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9-6

「それで……用件は? すでに人払いはしている」

「話が早くて助かります」


 ディランが頭を下げる横で、ジゼルは単刀直入に尋ねた。


「殿下。リリアナ王太子妃殿下は、今どちらにいらっしゃいますの?」

「え? リリアナ……?」


 アレクシスは思ってもいなかった問いに少し驚いた様子だった。しかし、すぐに表情を引き締めて、眉を顰めながら答えた。


「彼女なら今、聖月教会の神官とともに教会が運営する孤児院へ、慰問へ向かっているはずだが」


 ジゼルとディランの顔色が変わる。その反応の変化を、アレクシスは見逃さなかった。


「……何があったんだ?」

「実は――」


 代表してディランが事情を説明した。過激派の存在と、これまでその過激派が間接的に関わってきたであろう事件たち……


 事件と過激派を直接結びつける物証は、まだ見つかっていない。あるのは事件との繋がりを疑う『調査書』と、とある大神官一人の話だけだ。

 けれど、アレクシスには『考えすぎだ』と二人を追い返すことはできなかった。


「人の心の弱みに付け込む過激派の存在……」


 アレクシスは思わず、そう呟いた。結婚してからのリリアナの様子に、思い当たる節があったからだ。


 認めるには物証が足りない。しかし、否定するには、嫌な予感が胸の奥でざわつく。


 アレクシスはジゼルとディランの手前、動揺する表情は一切出さなかったが、腰を上げてすぐに魔法具を使い、どこかへ連絡を入れていた。しかし、その指はよく見ると震えている。


「……リリアナと繋がらないな」


 それはリリアナと直通の通信機で、私用の魔道具だったようだ。リリアナと連絡が取れず、アレクシスは顔を顰めた。


 アレクシスは次に補佐官を呼び、リリアナが向かったとされる孤児院へ連絡を入れるよう命じた。


 少しして、慌てた様子の補佐官が戻って来る。


「殿下! 先ほど孤児院から回答が……本日、王太子妃殿下の訪問の予定はないと……!」


 ここではじめて、アレクシスの表情に明確な焦りが出た。さらにリリアナの護衛にも連絡がつかないという状況だった。


 王太子妃殿下が行方不明になった。


 アレクシスの判断は早く、すぐに捜索チームが組まれた。


「王宮警備隊を出せ。王都の各門を警戒させろ。さらに、魔法省へ正式に捜査協力を要請する」


 部下に一通りの指示を終えた後、アレクシスはなぜかジゼルへと目をやった。その表情はとても不安そうで……ジゼルはアレクシスのそんな顔は、これまでの長い婚約生活を思い返しても初めて見た。


「殿下。リリアナ妃殿下の行方は必ず私が見つけます」

「ジゼル嬢……君は……」


 アレクシスは頭を抱えていた手を下ろし、ハッとした表情でジゼルを見上げる。


 アレクシスの目の前にいるのは、かつて自分の婚約者だったジゼルではない。

 一人の捜査官として、堂々と立つ女性だった。


「お前一人だと危なっかしいから、俺もついて行ってやるよ」

「貴方は私の相棒ですもの。当然、一緒に来ていただきますわ!」

「恋人でもあるしな」

「い、今それを言いますの⁉︎」


 顔を真っ赤にして狼狽えるジゼルを見て、ディランは可笑しそうに笑っていた。


 二人の会話を聞いていたアレクシスは、驚いた表情で彼らを見上げる。


(そうか……君はもう、自分の人生を歩いているんだな)


 なんとなく、胸の奥を締め付けられる感覚に襲われた気がした。


 その時、王宮警備隊を中心に編成された捜索チームが、アレクシスの執務室に到着した。


 リリアナの王宮内での最終目撃情報や、王太子妃付き護衛との最後の連絡について、情報が交わされていた。


 静かだった王太子の執務室に、人々が集まり始めた。


 正式な捜査協力要請を受け、魔法省からはアーネストと魔法保安局の者たちが駆けつけた。

 そしてもう一人……ギルバート。


 アレクシスはギルバートの姿を見た瞬間、わずかに言葉を失った。

 ギルバートはそれを見ても、表情を変えない。


「ギルバート……来てくれたのか……」


 やっとの思いで、アレクシスはギルバートを歓迎する言葉を口にした。


 リリアナの失踪を受けて、アレクシスは一年ぶりにギルバートへ連絡した。

 一年もの間、一度もまともに言葉を交わしていない。それでもリリアナが消えたと知った瞬間、アレクシスの頭に浮かんだのは、かつての友だった。


 結局、アレクシスが一番最初に頼りたくなるのはギルバートなのだ。もう、来てくれないかもしれないと思っていたが……


「状況の深刻さから、公爵家として無視はできません」


 救いを見出したような顔をするアレクシスに、ギルバートは淡々とした表情で言った。


 そして並び立つジゼルとディランへ目を向ける。ギルバートはジゼルたちの元へ向かうと、無言で二人の間に立った。


「な、なんでわざわざこんな狭いところに立つんですの⁉」


 驚くジゼルと、無言で立つギルバート。その双子の隣で、ディランは思わず吹き出してしまった。

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