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早速、アレクシスの執務室を出ようとしたジゼルとディラン。そんな二人をアーネストは引き止めた。
「待て。今回の事件は王太子妃殿下の失踪事件だ。お前たち二人だけで動ける案件じゃない」
「分かってますよ。だからって、ここでじっとしてろって言うんですか?」
不満そうに眉を顰めて振り返るディランに、アーネストは息を吐いた。
「誰がそんなことを言った。魔法保安局と合同で動け」
そしてアーネストは、同席していた魔法保安局の局長へと目配せする。局長は頷くと、自身の部下に声を掛けた。
すると、一人の若い女性が前へ出てきた。凛とした雰囲気の美人だ。胸元には保安局の身分章が輝いていた。
「久しぶりね、ディラン。一緒に事件を追うのは去年ぶりかしら」
「あぁ。そうだな」
「んもう、素っ気ないわね。もう少し、嬉しそうにしなさいよ!」
「嬉しくねぇんだから、別にいいだろ」
保安局の女性は爽やかな笑顔を浮かべながらディランに握手の手を差し出す。ディランは面倒くさそうな顔でその手を見つめていたが、仕方なさそうに彼女の手を握った。
ジゼルはそんな二人の気安そうな雰囲気が、何となく気になった。
「無駄口はそこまでにして、今は王太子妃殿下の捜索が最優先だ」
アーネストの言葉に、女性はすぐに表情を引き締める。
「了解しました。保安局では現在、王都の各門と主要街道に監視を配置しています」
そして彼女は、アーネストからディランへと目を向けた。
「ただ、王太子妃殿下を乗せたと思われる馬車はまだ見つかっていないわ」
「なら、まだ王都にいる可能性もあるってことか」
「ええ。それか、私たちが動く前にすでに王都を出ているか……」
二人が状況を整理していく。
ジゼルはなんだか、突然現れたこの女性になぜだか負けていられない気がして、慌ててディランに言った。
「では、まずは護衛がリリアナ様を連れ出した経路を追いましょう! 出発した場所には、まだ魔力痕が残っているかもしれませんわ!」
捜査官として経験を積んできたとはいっても、ジゼルはまだまだ新人捜査官だ。だからこそ、自分の武器である『解析魔法』で力を示したかった。
考え込んでいたディランが顔を上げて、ふっと優しい目でジゼルに笑いかけた。
「そうだな。まずは王宮の馬車の乗り場へ向かおう」
ジゼルと保安局の女性は頷いた。三人は、リリアナが出発したとされる西門の馬車乗り場へ向かうことになった。
アレクシスの計らいにより、三人は現場まで補佐官に案内されることとなった。
補佐官のすぐ後ろをジゼルが歩いていると、彼女が隣にやって来た。そして、赤毛を揺らしながら、こちらを覗き込むように小首を傾げて笑顔を向けてきた。
「今日はよろしく。私はペトラ・ディールよ。私とディランは、幼い頃からの知り合いで……腐れ縁なの」
ジゼルがピクリと反応する。
「腐れ縁……ですか」
「ええ。ディランとはもともと家同士の関わりがあって……いわゆる幼馴染ってやつよ。学院では私の後輩なんだけど、就職先まで同じ魔法省なんだから、これはもう腐れ縁よね!」
ペトラは楽しそうに笑って、ディランに同意を求めるよう後ろを振り返った。ディランは何も答えずにそっぽを向く。
するとペトラは困ったように眉尻を下げながら笑い「本当にディランは変わらないね」と言った。
「ディランは、昔から口と態度が悪くて、本当に手を焼いた幼馴染なの。学院の時も、この口の悪さで周りに馴染めなくて、だから私が……」
「いらんこと言うなって!」
ディランが反応すると、ペトラは言うのをやめて、嬉しそうにクスクスと笑った。
「相変わらずの口の悪さね」
「うるせぇよ」
そして、軽い口喧嘩を始めるディランとペトラ。そんな二人のやり取りを見ているうちに、ジゼルの胸がざわつき始めた。
特に、ジゼルにとって恋人の『幼馴染』には、いい思い出がない。
(何だかお二人……仲良しですわ!)
黙っていても、二人の軽口の応酬は終わりそうにない。ジゼルは二人の会話に割り込むように名乗った。
「私はっ、ジゼル・エヴァレットですわ!」
ジゼルは立ち止まり、ペトラに手を差し出す。ペトラも足を止めて、ジゼルの小さな手をじっと見下ろしていた。
「……白くて、綺麗な手……」
「え?」
ジゼルが聞き返すと、ペトラはニコッと笑顔を浮かべ、ジゼルと握手した。
「貴女が噂のエヴァレットさんね! 今日は同じ捜査チームの一員としてよろしくね」
一見好意的な笑顔だ。ペトラはすぐにディランへと向き直り、揶揄うように笑いながら、ディランを肘で軽くつついた。
「それにしても、貴方の噂の相棒がこんなにも可愛い子だなんて……ディランも隅に置けないわ~」
ディランは鬱陶しそうに眉をひそめたものの、ペトラの肘を払いのけようとはしなかった。ジゼルは二人を見つめながら……
(なんだか……面白くありませんわ……)




