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「それで……用件は? すでに人払いはしている」
「話が早くて助かります」
ディランが頭を下げる横で、ジゼルは単刀直入に尋ねた。
「殿下。リリアナ王太子妃殿下は、今どちらにいらっしゃいますの?」
「え? リリアナ……?」
アレクシスは思ってもいなかった問いに少し驚いた様子だった。しかし、すぐに表情を引き締めて、眉を顰めながら答えた。
「彼女なら今、聖月教会の神官とともに教会が運営する孤児院へ、慰問へ向かっているはずだが」
ジゼルとディランの顔色が変わる。その反応の変化を、アレクシスは見逃さなかった。
「……何があったんだ?」
「実は――」
代表してディランが事情を説明した。過激派の存在と、これまでその過激派が間接的に関わってきたであろう事件たち……
事件と過激派を直接結びつける物証は、まだ見つかっていない。あるのは事件との繋がりを疑う『調査書』と、とある大神官一人の話だけだ。
けれど、アレクシスには『考えすぎだ』と二人を追い返すことはできなかった。
「人の心の弱みに付け込む過激派の存在……」
アレクシスは思わず、そう呟いた。結婚してからのリリアナの様子に、思い当たる節があったからだ。
認めるには物証が足りない。しかし、否定するには、嫌な予感が胸の奥でざわつく。
アレクシスはジゼルとディランの手前、動揺する表情は一切出さなかったが、腰を上げてすぐに魔法具を使い、どこかへ連絡を入れていた。しかし、その指はよく見ると震えている。
「……リリアナと繋がらないな」
それはリリアナと直通の通信機で、私用の魔道具だったようだ。リリアナと連絡が取れず、アレクシスは顔を顰めた。
アレクシスは次に補佐官を呼び、リリアナが向かったとされる孤児院へ連絡を入れるよう命じた。
少しして、慌てた様子の補佐官が戻って来る。
「殿下! 先ほど孤児院から回答が……本日、王太子妃殿下の訪問の予定はないと……!」
ここではじめて、アレクシスの表情に明確な焦りが出た。さらにリリアナの護衛にも連絡がつかないという状況だった。
王太子妃殿下が行方不明になった。
アレクシスの判断は早く、すぐに捜索チームが組まれた。
「王宮警備隊を出せ。王都の各門を警戒させろ。さらに、魔法省へ正式に捜査協力を要請する」
部下に一通りの指示を終えた後、アレクシスはなぜかジゼルへと目をやった。その表情はとても不安そうで……ジゼルはアレクシスのそんな顔は、これまでの長い婚約生活を思い返しても初めて見た。
「殿下。リリアナ妃殿下の行方は必ず私が見つけます」
「ジゼル嬢……君は……」
アレクシスは頭を抱えていた手を下ろし、ハッとした表情でジゼルを見上げる。
アレクシスの目の前にいるのは、かつて自分の婚約者だったジゼルではない。
一人の捜査官として、堂々と立つ女性だった。
「お前一人だと危なっかしいから、俺もついて行ってやるよ」
「貴方は私の相棒ですもの。当然、一緒に来ていただきますわ!」
「恋人でもあるしな」
「い、今それを言いますの⁉︎」
顔を真っ赤にして狼狽えるジゼルを見て、ディランは可笑しそうに笑っていた。
二人の会話を聞いていたアレクシスは、驚いた表情で彼らを見上げる。
(そうか……君はもう、自分の人生を歩いているんだな)
なんとなく、胸の奥を締め付けられる感覚に襲われた気がした。
その時、王宮警備隊を中心に編成された捜索チームが、アレクシスの執務室に到着した。
リリアナの王宮内での最終目撃情報や、王太子妃付き護衛との最後の連絡について、情報が交わされていた。
静かだった王太子の執務室に、人々が集まり始めた。
正式な捜査協力要請を受け、魔法省からはアーネストと魔法保安局の者たちが駆けつけた。
そしてもう一人……ギルバート。
アレクシスはギルバートの姿を見た瞬間、わずかに言葉を失った。
ギルバートはそれを見ても、表情を変えない。
「ギルバート……来てくれたのか……」
やっとの思いで、アレクシスはギルバートを歓迎する言葉を口にした。
リリアナの失踪を受けて、アレクシスは一年ぶりにギルバートへ連絡した。
一年もの間、一度もまともに言葉を交わしていない。それでもリリアナが消えたと知った瞬間、アレクシスの頭に浮かんだのは、かつての友だった。
結局、アレクシスが一番最初に頼りたくなるのはギルバートなのだ。もう、来てくれないかもしれないと思っていたが……
「状況の深刻さから、公爵家として無視はできません」
救いを見出したような顔をするアレクシスに、ギルバートは淡々とした表情で言った。
そして並び立つジゼルとディランへ目を向ける。ギルバートはジゼルたちの元へ向かうと、無言で二人の間に立った。
「な、なんでわざわざこんな狭いところに立つんですの⁉」
驚くジゼルと、無言で立つギルバート。その双子の隣で、ディランは思わず吹き出してしまった。




