↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/64

9-7


 アレクシスの指揮の下、捜査会議が始まった。


「混乱を避けるため、王太子妃の失踪を公表せず、まずは我々だけで捜索を進めたい」


 アレクシスはまず、集まった者たちにそう説明した。


(確実な物証がないまま、事を大きくしてしまっては、リリアナの王太子妃としての立場が揺らぐきっかけを周りに与えてしまうのではないか……?)


 ただでさえ、王宮内でのリリアナの立場は不安定だ。彼女の王太子妃としての素質に不満を抱いている者もいる……

 今回のことがただの誘拐ではなく、もし『過激派』に唆された結果なのだとしたら?


 リリアナが被害者ではなく、加害者に与する者だったら?


 そんな可能性を考えると、アレクシスの心情としては、まずは自身が信頼する者たちだけで動きたい。


 アレクシスの言葉に、アーネストは僅かに眉をひそめ、指摘した。


「殿下、その判断では初動が遅れる可能性があります」

「分かっている。それでも今は、彼女の立場と安全を守りたい」


アーネストは険しい表情を浮かべたが、それ以上は追及しなかった。


 こうして、リリアナの捜索について具体的な協議が始まった。


 リリアナは確かに王宮の馬車に乗り、孤児院へ向かうと使用人に告げたという。しかし、王宮内で得られた証言からは、出発後の足取りを掴めなかった。

 魔法省も大規模な捜索活動を制限されているため、大きな進展はない。


 アレクシスの表情に、焦りと苛立ちが滲み始めた頃……ずっと静かに見守っていたギルバートが口を開く。


「まず、状況を整理すると……王宮の予定表には孤児院への慰問が記載されているのに、孤児院にはその予定がない、という行き違いです」


 ギルバートへ視線が集まった。


「ならば、王太子妃殿下の行き先よりもまず確認すべきは、この予定を誰が登録したか……なのではないでしょうか」


 彼の静かな赤い瞳が、周りの者たちを見回していく。


「この慰問予定が、どのような経緯で登録されたのか確認すべきです」


 アレクシスはギルバートの意見を受けて、手元にあるリリアナの本日の予定表へと視線を落とす。すでに確認済みではあるが、もう一度、リリアナの予定表に上から順に目を通していく。


 予定表を見ると、午前中に王宮で公務の後、午後から聖月教会が運営する孤児院へ慰問の予定だった。

 しかし、孤児院側の回答では、本日、王太子妃の慰問予定はなかったと……王宮側に、予定変更の記録は一切残っていない。


「予定表は正規のものだ。変更された記録もない……では、なぜリリアナは慰問予定にない孤児院へ向かった?」

「妃殿下ご本人は、予定していた慰問先の孤児院へ向かっていると信じていた可能性があります」


 アレクシスの疑問に、ギルバートが可能性を提示する。


「つまり、妃殿下に嘘の行き先を伝えた奴がいるってことか」


 ディランが補足するように言うと、ギルバートは頷いてさらに続けた。


「そうですね。それも、王太子妃殿下が疑うことなく信用する人物です」

「この予定を登録した人物と、妃殿下に予定を伝えた人物。その両方を確認すべきだな……」


 ディランの言葉を受けて、アレクシスは何かに気付き、補佐官へ指示を出す。


「予定の登録者と、今朝からリリアナに接触した人間を、全員洗い出せ」


 硬直していた捜査会議が少しずつ動きはじめた。


 調査の結果、リリアナが王宮を出発する直前、妃殿下専属の護衛の一人から『教会側の事情で慰問先が変更された』と、知らされていたことが分かった。


 その護衛とは、リリアナが王太子妃となった日から護衛を務めている人物だ。リリアナからの信頼も厚く、本日も同行している。

 そして現在、他の護衛と同じく彼も連絡が取れていない。


「まさか……彼が?」

「しかし、彼はとても真面目で……とてもそのような人物には見えません」


 アレクシスは驚いた顔をしていて、補佐官も護衛をよく知っているらしく、疑いを晴らしたそうにしている。


「それに、王太子妃殿下にも忠実で……」

「人柄と無実は別だ」


 補佐官の言葉を、ディランが遮った。ジゼルは隣のディランを見上げて、頷いてみせる。


「犯罪心理には、色々あるんだ。悪意からなる犯罪ばかりじゃない……忠実だったからこそ利用された可能性だってある」


 補佐官はそんなディランを睨んだ。まるでその護衛を疑う口振りに、悔しそうに下唇を噛んでいる。


 険悪になりかけた場を、アーネストが慣れた様子で取りなした。


「アレクシス殿下。今は様々な可能性を考え、疑いはひとつひとつ潰していくことが大事でしょう。

最初から裏切るつもりだったと決めつけず……まずその者について調べる必要はあると思います」


 アレクシスも少し気が進まない様子だったが、結局はアーネストの言葉に同意した。


 ジゼルも意を決して、意見を出した。


「では、まず……その護衛と聖月教会との関係を調べましょう。彼の教会への出入りの記録や相談歴、特定の神官との接触など」


 エブリンが協力してくれている今、すぐに調査へ取り掛かることは可能なはずだ。


「過激派は、悩みを抱えた信徒に近づいて思想へ引き込んでいますわ。もしその護衛も教会の信徒だったなら……」

「こんなこともあろうかと、すでに他の捜査官を教会に待機させてある。すぐに連絡を取ろう」


 アーネストがそう告げると、アレクシスは力なく頷いていた。


 回答を待っている間、アレクシスは例の護衛の人となりについて話した。


 平民出身でありながら、実力で王宮の護衛にまで上り詰めた真面目な男。リリアナが王太子妃になった当初から彼女の護衛についており、非常に忠誠心が強かった。


 教会側から返答が出た。アーネストに連絡をしてきたのは、待機させていた捜査官ではなくエブリン本人からだった。


 彼女が過激派と疑う神官を中心に調べたところ、すぐに護衛の名前が出てきたらしい。

 護衛は数年前から聖月教会へ通っている信徒だった。さらに、相談記録を調べたところ、最近の担当神官が過激派との関係を疑われている人物だと判明した。


 一同に緊張が走る。本当に、聖月教会が絡んでいるのだとすると……


「ジゼルやっと手に入れた手掛かりだな」

「ここからは私たちの出番ですわね、ディラン!」


 重苦しい空気の中、二人の声ははっきりと響き渡っていた。


「あぁ。ここからは、お前の解析魔法が必要になる。しっかり準備しとけよ!」

「任せてくださいな!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。