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「彼らは『人は誰もが月の下では等しい』という教義を独自に解釈し、『人間が嫉妬や劣等感を抱くのは、不平等な社会によって本来与えられるべきものを奪われている』と考える者たちです」
エブリンは苦しそうに表情を歪めて続ける。
「私たち聖月教会は身分や過去に関係なく、苦しんでいる人々へと手を差し伸べることを、使命と考えています。それなのに……皮肉なことに、その使命が過激派の温床となってしまった」
まるで懺悔のように、エブリンは無念さを吐き出していた。
「苦しみに寄り添うことと、憎しみを肯定することは違う。なのに……彼らは、奪われたものを取り戻す行為を『正当な報復』と呼び、他者を傷つけることさえ肯定しているのです」
そして顔を上げると、エブリンは目の前の二人を真っ直ぐに見つめた。
「人は未熟な生き物です。間違いも犯せば、人を妬みもします。何一つ間違えない人などいません。妬みも、憎しみも、悲しみも……抱いたというだけで、その人が悪人になるわけではありません」
その言葉は、ジゼルの胸に深く染み込んでいった。
エブリンは人々の心の闇を肯定しているのではない。ただ、認めてくれるのだ。
(……やっぱり、私はこの人を信じたい)
けれど、信じたいという気持ちと、無実であるという事実は別だ。それをジゼルは、もう知っていた。
「だからこそ私たち聖職者は、その人が再び自分の人生を歩けるように支えるのです」
ジゼルとエブリンは見つめ合い、そして頷き合った。
「……とまあ、ここまでお話いたしましたが、正直言うと私も『過激派』の全貌を掴むことはできていないのです。存在は把握していました。けれど彼らは、表立って教義に反することはせず、相談や慈善活動を通じて密かに仲間を増やしていたのです……」
エブリンは両手を組み、身を乗り出すようにソファーに浅く腰掛け直した。
「ルーカス神官についても疑いはありました。しかし、信徒との相談内容は私であっても勝手に開示させることはできません」
「自分たちのルールに縛られて身動きできずに信者を唆されてるんじゃ意味ねぇな」
「全くです、耳が痛い……教会も一枚岩ではないということです」
すかさず飛んできたディランの指摘に、エブリンは悲しそうに笑いながら答える。そして、自身が置かれた現状を語った。
「仮にルーカス神官が過激派だとして、彼を逮捕しただけでは何の意味もないのです。彼らの後ろで手引きしている者が、必ずいる……私はその者は、私と同じ大神官……もしくは、それ以上の権力者だと考えています」
組み合わせた指先が、手の甲に食い込むほど強く握られていた。ディランはそんなエブリンの様子を見つめながら、気になることを尋ねてみた。
「……『過激派』は、きっとあんたら聖月教会の恥部なはずだ。それなのに、なぜ……大神官のあんたが外部の俺たちに情報を渡すんだ?」
するとエブリンは優しい微笑みを浮かべて、ジゼルを見つめた。
「貴方はつくづく、私を疑うのでしょうが……理由は至って単純です。私はただ、友を信じただけのこと」
ジゼルは目を見開いて、息を呑む。
「私はね、偽善者なのですよ。教会の名誉を守るために、これまで問題を公にしなかった。その結果、被害者は増えていきました。それなのに私は、過激派を止める力もないまま……過激派に利用されている人々を、単なる犯罪者として切り捨ててほしくないと思っている。だから、痛みを知るジゼルお嬢様なら……」
エブリンは言葉を続けながら、ジゼルからディランへと視線を移した。
「そして、そんなジゼルお嬢様を認めたアシュクロフト様なら、彼らが犯した罪だけでなく、その背後にある苦しみにも目を向けてくださると信じています」
「……俺たちは捜査官だ。本質を暴くことが仕事だ」
ディランは不機嫌そうに素っ気ない態度で答えたが、エブリンは嬉しそうに笑みを深めていた。
ジゼルは初めて、エブリンもまた悩み苦しんでいたのだと知った。
(自分自身の無力さと、ずっと向き合ってきたのね……)
この一連の事件に、終止符を打ってやる。ジゼルは改めてそう強く心の中で決心し、鞄から例の慰問手紙を取り出した。
「エブリン大神官。こちらをご覧になってください」
手紙の束を机の上に置く。
「これは、貴女から届いた手紙と、それに交じって届いた教会からの手紙ですわ」
「……これは」
エブリンは神妙な表情を浮かべて、手紙の一通を手に取っていた。ジゼルに促されるまま、エブリンが手紙を開いて中身を確認すると、それはかつての自分が書いた覚えのない内容だった。
「この手紙には、先ほど仰っていた過激派と同じ思想が書かれています。何かお心当たりはありませんか?」
「なんてこと……」
エブリンの顔色が一気に悪くなる。手紙を持つ指先が震えていた。
エブリンが昔から傍で見守ってきたジゼル。これまでも過激派の犠牲者を救いたいと何度も考えてきた。それが今回、エブリンの大切な者にまでその毒牙を向けられていたという事実に、エブリンは初めて心の底からゾッとした。
「奴らは私の手紙を利用したのですね。聖月教会の名を使って、よくも……」
ぐっと眉頭を寄せて、悔しそうな顏でエブリンは呟いた。
「……お嬢様。よく、読まずにいてくれました」
「偶然ですわ。あの頃は……誰からの言葉も聞きたくなかっただけ」
ジゼルはエブリンに渡した手紙を受け取りながら、力なく答えた。
「実は、もう一つお話ししなければならないことがあります」
エブリンは一度立ち上がると、自身の執務机の方へ向かっていった。そして、引き出しから書類を取り出し、それを持ったままジゼルたちの前に戻ってきた。
「これは私が個人的に調べた、過激派と思われる神官たちのリストです」
ジゼルとディランは身を乗り出し、そのリストの中身に目を通した。そんな二人を見つめながら、エブリンは続ける。
「最近、その一人の大神官が頻繁に接触していると思われる人物がいます……リリアナ王太子妃殿下です」




