。
「それなら、私が見つけた認識阻害魔法の魔力波長と照合できませんこと?」
「できるわ! 魔力波長を特定できれば、監視結界の記録から同じ反応を探せるはずよ」
ジゼルは再び解析魔法を使い、車輪の跡に残っていた微かな魔力痕を調べていった。
「……できましたわ。この魔力波長です!」
ペトラはジゼルから伝えられた解析結果を、手元の魔道具に入力する。
「すごいわね、エヴァレットさん。これほど微かな魔力の違いまで読み取れるなんて」
「ありがとうございます。解析魔法だけは、自信がありますの!」
ジゼルは少し得意げに胸を張った。
しかし、ペトラが監視結界の記録を確認すると、困ったように眉をひそめた。
「……駄目ね。同じ魔力波長の記録は見つかったけれど、途中で途切れているわ」
「どういうことだ?」
「王都の大通りまでは連続して追えるの。でも、その先は反応が途切れ途切れになっているわ」
三人は、記録が途切れた場所へ向かうことにした。
そこは王都でも有数の大通りで、馬車や人々が絶え間なく行き交っていた。地面は石畳で舗装されており、車輪の跡も残っていない。
「……魔力の痕跡も、あちこちで交差していますわ。これでは正確に辿れません」
ジゼルは困ったように顔を上げた。
「認識阻害魔法を解除したのかもしれないな」
ディランは周囲を見回しながら、何かを考えている様子だった。
「ペトラ。最後に記録された場所と時刻は?」
「ここから少し先の交差点よ。王太子妃殿下が王宮を出発してから、それほど時間は経っていないわ」
「だったら、まだ馬車を乗り換えていない可能性もあるな」
ジゼルはディランに尋ねた。
「どうしてですの?」
「この時間帯は人通りが多い。王太子妃を乗せた馬車を大通りの真ん中で停めて、乗り換えさせるのは目立ちすぎるだろ」
ディランは大通りの先へと視線を向けた。
「それに、相手が馬車で移動を続けるつもりなら、わざわざ狭い路地に入る必要はない。まずは王都の外へ続く主要な街道を調べよう」
「なるほど……!」
「ペトラ。ここから王都の城門へ続く道を確認してくれ。特に、馬車が通れる道を優先してほしい」
「分かったわ」
ペトラは魔道具を操作し、王都の街路図と監視結界の記録を照らし合わせていく。
「……あったわ。南西側の門へ続く通りで、同じ魔力波長が一度だけ記録されている」
「一度だけ?」
「ええ。何らかの理由で認識阻害魔法を再び使ったみたいね」
ジゼルとディランは顔を見合わせた。
「そこですわ!」
「あぁ。行ってみよう」
三人は急いで南西側の門へ向かった。
王都の門をくぐり、隣町へと続く街道を進んでいった。すると、ジゼルは急に足を止めて、街道の外れにある森へと目を向ける。
「ジゼル?」
ジゼルに気付いたディランも足を止め、振り返った。
「……こちらの森の中から、今、微かにリリアナ妃殿下に似た魔力を感じた気がして……」
ジゼルも確信を得られないようで、自信なさげに言った。
「俺たちの捜査はいつだって、ひとつひとつの疑いを暴いて真実にたどりつくこと……だろ? 森に向かってみよう」
「でも……王宮の馬車はかなり大きいわ。そんなもので、舗装もされていない森の中へ入る? もし違っていたら、追跡が大幅に遅れるわよ」
ペトラが懸念したように否定すると、ディランはペトラへと目を向けた。
「そう考えるのが正しいだろうな。でも、俺はこいつの解析魔法に何度も助けられてきたから……俺の勘が、確かめる価値はあるって言ってんだ」
「勘って……ディランにしては、合理性に欠けるわね」
ペトラは納得できない様子で、ディランを見返した。
「な。俺もそう思う」
ディランは肩をすくめながら笑って、それでも彼の中で森の中を調べるのは必須のようだ。そちらの方へと歩き出す。
「まったく……分かったわ。ただし、時間はかけられない。何も見つからなければ、すぐ街道へ戻りましょう」
ペトラは呆れたように息を吐きながら、ディランの後に続いた。
ジゼルはディランの後ろ姿を見つめながら、心が温かくなっていくのを感じていた。
(ディラン……)
自分の力を信じてくれる人がいるという幸福を、ジゼルは胸の中でそっと噛み締めた。




